6.少しビターなコーヒーゼリー
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* * *
「このみ、いい加減機嫌直せよ。胸触ったことなら謝るからさ」
「………………」
元の姿に戻った翌日も、このみはダンテと顔を合わせることができずにだんまりを決め込んでいた。
彼だってわざとやったわけではないことくらいこのみも分かってはいるのだが、気恥ずかしさのせいもあってタイミングを逃してばかりいるのだ。
「ほら……えーと、ストロベリーサンデーやるからさ」
いい加減意地を張るのもそろそろ止めようかと思っていたその時だった。
目の前にアイスと生クリームがトッピングされた器を差し出されて、このみは思わず固まる。
「このみも好きだって言ってたろ?」
……ストロベリーサンデーは、このみが元の姿に戻る直前まで、彼の膝の上で食べさせられていたものだ。
その時の気恥ずかしさと、胸を触られた時の感触を思い出して、このみは震えながら顔を真っ赤にして叫んだ。
「そんな子供っぽいのいらない!!」
「な、なんだよ……」
久しぶりに声を出したかと思えば、何とも可愛くない言葉が口から飛び出していた。
しまったと思った時にはもう遅く、不機嫌極まりない顔でダンテはこのみを見下ろしていた。
「ならもう勝手にすればいいだろ」
苛立ちを如実に表しながら、ダンテはストロベリーサンデーの器を引ったくるようにして手に取った。
それをかき込むようにして完食した後、これ見よがしにこのみの前の机にドンと器を置く。
「ゴチソウサマ!」
片言の日本語で叫ぶなり、ダンテはドカドカと靴を踏み鳴らしながら事務所を出て行った。
乱暴に閉められた扉を見て、このみは思わず呆然と頭を抱える。
(あ、あんな言い方するつもりじゃなかったのに……)
あの場面でストロベリーサンデーを差し出すダンテもデリカシーに欠けていると言えばそれまでだが、
それにしたってこのみもあんな言い方をするべきではなかった。
このみは自己嫌悪で深く落ち込む。
体が小さくなってから彼に世話になりっぱなしだったのに、どうして彼を責められるのだろう。
(次……!次に顔を合わせた時には謝らなくちゃ……!)
しかしダンテは事務所を出て行ってしまったのだ。
もしかして苛立ちをぶつけるために飲みにでも行ったのかもしれない。
「ああ……わたしのバカ……」
このみは溜め息をつくと、机の上に突っ伏した。
が、てっきり飲みにでも行ったのかと思っていたダンテは、数十分後事務所へ戻ってきた。
その手には小さな袋が提げられている。
ダンテは未だに不機嫌な顔をしつつも、その袋をずいっとこのみに押し付けた。
このみは意味不明なダンテの行動にあっけに取られているしかない。
「これ……何?」
「いいから受け取れ」
命令されて、このみは首を傾げながらもその袋を受け取る。
中から取り出したのは……
「……コーヒーゼリー」
「もう子供っぽいとは言わせない」
「………………」
確かに子供っぽいお菓子ではないかもしれないが……。
というか、彼が気にするのはその部分なのだろうか。
それに謝罪の気持ちを表すのに使うものがことごとくお菓子なのは何故なのだろう。
考えると可笑しくなってきて、このみは笑い出した。
いきなり笑い出したこのみを見て、ダンテは訳が分からないとばかりにうろたえる。
「なっ、何で笑うんだよ!」
「だ、だって……!コーヒーゼリーって……!」
「悪いか!?」
ムキになるダンテを前にしてもなお、このみの笑いは止まらない。
「……はあ、もう気が抜けちゃった。わたし、恥ずかしくて意地張ってただけなの。もう怒ってないよ、ごめんね」
