みかさに
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恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
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ある日のとある本丸でのこと。少女たる審神者は近侍の三日月宗近とともに、自室で書類仕事をこなしていた。
主である彼女と自身の手元に緑茶の入った湯呑を置いてから、三日月はもったいぶった様子で口を開く。
「――ときに主よ。我が本丸は随分とホワイトなのだな」
「どうしたんですか? 急に……」
「聞いた話なのだが、他の本丸にはブラックと呼ばれるところがあってな、横暴な審神者が刀剣たちに無体を強いているらしい」
妙に得意げに三日月はそんな噂話を披露する。
「欲に任せて見目麗しい刀剣に、夜伽の相手を強いる者までおるそうだぞ」
一体誰の入れ知恵なのか。しかし、未だ幼さの残る審神者は情報の出どころを気にするよりも、三日月が口にした単語に衝撃を受けていた。
「ッ、え、夜伽ですか……!?」
「ははっ、そうだな。常日頃、俺がそなたに対してしていることだな」
審神者はあたふたとするが、三日月は動じない。相変わらず朗らかに、しかし何の躊躇いもなく、とんでもないことを口にする。
「ちょっ、ちょっと三日月さん……!」
そんな彼に審神者は思わず声を潜め、あたりをキョロキョロと見回した。
自室で三日月と二人きりだということは分かっていたが、これは彼との関係を本丸の他の面々に知られたくない彼女の癖のようなもの。
夜伽とは、女性が権力のある男性の寝所に赴いて話し相手や性交の相手になることだ。刀剣の付喪神たちはみな男子だから、もちろんこの場合は性別が逆になる。あるいは同性の審神者との男色となるか……。
手持ち無沙汰な夜に、人恋しくなるのは自然なことだ。みな男子とはいえ刀剣の付喪神たちは揃って美しいから、彼らに対してそういった欲望を抱く審神者が出てくるのは、仕方がないのかもしれない。けれど、これは……。
「職場につきものの、セクハラというやつだな」
「何でそんな言葉を知ってるんですか……」
機嫌よく卑近な単語を口にする三日月に、審神者は呆気にとられる。
この三日月宗近という刀剣のつかみどころのなさといったら相変わらずだ。泰然自若なその様はまさに平安の貴族のような。
「そういえば、明日の演練で当たる予定の審神者の一人が、
そのセクハラとやらをしているらしいぞ」
「え?」
「美青年で本人も武術の達人らしいが、両刀使いでなかなかの悪党らしい」
両刀使い。いわゆる両性愛者で、男性も女性も性愛の対象になる人だ。
「ほ、本当ですか?」
そのような人物と身近に接したことのない審神者は、驚きに目を丸くする。
「明日の演練は俺も行くから心配はしておらぬが……」
のんびりとそこまで続けると、不意に三日月は瞳を細めた。そして。
「――気をつけておくれよ」
「っ!」
意外なほどに真剣な彼の表情に、審神者は思わず息を呑む。
まるで愛しい妹を守ろうとする優しい兄のようなその様子。いつも飄々としている彼に、真面目に心配してもらえるのが、驚きでもあり嬉しくもあり。
しかし、審神者はふと我に返る。特別美しいわけでもない自分を、そういった意味あいで狙う人などいるのだろうか。別に特段魅力的なわけでもない、自分などを……。
しかし、三日月の次の台詞に、審神者は呼吸を忘れた。
「……もっとも、俺にその言葉を口にする資格はないのだがな」
寂しげに微笑む彼は、真昼の空に頼りなく浮かぶ白い月のようだった。
三日月はずるい。そんな寄る辺のない幼子のような風情で、あんなにも殊勝なことを口にされたら。自分は彼を咎めることも、ましてや拒むこともできない。
何と返してよいか分からずに、審神者は黙ったまま長い睫毛を伏せる。憂いを帯びた三日月の表情はやはり美しく、長く見つめるにはやはり気恥ずかしい。
男女の一線はしっかりと越えているくせに、顔を見るのが恥ずかしいだなんて不思議だと、審神者は自分自身んに呆れるが。彼女はすぐに、三日月の容姿が端麗に過ぎるからだと考え直す。
審神者と三日月はいわゆる恋仲であった。といっても審神者に恋焦がれた三日月が、思い余って一線を踏み越えてしまい、それから皆に隠れてずるずると関係を続けているという、褒められたものでもない間柄だったが……。
「はい…… わかりました……」
視線を手元に落としたまま、審神者はぽつりとつぶやいた。
そして翌日。審神者と刀剣男士の一行は演練会場にやって来ていた。
本日の編成は三日月宗近に石切丸、小狐丸に燭台切光忠、
そして大倶利伽羅に和泉守兼定といった、攻撃力重視の面々だった。
日頃の鍛錬の賜物か部隊は順当に勝利を重ね、そして現在は本日最後の戦いを前にした休憩時間だ。
演練会場の片隅の芝生で、審神者は部隊の皆と寛いでいた。青々と茂る芝の上に座る審神者の両隣に石切丸と小狐丸がそれぞれ座し、残る四名もまた、審神者のほど近くで思い思いに過ごしている。
三日月は緑の葉を茂らせた木の下で幹に背を預けて休んでおり、小狐丸のすぐそばでは、調子のいい和泉守が寡黙な大倶利伽羅をからかい、そんな二人を燭台切が仲裁していた。
賑やかな三人に視線を遣って微笑んでから、審神者は両隣の二人に声を掛ける。
「今日も勝てて良かったですね、次も頑張りましょうね」
何ということのない世間話。しかし、これも仲間たちとの親睦を深めるためには大切なことだ。
審神者に声を掛けられた石切丸に小狐丸は、口々に彼女に応える。
