2.温かな瞳で見守られている時
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◆◆◆温かな瞳で見守られている時◆◆◆
ふと私が目を覚ますと、髪の毛に妙な違和感があった。
なんだろうと思ってそこに手を当てると、ごわごわとしている。
私昨日の晩、ロダンさんのお店でお酒を飲んで……それからどうしたんだっけ。
今私がいるのは自分の部屋のベッドみたいだけど、自力で布団に入った記憶がない。
そこまで思い出して、私は自分が長襦袢を纏ったままだったことに気が付いた。
髪の毛も化粧もそのままだ。
慌ててベッドから身を起こして床に足を付けると、ちょっとふらりとした。
そうだ、ダンテが注文したお酒を一口ずつ貰っていたのだけど、途中で酔っ払っちゃったんだ。
照明を点けて時計を見ると、まだ午前2時くらい。
ベッドに入ってからそれほど時間は経っていないみたいだけど、汗とかで長襦袢を汚していたら大変だ。
……なんだか妙に胸元が乱れているけど、寝ているうちに着崩れたのかな。
とりあえず長襦袢と肌着を脱いで、パジャマに着替えた私は、脱いだそれを丁寧に畳んでから階下に降りた。
お化粧を落として、髪の毛も梳かしておかないと。
よく確認していなかったけれど、布団にもファンデがついてしまっているかもしれない。
それにお酒を飲んだせいか、とにかくのどが渇いて仕方がなかった。
部屋を出て階段上から階下を覗くと、まだリビングは明かりがついていた。
ダンテが起きているのかな。
「ダンテ、何してるの?」
テーブルの上で何やら作業をしていた彼の後姿に向かって、私はそう尋ねた。
振り返ったダンテは「起きたのか」と呟いて、机の上に広げられたものを私に見せて苦笑する。
「……これどうやって畳むんだ?」
それは私が纏っていた豪奢な振袖。
私が眠ってからずっと畳み方が分からず、悪戦苦闘していたみたいだ。
「ごめんね、自分で畳むから、ダンテはもう休んでいいよ」
「酒は抜けたのか?」
「うん、まだ足元フラフラするけど平気だよ。
それにしてもわたし、いつの間に振袖脱いだのかなぁ」
「……お前、暑いっつって自分で脱いでたぜ」
「そうだったんだ。……ダンテ、何でこっち見ないの?」
何故か私の方を見ようとはしないダンテに、そう問いかけるけどやっぱりこっちを見ない。
私は首を傾げながら、振袖を畳む。
「そう言えばさ。女将さんがお前にこの振袖譲ろうかって尋ねてたけど……」
「ああ……それ、スタジオで写真撮った後に言われたけど、断ったの」
「やっぱりか。まあ高いもんな」
「うん。それもあるけど……この振袖は、女将さんがお母さんに買ってもらったものだそうだから」
きっとそのお母さんと、ご家族は……娘に一番似合う振袖を一生懸命選んだんだろう。
だから私は、その振袖を受け取ることはできない。
女将さんは「もう着ないから」と言っているけど、それでもやっぱりこの振袖は女将さんが持っているべきなんだ。
だってこの振袖に、女将さんを思う家族の愛情が詰まっているんだと、そう思うから。
「……わたし、本当は成人式にはお母さんの振袖を着るはずだったの。
お母さんが見せてくれるその振袖を着るのすごく楽しみだったんだけど、結局無理だったな」
綺麗に畳み終えた振袖を私は撫でる。
お母さんの持っていた振袖とは違うけれど……この振袖は特別だ。
「でも、ダンテがわたしの成人をお祝いしてくれてすごく嬉しかった。
ダンテが選んでくれた……女将さんに貸してもらったこの振袖、お母さんのと同じくらい、すごく好き。
成人式なんて絶対無理だと思ってたから、本当に、ほんとうに……うれしくて……」
段々私の声が涙声になっていく。
目の前の赤い振袖がぼんやりと滲む。
ただ、その滲んだ世界の真ん中で、ダンテが温かな瞳で私を見守っているのは分かった。
その優しい瞳がどうしようもなく心にささって、胸が苦しくなる。
「ダンテ、ありがとう……。わたし、ダンテのこと……本当に……」
「……本当に?」
何か期待するような視線をダンテは私に向ける。
「………………本当に、感謝してる」
「…………うん、まあ嬉しいからそれでもいいか」
と言いつつもどこか残念そうな顔をしながら、ダンテはグラスに浮かべた花をつついた。
それは私の髪を飾っていた生花だ。
「こんな時間でも元気だね」
「……魔法がかかってるからな」
呟いたダンテの言葉が理解できずに首を傾げれば、ダンテは「何でもない」と首を振った。
「さてと、お前も起きたし秘蔵の酒でも出すか」
「えっ、まだ飲むの!?」
「お前は俺と飲むの、嫌か?」
……そういう尋ね方をされれば、断れない私の性格を知っているはずなのに、本当にずるい人だ。
私が言い返せないのを見て、ダンテは早速酒瓶とグラスを用意し始める。
「ほら」
氷を浮かべた「いかにもお酒!」といったにおいを発するグラスを受け取った私は、恐る恐るそれを口に含んだ。
「……うえっ、苦い……マズイ……」
「ははっ、お前にはまだちょっと早かったかな」
