8.考えていたことを当てられた時
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◆◆◆考えていたことを当てられた時◆◆◆
「ダンテ、ただいまー」
空も、地面もオレンジ色一色に染まる黄昏時。
バイト先から帰ってきた彼女が、一仕事終えて少し疲れの見える顔を覗かせた。
そんな彼女に、俺は一つ報告をしなければならない。
「おかえり、お疲れ。あのさ……」
「あ、仕事の依頼が入ったんでしょ」
「え……何で分かったんだ?」
皆まで言う前に彼女が言い当てたことに、驚いて尋ねる俺に向かって、彼女は「顔に書いてあるよ」と歯を見せて笑う。
「まあそれは冗談なんだけど、コートが準備してあるし、ガンオイルの臭いがするから。分かるよ」
仕事へ行く前に銃の整備をしていたことまで見抜かれている。
「すぐ出るの?」
「ああ。割と近場だ」
彼女は手荷物を置くと、ソファーの背もたれに掛けてあった俺のコートを手に取った。
広げられたコートを彼女に着せてもらうような形で俺は袖を通す。
襟元やコートの合わせを整えて、彼女は俺を見上げてにっこりと笑った。
「わたしが帰ってくるまで待っててくれたんだね。ありがとう。ご飯作って待ってるね」
「ああ、日付が変わる前には戻る」
「うん。ダンテ、お仕事頑張ってね」
まるで新婚のようなやりとりに口元が思わず緩みそうになるのを何とか堪えて、俺は自分自身に「これから仕事だろ」と喝を入れる。
ドアの外まで見送り、俺に向かって手を振る彼女を振り返って、俺は俄然やる気が刺激されるのを感じていた。
* * *
そんなやりとりがあった数日後、日用品の買い出しに出かけた俺たちは、昼食をとるための店を探していた。
馴染みの一つの店が思い浮かんで、彼女にそれを提案しようと口を開きかけたその時──。
「ダンテ、あそこのイタリアンにしよっか」
彼女が指差したのは、まさに俺が脳裏に思い浮かべていたイタリア料理店だった。
「偶然。俺もそこに行きたいと思ってた」
「やっぱり?そうだと思った!」
「え、何?お前エスパー?」
驚く俺に向かって、彼女はいたずらっぽく笑う。
「だって、ダンテとこの辺りで行くお店って大体決まってるし、最近寄ってなかったからそろそろあのお店かなって!ダンテの体もお店の方に向いてたし」
「すげー、名探偵か」
「もうダンテとの付き合いもそれなりだし、分かるよー」
俺の癖とか、行動パターンも、数年付き合ってきた彼女からすると何でもお見通しなのかもしれない。
俺ってそんなに分かりやすい男だったかな、と自分で思いつつ、彼女だからこそ俺ですら知らない俺に気付けるのかも、と思うと何だか不思議と心に込み上げてくるものがある。
一歩先を行く彼女の背を追って、俺も歩きだす。
振り返って俺を見上げて笑う彼女の笑顔が眩しくて、俺は目を細めた。
* * *
店内のテーブルに腰を下ろした俺たちは、二人でメニューを眺めていた。
俺はもう既に注文するものを決めていたので、正確には俺が見ていたのは彼女の顔なんだけど。
そんな俺の視線を受けてふと彼女が面を上げ、その顔に挑戦的な笑みを浮かべた。
「ダンテが何を注文するか当ててあげようか。ラザニアでしょ」
「えー、だから何で分かるんだよ」
「何でも何も、ここに来たらほぼ毎回注文してるでしょ」
「そうだっけ?だって美味いんだもん」
またもや彼女に先読みされて、こうも続くとさすがに俺も悔しくなる。
彼女に対抗しようと思って、俺も彼女が注文するだろうと思われるメニューを指差した。
「お前はこれだろ。春のアスパラとチキンのクリームパスタ」
「……何で分かったの?」
「だってお前、大体いっつも季節限定のメニュー頼んでるじゃん」
「そういえば、そうかも」
「お前も大概分かりやすい思考回路してるよな」
「だって、限定って言われると今食べなきゃって感じがするんだもん……」
むっと口を尖らせる彼女を、頬杖をつきながら眺める。