「……笑いながら言われると誠意を感じない。……ま、今回は俺も悪かったし……おあいこってことで」
「うん。だから半分こにしよ」
このみは蓋を開けてスプーンを手に取った。
コーヒー独特の深い香りがふわりと広がる。
生クリームがたっぷりかかった黒いゼリーを掬うと、ダンテの口元まで持って行く。
「はい、あーん」
それを見たダンテは、目を見開いて固まった。
「……どうした、このみ。まだどっか変なのか?」
「……結構恥ずかしいんだから、何も言わずに食べて」
このみは顔が熱くなるのを感じる。
油断すればスプーンを持った指先も震えそうだ。
しばらく呆気に取られていたダンテは、やがてその顔に笑みを浮かべた。
このみが差し出したスプーンをパクリと口にする。
それを味わってしまうと、このみに向かってダンテは手のひらを上にして広げた。
「スプーン貸して」
「………………」
まさか自分に対しても、同じ事をするつもりだろうか。
このみは顔を染めながらも、再び彼を不機嫌にはさせたくなくて、しぶしぶスプーンを手渡した。
「あーん」
差し出されたスプーンをこのみもまたくわえる。
冷たくツルリとした食感の、少し苦いコーヒーゼリーが、ひたすら甘い生クリームと絶妙にマッチしていて美味しい。
「うまい?」
「…………うん」
このみが頷くと、ダンテも笑顔でこのみの頭を撫でた。
……食べさせ合いっこなんて、どこのバカップルなんだろう。
そう頭で考えて、「カップル」なんて単語が自然と浮かんだ自分自身に恥ずかしさを覚えたこのみは真っ赤になる。
「ちっ、違うもん!」
思わず叫んだこのみを見て、ダンテは目を白黒させた。
「お、おい、どうした!?やっぱりまだどこか変なんじゃないのか!?」
「ち、ちがうぅ~……」
へにゃへにゃとその場に崩れ落ちたこのみの顔を、ダンテは覗き込んでくる。
またもや彼と顔を合わせられなくなったこのみは、真っ赤に染めた顔を俯かせながらうめいた。
その時表へ繋がるドアがバンと開いて、エンツォが姿を見せた。
「よーヒカルゲンジダンテくん!エンツォ様が新作のチョコを持ってきてやったぜ!」
ステファンの店のロゴがついた箱をかざしながら事務所に足を踏み入れたエンツォは、
赤い顔で床に座り込むこのみと、それを覗き込むダンテを見て首を傾げた。
「……何これどういう状況?」
「エンツォ、数日は来るなっつったじゃねーか」
「いいじゃん、土産持ってきてやったんだぜ。ほら、このみちゃんの親戚の子、いるんだろ?どこどこ?」
事務所を見渡すエンツォは、目の前にいるこのみが彼の言う「親戚の子」だとは気付いていない。
このみはこのみで、ダンテは小さくなった自分のことを「親戚の子」として紹介していたのか、と今更知った始末だ。
「あの子ならもう帰ったぜ」
「ええ~なんだー、残念。なああの子、何て名前なんだ?」
エンツォとダンテから同時に視線を送られて、このみは焦る。
──名前!?
名前名前名前……名前!?
「え、えっと……ダ、ダン子ちゃん……」
「へー、ダンテと名前似てるな」
「………………」
素直に頷くエンツォとは別に、薄ら笑いを浮かべたダンテの顔を見て、このみは急速に恥ずかしくなる。
自分でも「ダン子ちゃんって何だ」と思うが、とっさに思い浮かばなかったのだ。
お母さんや友達の名前を言えばよかったのに、と思っても既に後の祭り。
その後もエンツォから「ダン子ちゃん」に関して根掘り葉掘り尋ねられ、
このみは小さかった姿の時と同じくらいどっと疲れを覚えたのだった。
***あとがき***
おまけでもう1題!
お題はfisika様よりお借りいたしました。
ビターと言いつつ中身は全然ビターじゃない!
コーヒーゼリーは私も大好きです。
コンビニでよく売ってるキャラメルカフェゼリー、超おいしいよね!
