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美しいもの 第2章

第2章
「うっ…」目がさめると明るい、昨日は新曲の歌を聞いた後寝てしまったようだ。リビングに下りると新聞を広げてソファに座るお父さんがいた。「おはよう」と足音に気づき声をかけてくれるお父さんがいた。珍しい。いつもは朝早くから仕事に出ているというのに。どうしたのだろうか。「…」私は何も答えられずにそのまま出来立てホヤホヤのご飯を久しぶりに見て驚く。「…い、ただ…ます。」さすがに作ってもらったご飯に口をつける。美味しい。美味しいなんて久しぶりに思う。モノクロだった世界。家なんて特に私の宝物だったお母さんからもらった本と『Five Wishes!!』のCDと雑誌だけだったから、お母さんがいなくなってからお父さんとは避けるように暮らしてきた。同じ家に住んでいるにも関わらずろくに話もせず目を合わせることもなかった。そもそも朝早くに出て夜遅くに帰ってくるお父さんのことなんてどうでもよかった。食べ終わった頃にお父さんが私の方へ歩いてきて「どうだ、美味しいか?」と声を私にかけた時初めて私はびっくりして立ち上がり椅子をひっくり返した。私の態度に驚いたのか話を続けようと「ど、どうした?」と言う。いつものお父さんの声。なのに。「…だ、誰?」私は逃げるように自分の部屋に戻る。「私の部屋だ…」私は鏡を見て愕然とする。「…だ、誰?」姿見で私自身を写しているはずなのに呆然と立ち尽くす人物がいる。ただそこらへんの人より美しいと思った。雑誌の表紙で見るような姿に私は頭が真っ白になる。今まで雑誌のエリアに行くだけでひそひそと笑われているような感覚を覚えていたのにその雑誌のモデルのような姿に私は呆然とする。「これは…わ、私…?」私はとりあえず着替え学校に行くことにした。

いつも通り下を向きながら誰とも目を合わせないように歩いて自分の学校へ向かう。下駄箱でショートカットの女子が元気良く「おはよう!」と声をかけてくる。私は異世界に来たように目を点にした状態で答えられないでいるとその女子は同じ部活動の子が来て目の前で話した。「立花さん、足大丈夫ですか?」と部員が聞くのに対し「あ〜平気平気!私の不注意だったしね今度の大会みにいくから頑張ってね!」と返す彼女。私はスリムなショートカットの子が立花さんだと気付くと驚くあまり見とれてしまう。「…っ‼︎た、立花さん⁉︎」私は彼女のあまりの元気の良さな姿にあっけにとられ声が裏返る。当然だ、前回会ったのは涙を流し光がなくなった希望のないような目の立花さんだったからだ。部員と話し終えると私に振り返り肩を組まれ「立花じゃなく、恋って呼んでって言ったじゃんか〜!」と頭をくしゃくしゃにする立花さん。硬直しながら頭を抱えて私より少し身長の高い立花さんを見る。「れ、恋…」と呼ぶと「よろしい!」と笑顔で答える彼女は前のことがまるでなかったような、しかし左足は捻挫でテーピングをしている。私の目線に気付いたのか「もうみんな気にしすぎ!これは私の不注意だからいいんだよ!ま、あんまり早くはるけないんだけどね」と頭をかきながらあはははと笑う。