「そうだね。次もしっかりと厄を落としてくるよ」
「ええ、私もぬしさまのために次戦も励んで参ります」
笑顔の二人に、審神者もまた柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます。お二人とも無理のないように……」
しかし、彼女が言葉を終えぬうちに、和泉守が声を上げた。
「おっ、主よ。あれだよな、オレたちが次に当たる相手は」
「えっ……!?」
その声につられるようにして、審神者を含めた一同は和泉守の視線の先を見やった。そこにいたのは、随分と物々しい雰囲気の刀剣男士たちの一団だった。
一部隊は六人なのにも関わらず、男士が七人いると思った審神者が目を凝らすと、そのうちの一人は見覚えのない青年だった。
顔立ちは整っているものの、どことなく野卑た雰囲気で、袖なしの上衣からは筋骨隆々とした太い腕が伸びており、おそらくは彼が例の両刀使いの男審神者なのだろうと、審神者は推察した。
彼の脇に控える部隊の面々も、蛍丸に太郎太刀に次郎太刀という大太刀三振りに、槍の中では最強と謳われる日本号、そして鶯丸に三日月宗近といった名だたる太刀で、ほぼ最強といってもよい布陣だった。けれども……。
「――っ!」
少女たる審神者は別本丸の三日月に、その視線を奪われる。
こちらのことなど一顧だにせず仲間たちと談笑する彼も、自本丸の彼と同じほどに美しかった。
まばゆいほどの美貌は相変わらずで、さすがは天下五剣が一振りとでも言うべきか。
美男子揃いの刀剣たちの中でも、彼にばかり惹きつけられてしまうのは、他ならぬ自分が自らの本丸の彼と、人には言えぬ関係に陥っているからだろうか。
いつ見ても素晴らしく端麗に過ぎる容貌。そんな彼に恋をされ、夜ごとあんなことをしているなんて……。
そんな自身に信じられない心持ちになりながらも、しかし審神者は、彼に求められるまま裸の身体を重ね合わせているときのことを思い出す。
そう。普段はあんなにも穏やかな三日月の昂ぶりと熱情の全てを、自らの肉体でもって受け止めている、閨での営みのことを……。
しかし、ここは真昼の演練会場だ。日課の任務の途中であり、まわりには他の刀剣たちが――仲間たちがいる。
審神者は慌てて空想を振り払った。
他の本丸の審神者や刀剣たちも、例の青年の部隊に興味をひかれているようで、彼らは周囲の多くの人々から注目されていた。
けれども、不意に審神者は例の部隊の三日月宗近に視線を送られる。
女性なら秋波とでもいうのだろうか。『触れなば落ちん』とでも言うような、まるで誘われるのを待っているかのような、色めいた艶っぽい流し目だ。
ほんのひとときの視線のやりとり。けれどそれは、少女たる審神者を動揺させ、彼を――例の本丸の三日月宗近を印象づけるには充分だった。
三日月ほどの美貌の持ち主にそんなことをされたら、もう平常心を保てない。自本丸の彼に想いを寄せられ、肉体関係にある彼女なら、なおのこと。
(……やっぱりすごいな……)
審神者は三日月の魅力を改めて思い知る。そんな彼になぜ自分が恋慕われているのかはわからないけど……。
しかし、空想の世界に浮遊していた彼女は、石切丸によって現実へと引き戻された。
「――そろそろ時間だよ。戻ろうか」
「っ、そうですね」
そして、少女の率いる部隊は本日の最後の一戦へと向かった。
演練では終了後に握手の時間がある。少女たる審神者はおっかなびっくりながらも、両党使いの悪人と噂されている青年に片手を差し出して挨拶をした。
「ありがとうございました」
試合結果は残念ながらこちらの判定負けだった。相手はやはり手ごわく、そして錬度も非常に高かったのだ。
「……こちらこそ、ありがとう」
意外なことに、悪党と名高い彼はまっとうな受け答えをし、少女の握手に応えてくれた。
しかし、一拍遅れた返答を不思議に思い、彼女が青年を見上げると。彼は意味ありげな笑みを浮かべ、少女の手を握ったまま、その耳元に囁きかけてきた。
「ねえ、君――……」
青年が口にした言葉に驚いた少女審神者は、大きな瞳をさらに見開き、華奢な身体を強張らせるが。彼はすぐに少女の小さな手を離すと、自陣に戻って行ってしまった。
残された少女はひとり、悔しげに唇を噛みしめる。
「まったくやれやれだね」
そうぼやくのは、傷の手入れを終えたばかりの石切丸だ。
「申し訳ありません、ぬしさま……」
小狐丸も珍しくしょんぼりとしている。他は全勝したのに、先ほどの判定負けがよほど堪えているようだ。
和泉守や燭台切も身体にわずかに残る打ち粉を払いながら、悔しそうにしていた。
「ちっくしょ~ あのすばしっこい大太刀め」
「また錬度を上げないとね……」
最終戦が終わったあとも、部隊はまだ演練会場にいた。模擬戦闘で傷を負った仲間の手入れが終わるのを待っているのだ。あたりには同じように自軍の面々を待つ他本丸の審神者に刀剣たちがいた。
現在、少女たる審神者は石切丸に小狐丸、燭台切に和泉守とともに、三日月と大倶梨伽羅の手入れが終わるのを待っているところなのだが。
向こうから憮然とした様子の自陣の大倶梨伽羅がやってくるのを視界の端に入れながら、審神者は気の毒なほどにしょげている小狐丸を励ました。
「……また、頑張りましょう」
柔らかく微笑みかけて背伸びをし、彼ご自慢の毛並みを撫でてやる。
ああ、やっぱりこの毛並みはいい。まるで本物の狐のようだ。手入れを終えたばかりの小狐丸の髪のふわふわとした手触りに、審神者は感激する。なんて気持ちいいんだろう。もっと触れていたい……。
小狐丸も嬉しそうだ。その様はまるで飼い主の愛撫を喜ぶ子犬のようにも見える。
しかし、空気を読まない和泉守が審神者に声を掛けてきた。