私が突っ返したグラスに口を付けながら、それでもダンテは嬉しそうに笑った。
ふと私が目を覚ますと、髪の毛に妙な違和感があった。
なんだろうと思ってそこに手を当てると、ごわごわとしている。
私昨日の晩、ロダンさんのお店でお酒を飲んで……それからどうしたんだっけ。
今私がいるのは自分の部屋のベッドみたいだけど、自力で布団に入った記憶がない。
そこまで思い出して、私は自分が長襦袢を纏ったままだったことに気が付いた。
髪の毛も化粧もそのままだ。
慌ててベッドから身を起こして床に足を付けると、ちょっとふらりとした。
そうだ、ダンテが注文したお酒を一口ずつ貰っていたのだけど、途中で酔っ払っちゃったんだ。
照明を点けて時計を見ると、まだ午前2時くらい。
ベッドに入ってからそれほど時間は経っていないみたいだけど、汗とかで長襦袢を汚していたら大変だ。
……なんだか妙に胸元が乱れているけど、寝ているうちに着崩れたのかな。
とりあえず長襦袢と肌着を脱いで、パジャマに着替えた私は、脱いだそれを丁寧に畳んでから階下に降りた。
お化粧を落として、髪の毛も梳かしておかないと。
よく確認していなかったけれど、布団にもファンデがついてしまっているかもしれない。
それにお酒を飲んだせいか、とにかくのどが渇いて仕方がなかった。
部屋を出て階段上から階下を覗くと、まだリビングは明かりがついていた。
ダンテが起きているのかな。
「ダンテ、何してるの?」
テーブルの上で何やら作業をしていた彼の後姿に向かって、私はそう尋ねた。
振り返ったダンテは「起きたのか」と呟いて、机の上に広げられたものを私に見せて苦笑する。
「……これどうやって畳むんだ?」
それは私が纏っていた豪奢な振袖。
私が眠ってからずっと畳み方が分からず、悪戦苦闘していたみたいだ。
「ごめんね、自分で畳むから、ダンテはもう休んでいいよ」
「酒は抜けたのか?」
「うん、まだ足元フラフラするけど平気だよ。
それにしてもわたし、いつの間に振袖脱いだのかなぁ」
「……お前、暑いっつって自分で脱いでたぜ」
「そうだったんだ。……ダンテ、何でこっち見ないの?」
何故か私の方を見ようとはしないダンテに、そう問いかけるけどやっぱりこっちを見ない。
私は首を傾げながら、振袖を畳む。
「そう言えばさ。女将さんがお前にこの振袖譲ろうかって尋ねてたけど……」
「ああ……それ、スタジオで写真撮った後に言われたけど、断ったの」
「やっぱりか。まあ高いもんな」
「うん。それもあるけど……この振袖は、女将さんがお母さんに買ってもらったものだそうだから」
きっとそのお母さんと、ご家族は……娘に一番似合う振袖を一生懸命選んだんだろう。
だから私は、その振袖を受け取ることはできない。
女将さんは「もう着ないから」と言っているけど、それでもやっぱりこの振袖は女将さんが持っているべきなんだ。
だってこの振袖に、女将さんを思う家族の愛情が詰まっているんだと、そう思うから。
「……わたし、本当は成人式にはお母さんの振袖を着るはずだったの。
お母さんが見せてくれるその振袖を着るのすごく楽しみだったんだけど、結局無理だったな」
綺麗に畳み終えた振袖を私は撫でる。
お母さんの持っていた振袖とは違うけれど……この振袖は特別だ。
「でも、ダンテがわたしの成人をお祝いしてくれてすごく嬉しかった。
ダンテが選んでくれた……女将さんに貸してもらったこの振袖、お母さんのと同じくらい、すごく好き。
成人式なんて絶対無理だと思ってたから、本当に、ほんとうに……うれしくて……」
段々私の声が涙声になっていく。
目の前の赤い振袖がぼんやりと滲む。
ただ、その滲んだ世界の真ん中で、ダンテが温かな瞳で私を見守っているのは分かった。
その優しい瞳がどうしようもなく心にささって、胸が苦しくなる。
「ダンテ、ありがとう……。わたし、ダンテのこと……本当に……」
「……本当に?」
何か期待するような視線をダンテは私に向ける。
「………………本当に、感謝してる」
「…………うん、まあ嬉しいからそれでもいいか」
と言いつつもどこか残念そうな顔をしながら、ダンテはグラスに浮かべた花をつついた。
それは私の髪を飾っていた生花だ。
「こんな時間でも元気だね」
「……魔法がかかってるからな」
呟いたダンテの言葉が理解できずに首を傾げれば、ダンテは「何でもない」と首を振った。
「さてと、お前も起きたし秘蔵の酒でも出すか」
「えっ、まだ飲むの!?」
「お前は俺と飲むの、嫌か?」
……そういう尋ね方をされれば、断れない私の性格を知っているはずなのに、本当にずるい人だ。
私が言い返せないのを見て、ダンテは早速酒瓶とグラスを用意し始める。
「ほら」
氷を浮かべた「いかにもお酒!」といったにおいを発するグラスを受け取った私は、恐る恐るそれを口に含んだ。
「……うえっ、苦い……マズイ……」
「ははっ、お前にはまだちょっと早かったかな」
私が突っ返したグラスに口を付けながら、それでもダンテは嬉しそうに笑った。