じゃーね!と隣で別れいつもの教室に入る。いつもなら黒板に何かを書かれていたり机に何書かれていたりなどするのに何もない。何もないどころか綺麗に見えるこれは夢なのだろうか、今までが夢だったのだろうか。普通に授業が始まり何事もなく普通に昼休みを恋と過ごし、放課後まで何もなく過ごす。フといつも自分の席に座り私の手元の本しかない私の世界だった教室から周りに目を外す。いつまでも私の悪口が絶えなく呼び出されたり暴力が絶えなかった教室が違う。むしろ蔑む目より頬を染め視線に気づいた男子どもがビクつく。何事だろうか。いつもいじめの主犯がいた席の女子が私の方へ声をかける。「一緒にカラオケ行かない?」私は緊張のあまり硬直しすぐさまキョロキョロ周りを見て誰に向かって言っているのか確認しようとした。「あはは、田中さんに決まってるじゃない!今日こそは一緒に行こうよ!」笑顔で言う本主犯が逆に怖くて冷や汗をかいた。「え、えっと…今日はなしで!」席を立ち急かすように私はすぐ教室を出る。「ほら男子たちが変な目で見るから今日も逃げられたじゃない!!」「え〜俺らのせいじゃねぇだろ!!」と言い合う声が聞こえるが今までの反応と違いすぎて私は頭を冷やしたくて仕方がなかった。早足で下駄箱に向かう。途中で名前を呼ばれた気がしたが今はただただ一人になりたかった。私はローファーに履き替え玄関出口から出たところで上から大声で名前を呼ばれる。「菜子ー‼︎」その声の主は恋だった。さすがに怒っているっぽかったので下駄箱で待つことに。ゆっくりしかし意識早足なのか汗をかいて下駄箱に辿り着く恋が私に向かって「今日一緒に帰るって約束したじゃない‼︎」「そう言えば昼休みそんな話をしたような…」今日の昼休みは現状把握のためにぼんやりとしていたのだった。さすがに恋も私の異変に気付いたのか「今日ずっとぼーっとしてるけど大丈夫?熱でもある?」とおでこに手を当て体温を測ってくれる恋が目の前にいた。「だ、大丈夫だよ!」思ったより大きな声が出てしまった私もそして私の周りも驚いてこちらを見る。「そっかそっか、じゃ、帰るか!」と恋が靴を変えようとした時彼女の下駄箱の中に手紙が入っていた。こっちに向きながら靴を取ろうとする恋に私は「れ、恋!」といい彼女が向き直ったところため息をする。「…またか。」と彼女はその手紙を開ける。私はいじめがまだ続いてるんじゃないかとそっと覗こうとした。が、覗く前に恋は腕時計を確認した後「ごめん、菜子!ちょっと待ってて!すぐ片付けてくるから!鞄よろしく!」と早足で行こうとする彼女に左足を使った直後彼女はゆっくりと意識早めに歩いて行った。立ち尽くす私に周りがまた告白か〜立花さんって素敵だもんね〜と言いながら帰っていく人たちを見る。それに私は内心ホッとする。いじめを止めようとしてくれた彼女だからこそまた何かしようとしてるのではないかと緊張した。30分が過ぎた頃恋が帰ってくる。「遅くなってごめん!すぐ断ったんだけどさ、やっぱり場所が場所で遠いしこの足だし、それで運んであげるとかわけわからないこと言われて…それ断って急いで帰ってきてたごめん」と言い訳をする彼女にふふっと笑ってしまう。こんな穏やかな学校生活初めてだからだ。

「それで何がしたいんだっけ?」と質問する私に「え、聞いてなかったの!?ひどいなー、今日はメイトに新しい◯川グッズが出るっていうんで絶対買いに行くぞ〜!!って昼に言ったじゃんか!」と声を荒げる恋に私は、そこらへんの記憶は変わらないんだと認識し「そ、そうだったっけ?」と苦笑する。「本当ぼーっとしてるな、大丈夫?」と二度目の質問に私は両手を振って「だ、大丈夫大丈夫」とガッツポーズを作ってみせる。私たちはいつも通り池袋で降りメイトに向かう。その途中気になる看板を見つける。「どうしたの?」と声をかける恋に私は「あ、後で行ってみたいとこ見つけた」と答えたそこは『FIVE WISHES‼︎』と大文字になって変わっていたのでさすがに何かの間違いだろうと思っていた。あんな人気の少ないしかも裏道に客を呼んでいるような呼んでいないようなポツンと寂しく立っている看板だ。いつもならそんな路地裏にも行列ができるほど威圧感があったというのに。私の好きだった人は未だいるのかそれさえ謎だった。それを確かめるべく私は恋の用事が終わった後覗くことに決めた。
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