へしさに
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恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
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ある夏の日の、ここはとある旅館の一室。小規模ながらも部屋付きの露天風呂のある高級な客室だ。そんなところで審神者は短い夏季休暇を満喫していた。
「ああ…… 気持ちいい」
石造りの浴槽の中で手足を伸ばしながら、審神者はほっと息をつく。艶やかな長い髪を後ろで結い上げ薄手の湯帷子だけを纏ったその姿は、可憐でありながら艶めかしく、えもいわれぬ色香を放っている。
「本丸の近くにこんないいお宿があったなんて知らなかったわ」
まるで独り言のようにそう口にして。おもむろに彼女は、浴槽の外の自らのほど近くで体を流している彼に声をかけた。
「ありがとう長谷部、あなたのおかげよ」
「……お気に召して頂けてよかったです」
主人からのねぎらいの言葉に、長谷部と呼ばれた彼は切れ長の瞳を細めてそんな言葉を返す。
へし切長谷部。彼女の本丸の近侍であり、このような場所に二人きりでいることからも察せる通り、彼女の情人でもある打刀の付喪神だ。
均整のとれた逞しい体躯の腰部に大判の手ぬぐいを巻き付け、しとどに濡れた鈍色の髪からしずくが滴るままにしている彼は、まさに水も滴るなんとやらだった。
審神者である彼女に仕える近侍らしく、この旅の手配は日々の業務の合間を縫って長谷部が行った。この隠れ家のような旅館を見つけてきて宿泊場所に選んだのも彼で、審神者はそんな長谷部に改めてねぎらいの言葉をかける。
「こんなことまで頼んでしまってごめんなさいね。本当は私がしなきゃいけなかったのに」
「……とんでもないです。あなたとの旅の手配でしたら、いつでも喜んでやらせて頂きますよ」
唇の端をわずかに上げて、まるで世辞のような言葉を本心から口にする彼に、審神者は瞳を伏せて苦笑する。
長谷部のこういうところは相変わらずだ。日頃から自らの主への態度とそれ以外の者への態度が全く違う長谷部は、一事が万事この調子で。
彼が今浮かべている穏やかで嬉しげな笑顔も、砂糖菓子を溶かしたような甘さを含んだ声も全て、彼の今代の主人である審神者にしか向けられないものだ。
そう。長谷部がこのような愛情や優しさを見せるのは、彼の主であるこのひとに対してだけだった。
やがて、身体を洗い終えた長谷部は浴槽のふちに手をかける。彼のそんな様子に気がついた審神者は少しだけ位置をずれ、長谷部が湯船につかりやすいように場所をあけた。
湯に浸かるとすぐに、長谷部はその逞しい腕を審神者に伸ばし、そっと彼女を抱き寄せる。後背からの抱擁だ。ほっそりとした白いうなじに顔を寄せ、長谷部は審神者の柔らかな肌に口づける。
まるで愛しい恋人に甘えて愛撫を乞うような彼の仕草に、審神者は淡く頬を染めた。
「……もう、もう少しゆっくりすればいいのに」
「お嫌でしたか」
「……ん」
改めて長谷部に尋ねられて、審神者は返事を濁してほんのわずかに俯く。彼女があいまいな答えを返すときは、進めてもよいということだ。
こういったときの審神者の振る舞いの意味など知り尽くしている長谷部は、今一度彼女を抱きしめると、湯帷子の帯を解くべく腰のあたりに手を伸ばした。
長谷部がこれから何をしようとしているのか、気づいていないはずはないのに、審神者は抗わなかった。素直に帯を解かれ、そのまま着物を肩から落とされ、美しい裸身をあらわにされる。
女らしい細い肩口、すっきりとした背。柔らかな色白の肌はこれまでの長湯で淡く火照り、ふるいつきたくなるような優艶さだった。