昼下がりの柔らかな日差しが差し込む窓辺で、俺は彼女とラザニアとパスタを分け合いっこしながら、胸の中が温かさでいっぱいになるのを感じていた。
「ダンテ、ただいまー」
空も、地面もオレンジ色一色に染まる黄昏時。
バイト先から帰ってきた彼女が、一仕事終えて少し疲れの見える顔を覗かせた。
そんな彼女に、俺は一つ報告をしなければならない。
「おかえり、お疲れ。あのさ……」
「あ、仕事の依頼が入ったんでしょ」
「え……何で分かったんだ?」
皆まで言う前に彼女が言い当てたことに、驚いて尋ねる俺に向かって、彼女は「顔に書いてあるよ」と歯を見せて笑う。
「まあそれは冗談なんだけど、コートが準備してあるし、ガンオイルの臭いがするから。分かるよ」
仕事へ行く前に銃の整備をしていたことまで見抜かれている。
「すぐ出るの?」
「ああ。割と近場だ」
彼女は手荷物を置くと、ソファーの背もたれに掛けてあった俺のコートを手に取った。
広げられたコートを彼女に着せてもらうような形で俺は袖を通す。
襟元やコートの合わせを整えて、彼女は俺を見上げてにっこりと笑った。
「わたしが帰ってくるまで待っててくれたんだね。ありがとう。ご飯作って待ってるね」
「ああ、日付が変わる前には戻る」
「うん。ダンテ、お仕事頑張ってね」
まるで新婚のようなやりとりに口元が思わず緩みそうになるのを何とか堪えて、俺は自分自身に「これから仕事だろ」と喝を入れる。
ドアの外まで見送り、俺に向かって手を振る彼女を振り返って、俺は俄然やる気が刺激されるのを感じていた。
* * *
そんなやりとりがあった数日後、日用品の買い出しに出かけた俺たちは、昼食をとるための店を探していた。
馴染みの一つの店が思い浮かんで、彼女にそれを提案しようと口を開きかけたその時──。
「ダンテ、あそこのイタリアンにしよっか」
彼女が指差したのは、まさに俺が脳裏に思い浮かべていたイタリア料理店だった。
「偶然。俺もそこに行きたいと思ってた」
「やっぱり?そうだと思った!」
「え、何?お前エスパー?」
驚く俺に向かって、彼女はいたずらっぽく笑う。
「だって、ダンテとこの辺りで行くお店って大体決まってるし、最近寄ってなかったからそろそろあのお店かなって!ダンテの体もお店の方に向いてたし」
「すげー、名探偵か」
「もうダンテとの付き合いもそれなりだし、分かるよー」
俺の癖とか、行動パターンも、数年付き合ってきた彼女からすると何でもお見通しなのかもしれない。
俺ってそんなに分かりやすい男だったかな、と自分で思いつつ、彼女だからこそ俺ですら知らない俺に気付けるのかも、と思うと何だか不思議と心に込み上げてくるものがある。
一歩先を行く彼女の背を追って、俺も歩きだす。
振り返って俺を見上げて笑う彼女の笑顔が眩しくて、俺は目を細めた。
* * *
店内のテーブルに腰を下ろした俺たちは、二人でメニューを眺めていた。
俺はもう既に注文するものを決めていたので、正確には俺が見ていたのは彼女の顔なんだけど。
そんな俺の視線を受けてふと彼女が面を上げ、その顔に挑戦的な笑みを浮かべた。
「ダンテが何を注文するか当ててあげようか。ラザニアでしょ」
「えー、だから何で分かるんだよ」
「何でも何も、ここに来たらほぼ毎回注文してるでしょ」
「そうだっけ?だって美味いんだもん」
またもや彼女に先読みされて、こうも続くとさすがに俺も悔しくなる。
彼女に対抗しようと思って、俺も彼女が注文するだろうと思われるメニューを指差した。
「お前はこれだろ。春のアスパラとチキンのクリームパスタ」
「……何で分かったの?」
「だってお前、大体いっつも季節限定のメニュー頼んでるじゃん」
「そういえば、そうかも」
「お前も大概分かりやすい思考回路してるよな」
「だって、限定って言われると今食べなきゃって感じがするんだもん……」
むっと口を尖らせる彼女を、頬杖をつきながら眺める。
昼下がりの柔らかな日差しが差し込む窓辺で、俺は彼女とラザニアとパスタを分け合いっこしながら、胸の中が温かさでいっぱいになるのを感じていた。