「このみ、いい加減機嫌直せよ。胸触ったことなら謝るからさ」
「………………」
元の姿に戻った翌日も、このみはダンテと顔を合わせることができずにだんまりを決め込んでいた。
彼だってわざとやったわけではないことくらいこのみも分かってはいるのだが、気恥ずかしさのせいもあってタイミングを逃してばかりいるのだ。
「ほら……えーと、ストロベリーサンデーやるからさ」
いい加減意地を張るのもそろそろ止めようかと思っていたその時だった。
目の前にアイスと生クリームがトッピングされた器を差し出されて、このみは思わず固まる。
「このみも好きだって言ってたろ?」
……ストロベリーサンデーは、このみが元の姿に戻る直前まで、彼の膝の上で食べさせられていたものだ。
その時の気恥ずかしさと、胸を触られた時の感触を思い出して、このみは震えながら顔を真っ赤にして叫んだ。
「そんな子供っぽいのいらない!!」
「な、なんだよ……」
久しぶりに声を出したかと思えば、何とも可愛くない言葉が口から飛び出していた。
しまったと思った時にはもう遅く、不機嫌極まりない顔でダンテはこのみを見下ろしていた。
「ならもう勝手にすればいいだろ」
苛立ちを如実に表しながら、ダンテはストロベリーサンデーの器を引ったくるようにして手に取った。
それをかき込むようにして完食した後、これ見よがしにこのみの前の机にドンと器を置く。
「ゴチソウサマ!」
片言の日本語で叫ぶなり、ダンテはドカドカと靴を踏み鳴らしながら事務所を出て行った。
乱暴に閉められた扉を見て、このみは思わず呆然と頭を抱える。
(あ、あんな言い方するつもりじゃなかったのに……)
あの場面でストロベリーサンデーを差し出すダンテもデリカシーに欠けていると言えばそれまでだが、
それにしたってこのみもあんな言い方をするべきではなかった。
このみは自己嫌悪で深く落ち込む。
体が小さくなってから彼に世話になりっぱなしだったのに、どうして彼を責められるのだろう。
(次……!次に顔を合わせた時には謝らなくちゃ……!)
しかしダンテは事務所を出て行ってしまったのだ。
もしかして苛立ちをぶつけるために飲みにでも行ったのかもしれない。
「ああ……わたしのバカ……」
このみは溜め息をつくと、机の上に突っ伏した。
が、てっきり飲みにでも行ったのかと思っていたダンテは、数十分後事務所へ戻ってきた。
その手には小さな袋が提げられている。
ダンテは未だに不機嫌な顔をしつつも、その袋をずいっとこのみに押し付けた。
このみは意味不明なダンテの行動にあっけに取られているしかない。
「これ……何?」
「いいから受け取れ」
命令されて、このみは首を傾げながらもその袋を受け取る。
中から取り出したのは……
「……コーヒーゼリー」
「もう子供っぽいとは言わせない」
「………………」
確かに子供っぽいお菓子ではないかもしれないが……。
というか、彼が気にするのはその部分なのだろうか。
それに謝罪の気持ちを表すのに使うものがことごとくお菓子なのは何故なのだろう。
考えると可笑しくなってきて、このみは笑い出した。
いきなり笑い出したこのみを見て、ダンテは訳が分からないとばかりにうろたえる。
「なっ、何で笑うんだよ!」
「だ、だって……!コーヒーゼリーって……!」
「悪いか!?」
ムキになるダンテを前にしてもなお、このみの笑いは止まらない。
「……はあ、もう気が抜けちゃった。わたし、恥ずかしくて意地張ってただけなの。もう怒ってないよ、ごめんね」
「……笑いながら言われると誠意を感じない。……ま、今回は俺も悪かったし……おあいこってことで」
「うん。だから半分こにしよ」
