Find a Way

◼︎まだ決まっていないけど

 夕方、帰宅した良太は自室の狭いベッドの上に寝転び、榊の「実績」とやらについて薄暗い感情で想像を巡らせていた。

 榊さんの昔の男?
 花園の定時に来る前だから、十六歳か十七歳あたりかな。まだ子供じゃん。
 榊さんって学年は麗子さんの下だけど、年上なんだよな。
 麗子さんも知らないとなると、この辺りの奴じゃないってことか。
 そもそも榊さんは高校に入る前は何してた。
 花園地区の児童養護施設で育ったことは聞いてるけど。
 十五歳で義務教育を終えたその後は?
 
 良太は、今更ながら榊龍時についてあまり多くの情報を有していないことに不安を覚える。
 思い返せば、そう、なぜ雪城地区の番斡旋所〔白幻〕などという場所を知っているのか。
 高校時代、榊にそこの住所と電話番号を教えられたとき、一応ネットで調べてみたことがある。
 だが検索結果にそんな名前の店は出てこなかったのだ。ただ地図上には建物のマークが記され、画像を見る限りでは上品な白い高層ビルが映し出されていただけだった。

 榊さんには、中学を卒業してから花高の定時へ入学するまでに空白期間があるんだ。
 空白といっても自分が知らないだけで、その間も榊さんの人生は続いてた。
 そのとき何かあったのか。
 榊さんほど綺麗な人なら男の恋人がいたって不思議じゃないが。
 その男とは別れたってことか。
 受け入れる側が向いてない実績があるってことは、そいつとは体の相性が悪かったんだろうな。
 そもそもβの男性はそうした役割には、基本的に不向きなんじゃね?
 だって体の構造がそうじゃん。
 女の人とか、Ωとは違うんだから。

 ふと、榊の言葉が頭をよぎる。
『αはΩと一緒になるべき』
『βはαを幸せにはできない』
『Ωを愛するように私を愛するな』
『向いていないという実績がある』
 手渡されたメモ、番を斡旋する白幻。
 
 ひょっとして全部繋がってるのか?
 もし彼の言う「α」と「Ω」が特定の個人であったとしたら。
 するとどうなる。
 βを抱く方、となるとやはりαだろう。俺が榊さんにそうしたいように。
 で、そのαは榊さんじゃなくΩを取った。
 白幻でΩを選んで。
 榊さんを捨てた?
 どこのどいつだ──

「ぶっ殺してやる」 

 しかし、ああだこうだ勝手な妄想で怒りを膨らませていても、埒の開かないことである。とにかく良太が、晴れて榊龍時の恋人となったことだけは事実なのだ。

 今の榊さんの恋人は俺。
 昔の男なんて忘れるぐらいにめちゃくちゃ大事にしてえし。
 そもそも俺は番なんていらないし、Ωにも興味ない。
 もし身体の相性が悪くても別れる気なんか全然ない。
 そもそも榊さんとセフレになりたいわけじゃねえし。
 抱きたいのは、山々だけど……。
 
 榊のもとに注文したベッドが届くのは日曜日だ。一緒に寝るベッド、と言った。
 グレーとネイビーの寝具も揃っている。汚れても構わない色合いのもの、と言った。
 良太がどうであれ、榊はそういう関係を視野に入れているのだ。
 どちらが抱く方かは、まだ決まっていないけど。


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