「そういえば、主よぉ、さっきの演練相手の審神者と何話してたんだ?」
「あ、それ僕も気になる、現世での知り合いなの?」
畳みかけるように、燭台切まで同じことを尋ねてきた。
幸福な時間を邪魔されてあからさまに不機嫌になる小狐丸を、視界に入れないようにしながら、審神者は彼らの問いかけに答える。
「ち、違いますよ…… 知らない方です」
確かに演練終わりの握手で声を掛けられたけど、まさかそんな誤解をされるなんて思わなかった。審神者は慌てて否定する。
「へえ、そうなんだ……」
意外そうな顔をする燭台切に、けれどそれ以上のことを話したくなかった審神者は、気まずそうに視線を逸らす。
あの青年審神者と先ほど何を話していたのかといえば、なんのことはない、脈絡なく恋人の有無を尋ねられ、驚きに絶句していたというだけだ。
もはや会話ですらないやりとりだったが、それを刀剣たちに打ち明けるのも気が引けた審神者は、さりげなく話を逸らした。
「……そういえば、三日月さんはどうしたんでしょうか」
ただ一人、未だに戻ってこない彼の名を、審神者は口にする。残る五名の刀剣たちの手入れは終わり、その姿を確認できたのだが、三日月だけが見当たらない。
マイペースな彼のことだから、またどこかで寄り道でもしているのだろうか。
「おかしいね、演練の手入れはすぐに終わるはずなんだが……」
「私、ちょっと見てきますね」
眉を寄せる石切丸に審神者はそう告げると、彼の返事も待たずに一人その場を離れてしまった。手入れ部屋の方にそそくさと駆けてゆく。
「おい……!」
一人飛び出してゆく主を心配したのか、戻ってきたばかりの大倶梨伽羅が声を上げるが。すぐに和泉守に窘められる。
「そこまで心配するこたねーだろ。ここは演練会場なんだしよぉ」
「それもそうだな……」
日頃「慣れ合うつもりはない」などと口にしつつも本当は心の優しい彼に、一同は心をなごませる。
三日月はどこにいるのだろう。審神者はきょろきょろとしながら彼を探す。彼がいそうなところを手当たり次第に見て回ったが、その姿を見つけられず、彼女は気落ちする。心細さのあまり、審神者は彼の名を呼んだ。
「三日月さん……」
心の内でだけつぶやいたつもりが、か細い声となってその唇から漏れ出てしまう。
やはりそれほど、三日月の不在というのは、審神者にとって心細いことなのだろう。けれど。
「あ!」
彼女はやおら声を上げる。探し求めていた後ろ姿を見つけたのだ。見慣れた瑠璃の狩衣に、それに入れられた月に星の紋。間違いなく三日月だ。
きっと自分の本丸の彼だと、審神者はその背を追いかける。しかし、なかなか相手との距離は縮まらない。
そうこうしているうちに、いつのまにか審神者はひとけのない場所に迷い込んでいた。鬱蒼とした林の中だ。
演練会場にこのような場所があったのかと意外に思いながらも、審神者は歩みを進める。しかし、そのとき。
黒い人影が彼女の背後に舞い降り、その首筋に手刀を食らわせた。
「……悪いが、これも主命なものでね」
あまりにもあっさりと、言葉もなくくずおれた彼女を抱き止めながら、そう呟いたのは。打ち刀の付喪神たるへし切長谷部だった。もちろん彼は少女の本丸の長谷部ではない。
「……すまんな、三日月宗近」
「いや、俺も楽しかったぞ」
少女を抱えた長谷部の呼びかけに呼応して現れたのは、なんと三日月宗近その人だった。瑠璃の狩衣も打除けの月が浮かぶ瞳も全て、少女を想う彼と同じ。
けれどこの三日月は、例の両刀使いの青年の本丸の彼であった。同じ男を主にもつ長谷部に、三日月は愚痴をこぼす。
「全く、わが主はとんでもないな。俺たちだけではあきたらず」
しかし、そんな三日月を長谷部は窘める。
「けれども主は主だ。我々は従わねばならぬ」
長谷部のあまりにも彼らしい台詞に、三日月は苦笑した。
「主命とあらばか? そなたの忠誠心には恐れ入るよ」
三日月らしい柔らかな揶揄だ。しかし、長谷部はそれには取り合わない。
「――戻るぞ」
低くつぶやいて、長谷部は少女を抱えたまま姿を消した。
「仕方ない……な」
三日月もまた彼を追うように姿を消す。
「――やあすまんな、遅くなった」
のんびりとそう口にしながら戻って来たのは、少女たる審神者の本丸の三日月だった。
「三日月さん!」
「三日月殿……!」
石切丸に小狐丸は驚いた様子で彼を迎える。同様に、残る演練部隊の面々も意外そうな顔をしている。
てっきり主人と一緒に戻ってくると思っていた三日月が一人だったからだ。
「三日月殿、ぬしさまとご一緒ではなかったのですか?」
「主? いや、俺は知らぬぞ」
小狐丸と三日月のそのやりとりに、場の全員の顔が曇る。さすがにこうなれば、マイペースな三日月でも異変を察知する。形のいい眉を寄せて、三日月は皆に尋ねた。
「……どうかしたのか?」
「……主殿は君を探しに手入れ部屋の方に向かったのだけど、見てないのかい?」
三日月の問いかけに答えたのは燭台切だった。
「俺を探しに?」
「そうだよ」
二人のやりとりを聞いていた石切丸が、ぽつりとひとりごちる。
「困ったね……」
幼いながらもしっかりとしている審神者が、黙っていなくなるなどそうあることではない。
「――皆のもの、主を探そうぞ」
珍しく焦った様子の三日月の言葉をきっかけに、演練部隊は頷きあい、主の姿を求めて散り散りとなった。
それと同じ頃。
少女は薄暗い部屋の中で目を覚ました。頬に触れる固い床の感触、鼻孔をくすぐる埃っぽい嫌な匂い。そして自分の両手首には、冷たい金属製の輪が掛けられていた。これはどう見ても手錠だ。
異様な状況に驚きつつも、彼女は身体の怠さに耐えながらその身を起こした。
