聖なる夜、君に贈る
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
* * *
小さなスノードームを覗き込んで、このみは微笑んだ。
ガラスの中に閉じこめられたその空間。
液体にたゆたう雪が舞い散る中央に、サンタクロースの人形が座している。
「それ、どうしたんだ?」
「うちにツリーないんだって言ったら、エンツォさんがくれた」
このみはスノードームから視線を外して、ダンテに笑顔を向けた。
ダンテがドームを揺らすと、ガラスの中で雪を模した白が舞い上がる。
「貰い物だけど、飾らないからって」
「いらないもん押しつけられただけじゃねーか」
「クリスマスの雰囲気が味わえてわたしは好きだけどな」
「……あー」
このみの言葉にダンテは納得する。
なにせこの事務所には季節感というものが皆無なのだ。
クリスマスツリーもリースも飾られておらず、このシーズンの家屋にしては圧倒的に華やかさに欠けている。
このみも無駄な買い物は殆どしない主義なので、去年と同じく事務所は寂しいままだった。
ただ一点、この小さなスノードームを除いて。
「見て、これ光るんだよ」
このみがスノードームの下部を操作すると、ガラスの中が青いライトで照らされる。
このみは飽きずにそれを嬉しそうに眺めた。
いかにもクリスマスといった品とはいえ、こんなチープな作りのスノードームの一体どこに惹かれるのか、ダンテにはよく分からない。
このみの頬はドームの光によってほのかに青白く、その色のせいかどこか寂しげにも見える。
このみがこんな顔をするのは、いつも故郷を思い出している時だ。
「このみ、何考えてる?」
「うーんと、日本のクリスマス思い出してた」
やはりダンテの予想通り、このみは故郷を思い描いていたようだ。
賑やかな雰囲気が楽しいから、このみはクリスマスが好きだと去年言っていた。
けれどこのみはその雰囲気の中に入れない。
「うちの事務所にもモミの木とかあった方が良かったか?」
「あったらオーナメントの飾り付けが楽しそうだね」
このみも、ないよりはあった方が良かったと思っているらしい。
「……お前、モミの木が生えてる山とか知らない?」
ダンテが尋ねると、このみは驚きで目を丸くした。
「まさか……伐ってくるとか言わないよね?」
「冗談だよ」
可笑しそうにダンテは笑う。
このみはほっとしたように息を吐いた。
「良かった。ダンテってたまに冗談みたいなこと本気でするから」
そう言いながらこのみはダンテを見上げた。
黒い目がまじまじとダンテを見つめて、視線を受けたダンテは若干心臓をどぎまぎとさせる。
「何?」
「ダンテ、サンタさんみたいだよね」
「…………は?」
このみの言葉の意味が分からなくて、ダンテは思い切り顔をしかめた。
「だって、いつも赤いコート着てるでしょ?スタイリッシュなサンタのお兄さん、って感じ!」
その発想はなかった。
共通しているのは赤い服という点だけではないか。
あの無駄にふくよかで髭面のおっさんと同列に語られるのは誠に遺憾である。
「このみ、今の言葉、訂正しろ」
「何で?サンタさんなダンテ、可愛いと思うけどなぁ」
しかも今度は「可愛い」ときた。
カチンときたダンテは、このみにお灸を据えようと思って攻める方向を変える。
「お前さ、俺がサンタだったら嬉しい?」
「うん?うーん、嬉しいというか、楽しそう」
「俺がサンタなら、真夜中にお前の部屋訪れてもなーんもおかしくないよな?」
このみはその言葉を聞いた後、何度か瞬きして首を傾げた。
彼女には高度過ぎる冗談だったか?と思っていると、何かを思い出したかのようにこのみの顔が輝いた。
「知ってる!それ、夜這いって言うんだよね!」
大きな声でそう言われて、ダンテは思わず衝撃で息を吹き出した。