このみは蓋を開けてスプーンを手に取った。
コーヒー独特の深い香りがふわりと広がる。
生クリームがたっぷりかかった黒いゼリーを掬うと、ダンテの口元まで持って行く。
「はい、あーん」
それを見たダンテは、目を見開いて固まった。
「……どうした、このみ。まだどっか変なのか?」
「……結構恥ずかしいんだから、何も言わずに食べて」
このみは顔が熱くなるのを感じる。
油断すればスプーンを持った指先も震えそうだ。
しばらく呆気に取られていたダンテは、やがてその顔に笑みを浮かべた。
このみが差し出したスプーンをパクリと口にする。
それを味わってしまうと、このみに向かってダンテは手のひらを上にして広げた。
「スプーン貸して」
「………………」
まさか自分に対しても、同じ事をするつもりだろうか。
このみは顔を染めながらも、再び彼を不機嫌にはさせたくなくて、しぶしぶスプーンを手渡した。
「あーん」
差し出されたスプーンをこのみもまたくわえる。
冷たくツルリとした食感の、少し苦いコーヒーゼリーが、ひたすら甘い生クリームと絶妙にマッチしていて美味しい。
「うまい?」
「…………うん」
このみが頷くと、ダンテも笑顔でこのみの頭を撫でた。
……食べさせ合いっこなんて、どこのバカップルなんだろう。
そう頭で考えて、「カップル」なんて単語が自然と浮かんだ自分自身に恥ずかしさを覚えたこのみは真っ赤になる。
「ちっ、違うもん!」
思わず叫んだこのみを見て、ダンテは目を白黒させた。
「お、おい、どうした!?やっぱりまだどこか変なんじゃないのか!?」
「ち、ちがうぅ~……」
へにゃへにゃとその場に崩れ落ちたこのみの顔を、ダンテは覗き込んでくる。
またもや彼と顔を合わせられなくなったこのみは、真っ赤に染めた顔を俯かせながらうめいた。
その時表へ繋がるドアがバンと開いて、エンツォが姿を見せた。
「よーヒカルゲンジダンテくん!エンツォ様が新作のチョコを持ってきてやったぜ!」
ステファンの店のロゴがついた箱をかざしながら事務所に足を踏み入れたエンツォは、
赤い顔で床に座り込むこのみと、それを覗き込むダンテを見て首を傾げた。
「……何これどういう状況?」
「エンツォ、数日は来るなっつったじゃねーか」
「いいじゃん、土産持ってきてやったんだぜ。ほら、このみちゃんの親戚の子、いるんだろ?どこどこ?」
事務所を見渡すエンツォは、目の前にいるこのみが彼の言う「親戚の子」だとは気付いていない。
このみはこのみで、ダンテは小さくなった自分のことを「親戚の子」として紹介していたのか、と今更知った始末だ。
「あの子ならもう帰ったぜ」
「ええ~なんだー、残念。なああの子、何て名前なんだ?」
エンツォとダンテから同時に視線を送られて、このみは焦る。
──名前!?
名前名前名前……名前!?
「え、えっと……ダ、ダン子ちゃん……」
「へー、ダンテと名前似てるな」
「………………」
素直に頷くエンツォとは別に、薄ら笑いを浮かべたダンテの顔を見て、このみは急速に恥ずかしくなる。
自分でも「ダン子ちゃんって何だ」と思うが、とっさに思い浮かばなかったのだ。
お母さんや友達の名前を言えばよかったのに、と思っても既に後の祭り。
その後もエンツォから「ダン子ちゃん」に関して根掘り葉掘り尋ねられ、
このみは小さかった姿の時と同じくらいどっと疲れを覚えたのだった。
***あとがき***
おまけでもう1題!
お題はfisika様よりお借りいたしました。
ビターと言いつつ中身は全然ビターじゃない!
コーヒーゼリーは私も大好きです。
コンビニでよく売ってるキャラメルカフェゼリー、超おいしいよね!