少女が倒れていたのは、人ひとり生活できる程度の広さの窓のない一室だった。前方に見える鉄格子に、彼女は自分が監獄に囚われていることを理解する。
「ここは……」
少女が呆然とつぶやいた、そのとき。
「――ようやく目覚めたか」
「ッ! あなたは……」
朗々とした声とともに現れたのは、なんと少女が探し求めていた三日月宗近だった。
しかし、この三日月は明らかに少女の本丸の、彼女想う彼ではない。妖艶な笑みを浮かべるただならぬ様子のもうひとりの三日月の登場に、少女は身構える。
「ははは、随分とつれない態度だな。先ほどは俺の秋波にあんなにも可愛らしい反応を返してくれたではないか」
秋波とは本来は女性の動作の形容なのだが、三日月が口にすると不思議と違和感がなく、むしろ様になってしまう。
けれど彼の言葉に、やはり眼前の三日月はあの青年審神者の三日月なのだと、少女は確信する。
敵方のはずの彼が旧来の友人のように接してくることに、彼女は戸惑う。
彼がここにいるということは、おそらく自分を攫ったのは眼前の三日月なのだろう。そんな彼がなぜ……。
そして、そもそも自分はどうして攫われたのか。少女は遅まきながら疑問に思うが、その理由はすぐに明かされた。
「本来はそなたは俺ではなく、俺の主への貢物なのだがな」
「えっ……!?」
主への貢物。その物騒な言葉に、少女は目を瞠った。大きな瞳を限界まで見開かせる。しかし、三日月はそんな彼女には構わずに、楽しそうに続ける。
「とはいえ、あまりにも愛らしいそなたを、他の男にただ差し出してしまうなど勿体なかろう? 主に献上する前に味見をしようと思ってな」
究極のマイペースというのは、どの彼も同じようだ。けれど、次第に不穏になってゆく風向きに少女の額に冷や汗が浮かぶ。
人を食ったような笑みを浮かべる彼に、少女の背筋をぞわりとした何かが駆け抜ける。
「味見……?」
ごくりと唾を呑み、少女は三日月に尋ねかけるが。
「――別の俺と関係を持っていたのなら、構わぬだろう?」
三日月はそう口にして、まるで当然のことのように彼女をその場に組み敷いた。
「ッ……!!」
石造りの固い床にその背を打ちつけ、少女は呻く。例の青年を主に持つ三日月の意外なほどに粗暴な振る舞いに、この彼はやはり自分の本丸の彼ではないのだと、少女は改めて思い知る。
「み、三日月さ……」
少女は眼前の彼を呼ぶが、やはり取りあってはもらえない。
三日月は少女の呼び掛けに応える代わりに、捕縛の呪を唱えた。手錠により縛められた少女の両手首を、監獄の床に縫いとめる。
いくら幼い彼女といえども、男が女にこのような真似をする意図くらい知っていた。
そう、それこそ眼前の男と全く同じ姿と名を持つ彼に、身をもって教えられたことだ。
ついに堪えきれなくなった彼女は、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。
目の前にいる三日月は自分の本丸の彼とは違う。姿かたちこそ同じでも全くの別人だ。
自分の本丸の三日月はもっと優しかった。確かに最初は強引だったけど、それでも彼はこれ以上ないほどに自分を大切に扱ってくれた。
なるべく痛みを与えないように配慮し、不安がる自分を宥めるように何度も愛を囁いてくれていた。
彼との営みはいつだってめくるめく夢物語のようで、思えばいつも自分は、彼によってもたらされる恍惚の中で、性の頂点を迎えていた。
自分自身の小さな蕾に三日月の真っ白な熱を注がれながら、彼の手によって悦楽の極みに押し上げられる、甘く切ないひととき。
自分を見つめる彼の、永遠の月夜と朝焼けとを閉じ込めた宝玉のような瞳にはいつだって、激しくも美しい恋の炎 が燃えていた。
焦がれるほどの想いを、いつも自分に向けてくれていた愛しい三日月。
けれど今、自分を見おろす彼はそうではない。
眼前の彼の、凍てついた水面のような瞳に怖気づいた少女は、彼から逃れようともがいたが。手錠を掛けられた両手首を、捕縛のまじないで床に縫い止められているこの状況では、どうすることもできない。
仮に悲鳴を上げたとしても、敵陣まっただ中のここで助けが入るとも思えなかった。
抗う術も逃げる術もない。絶望のあまり、少女の身体から血の気が引く。もがく気力すらもなくしてしまった彼女は、たた呆然と三日月を見上げた。
そんな彼女を見おろしながら、三日月は満足そうに微笑むと、少女の脚の間に自身の両膝を割り入れて、彼女の衣服に手を掛けてきた。
少女は前開きの上衣にスカートという出で立ちだった。三日月の手によって少女の上衣のボタンはすぐに全て外される。可憐な胸の膨らみを覆う下着も、その背の留め具を外されて、上方へとずらされた。
まだもう一人の三日月にしか見せたことのない少女の二つの膨らみが、ふるりと揺れ落ちて、彼とは別の三日月の前に晒される。
少女は恐怖と羞恥に息を呑み、華奢な身体を強張らせる。
むき出しの素肌にひんやりとした空気を感じて、さらに恐ろしく、泣き出したい衝動に襲われる。
「――別の俺の想い人は、泣き顔も随分と可愛らしいのだな」
彼女の真っ白な膨らみの色づいた突端を眺めながら、三日月は喉を鳴らして笑う。
「ッ!」
まるで煽るような言葉に、少女の頭に血がのぼる。愛する人とは別の男に、裸の胸を見られている。それは彼女にとって、屈辱以外の何物でもなかった。
「……やめてください」
絞り出すような声で、少女は三日月を睨みつけるが。
「そう言われて、やめる男などおらぬよ。まして相手が、こんなにもそそられる女人なら尚更な」
「……!!」
三日月の意外な返答に、少女は息を呑む。やめてもらえるとは思ってはいなかった。けれど。
(――そそられる? あんなにも美しい彼が自分に?)