このみからそんな直球な言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
この場合、それがこの上なく的確な表現ではあるが。
「あれ、違った?夜這いって、夜にお家にお邪魔することだよね?」
あっているけど、大事な部分が抜けている。
「……お前その言葉、どこで知った?」
「エンツォさんからだよ」
──あの野郎、このみとどういう会話してんだ。
「そっか。サンタさんはクリスマスに色んな人のとこを夜這いしてるんだね!」
「とんだ変態ジジイじゃねーか!」
思わずダンテが突っ込むと、このみはきょとんとして言った。
「変態?なんで?」
「……このみ、お前は純粋なままでいろよ。そんで夜這いって単語はこの先使うな。いいな?」
このみの肩に手を置き、顔を覗き込んでくるダンテの表情があまりに真剣だったので、このみは頷いたのだった。
* * *
「ダンテ、みてみて、雪!」
このみに指摘されて窓の外を見ると、白色がちらついていた。
「寒いと思ったら、通りで」
「ホワイトクリスマスになるかな」
12月24日の昼下がり。
昼食を終えて事務所の中でのんびり過ごしていた2人は、揃って窓の外を眺める。
「日本では、雪が珍しいのか?」
「場所によるかな。全く降らないところもあるし、積雪何メートルにもなる地域もあるし」
このみは結露した窓ガラスに指を這わせ、雪だるまの落書きをする。
「積もりそうだね」
ガラスの向こう側で降りしきる雪は、アスファルトに触れても解けることなく世界を白色に染めていく。
まるで粉砂糖をかけたかのように、うっすらと雪は地面に降り積もる。
「あんまり窓にくっついてると、また風邪引くぞ」
「うん」
ダンテが注意すると、このみは素直に窓辺から離れた。
このみの背中、窓を挟んだ向こう側では雪が静かに舞い降りている。
クリスマスにダンテは興味ないが、このみが喜ぶなら雪が降るロマンチックな夜もありだと思う。
できるならクリスマスを迎えるまで、降り続けばいい。
その数時間後、辺りがすっかり暗くなった頃。
たまにはクリスマスっぽいことをするのもいいかと思って、ダンテはこのみを教会に連れて行ってやろうと事務所のドアの前に立った。
毎年クリスマスイブになると、教会では降誕劇の催し物や、賛美歌やハンドベルのコンサートが行われている。
真新しい雪の上をこのみと並んで歩くのを想像して、ダンテの口角が上がった。
「このみ、行くか」
「うん!」
こちらを見上げてにっこり微笑むこのみを見て気を良くし、ダンテはドアノブに手をかける。
ドアを開けるなり、猛然と叩きつけるような吹雪に顔面をしたたかに打たれて、ダンテは無言でドアを閉めた。
このみと2人、雪まみれになった顔を見合わせる。
「何か、すげー吹雪いてんだけど……」
「う、うん……」
とにかく現状を確認しようと、ダンテはテレビを付けた。
そこには雪をかぶり、強風に煽られながらも懸命に報告を続けるリポーターが映っている。
どうやら大寒波がこの地を襲っているらしい。
昼にこのみが落書きをしていた窓から外を眺めると、この辺りでは考えられないほどの積雪が確認できる。
その勢力は衰える気配がなく、吹雪く様子は既に横殴りに近い。
「これじゃホワイトアウトクリスマスだな」
「シャレになってない……」
このみは顔や髪に張り付いた雪を払いながら言う。
「この様子だと外に出られそうもないか。っていうか礼拝も中止になってるだろ」
「せっかくダンテが教会に連れて行ってくれるはずだったのに……」
すこぶる残念そうにこのみは唇をとがらせた。
コートもマフラーも耳当ても手袋もバッチリ装備していたのに、肩すかしを食らったこのみはいじけたように俯いた。
教会に行こうと誘った時、飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでいたこのみはすっかり意気消沈していて、その様子が殊更に可哀想だった。
