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短編/SS集

えんぴつ




「ねぇ、ママ。それなーに?」
「ん? えんぴつよ?」

昔は何処にでも溢れていた、何の変哲もないただの鉛筆。家の電話の横にも、チラシの裏紙で作ったメモと一緒に、沢山の鉛筆が所狭しとペン立てに刺さっていた。…いったい、いつから見なくなったんだろう。

「えんぴつ? ママのふでばこ、えんぴつたくさんいるのに?」
「? ………! あれはシャーペンとボールペンでしょ? 鉛筆とはまた別」

まだ幼い娘には、押したら出てくるシャーペンとただの鉛筆の違いがわからないらしい。字が書ければきっと全部“えんぴつ”だ。

「えんぴつー!あやもえんぴつほーしーいーっ!」
「彩、ペン沢山持ってるじゃない」
「えーんーぴーつー!」
「じゃあ3つ入ってるから、ひとつはママで、ひとつは彩のね」
「…もーひとつは?」
「んー、…パパの?」

娘の保育園で知り合ったママ友さん。最近ポストカードサイズのミニ絵画に凝ってるんだって、楽しそうにスマホで撮った写真を見せてくれた。
ふいに、絵ばかり描いていた昔の自分を思い出した。デッサン画で、スケッチブック真っ黒にしたこともあったっけ…。
そんなことを考えていたら、無性にあの頃のように絵が描きたくなって、ついつい懐かしい鉛筆に手が出ていた。勿論、お迎えは小さな鉛筆削りと共に。

「ママはおえかきするの?」
「そうよ。彩も一緒にお絵描きする?」
「するー!あや、ママかくー! ママはなにかくー?」

大きな瞳をキラキラさせながら、自転車の子供椅子で興奮気味に手足をバタつかせる娘を落ち着かせると、私は自転車に乗って漕ぎ出した。

久しぶりの絵は何を描こうか。描きたいものは沢山あるけれど…。

「ねー、ママきまったー?」
「んー、どうしよっかなー?」

やっぱり久しぶりの一枚は、宝物の愛娘からにしようか。

「ねぇー、マーマー?」
「んー、ママはねー…」






fin,



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