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短編/SS集【BL】

夜弦の絲






「………ん、…カナ…ト?」
「……………」

左視界(シカイ)の片隅。白いシーツの上を、センの右掌(ミギテ)が俺を探して綺麗に泳ぐ。まるで深い夜を拭うように、ゆっくりとセンはベッドから起き上がった。

「…また、見てる」

鏡越しに見上げたセンの瞳は、まだ微睡んでいる。

「また…夢、見た?」

俺は躊躇いながらも、コクンと頷いた。
心配はかけたくなかった。責任を背負わせるのも嫌だった。優しいセンは、きっと自分の所為だと自責の念に駆られるから。


「…俺が…したくて、やったことだから…」
「………うん。ありがとう」

未だ微睡みの中に揺蕩うセンの指先が、優しく俺の漆黒の髪を梳いてくれた。

「…髪と、同じ色だ」

お揃いだね…、そう言ってセンは優しく微笑んだ。まだ半分は夢の中なのだろう。
センは納得のいくまで俺の髪を梳くと、覚束ない足取りで白いシーツの上へと還っていった。


向かい合った鏡に映る俺の右目は、まるでブラックホールのように黒く、其処には質量も何も無い、ただの虚無が埋め込まれている。

同じようにセンの左側の腕にも、俺と同じ虚無が嵌め込まれている。
そのままだと他の部位も逝き兼ねなかったのを、俺が右目を代償に奪い獲った。
今でも時々、センが不思議なことを話したり、聞いたことのない言葉を喋るのは、繋がった向こう岸(ガワ)が見え隠れしてる所為だと思う。現に俺も時々、何処から聞こえてくるのかわからない人々の声に、この目を押さえる事がある。

でも、後悔なんてしてない。センを此岸(コチラ)側に繋ぎ留めておくことが出来たから。半分くらい壊れてたって、気にしない。


「…ん、…カナト…」

夢の中から俺を呼ぶ愛しい声に、ふと我に返る。
俺はそのあどけない寝顔に小さな笑みを漏らすと、もう涙すら溢せなくなったその黒い空洞に眼帯(フタ)をして、安らぎの中へとその身を投じた。





fin,

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