3.文句の付け所のない笑顔を向けられた時
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◆◆◆文句の付け所のない笑顔を向けられた時◆◆◆
トントンとリズムよく刻まれていた音が、ザクッという音とともに唐突に途切れる。
鍋をかき混ぜていた私は、その音に気が付いて、野菜を切っていたダンテに視線を向けた。
緑の新鮮な色に混じって、赤い血の色がまな板の上に広がっている。
「あ~……切った」
事も無げに呟くダンテを見て、私の方の血の気が引く。
慌てて彼の手を掴んで蛇口を捻り、その傷口を洗い流したのだけれど、血を綺麗にしたそこには既に傷跡はなかった。
ダンテは、半人半魔。
少々の傷どころか、銃痕ですらすぐに塞がってしまう。
ちょっと……いや、かなり変わっている人。
長剣が彼の得物なせいか、意外と包丁の扱いが得意なダンテが怪我をするなんて、珍しい。
「ダンテが怪我するなんて、珍しいね」
「鍋混ぜてるお前の横顔に見とれてよそ見してた」
「!?」
唐突すぎる彼の言葉に、顔に熱が集まるのを感じる。
またいつもの冗談だろうと思って、少し不満げな顔で彼を見上げれば、ありったけの笑顔で私を見下ろしていた。
彼は素直じゃないかと思えば、こうやって子供のような笑顔を私に向ける。
……それも全部、私をからかうための計算なのかもしれないけれど。
「なんでダンテって、そういう冗談ばっかり言うの?」
「別に冗談口にしたわけじゃねーけど。
ただ一緒に料理って何かいいよなって……新婚っぽくて」
し、しんこん!?
話が飛躍しすぎている!!
彼の視線を感じるけど、私はそちらを向くことができない。
レードルを持つ手が震えている。
ダンテはたまに、私の真意を測るような言葉を吐く。
元の世界に必ず戻ると決めている私は、彼を好きになるわけにはいかないから、そういう言葉に反応することができない。
その度にがっかりした顔をされるのは胸が痛むけど……。
「そっ、それより、ダンテって本当にすぐ怪我が治るんだね!」
我ながら、無理に話題転換した感は否めない。
火照った顔のまま必死に笑顔を作りながら、私はダンテにそう言う。
指を切ったはずのダンテは、もう何でもない顔でまな板と包丁を洗い、血の付いた野菜をよけていた。
彼曰く、心臓を貫かれたり脳に衝撃を受けても平気らしい。
そのせいか自分が傷を負うことに無頓着なところがあって、私はダンテのそういうところがあんまり好きじゃない。
だって、私一人が勝手に心配してきゃーきゃー言っているのが馬鹿みたいだ。
ダンテの実力なら、攻撃を避けるのは容易なはずなのに、わざと受けてみたりしてよく服をボロボロにして帰ってくる。
傷なんてすぐ治るのだと分かりきっているのに、そんな彼の姿を見ると心臓がヒヤリとしてしまう。
だから止めてほしいのだけれど、ダンテは「気まぐれ」だとか「刺激があった方が楽しい」とか言って、全然取り合ってくれない。
「俺どうやったら死ぬんだろうな。首切ったらさすがに無理かな?」
「こ、怖いこと言わないで」
「意外と分裂したりして。俺が二人、どう?」
「プラナリアじゃないんだから……」
俺が二人なら、もう一人に仕事押し付けるんだがな、とかダンテは言ってるけど、
多分もう一人も同じこと考えて、結果事務所でゴロゴロしてるのが増えるだけな気がする……。
「……試したりしないよね?」
「多分切った端からくっつくから、一息にスパッといかなきゃ無理だと思うんだよな。
それこそギロチンとか」
ダンテは大真面目に考えているみたいだけど、私はそんなの想像するだけでも嫌だ。
青い顔で黙り込んだ私を見て、ダンテは苦笑する。
「一応言っとくが、試さないからな?」
「……うん」
それでもまだ何となく安心できなくて、私は新しい話題も見つけられずにひたすら鍋をかき混ぜた。
私の隣にいるダンテは、何故だか微かに震えていた。
不審に思って彼に視線を投げると、こともあろうに笑っている。
何故ダンテが笑っているのか理解できないけど、何となく私が理由なのだということだけは分かる。
「おっまえ……ホント、心配性だな」
「……ダンテを心配してるんだよ?」
「分かってるよ。だから俺は……お前を心配させたいんだよ」
……意味が分からない。
「わたしを困らせて楽しんでるの?」
「違う。お前が俺を心配してくれて嬉しいなってこと」
「だからわざとわたしが心配するようなことしたり、言ったりするの?……そんなのひどい」
こっちは神経すり減らす勢いだというのに、そんな理由で無茶されたら堪ったものではない。
「いつか心配するのに疲れちゃって、本当に大けがして帰ってきても、心配できなくなるかもしれないよ」
「ああ、そりゃ困るな」
「……だからなるべく、無事に帰ってきてほしいっていつも思ってるのに……」
──っと、また彼を心配するような言葉を口にしてしまった。
ダンテをこっそり盗み見ると、私に向かって文句の付け所のない笑顔を向けている。
その笑顔が眩しすぎて、くらくらしてしまう。
きっと、私のこういうところがいけないんだろうなあ……。
ご機嫌に笑顔を浮かべる彼に何も言えなくて、私は照れ隠しにひたすら鍋をかき混ぜた。
トントンとリズムよく刻まれていた音が、ザクッという音とともに唐突に途切れる。
鍋をかき混ぜていた私は、その音に気が付いて、野菜を切っていたダンテに視線を向けた。
緑の新鮮な色に混じって、赤い血の色がまな板の上に広がっている。
「あ~……切った」
事も無げに呟くダンテを見て、私の方の血の気が引く。
慌てて彼の手を掴んで蛇口を捻り、その傷口を洗い流したのだけれど、血を綺麗にしたそこには既に傷跡はなかった。
ダンテは、半人半魔。
少々の傷どころか、銃痕ですらすぐに塞がってしまう。
ちょっと……いや、かなり変わっている人。
長剣が彼の得物なせいか、意外と包丁の扱いが得意なダンテが怪我をするなんて、珍しい。
「ダンテが怪我するなんて、珍しいね」
「鍋混ぜてるお前の横顔に見とれてよそ見してた」
「!?」
唐突すぎる彼の言葉に、顔に熱が集まるのを感じる。
またいつもの冗談だろうと思って、少し不満げな顔で彼を見上げれば、ありったけの笑顔で私を見下ろしていた。
彼は素直じゃないかと思えば、こうやって子供のような笑顔を私に向ける。
……それも全部、私をからかうための計算なのかもしれないけれど。
「なんでダンテって、そういう冗談ばっかり言うの?」
「別に冗談口にしたわけじゃねーけど。
ただ一緒に料理って何かいいよなって……新婚っぽくて」
し、しんこん!?