少女は疑問に思うが、すぐに訪れた自分の胸を包み込む冷たい手のひらの感触に、身体を竦めた。いつの間にか手袋を外していた三日月が、ついに少女の身体に触れてきたのだ。
柔らかな胸の膨らみの稜線を優しく確かめるように触れられて、再び少女の背筋をぞくぞくとした何かが駆け抜けてゆく。
自分でも気づかぬうちに、少女は熱を帯びた呼気を漏らし、形のいい眉を切なげに寄せていた。
「は……っ ……ん」
そんな彼女の反応に気を良くしたのか、三日月は表情を緩めて笑うと、改めて少女に覆いかぶさった。
左腕を床につけて自分の体重を分散させながら、空いた右手で少女の胸の膨らみを可愛がる。
「……触って良しとは、まさにこのことだな」
「ッ……」
二つの膨らみを片手で乱暴に揉みしだきながら、こちらを煽ってくる彼に悔しくなった少女は、むき出しの乳房をしっかりと掴まれながらも、懸命に身をひねって彼から逃れようとした。
しかし、非力な彼女の抵抗はやはり、何の意味も持たない。彼女の手首を縛める金属の輪が、かちゃかちゃと小さな音を立てるのみだった。
しかし、そんな彼女の涙ぐましい拒絶など意に介さずに、三日月は行為を進めて行く。少女の柔らかな白肌にその唇を触れさせてきた。
彼女の鎖骨のあたりには、先ほど三日月によって押し上げられた胸を覆う下着があった。だからなのか、三日月はやにわに少女の胸の頂に吸い付いた。
「やっ……っ! 三日月さん……っ!」
まさかいきなり、そんなところを責められるとは思わなかった、少女は絹を裂くような悲鳴を上げる。
しかし、三日月はまるで何事もなかったかのように、平然とした様子で愛撫を続ける。
その大きな手のひらと薄く男らしい唇で、三日月は少女の無防備な肉体を丁寧に愛していった。
「やっ…… ああ……っ」
自分では望んでいないのに。しかし、欲求に素直な少女の身体は、彼女にあられもない声を上げさせる。
そしてそれは、少女にとっては不都合なことに、三日月の興を乗せてしまった。
「……うむ、なかなかよいぞ。もっとその声を聞かせておくれ」
「ひゃあ…… んっ」
むき出しの乳房の先端に強く歯を立てられて、少女は再び悲鳴を上げる。
「三日月さん…… やめ……っ」
半裸の身体を切なげによじりながら、少女は三日月に懇願するが、その願いが聞き届けられるはずもなく。少女はさらに肌を暴かれ、その無防備な肉体を、彼に淫らに辿られてゆく。
三日月の大きな手のひらが、節くれだった長い指が、少女の無垢な素肌を巧みに嬲り、その穢れなき純白を、淫らに火照った桜色に染め上げる。
「あっ…… やあ……っ」
深く感じてしまう場所ばかりに、何度も刺激を与えられ、
少女はこの営みの相手が誰であるかも忘れ、ただうっとりともたらされる快楽を享受していた。
華奢な身体を大きく弓なりにしならせて、自分にのしかかる男の全てを受け入れながら、彼によって与えられる甘やかな刺激を浅ましく貪る。
その先端を音を立てて吸われているのにも関わらず、さらに胸を突きだして、心地よさそうな喘ぎを漏らす少女は、まるでさらなる愛撫をねだっているかのようだ。
潔癖な彼女のその仕草に、三日月は楽しげに笑う。清廉な少女は今やもう一人の三日月によって、その肉体から浅ましく淫らな本能を引き出されつつあった。
そしてついに、彼女の喘ぎに甘やかな媚が含まれ始めた。
「あっ…… あ……ッ」
本当は眼前の彼に甘い声など聞かせたくないのに、我慢しきれず喘いでしまう。
そんな自分がどうしようもなく悔しくて、少女は三日月の愛撫の合間に唇を引き結んでそっぽを向いた。
せめてもの抵抗だ。彼の手によって良くなっている姿など見せてやらない。しかし、それは逆効果だった。
「ふむ、声は聞かさぬというわけか。ならば、堪えきれぬようにしてやるまでだな」
「――やあああ……っ!!」
脚の間をその場所に下着の上から触れられて、少女はひときわ高い悲鳴を上げる。
「やっ…… そこ…… だめなの……」
「なぜだ? ここは女人の最もよい場所なのだろう?」
少女の割れ目の最も深い谷間の部分。三日月はまるで狙ったように、そこにばかり触れてくる。まるで、指を離すのが惜しいと言わんばかりの執拗な愛撫だ。
その肉厚の感触を確かめるかのように、三日月は少女のそこを何度もなぞり、丁寧に撫であげた。
そして彼はついに、少女の割れ目の最も深く柔らかな部分を、自身の指の腹で押さえつけた。
そんなことをされては、堪えきれるはずもない。極まった少女は甲高い悲鳴を上げる。
「や……っ!」
その場所は彼ではない三日月の猛りをいつも受け止めていた、彼女の小さな入口だった。
頼りない薄い布地に覆われただけの無防備なそこに、男の節くれだった指を沈められてしまえば、感じ入ってしまう他ない。
「だめ…… やめて……」
少女はあえかな声で三日月にそう願うが、彼は容赦なく少女のそこにさらなる愛撫を加えてゆく。
「……っ!!」
彼女の意志とは裏腹に。快楽に従順な少女のそこは、ほんのひととき男の指先で愛されただけで、無様なほどに熱く柔らかく溶けてしまった。
男の指や股間の昂ぶりの挿入を求めて、その内側をこれ以上ないほどに浅ましく潤わせる。
「はは…… 嫌よ嫌よも何とやら、だな」
自分の手によって、可憐な少女の清らかな肉体から淫らな本性を引き出して、欲に塗れた貪婪な女に仕立て上げてゆく。それは、男にとってはこの上もなく愉快な遊びだ。
少女が自らの慎ましく小さな蕾を綻ばせ、見事な大輪の花を咲かせてしまう様をしっかりと見届けてやりながら、三日月は喉を鳴らして笑う。