自らの女主人の、可憐な蝶がさなぎから抜け出るかのような風雅な脱衣に、長谷部は美しい天女からその羽衣を奪い取ったかのような錯覚を起こしてしまう。
彼女は神のしもべではなく人であり、神であるのはむしろ自分自身のはずなのに。
ただの配下のひとりに過ぎない身にもかかわらず、貴人である彼女に心奪われ、その寵愛を独占すべく日々奮迅している長谷部にとっては。
清らかな神の御使いを自らの手中に収めるべく、その力の拠り所であるものを奪い隠してしまった卑しい男は、堕天を強いられた気高き存在などよりよほど、自身に近しいものに感じられた。
そう、罪だとわかっていても手折らずにはいられないほど。長谷部は自らの今代の女主人に魅了され、執着してしまっていた。
今の自分はまぎれもなく堕とされる側ではなく、堕とそうとしている側なのだ。清らかで美しいあのひとを汚し狂わせ、自らと同じ修羅の道へと引き込む。
審神者の白い裸身を後背から愛でながら、長谷部はそんなことを夢想する。
力を奪われ堕天させられた天女が、自身を堕とした卑しい男に囲われて飼育されるという空想は、美しい女主人への忠義と独占欲をたぎらせていた長谷部にとっては、この上もなく甘美であったが……。
しかし同時にかつての主に下げ渡された過去を持つ長谷部は、ときおりどうしようもない不安にとりつかれることがあった。
一糸まとわぬ女主人と愛を交わしあうさなかであっても、長谷部はいまだに主である彼女に捨てられるという根拠のない恐怖に苛まれ、苦しめられていた。
その痛みはまるで錆びついた刀で胸を刺され抉られるかのような耐え難いもので。
その短気さと激情さで名高いかつての主人によってつけられた、長谷部の心の傷はいまだ癒えることなく、誇り高い彼を蝕んでおり、それはふとしたときに顔を出す。
いつしか長谷部の審神者を愛撫する手は止まってしまっていた。
「……長谷部?」
彼の異変に気がついた審神者に心配そうな様子で名を呼ばれ、長谷部は我に返る。交接のさなかの愛撫をおろそかにするなど、女主人に対してなんたる無礼を。
「……いえ、申し訳ありません」
続きを致しましょう。審神者の耳元でそうささやくと、嬉しそうな小さな頷きと甘い吐息が返される。
こうやって審神者の肉体に触れることを許され、彼女からも求められるこのときだけは、この方のただひとりの特別として、必要とされている実感を得ることができる。
たとえこれが交接のさなかのひとときの錯覚だったとしても、常に心に苦しみを抱える長谷部にとっては、彼女との情事は欠かすことのできない鎮痛剤のようなものだった。それはまるで医者が死を目前にした病人に処方するモルヒネのような。
不意にごうと強い風が吹き、自分たちが浸かっている湯船の水面が波打った。長谷部は改めてここが屋外の、部屋付きの露天風呂だということを思い出す。
ちょうど気候のよい季節で、冷涼な夏の夜気は、長湯で火照った身体には思いのほか心地よく感じられ、空を見上げれば瞬く星々が美しく、今宵はこの趣ある空間で彼女と愛し合いたいと長谷部は願う。
本丸では不可能な野外での情交。審神者との交接の経験は幾度となくあったが、屋外で行為に及んだことはこれまでに一度としてなく、長谷部はその期待から我知らず笑みを浮かべる。
「……それでは場所を変えましょうか」
そうとだけ口にして長谷部は審神者を抱え上げ、湯船から立ち上がった。
***
硬い床で交わるのは、まるで不埒な男に無理やり組み敷かれて犯されているかのような、不思議な錯覚を覚えてしまう。相手はもう幾度も交わり慈しみ合った、ただひとりの愛する刀だというのに……。
審神者は自らに覆いかぶさる男の裸の背に爪を立てながら、めくるめく性の官能を夢中で貪っていた。
