Find a Way

◼︎その発想はなかった

 バスに乗って花園地区へ帰ってきた二人は、そのまま榊のアパートまで行って荷物を下ろした。
「買い物付き合ってくれて助かった。コーヒーでも飲んで休んでってよ」
 と榊が招くので、もちろん良太はお邪魔することにした。
 引っ越してきて間もないせいか室内は物が少ない。空の本棚の前に、まだ段ボールがそのままの状態で積まれてあった。中身は本であろうか。
 木製のテーブルが対面キッチンのカウンター前から伸びていて、椅子は二脚だ。榊と良太は向かい合って腰掛け、温かいコーヒーで一息ついた。
「そのうちソファも必要だな」
 がらんとしたリビングを眺めて榊が言う。
「じゃあその時はまた一緒に買いにいきましょうよ」
「そうだな」
「そういえば榊さん、まだベッドがないってことはどうやって寝てるんすか、床に布団?」
「ああ、寝袋」
「寝袋⁉︎」
「大学時代にキャンプしたりとか山登ったりしてた。そのとき使ってたやつ」
「そうなんすか、いいっすねキャンプ。ていうか引っ越してきてから毎日寝袋で寝てて、体痛くないんですか」
「ぶっちゃけ辛くなってきた」
「じゃあウチ泊まりません?」
「今はまだやめとく」
「えー、変なことしないっすよ、絶対」
「変なことねえ」
「はい」
「……」
 妙な沈黙。
 榊はじっと真剣に良太の真っ黒い瞳や髪の毛、りりしい顔つきを見詰めてそれから、うん、と頷いた。
「やっぱり可愛いな、いけると思う」
「な、なんすか急に」
「私、良太くんだったら抱けるな」
「えっ?」
「ん?」
「俺、男ですけど」
「私もだけど」
「いやいやいや……」
「いや、ちょっと……」
「俺の方が身長あるしガタイいいんで、抱く方は俺でしょ普通」
「私の方が年上でオッサンだぞ。抱かれんのは若いもんだろうが」
「……」
「………」

 その発想はなかった──!

 驚愕と困惑の表情で固まる二人。
 榊と良太はお互い、自分が相手を抱く方だと思っていたのである。
「男同士でヤる時どうするか知ってんのか?」
「まあその、あれですよね、チンポを後ろの方に突っ込む、んです、よね」
「いいか、私は突っ込まれる方は向いていないという実績がある」
「実績がある!?」
「そうだ」
「え待って、それって誰かとヤった経験があるってこと?」
「ああ、花園に入る前の話で、麗子さんも知らないことだけど」
 幻滅したか?と榊が訊く。
「えあーそのー、榊さんが、昔誰とそういう関係だったとか凄え気にはなるんすけど、だからって嫌いになることはないです、マジで」
「そう」
「なので俺は榊さんを抱けます!」
「逆な?」
「無理っす」
「じゃあもうジャンケンで決めようぜ」
「いや待ってください、榊さん宝クジ当たったりしてますよね、めっちゃ強運なんすよね、だからフェアじゃな……」
「ジャンケン……」
「ダメ!嫌あッ!!」
「男らしくねえな、良太くんは」
「腕相撲!腕相撲で決めましょうよ!」
「それこそ体格差あるんだからフェアじゃないだろうが」
 こうなるともう収拾がつかない。
 とりあえず今のことろは、どっちがどっちかはその時まで保留にすることとした。


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