「……っ」
自らの最も大切な場所を彼の好きにされながら、少女は悔しさに唇を噛む。
今や少女の秘められた小さな入口は、三日月の手によって淫らに暴かれて、薄い布越しにはしたない蜜を溢れさせ、ひたすらに男を求めていた。
一度でも花開いてしまったら、蕾だった頃になど戻れるはずもない。こんなにも見事な大輪の花を咲かせてしまったのならなおさらだ。
もうひとりの三日月の手によって花開いてしまった少女の秘部は、彼の手によって摘まれ散らされるために咲いた、可憐な花のようだ。
少女は唇を噛んで瞳を閉じた。自分の肉体だというのに、その場所のあまりにも素直で浅ましい反応を抑えることができず、悔しくて仕方がない。
しかし、本能に刻まれた欲望に理性が太刀打ちできるはずがないのだ。
肉体の欲求に従って、素直すぎるほどに素直な彼女のそこは、しきりに心地よさを訴える。男の指に可愛がられながら、自分自身をさらに熱く昂ぶらせてゆく。
もっと深くまで、もっと直截にその場所を愛されたいと、自身の全てで訴える少女のそこを、三日月は彼女の肉体が望む通りに愛していった。
少女の下着をずらしてやり、むき出しになった彼女のその場所に、ついに指を差し入れる。
「あっ…… ん……」
切なげな喘ぎを漏らし、眉を寄せる少女の媚態を鑑賞しながら、三日月はさらに指を増やして、熱く濡れた少女の内側を押し広げてゆく。
きっちりと揃えられた三日月の指が、少女の体内でゆっくりと大きく動かされ、あるいは意志を持ってばらばらと動き、少女の秘部を蹂躙していく。
そして三日月は蹂躙の合間に、主人愛用の媚薬を少女のその場所に塗りつけていった。
外気に晒されている入り口の花弁やその浅瀬、そして長い指や張り詰めた性器を差し入れなければ届かない、彼女の肉体の最奥にまで、たっぷりと丁寧に塗りこめてやる。
「あ……っ ああ……っ」
秘薬の効果なのか、それとも三日月の愛撫があまりにも巧みだったからなのか。少女はあまりにもあっけなくその意識と正気とを手放した。
今や彼女は焦点の定まらぬ瞳で、うっすらと笑みを浮かべながら、恍惚に浸った様子で喘いでいた。
少女の脚の間の熟しきったそこは、女性らしい素直な柔らかさと弾力でもって、三日月の愛を受けていた。
潤った自身の内側に差し入れられた彼の指先にしっかりと絡みつき、もう離さないとばかりに、しっかりと吸い付く。
三日月の愛撫はどうしようもないほどに的確だった。無垢な少女の肉体は彼の手によって倦んだ熱を持たされて。
そして淫らな熱を持たされたその身体はしきりに、さらなる愛撫を欲しがるのだ。
先ほどから彼女の割れ目に施されていた愛撫はやがて、そのすぐ上にある小さな肉刺に移っていった。そこは少女が最も感じてしまう敏感な突起だった。
そんな場所に直接触れられて、少女は至福の笑みを浮かべて、身体を弓なりにしならせた。
「ああっ……!!」
薄く開かれた唇から漏れ出たのは、ひときわ甲高い甘い喘ぎだ。それは紛れもなく相手の男に媚びるもので、さらなる刺激をねだっていた。
焦点を失った彼女の瞳がさらに溶け、その唇から「もっと」とこぼれたのを聞き届け、三日月は楽しげにつぶやいた。
「……面白くなってきたな」
煽るような言葉にも、少女はもう何の反応も返さない。下肢の突起を三日月に好きに弄られながら、惚けたような笑みを浮かべるばかりだ。
「欲求に素直なそなたが愛しいぞ。さて、そなたのここはどのように俺を受け入れてくれるのだろうな?」
肉欲の世界に堕した少女の痴態を楽しみながら、三日月は少女の秘部の全てを愛してゆく。
小さな割れ目に指を差し入れて緩く動かしてやりながら、最も敏感な突起を爪先で何度も弾いてやる。
「あ……っ んん……っ」
突起を弾かれるたびに、心地よさそうな声を上げながら、着衣の乱された身体をよじって喜ぶ少女に、気を良くした三日月は再び喉を鳴らして笑った。
「なるほど、身体は正直というわけか…… 一度言ってみたい言葉だな」
そして、三日月はいったん少女の身体から離れると、これまで大きく広げられていた彼女の両脚を一旦閉じさせた。
彼女の下肢を覆う下着に指を掛け、ゆっくりとそれを引き下ろす。
すると、彼女の腰が三日月の行為に応えるように浮き上がった。自ら腰を浮かせる浅ましい少女の姿に、三日月は笑みを深くする。
「……ほう、そなたから求めてくれるか」
秘薬の効能であるとはいえ、彼女の方から求められれば、やはり優越感と征服欲とが満たされる。
「……気丈なそなたが崩れてゆく様を眺めるのは、面白くて仕方がないよ」
少女もまた、焦点を結ばぬ瞳でうっすらと笑みを浮かべていた。その様は眼前の男の股間の猛りを欲しがる、淫らな女そのもので。
「……さぁて、どのようにしてくれようか……」
両脚を男の前で大きく広げ、濡れそぼった剥きだしのそこを、艶然とした笑みを浮かべながら見せつけてくる裸の少女。
そんな彼女を見おろしながら、もう一人の三日月は満ち足りた笑みを浮かべる。
「……ああっ ……ああっ」
三日月の抜き差しの律動に合わせるように、少女は薄く開いた唇から、恍惚に浸った喘ぎを漏らす。
「……ああ、可愛いぞ。そなたがこんなにも好色な女だとは思わなんだわ」
彼女のそこへの責めを繰り返しながら、三日月はまるで熱に浮かされたようにつぶやく。
しかし、少女のそこに入れられていたのは、三日月の股間の昂ぶりではなく、しっかりと媚薬が塗られた彼の長い指であった。
けれども、大きく口を広げながら、何本もの指を呑み込む浅ましい彼女のそこは、男の昂ぶりを差し入れられている、淫らな女陰そのものだった。