愛しい男性と屋外で行為に及ぶなんて初めてのことで、いけないとわかっているのに、夏の夜気の心地よさと解放感の虜となってしまっていた。
目を開ければ満天の夜空が広がり、石造りの露天の浴槽を取り囲む野趣あふれる庭園からは、木々の葉擦れの音や野鳥の鳴き声が意外なほど近くに聞こえ、今まさに屋根も壁もない開かれた世界で、愛の営為に耽っているのだと思い知らされる。
部屋の露天風呂の洗い場で肌を重ねているだけなのに、やはり野外での営みは驚くほど新鮮で、いつも以上に感じてしまい、どうしようもなく乱れてしまう。
屋外で一糸まとわぬ裸身を晒して愛し合うだけで、これほどまでに良くなれるだなんて知らなかった。ただ場所を変えただけで、それ以外は慣れた人との慣れた行為のはずなのに、まるで淫らな薬でも使われたかのように、無防備な肉体のそこかしこが過敏になってしまっていた。
審神者は甘やかな喘ぎを漏らしながら、その裸身をしならせる。まだ彼のものが入れられたばかりだというのに、もう頂点を迎えてしまいそうだ。
「っ…… 長谷部……」
これではいけないと彼の名を呼ぶ審神者に、しかし長谷部は煽るような言葉を返してくる。
「いつもよりずっと潤っておいでですよ。屋外でいたすのがそんなによろしいのですか」
「っ……! もう……!」
長谷部もまたこの状況に興奮しているのか、いつもと違う様子だ。妙に饒舌でことさらに不埒な物言いをしてくる。
「……あまり大きな声は出さないでください。隣に聞かれてしまいます」
これまでも手加減のない愛撫を施し、今も抜き差しの水音がするほどに容赦なく突き上げているくせに、嘲るように喉で笑い、あまつさえ窘めようとしてくる長谷部に、さすがの審神者も違和感を覚える。
行為のさなかの彼は感情の振り幅が大きく、いっそ高慢な振る舞いを見せることも多かったが、それを差し引いても今宵の彼はどこか様子がおかしかった。
「長谷部っ…… ならもう少し……!」
優しくしてと審神者は続けようとするが、長谷部は彼女の先を読み、彼女の言葉に被せるようにして、自らの剥き出しの感情を吐露してくる。
「……俺は聞かれても構いませんからね。むしろ聞かせて、見せつけてやりたい。あなたが俺に貫かれて感じている姿を」
「……っ!」
「俺のあなたがこんなにも可愛らしいんだって…… あいつらに知らしめてやりたい」
審神者が思っていた以上に、長谷部は情交の興奮と狂騒に毒されているようだった。不自然なほどに高揚した様子で、彼らしくないような、あるいはとても彼らしいような言葉を口にする。
そして長谷部は自らの女主人を揶揄するような、酷薄な笑みを浮かべると。
「……そうだ、今度は本丸の庭で致してみましょうか。連中に見せつけながら愛し合えば、もっと良くなれるかもしれません」
「長谷部……! ダメよ……」
情交のさなかの睦言とはいえあまりなことを言い出す彼に、さすがの審神者も動揺してしまう。審神者は長谷部をなだめようとするが、すっかり発情してしまっている彼は止まらない。
「……俺は構いませんよ。あなたがこんなにも俺で感じて、俺で満たされている姿を見れば、俺のあなたに手を出そうとする不届き者も―― ……きっと心を折られて消えてくれる」
前半はいっそ違和感を覚えるほどに威勢のよい口ぶりだった。しかし一転、後半の痛切な苦悩と悲哀に満ちた囁きに、審神者は胸の痛みを覚える。
ああ、やはり彼は、いまだ苦しみの中にいるのだ。どこまで心を捧げれば、このひとは自分からの愛を確信してくれるのだろう。
これほどまでに傷つき病んだ存在を癒し支えるというのは、彼の今代の主とはいえ、ただの人でしかない審神者にとってはあまりに重く、しかしそんな闇を抱えた彼の全てが切なく哀れで、どうしようもなく愛おしかった。