「……そんなに行きたかったのか?」
「だって、普段ならダンテ、教会に行こうなんて絶対に言わないでしょ?」
宗教と無縁のダンテは、教会に足を運ぶことなどまずない。
悪魔の血が入っている事とは関係ないだろうが、神がどーだのこーだのいう話を聞いていると頭が痛い……というか眠くなってくる。
ただせっかくのクリスマスイブを、無意味に過ごすのも何だと思ってこのみを教会に誘ったのだ。
「俺と行きたかった?」
何の気なしに尋ねると、このみは俯いた顔をほんのりと朱に染めた。
「……うん」
思わず目を見開いたダンテに、このみは慌てて付け足した。
「えっと、ほら、わたし、夜に出かけることほとんどないから!ダンテがいないと……どこにも行けないし……」
そう言いながらこのみはしおしおと再び俯いた。
あまりに不憫なその様子に、ダンテがこのみの背を撫でようとしたその時。
ふっと明かりが消えて、このみが驚いたような声を上げる。
大雪の中継を放映していたテレビも、今はうんともすんとも言わない。
今から出かけるつもりだったので暖炉の中も種火程度でしかなく、事務所はほぼ真っ暗闇に包まれた。
「て、停電……!?」
「大雪で電線が切れたのか?」
暗闇の中でも、隣にいるこのみが慌てているのが分かる。
「明かり、明かりをつけないと……」
ようやく暗闇に目が慣れてきたらしいこのみが、ぱたぱたと辺りを探る。
その手が何か丸いものに触れたかと思うと、このみの手元がぼんやりと青白く光った。
「……スノードーム?」
まさかこんな時に役立つとは。
光源としては心許ないが、それでも暗闇の中手探り状態でいるよりずっとマシだ。
「このみ、それ貸してくれ。蝋燭とかないか見てくるから」
「うん」
ダンテはこのみの手元からスノードームを受け取ると、リビングを離れようとした。
その際にこのみの方を振り返って言う。
「そこ動くなよ。すぐ探してくる」
このみが頷いたことを確認して、ダンテはリビングを出て行った。
小さなスノードームを覗き込んで、このみは微笑んだ。
ガラスの中に閉じこめられたその空間。
液体にたゆたう雪が舞い散る中央に、サンタクロースの人形が座している。
「それ、どうしたんだ?」
「うちにツリーないんだって言ったら、エンツォさんがくれた」
このみはスノードームから視線を外して、ダンテに笑顔を向けた。
ダンテがドームを揺らすと、ガラスの中で雪を模した白が舞い上がる。
「貰い物だけど、飾らないからって」
「いらないもん押しつけられただけじゃねーか」
「クリスマスの雰囲気が味わえてわたしは好きだけどな」
「……あー」
このみの言葉にダンテは納得する。
なにせこの事務所には季節感というものが皆無なのだ。
クリスマスツリーもリースも飾られておらず、このシーズンの家屋にしては圧倒的に華やかさに欠けている。
このみも無駄な買い物は殆どしない主義なので、去年と同じく事務所は寂しいままだった。
ただ一点、この小さなスノードームを除いて。
「見て、これ光るんだよ」
このみがスノードームの下部を操作すると、ガラスの中が青いライトで照らされる。
このみは飽きずにそれを嬉しそうに眺めた。
いかにもクリスマスといった品とはいえ、こんなチープな作りのスノードームの一体どこに惹かれるのか、ダンテにはよく分からない。
このみの頬はドームの光によってほのかに青白く、その色のせいかどこか寂しげにも見える。
このみがこんな顔をするのは、いつも故郷を思い出している時だ。
「このみ、何考えてる?」
「うーんと、日本のクリスマス思い出してた」
やはりダンテの予想通り、このみは故郷を思い描いていたようだ。
賑やかな雰囲気が楽しいから、このみはクリスマスが好きだと去年言っていた。
けれどこのみはその雰囲気の中に入れない。
「うちの事務所にもモミの木とかあった方が良かったか?」
