Find a Way
◼︎思いを馳せて
日曜日、榊の部屋に注文していたベッドと寝具が届いた。
クイーンサイズのベッドといっても、組み立ての簡単なものを選んだので一人でも難なく設置できた。マットレスは二つ並べるタイプだ。
包装の段ボールをまとめると、早速、大の字になって転がり寝心地を堪能する。
引っ越してきてからというもの簡易マットレスの上に寝袋で寝ていたのだ。まだ午前中だが、このまま眠ってしまいそうな心地である。
いけない、と自戒して起きる。あまりだらしなくもしていられない。
明日からいよいよ花園高校での勤務が始まるのだ。
花園高校は県内で一二を争う不良高校で、全日制と定時制に分かれている。榊は定時の出身であったが、このたび勤務することになったのは全日制の方だ。
確かに花園高校は不良の巣窟ではあるが、全日制の入学試験では落ちる者など存在しないくらいにレベルが低い。ゆえにヤンキーではないがどこにも受からなかった生徒、というのも僅かだが存在する。
ちなみに男子高ではないものの、全日の生徒は男子のみである。
そして定時はというと、これは男女が混合している。かつての小田桐麗子率いる〔檸檬姐弩〕のメンバーもほとんど花園定時の生徒であった。無論、不良の度合いでいえば定時のほうが数倍上だ。
榊は、社会人なのだから今のうちに規則正しい時間を体に覚えさせておかなければ、と昼まで荷解きや掃除をして過ごす。おかげでリビングはすっかり片付き、空の本棚にも書籍が並べられた。
寝室の他にもう一部屋、玄関を入ってすぐ左に六畳ほどの部屋がある。そこは物置として使うつもりだ。壁沿いに消耗品をストックし、キャンプ用品を含む季節ものを収納しておく。真ん中のスペースはトレーニング用に空けておくことにした。
喧嘩の絶えない御磨花市 の花園地区を離れ、県外の上品な都市部に移り住み大学生生活を送ることになった四年前の榊は、あまりの長閑さに辟易したものだった。気分が優れない。
とはいえ自分から喧嘩をふっかけたり、因縁をつけて揉め事を起こしたくはない。暴力が好きなわけでもないのに。高校時代は平和が一番だと身に沁みて分かってはいた。
ではなぜこうも気が沈むのか?
要は運動不足なのだ、と気づいてから筋トレを始めたところ鬱々とした気分は解消された。
それからなんとなく体を動かすサークルにでも入ってみようと考えた。だが勝ち負けのある競技系のサークルともなると、熱中の挙句「昔の血が騒い」でしまう恐れがある。とそこで考えたのが、山登り、キャンプ、といった競わない系のサークルだった。
そして榊は初心者から中級者向けのキャンプサークルに入会した。そこで彼の身に起こった災難は、後に良太へも伝えられることだろう。
片付いたリビングに敷かれたラグマットの上には、仮に、といった佇まいでキャンプチェアが置かれた。
一人ならこれはこれでいいが、やはり良太と座るためのソファが欲しい、と榊は思う。
二人がけ、いや三人がけが丁度いいな、良太は体格がいいから。
横幅はちょっと寝転がれるくらいが目安か。
素材は丈夫で、デザインは渋めのがいいな。
ソファで恋人同士らしい戯れをする機会がないとはいえない。
しかしあまり立派すぎても邪魔になる、ベッドもあることだしそういうことはソファでは──するかな?するかも。
寸法は?デザインは?使用目的は?と良太と使うソファについてあれこれ思いを馳せて、榊は近い未来を思い描く。
日曜日、榊の部屋に注文していたベッドと寝具が届いた。
クイーンサイズのベッドといっても、組み立ての簡単なものを選んだので一人でも難なく設置できた。マットレスは二つ並べるタイプだ。
包装の段ボールをまとめると、早速、大の字になって転がり寝心地を堪能する。
引っ越してきてからというもの簡易マットレスの上に寝袋で寝ていたのだ。まだ午前中だが、このまま眠ってしまいそうな心地である。
いけない、と自戒して起きる。あまりだらしなくもしていられない。
明日からいよいよ花園高校での勤務が始まるのだ。
花園高校は県内で一二を争う不良高校で、全日制と定時制に分かれている。榊は定時の出身であったが、このたび勤務することになったのは全日制の方だ。
確かに花園高校は不良の巣窟ではあるが、全日制の入学試験では落ちる者など存在しないくらいにレベルが低い。ゆえにヤンキーではないがどこにも受からなかった生徒、というのも僅かだが存在する。
ちなみに男子高ではないものの、全日の生徒は男子のみである。
そして定時はというと、これは男女が混合している。かつての小田桐麗子率いる〔檸檬姐弩〕のメンバーもほとんど花園定時の生徒であった。無論、不良の度合いでいえば定時のほうが数倍上だ。
榊は、社会人なのだから今のうちに規則正しい時間を体に覚えさせておかなければ、と昼まで荷解きや掃除をして過ごす。おかげでリビングはすっかり片付き、空の本棚にも書籍が並べられた。
寝室の他にもう一部屋、玄関を入ってすぐ左に六畳ほどの部屋がある。そこは物置として使うつもりだ。壁沿いに消耗品をストックし、キャンプ用品を含む季節ものを収納しておく。真ん中のスペースはトレーニング用に空けておくことにした。
喧嘩の絶えない
とはいえ自分から喧嘩をふっかけたり、因縁をつけて揉め事を起こしたくはない。暴力が好きなわけでもないのに。高校時代は平和が一番だと身に沁みて分かってはいた。
ではなぜこうも気が沈むのか?
要は運動不足なのだ、と気づいてから筋トレを始めたところ鬱々とした気分は解消された。
それからなんとなく体を動かすサークルにでも入ってみようと考えた。だが勝ち負けのある競技系のサークルともなると、熱中の挙句「昔の血が騒い」でしまう恐れがある。とそこで考えたのが、山登り、キャンプ、といった競わない系のサークルだった。
そして榊は初心者から中級者向けのキャンプサークルに入会した。そこで彼の身に起こった災難は、後に良太へも伝えられることだろう。
片付いたリビングに敷かれたラグマットの上には、仮に、といった佇まいでキャンプチェアが置かれた。
一人ならこれはこれでいいが、やはり良太と座るためのソファが欲しい、と榊は思う。
二人がけ、いや三人がけが丁度いいな、良太は体格がいいから。
横幅はちょっと寝転がれるくらいが目安か。
素材は丈夫で、デザインは渋めのがいいな。
ソファで恋人同士らしい戯れをする機会がないとはいえない。
しかしあまり立派すぎても邪魔になる、ベッドもあることだしそういうことはソファでは──するかな?するかも。
寸法は?デザインは?使用目的は?と良太と使うソファについてあれこれ思いを馳せて、榊は近い未来を思い描く。