「……長谷部」
二人だけの秘め事を「見せてもいい」と口にしつつも、審神者に対して狂おしいほどの独占欲と執着を示す。らしくないなどとんでもない。やはり今の長谷部もまた、紛れもなく長谷部だった。
愛しい人を永遠に自分だけのものにしたい、その人が誰かに奪われ、自身が捨てられることに我慢がならない……。
その想いの強さ激しさたるや、むしろ普段以上にその荒々しい本性を剥き出しにしているくらいだった。
かつての主人の狼藉をその名の由来にもつ長谷部は、しばしば名前通りの容赦ない苛烈さを覗かせていた。
けれど、そんな彼を愛する審神者は、彼の荒唐無稽な戯言を脳裏にまざまざと描いてしまう。
それはどこかの土地の庭園で、見知らぬ男たちに覗き見られているのに気づきながらも、一糸まとわぬ裸の身体で長谷部と交わり愛し合うという、まさに狂気そのものの空想だ。
煌々とした月明かりのもと、無防備な裸身で同じ姿の長谷部に絡みつき、やがて名も知らぬ人々に、このような開かれた場で愛欲の営為に耽っていることに気づかれても行為をやめず、寝そべる長谷部の下腹部に跨り、脚の間の秘唇に彼の男根をあてがって、そのまま周囲に見せつけるかのように、ゆっくりと腰を落としてゆき……。
「ああ……っ!」
いけないとわかっているのに、審神者は長谷部に抱かれながらも、この狂った妄想を止めることができない。
しっかりと腰を落として長谷部の男根を根元まで咥え込んでからは、もう駄目だった。
自らの浅ましい欲望を留めることができなかった審神者はついに、長谷部と自分たちの周囲に群がる幾人もの見物客の男たちを愉しませるために、自ら腰を揺らし始める。
裸の身体を隠そうともせず、むしろ秘すべき場所の全てを周囲の人々に鑑賞されることを望むように、大胆に腰を振り豊かな乳房を揺らしながら喘ぐ彼女は、まさに熟練の娼妓のようだった。
衆目の中で愛欲の行為に溺れる彼女を取り巻いて、彼女の痴態を眺めていた観客たちは、次第にそれぞれの反応を示し始めた。
ある者は唾を呑み込み恍惚の笑みを浮かべ腰を振る彼女の浅ましい姿を食い入るように見つめ、ある者は下卑た薄笑いを浮かべながらその裸身のすみずみまで舐めるような視線を這わせ、あるものは好奇の視線を送りながらも彼女の女の本能を消費する。
そして彼女自身は、そのような周囲の男たちから注がれる欲にまみれた視線をさらなる快楽へと変えながら、ただ一人快楽の頂点を極めるべく夢中で腰を揺すっていた。
その白い喉はしっかりと反らされ、激しい振動に自在に形を変える乳房の色づいた先端は、傍目からもわかるほどに興奮に尖って自分自身を主張していた。
長谷部の男根を咥え込んでいる彼女の下の唇も、薄い下生えの隙間から幾度もその秘められた姿をのぞかせて、そのたびに彼女の痴態を鑑賞する男たちをよりいっそう沸き立たせた。
周囲から彼女に注がれる好奇の視線はいよいよ強まり、その場に居合わせた男たち全員に視姦されながら、審神者は我知らず歓喜の笑みを浮かべていた。
ああ、こんなにも多くの男たちに視線で犯されている。愛の営みに溺れる無垢な姿を鑑賞されている。
その事実がもたらす恍惚はあまりにも大きく、狂おしいほどの悦楽の奔流の中、彼女はついにたったひとり性の頂点を極めて……。
けれど、さすがにそのような行為を現実の世界で行うことなどできない。
「も、ダメよ…… そんなの……」
さすがに、いかな自分といえども。そのようなことを本当にしてしまったら、恥ずかしくて生きていけない。こうやって空想することすら、浅ましいと思うのに。
審神者のそのような胸中を知ってか知らずか、長谷部は穏やかに苦笑すると。
「……ご安心を。さすがにそのようなことは致しませんよ」