「あったらオーナメントの飾り付けが楽しそうだね」
このみも、ないよりはあった方が良かったと思っているらしい。
「……お前、モミの木が生えてる山とか知らない?」
ダンテが尋ねると、このみは驚きで目を丸くした。
「まさか……伐ってくるとか言わないよね?」
「冗談だよ」
可笑しそうにダンテは笑う。
このみはほっとしたように息を吐いた。
「良かった。ダンテってたまに冗談みたいなこと本気でするから」
そう言いながらこのみはダンテを見上げた。
黒い目がまじまじとダンテを見つめて、視線を受けたダンテは若干心臓をどぎまぎとさせる。
「何?」
「ダンテ、サンタさんみたいだよね」
「…………は?」
このみの言葉の意味が分からなくて、ダンテは思い切り顔をしかめた。
「だって、いつも赤いコート着てるでしょ?スタイリッシュなサンタのお兄さん、って感じ!」
その発想はなかった。
共通しているのは赤い服という点だけではないか。
あの無駄にふくよかで髭面のおっさんと同列に語られるのは誠に遺憾である。
「このみ、今の言葉、訂正しろ」
「何で?サンタさんなダンテ、可愛いと思うけどなぁ」
しかも今度は「可愛い」ときた。
カチンときたダンテは、このみにお灸を据えようと思って攻める方向を変える。
「お前さ、俺がサンタだったら嬉しい?」
「うん?うーん、嬉しいというか、楽しそう」
「俺がサンタなら、真夜中にお前の部屋訪れてもなーんもおかしくないよな?」
このみはその言葉を聞いた後、何度か瞬きして首を傾げた。
彼女には高度過ぎる冗談だったか?と思っていると、何かを思い出したかのようにこのみの顔が輝いた。
「知ってる!それ、夜這いって言うんだよね!」
大きな声でそう言われて、ダンテは思わず衝撃で息を吹き出した。
このみからそんな直球な言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
この場合、それがこの上なく的確な表現ではあるが。
「あれ、違った?夜這いって、夜にお家にお邪魔することだよね?」
あっているけど、大事な部分が抜けている。
「……お前その言葉、どこで知った?」
「エンツォさんからだよ」
──あの野郎、このみとどういう会話してんだ。
「そっか。サンタさんはクリスマスに色んな人のとこを夜這いしてるんだね!」
「とんだ変態ジジイじゃねーか!」
思わずダンテが突っ込むと、このみはきょとんとして言った。
「変態?なんで?」
「……このみ、お前は純粋なままでいろよ。そんで夜這いって単語はこの先使うな。いいな?」
このみの肩に手を置き、顔を覗き込んでくるダンテの表情があまりに真剣だったので、このみは頷いたのだった。
* * *
「ダンテ、みてみて、雪!」
このみに指摘されて窓の外を見ると、白色がちらついていた。
「寒いと思ったら、通りで」
「ホワイトクリスマスになるかな」
12月24日の昼下がり。
昼食を終えて事務所の中でのんびり過ごしていた2人は、揃って窓の外を眺める。
「日本では、雪が珍しいのか?」
「場所によるかな。全く降らないところもあるし、積雪何メートルにもなる地域もあるし」
このみは結露した窓ガラスに指を這わせ、雪だるまの落書きをする。
「積もりそうだね」
ガラスの向こう側で降りしきる雪は、アスファルトに触れても解けることなく世界を白色に染めていく。
まるで粉砂糖をかけたかのように、うっすらと雪は地面に降り積もる。
「あんまり窓にくっついてると、また風邪引くぞ」
「うん」
ダンテが注意すると、このみは素直に窓辺から離れた。
このみの背中、窓を挟んだ向こう側では雪が静かに舞い降りている。
クリスマスにダンテは興味ないが、このみが喜ぶなら雪が降るロマンチックな夜もありだと思う。
できるならクリスマスを迎えるまで、降り続けばいい。
その数時間後、辺りがすっかり暗くなった頃。
