Find a Way

◼︎承知の上

 試乗車で駐車場を去る良太を見送って、榊は部屋へ戻る。
 ここから桧村自動車までは約十五分。戻ればさっそく良太から電話なりメールなり、連絡があるだろう。
 そろそろ夕食の支度に取り掛かりたいが、調理の途中でスマホをいじるのは嫌だった。ひとまずポットに湯を沸かし、コーヒーでも飲むことにした。
 先日引っ越してきたばかりの部屋の寝室にはまだベッドがない。今はまだフローリングに薄いマットレスを敷き、寝袋に入って眠っている。大学時代はよくキャンプに出かけた。その時に使っていた寝袋だ。
 恋人ができた──とすれば、同衾することもあるだろう。むしろそのつもりだ。
『榊さんと付き合ってもいないのに、Ωとか、番とか、そんなの要らねえんだよ』
 と良太はこう言った。
 つまり一度付き合ってみて落ち着けば、αとしてΩへの欲も出はじめるだろう。
 しょせん自分はβで、αにΩの番ができるまでの「お慰み」なのだということは承知の上だ。
 ならばわずかな恋人期間中に、良太の心身を味わってみたっていいじゃないか。お互いもう、高校生の子供じゃないのだから。

 お湯が沸いたのでインスタントドリップのコーヒーを淹れた。
 窓際へ歩み寄り、逢魔が時を迎えた懐かしい町の様子を眺めながら琺瑯製のマグカップで飲む。
 桧村自動車の定休日は水曜、ならば明後日だ。
 その日、彼と過ごすためのベッドを選びにでも行くか、と榊は予定を組む。
 程なくして、やはり良太から電話があった。
「もしもし。ああ、ありがとう。さっきの車、近々契約しに行くからお母さんによろしく言っといて、うん。ところでさあ、水曜日何か予定ある?ちょっと家具を買うのに付き合って欲しいんだけど……」

 一緒に寝るベッドを選びたいから──

 榊のお願いに良太がどれほど歓喜し、昂ったかは想像に難くないことである。


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