ははっ、と小さく吐息だけで笑う長谷部だが、その口ぶりに形容しがたい胡乱さを感じ取り、審神者は一抹の不安を覚える。
「連中に見せつけてやりたい気持ちもありますが、それよりも…… やはりあなたのことは、誰にも見せたくはありません」
「長谷部……」
「……野外で楽しむのは、旅先でだけにしましょう」
長谷部のその言葉にようやく安堵を得た審神者は、ついうっかりと頷いてしまい、そんな彼女に気がついた長谷部は、先ほどまでとは違う酷薄な笑みを浮かべる。
無自覚ながらも審神者は確実に逸脱しつつあった。彼女が道を踏み外し狂い始めた瞬間があったとすれば、きっとこのときからだろう。
長谷部の胸の内に、丹精込めて世話をしてきた花が咲いた瞬間の喜びにも似た感情が満ちる。この不思議な充足感はやはり何度味わっても良いもので。
今このときをともに過ごし、自分にこのような気持ちを味あわせてくれた、今の主であるこのひとのことを、自分は決して永遠に忘れることはないだろう。これから先、誰に仕えることがあっても。
刀であった自分に初めて人の身を与えてくれて、全てを捧げるようにして愛してくれた、この夏の夜空のもとで忘れられない美しくも淫らな姿を見せてくれた、愛しい女主人のことを……。
「……さて、今度は後背からいたしましょうか」
長谷部は再び審神者を促すと、彼女を抱え上げた。
***
手近な木立に手をつき腰部だけを突き出した審神者は、その無防備な下肢を長谷部に存分に愛されていた。
先ほどまではらしくないほど饒舌だった彼はもう黙り込み、審神者の腰をつかんだまま、脚の間の秘裂に差し入れた自分自身で、まるで彼女を悦楽の高みに攫おうとするかのように、ただ無言で突き上げていた。
睦言に興じていたこれまではしっかりと意識できなかったけれど、この露天風呂の庭園は思った以上に野趣あふれたもので、ともすれば本当にどこかの林の中で交接を行っているかのようだ。
長谷部との交合のさなかに景色を楽しむ余裕はないけれど、間近で聞こえるざわざわとした葉擦れの音に、無防備な裸身を撫でる心地よい夜風は、今自分たちが体を絡ませているこの場所は、まぎれもなく野外なのだと実感させてくれる。
「……ああっ!」
蜜壺の中のいっとうよい場所を長谷部の雁首にこすられて、審神者はひときわ甲高い声をあげて悦ぶ。
最初は隣室の客に声を聞かれることを不安に感じていたけれど、もはや全ての恐れや羞恥は長谷部の手により溶かされて、彼の愛撫によって思考を麻痺させられていた審神者は、今はもう自分自身の淫らな声を聞かれることくらい、些末なことのように感じていた。
そう。さなかの喘ぎを聞かれるのも、一糸まとわぬ裸身を垣間見られるのも、自らの秘唇で男の肉棒をくわえながら惚けた笑みを浮かべているこの姿を、誰ともわからぬ人々に覗き見られてしまうのも、もう構わない……。
むしろ、愛する男にこれほどまでに尽くされながら悦楽の頂点を迎えようとしている、女として最も美しく幸福な瞬間を他者の眼前で披露できることは、むしろ誇らしく喜ばしいとさえ思えるようになっていた。
審神者は、少しずつ狂い始めていた。果たしてそれは野外での交接の快楽のせいか、あるいは彼女と想い人とを照らす夏の夜の月の光のせいか。
やがて、ようやくそのときが訪れる。審神者のその場所に長谷部がひときわ強く腰を打ちつけて、白く濁った欲の全てを彼女の中に注ぎ込んだ、すぐあとに。
「あああ…………っ!」
あられもない声を上げ、審神者もまた愛欲の頂を極めてしまう。想像を絶するほどの解放感と奔放な心地よさに呑まれた彼女は、自らの身体を支えることができず、その場に倒れこみそうになってしまうが。すかさず長谷部が腕を伸ばし、無防備な裸身を抱きとめながら座り込む。
ちょうど愛しい男の腕の中に崩れ落ちるような格好となった審神者は、どこまでも甘美な交わりの余韻の中で、惚けたような笑みを浮かべると。