三日月の愛撫もまた、指先をきっちりと揃え一定の拍子で抜き差しするという、そのときさながらのもので。
三日月の指が少女の濡れたそこから引きずり出されると同時に、少女は至福の笑みを浮かべて、もうたまらないとばかりに無垢な裸身をのけぞらせる。
彼女がその身をよじるたびに、二つの胸の膨らみがふるふると揺れ、ぷっくりとたち上がった突端が自身の存在を三日月に向けて主張した。
「んん……っ」
少女は華やかな嬌声を上げながら、彼の眼前で肉欲に溺れた愛くるしい媚態を存分に披露し、三日月をこれ以上ないほどに喜ばせていた。
「可愛いぞ…… ますますそなたが愛おしくなる……」
少女の反応に昂ぶった三日月は、少女のその場所に差し込む指をさらに増やす。
三日月の執拗なほどの前戯と、鋭敏な粘膜に塗りこめられた媚薬によって、完璧なまでに準備を整えられていた彼女の秘所は、増やされた指も易々と呑み込んだ。
「ああっ……!」
彼がきっちりと揃えた指を抜き差しするたびに、媚薬により理性を奪われた少女は、もうたまらないとばかりに乱れに乱れて、三日月の視線をその身体全てに感じながら、見事な痴態を演じてしまう。
何本もの彼の指をその場所に差し入れられて、勢いよく引きずり出される。たったそれだけのことが、どうしてこんなにも心地よいのだろう。
三日月に緩く抜き差しをされながら、浅ましい欲求に囚われた少女は、いかんともしがたい淫らな疼きに、その心を支配されていた。
指ではなく股間の昂ぶりで、自身のその場所を穿って欲しい。
はぁはぁと荒い息を吐きながら、じれったい思いで半裸の身体をくねらせて、少女はまるでねだるように、三日月の動きに合わせて、自ら腰を揺らしていた。
彼に愛され蹂躙される喜びをその全身で表しながら、少女は懸命に裸の腰を振りたくり、自分を見おろす三日月を行為の先へと誘っていた。
指だけでは足りない。彼自身が欲しい。――もう我慢できない。
一糸纏わぬ両脚を大きく開き、熱く濡れたその場所を彼に見せつけながら、少女は夢中でか細い腰を揺らしたて、媚のにじんだ声を上げた。
そして、ついに。彼女の唇から再び、彼を欲しがる言葉が漏れる。
しかし、少女にそこまで誘惑されても。三日月はただ穏やかな笑みを浮かべて、その優しすぎるほどの愛撫を続けるだけだった。
「ああっ…… ああ……」
じれったそうな様子で、少女は切なげに眉を寄せる。
まるでその場所をじっくりと煮詰めてゆくかのような、三日月の優しく丁寧な愛撫。確かに心地よいけれど、これではまるで生殺しだ。
このままでは気が変になってしまう。少女は再度、三日月に彼自身が欲しいと願った。
当初は三日月を拒んでいた潔癖な少女は今や、彼の猛りを懸命に求める素直で淫らな女へと変貌していた。
ふたりきりの牢獄で、今や少女は三日月に完全に囚われて、篭絡されてしまっていた。
そんな彼女を見おろして、三日月は唇の端を上げて笑う。
「……おやおや、もっと手ごたえのあるおなごかと思っておったが、存外あっけないものだな」
まだもう一人の彼しか触れたことのない少女のそこから、自らの指を引きずり出すと。三日月はついに袴の腰紐に手を掛けた。
「それでは、俺も楽しませてもらうとしようか」
いよいよ彼女の全てを奪ってやれる。三日月が自分自身をそう昂ぶらせた、そのとき。
遥かから響いてくる軍靴の音に、三日月は身体を震わせる。足音の主など間違えようもない。自らの主たるあの青年だ。
彼の獲物を盗み食いしようとしていたことが露見すれば、いかな自分といえども刀解の憂き目に遭うかもしれない。
「……っ!」
三日月は名残惜しそうに呻くと、淫らな芳香をその身体から放つ少女から離れ、そそくさと彼女の着衣を整えた。
そして、これまでの行為の痕跡を可能な限り消してから、自らの主を出迎えた。
「――何をしている、三日月宗近」
低い声とともに現れたのは予想に違わず、彼の主たるあの青年だった。
彼のぞっとするほどの冷たい瞳に、三日月は身体を固くする。
「それは俺の獲物だと言ったはずだ」
青年の声はそう広くない牢獄に反響し、まるでこだまのように響いた。
その声に、これまで意識を混濁させていた少女は、次第に正気を取り戻してゆく。
「道具風情が主の獲物を盗み食いか。生意気が過ぎるぞ」
主人にそれだの道具風情だのと詰られても、三日月は無言だった。何の反論もせずに、その場に控えている。
そして。
「――失せろ」
青年審神者の一言で、三日月はあっさりと引き下がった。先ほどまであんなにも執着し、蹂躙しようとしていた少女を一顧だにせず、そそくさとその場から立ち去る。
三日月のその様子に、少女は刀剣男士たる彼らと、彼らを顕現させた審神者の、力関係を思い出していた。
鍛刀によって刀剣男士を現世に呼び起こし、刀解により彼らを殺すこともできる審神者は、いわば刀剣男士の生殺与奪の権を握る絶対的な存在だ。
いかに天下五剣が一振りたる三日月宗近といえども、そんな審神者に逆らうことなどできない。
三日月自身もそれを理解しているのだろう。だからこそ、その誇りを捨ててまで、あの青年の言いなりになっている。
「――ようやく二人きりになれたな」
妙に楽しげにそう口にして、青年は切れ長の瞳を眇める。三日月が去った今は、彼の言葉通りこの場にいるのは、青年と少女の二人だけだ。
眼前の相手の瞳の奥に確かな狂気を見つけて、少女は身体を竦ませる。
「ここしばらくは男ばかりだったからな。久しぶりに女の味が恋しくなったんだよ」
