このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

LOVE HOLIC【BL】


「…ハァっ…ねぇ~っ、ねぇ~ってば、サワっ、速っ、…速っいっ」
「いっち~、おっそ~ぃ!」


…あ、懐かしい。ちっちゃいイチ。昔はよくこうやって一緒にかけっこしたっけ。

「…まっ、まっ…て、ぅあっ!」


- べしゃっ -


俺が振り向くと、派手な音と共にイチが転んでた。仕方なく俺はイチのところまで戻って手を差し伸べる。

「もぅ、何やってるの? イチってばほんと走るのへたくそだな」
「…ちがうよ、サワが速いんだよ」

イチはむくれながら俺の手を取る。砂を払った膝小僧からは血が流れていた。

「イチまたケガしてるよ」
「いーよ、これくらいへーき」
「ダメだよ、ちゃんと洗わなきゃ。ほら公園いこ」

イチの手を取り公園へ向かい、水飲み場でその足を洗ってやって、ハンカチでふいてやって。…この時は俺の方がしっかりしてた気がする。
いつから逆転したんだっけか?


いつしか気付けば何もかも、俺はイチに勝てなくなっていた。何もかも…。

ぼーっとそんなこと考えながらちっさいイチ眺めてたら、いつものイチの声がした。


「…ぃ、おい、サワ」
「………ん、」

目を開けると、いつものイチがいた。

「そろそろ下校時刻だぞ」
「んぁ、」

日課のように、部室で本を読むイチを待ってるうちに、気付けばその肩に凭れて眠りこけてたらしい。


「…どした?まだ寝惚けてるのか?」

俺はまだぼーっとした頭のまま、隣に座るイチを見上げる。いつの間にかその身長は、立っていても座っていても勝てなくなった。

「昔は毎日背比べで競えたのにな」
「…ん?何言ってんだ?お前」

いつからこの背中はこんなに大きくなったんだろう。もう敵わないや、何もかも。


「昔の夢見てた。ちっちゃいイチが転んで泣いてた」
「おまっ、何てもん思い出してんだ。忘れろっ」
「忘れないよ。あのイチ可愛いかったもん」
「お前なぁ…」


そっぽ向いたイチの耳が赤くなってるように見えたから、俺はちょっとだけ笑った。





fin,
1/1ページ
    スキ