「……お外でするの、すごく良かった……」
無意識のうちにそう口にして、そのまま意識を手放した。そんな彼女を抱きとめたまま、長谷部は口の端を上げて笑う。今宵もまた自らの女主人の新たな勘所を見つけ、さらなる充足を与えてやれたことに、満足感を得ているのだろう。
しばしの間、長谷部は愛おしげな眼差しで、自らの腕の中で果ててしまった審神者を見おろしていたが。不意に彼は、審神者のほっそりとした白いうなじに唇を寄せた。
最初は触れるだけの優しいもの。しかし、その口づけはすぐにきつく吸い上げるようなものに変わってゆく。まるでその場所から彼女の生き血を啜っているかのような、激しい口吸いだ。
審神者のうなじに無数の紅の花弁が散らされてゆく。見える場所に痕をつけることは禁じられていたが、こらえきれなかった長谷部は、彼女が果てているのをいいことに、日頃抑えていた衝動を発散させていた。
今の彼の姿は刀剣の付喪神などではなく、さながら乙女の生き血を啜って生きる西洋の魔物のようだった。他者の血を吸い自らの眷属に仕立て上げる、闇の世界の美しき誘惑者……。それはまさに今の長谷部そのものだった。
長谷部は審神者の無防備な素肌に紅の痕を散らしながら、今宵の情交を反芻する。遮るもののない開かれた世界で本能のままに乱れる彼女は神々しいまでに美しく、今宵の交接はまるで一夜の夢のように素晴らしかった。
闇の中で白い裸身をしならせる可憐な彼女はまさに、夏の夜のたった数刻、美しい花を咲かせるという月来香のようで。
***
気がつくとすでに夜は明けていた。
「あれ、私……」
審神者は旅館の部屋に敷かれた布団の上で眠っていた。身体には夏用の薄手の布団が掛けられている。近くに置かれていた時計を見ると昼餉の時刻も迫っており、それに気がついた審神者は慌てて身体を起こし、居住まいを正す。
「――お目覚めですか」
「長谷部」
相も変わらず。情を交わした翌朝だというのに、彼には一分の隙もない。旅館の部屋に置かれていた浴衣をきっちりと着て、こちらを見つめてくる恋刀に、審神者はなぜか恨めしい心持ちになってくる。
昨晩はあんなにも自分を乱れさせておいて、今はこんなにも涼やかなすまし顔。まるで昨夜のことなんて全て忘れてしまったかのようで……。
だけど、自分は何一つ忘れてなんていない。交接の最後に甘い余韻に浸りながら、彼の腕の中で囁いてしまったあの言葉も……。
『……お外でするの、すごく良かった……』
あまりにも破廉恥な、あんなこと口に出すつもりはなかったのに。自分でも気づかないうちに、はしたない本心はその唇から滑り出ていた。
自らのあまりの浅ましさに審神者がいたたまれない思いで俯いていると、不意に長谷部が何かを差し出してきた。
「……主、こちらをどうぞ」
彼の手にあったのは、繊細な白い花の細工が飾られている高価そうな簪だった。
「……今朝、探し求めてまいりました。あなたのために」
差し上げますと続けられて、審神者は目を見開いて長谷部を見上げる。
「いいの……? こんな……」
見るからに高価な贈り物。素敵なお品で気持ちはとても嬉しいけど、なんでもない日にこのようなものを贈られる理由が分からず、審神者は戸惑いを隠せない。
「……構いません。この旅の記念です。受け取っていただけますか」
「……長谷部」
このような深い関係になるまでは、堅物で武骨なばかりの刀だと思っていたのに。けれど素顔の彼は何かにつけてこのような気遣いで彼女を喜ばせてくれる、とても優しいひとだった。
審神者は瞳を伏せて、長谷部に礼を述べる。
「……ありがとう、とても綺麗ね」
「――月来香の花簪です。月下美人とも言いますね。夏の夜に一晩だけ咲くという白い花です」