話が飛躍しすぎている!!
彼の視線を感じるけど、私はそちらを向くことができない。
レードルを持つ手が震えている。
ダンテはたまに、私の真意を測るような言葉を吐く。
元の世界に必ず戻ると決めている私は、彼を好きになるわけにはいかないから、そういう言葉に反応することができない。
その度にがっかりした顔をされるのは胸が痛むけど……。
「そっ、それより、ダンテって本当にすぐ怪我が治るんだね!」
我ながら、無理に話題転換した感は否めない。
火照った顔のまま必死に笑顔を作りながら、私はダンテにそう言う。
指を切ったはずのダンテは、もう何でもない顔でまな板と包丁を洗い、血の付いた野菜をよけていた。
彼曰く、心臓を貫かれたり脳に衝撃を受けても平気らしい。
そのせいか自分が傷を負うことに無頓着なところがあって、私はダンテのそういうところがあんまり好きじゃない。
だって、私一人が勝手に心配してきゃーきゃー言っているのが馬鹿みたいだ。
ダンテの実力なら、攻撃を避けるのは容易なはずなのに、わざと受けてみたりしてよく服をボロボロにして帰ってくる。
傷なんてすぐ治るのだと分かりきっているのに、そんな彼の姿を見ると心臓がヒヤリとしてしまう。
だから止めてほしいのだけれど、ダンテは「気まぐれ」だとか「刺激があった方が楽しい」とか言って、全然取り合ってくれない。
「俺どうやったら死ぬんだろうな。首切ったらさすがに無理かな?」
「こ、怖いこと言わないで」
「意外と分裂したりして。俺が二人、どう?」
「プラナリアじゃないんだから……」
俺が二人なら、もう一人に仕事押し付けるんだがな、とかダンテは言ってるけど、
多分もう一人も同じこと考えて、結果事務所でゴロゴロしてるのが増えるだけな気がする……。
「……試したりしないよね?」
「多分切った端からくっつくから、一息にスパッといかなきゃ無理だと思うんだよな。
それこそギロチンとか」
ダンテは大真面目に考えているみたいだけど、私はそんなの想像するだけでも嫌だ。
青い顔で黙り込んだ私を見て、ダンテは苦笑する。
「一応言っとくが、試さないからな?」
「……うん」
それでもまだ何となく安心できなくて、私は新しい話題も見つけられずにひたすら鍋をかき混ぜた。
私の隣にいるダンテは、何故だか微かに震えていた。
不審に思って彼に視線を投げると、こともあろうに笑っている。
何故ダンテが笑っているのか理解できないけど、何となく私が理由なのだということだけは分かる。
「おっまえ……ホント、心配性だな」
「……ダンテを心配してるんだよ?」
「分かってるよ。だから俺は……お前を心配させたいんだよ」
……意味が分からない。
「わたしを困らせて楽しんでるの?」
「違う。お前が俺を心配してくれて嬉しいなってこと」
「だからわざとわたしが心配するようなことしたり、言ったりするの?……そんなのひどい」
こっちは神経すり減らす勢いだというのに、そんな理由で無茶されたら堪ったものではない。
「いつか心配するのに疲れちゃって、本当に大けがして帰ってきても、心配できなくなるかもしれないよ」
「ああ、そりゃ困るな」
「……だからなるべく、無事に帰ってきてほしいっていつも思ってるのに……」
──っと、また彼を心配するような言葉を口にしてしまった。
ダンテをこっそり盗み見ると、私に向かって文句の付け所のない笑顔を向けている。
その笑顔が眩しすぎて、くらくらしてしまう。
きっと、私のこういうところがいけないんだろうなあ……。
ご機嫌に笑顔を浮かべる彼に何も言えなくて、私は照れ隠しにひたすら鍋をかき混ぜた。