卑しい薄笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる男に、少女は自本丸の三日月の台詞を思い出していた。
『見目麗しい刀剣に、夜伽を強要する者までおってな――』
やはりあの噂は本当だったのだ。少女の心の内に怒りがわいてくる。権力を笠に着た卑劣な振る舞いは許せない。
とはいえいかに腹が立っても、武術の達人という男にかなう手だてなど、今の彼女にはない。
少女が唯一できるのは。
「……来ないでください」
彼を言葉で拒絶し、後ずさることだけだ。
けれど、それが何の意味もなさないことくらい、当の少女本人が一番よく分かっていた。
彼女の肉体もまた、先ほどまでの三日月との行為で、淫らに興奮しきっていた。脚の間はぐっしょりと濡れ、瞳は熱を帯びて潤み、頬も上気し薄赤く染まっている。
そのような、いかにもといった風情の女が男を拒もうとしても、そもそも通じるはずがないのだ。
「素直に言うことを聞くことだな。さもないと、そのか細い腕が折れることになるぞ」
これ見よがしに指を鳴らして、青年は物騒な言葉を口にする。
間近で見れば見るほどに、男の体つきは逞しく立派だった。よほどしっかりと鍛えているのだろう。
丸太のような太い腕に、服の上からでもわかるほどに厚い胸板。武術の達人という噂は、おそらくは本当だ。
「顔を潰すのはやめてやるよ。お前の可愛らしい顔が、快楽に歪む様を見たいからな」
そんな彼にせせら笑うようにそう言われ、ついに少女は青ざめる。
しかし、彼女の背は既に牢獄の壁に触れていた。もうこれ以上後ずさることはできない。
そしてすぐ、少女は近づいてきた彼に胸倉を掴まれた。
(ッ!!)
もう駄目だと、彼女が固く瞳を閉じた、そのとき。
「――そこまでだ」
耳慣れた朗々とした声が響き、頭が割れるような金属音とともに、牢獄の扉が破壊される。
太刀による鋭い一閃だ。まるで晴天の霹靂のようなその技の主は、少女の本丸の、彼女を愛する三日月だった。
彼の背後には揃いの制服を着た政府関係者数名と、青年審神者に命じられるまま少女をこの場へと攫ってきた、へし切長谷部が控えていた。
ようやくの愛しい月の登場に、少女審神者の瞳から安堵と喜びの涙が溢れる。
三日月は少女に優しい微笑みを向けると、すぐに表情を戻して、監獄の扉を破壊した刃をその鞘に収めた。
その仕草もまた息を呑むほどに美しく、こんな状況だというのに、少女は彼に見惚れてしまう。
間を置かずに、政府の役人たちが牢獄の中に駆け込んできた。
こわもての男性スタッフが青年審神者を少女から引きはがし、鬼の形相で彼に凄む。
「現行犯です。言い逃れはできませんよ」
「ッ!」
青年は息を呑み、悔しそうに歯を食いしばったが。すぐにがっくりと項垂れた。ついに観念したのだろう。
政府の男性スタッフは青年の腕を掴んだまま、場の全員に向かって宣言した。
「この男は我々が本部に連行します。おそらくはそのまま審神者の任を解かれることとなるでしょう」
そして、彼はへし切長谷部へと視線をやると。
「長谷部殿、そちらの本丸の新しい審神者の選出については追って連絡致します」
「……承知いたしました」
長谷部は胸に手を当て一礼をする。言葉や仕草は丁寧でも、慇懃でどこか不遜なその態度は、実に彼らしい。
例の青年審神者は、そのまま政府関係者たちに引き立てられてゆく。
それはあまりにもあっけない、あの青年の審神者としての最後だった。
例の青年と政府関係者たちが監獄から出て行き、その足音が遠くなったのを聞き届けてから。
長谷部は改めて、少女の本丸の三日月に向き直った。
「助かったぞ、三日月殿。礼を言う」
「なあに、我が主のために刃を振るったまでよ」
穏やかな笑顔で、長谷部と三日月は互いを労った。
長谷部のこれまでの心労を想い、三日月はさらに言葉を重ねる。
「主とはいえ下らぬ男の元でよくぞ今まで耐えたな、長谷部よ」
「ああ、長い地獄だったが、それも今日で終わりだ」
そこまで続けて、長谷部は改めて三日月に水を向ける。
「して三日月殿、行ってやらずともよいのか」
そう。それは未だ牢の隅で震えている、三日月の主たる少女のことだった。
長谷部は彼女を顎で指し、三日月を促した。
「言われずとも」
三日月はそう答えてすぐ、可哀想なほどに憔悴しきっている少女のもとに向かう。
未だに恐怖で震えるその姿は、とても痛ましくいじらしかった。三日月はそんな彼女の小さな手を取って、しっかりと握りしめてやる。
誰よりも大切な人だ。彼女が消えたと知ったときは、血の気が引いて、戦場で敵と斬り結んでいるときですら感じたことのなかった恐怖を、初めて感じた。
けれど、少女を取り戻した今となっては、三日月の心中は平和そのものだった。
少女の手を取ったまま、三日月は普段の彼らしい、穏やかな笑みを浮かべると。
「主よ、戻るぞ」
「……三日月さん」
「あとのことは長谷部たちに任せておけばよい。皆が心配しておる」
「でも……」
「でもではない。俺もそなたがおらぬと茶菓子も喉を通らぬのだ。――戻るぞ」
相変わらずのマイペース。三日月は少女の躊躇いなど意に介さずに、強引に彼女を連れて行こうとする。
しかし、それがよほど嬉しかったのか。その大きな瞳から喜びの涙を溢れさせ、少女は幸せそうに笑った。
「はい……!!」
この事件は内々に処理されて、二つの本丸――少女の本丸とあの青年のいた本丸に――平和が戻った。
そして、このことがきっかけで少女と三日月の関係がまた変わってゆくのだが、これはまた次の機会に。