「そうなの……」
その花の名は聞いたことがあった。夏の日のたった一夜だけ、夢のように美しい白い花を咲かせるという、あの……。
可憐で儚い花姿に、えもいわれぬ馨しい芳香を持つその花は、出会うことが出来れば、生涯忘れ得ぬ思い出になるというほどの美しさだそう。
そんな神秘的な花をあしらった装身具を贈られて審神者は上機嫌だ。簪の白い花弁を見つめながら頬を淡く染めて微笑む。
「……とってもロマンチックね」
そんな彼女を眺めながら、長谷部はひとり空想に耽る。
『……ええ、昨夜のあなたがこの花のように美しかったので』
これを買い求めてきたのだと。そう口にしたら、この素直な人はどんな顔をするだろう。
『満天の星空のもと遮るもののない世界で、月の光を浴びながら、生まれたままの姿でどこまでも俺を魅了した美しいあなたは、まるであの花のようでした』と。
簪を贈られて何も知らず喜ぶ審神者を眺めながら、いつかそんな彼女を自分だけの世界に攫いたいと。長谷部は胸の内に燻るほの昏い願いを呑み込んだ。
以下あとがきです。
お疲れ様です、作者です。
一年以上ぶりの更新となりました。本当にお久しぶりです。
二次創作は2012年から続けているのですが、
ここまで長いお休みを頂いたのは初めてです……。
私生活のほうがずっと立て込んでおりまして、
改めてパソコンに向かう余力がありませんでした。
たいしてうまくもないのに無駄に頑張って張り切ってしまって
結果全く更新ができなくなるこの病気……
これまではわりとない知恵を絞って地の文を沢山書く方だったのですが
それだともう創作が続けられそうにないリアルの忙しさなので、
これからは地の文あっさり目の短いお話を書いて
無理ないペースで創作ができたらいいと思います。
作風の変更って難易度高そうなんですが、
自分なりに挑戦してみたいです……。
そして、今回の長谷部くん。
やっぱり彼は可愛いですね。
私の場合だと何度書いてもこういう系の
かわいい可哀想ヤンデレイケメンヘラになってしまいます。
そしていちいちプレイが過激っていう(笑)
自分も書いたことのないプレイやシチュに挑戦してみようと思って
テーマを設定して書いているのですが
そうするとなんかもう毎回毎回過激でクレイジーというか
一応女性向けなのでキレイなエロを目指して書いているつもりなんですが、
不快になってしまった方がもしいらっしゃったら、申し訳ありません。
しかし長谷部くん、かわいい、かっこいい、大好きだよ!!
刀剣ジャンル以外では俳優さんつながりで
薄〇鬼の土〇編のミュージカルを見て、
某主演俳優さんがヒロインの吸血をするシーンに燃えてしまったので
本作でもそういったシーンを少しですが入れてみました。
ちなみにこちらのジャンル、原作ゲームも購入しましたので、
少しずつやってみたいなと思っています。
絵も綺麗で内容も面白いらしいので、とても楽しみです。
あとは今回の作業用BGMなのですが、こちらも俳優さんつながりの
某Fな6名の方の「マジカル・ナイト・サティスファクション」(原題は英語です)
でした。こちらもとてもセクシーでドキドキする良い歌だと思いました。
少し上から目線なところがキャラらしくて、お気に入りです。
しかし長谷部くんはかわいいですね。
リアルが忙しくままならないことも多いのですが、
機会を見つけてまた創作やれたらいいなと思っておりますので、
差し支えなければコメントなど、お気軽にお寄せいただけたら幸甚です。
※ピクシブのプロフィールのリンクに個人サイトやTwitterのURLを張っており、
それぞれに匿名でコメントがおくれるツール(ウェブ拍手やマシュマロなど)
を設置しております。
それではまた。
今年もよい一年をお迎えください。