たまにはクリスマスっぽいことをするのもいいかと思って、ダンテはこのみを教会に連れて行ってやろうと事務所のドアの前に立った。
毎年クリスマスイブになると、教会では降誕劇の催し物や、賛美歌やハンドベルのコンサートが行われている。
真新しい雪の上をこのみと並んで歩くのを想像して、ダンテの口角が上がった。
「このみ、行くか」
「うん!」
こちらを見上げてにっこり微笑むこのみを見て気を良くし、ダンテはドアノブに手をかける。
ドアを開けるなり、猛然と叩きつけるような吹雪に顔面をしたたかに打たれて、ダンテは無言でドアを閉めた。
このみと2人、雪まみれになった顔を見合わせる。
「何か、すげー吹雪いてんだけど……」
「う、うん……」
とにかく現状を確認しようと、ダンテはテレビを付けた。
そこには雪をかぶり、強風に煽られながらも懸命に報告を続けるリポーターが映っている。
どうやら大寒波がこの地を襲っているらしい。
昼にこのみが落書きをしていた窓から外を眺めると、この辺りでは考えられないほどの積雪が確認できる。
その勢力は衰える気配がなく、吹雪く様子は既に横殴りに近い。
「これじゃホワイトアウトクリスマスだな」
「シャレになってない……」
このみは顔や髪に張り付いた雪を払いながら言う。
「この様子だと外に出られそうもないか。っていうか礼拝も中止になってるだろ」
「せっかくダンテが教会に連れて行ってくれるはずだったのに……」
すこぶる残念そうにこのみは唇をとがらせた。
コートもマフラーも耳当ても手袋もバッチリ装備していたのに、肩すかしを食らったこのみはいじけたように俯いた。
教会に行こうと誘った時、飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでいたこのみはすっかり意気消沈していて、その様子が殊更に可哀想だった。
「……そんなに行きたかったのか?」
「だって、普段ならダンテ、教会に行こうなんて絶対に言わないでしょ?」
宗教と無縁のダンテは、教会に足を運ぶことなどまずない。
悪魔の血が入っている事とは関係ないだろうが、神がどーだのこーだのいう話を聞いていると頭が痛い……というか眠くなってくる。
ただせっかくのクリスマスイブを、無意味に過ごすのも何だと思ってこのみを教会に誘ったのだ。
「俺と行きたかった?」
何の気なしに尋ねると、このみは俯いた顔をほんのりと朱に染めた。
「……うん」
思わず目を見開いたダンテに、このみは慌てて付け足した。
「えっと、ほら、わたし、夜に出かけることほとんどないから!ダンテがいないと……どこにも行けないし……」
そう言いながらこのみはしおしおと再び俯いた。
あまりに不憫なその様子に、ダンテがこのみの背を撫でようとしたその時。
ふっと明かりが消えて、このみが驚いたような声を上げる。
大雪の中継を放映していたテレビも、今はうんともすんとも言わない。
今から出かけるつもりだったので暖炉の中も種火程度でしかなく、事務所はほぼ真っ暗闇に包まれた。
「て、停電……!?」
「大雪で電線が切れたのか?」
暗闇の中でも、隣にいるこのみが慌てているのが分かる。
「明かり、明かりをつけないと……」
ようやく暗闇に目が慣れてきたらしいこのみが、ぱたぱたと辺りを探る。
その手が何か丸いものに触れたかと思うと、このみの手元がぼんやりと青白く光った。
「……スノードーム?」
まさかこんな時に役立つとは。
光源としては心許ないが、それでも暗闇の中手探り状態でいるよりずっとマシだ。
「このみ、それ貸してくれ。蝋燭とかないか見てくるから」
「うん」
ダンテはこのみの手元からスノードームを受け取ると、リビングを離れようとした。
その際にこのみの方を振り返って言う。
「そこ動くなよ。すぐ探してくる」
このみが頷いたことを確認して、ダンテはリビングを出て行った。