I want you ! (R18)
名前変換設定
恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
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年末年始休暇のある日の夜のことである。今日も今日とて花は年上の恋人のマンションにいた。恒例のお部屋デート、もちろん本日も泊りの予定だ。
「……先に風呂に入ってくる。お前は待っていろ」
家主の荀文若はバスタオルと着替えを手にし、花に声をかけてくる。彼らしく要件のみを手短に伝えているが、その表情は恋人らしく穏やかで優しい。
「はいっ。わかりました」
花は明るくそう答えて笑顔で彼を見送るが、すぐに表情を曇らせてため息をついた。
「……また、ひとりで行っちゃいました」
文若の風呂は地味に時間がかかる。神経が細やかな彼らしく、隅々までしっかりと身体を洗わないと気が済まないらしい。こんなところまできちんとしているのは立派だけど、その分待たされる方は少し寂しい。
それに花自身も長湯したいタイプだったから、一人ずつ入ると時間がかかって仕方がないのだ。自然と就寝時間も遅くなりがちだった。
(……文若さんと一緒にお風呂に入れたらいいのに)
効率の面からいっても、愛しい人との時間を増やしたいという意味でも、花は余計にそんなことを考える。
特に今日のような寒い冬の日は無性に人肌が恋しくなってしまう。そして、花のモットーは『思い立ったが吉日』だった。
早速、花は脱衣所で扉の向こうに声をかけていた。
「文若さん」
「――どうした」
「あの……。一緒にお風呂に入ってもいいですか?」
「……っ、なっ!! 何を言っているんだお前は!!」
予想に違わず。扉の向こうからは盛大な物音と、あからさまな動揺の気配が伝わってきた。
もうお付き合いも長くて、いろんなことを済ませていて、親公認の仲で将来の結婚の約束までしているというのに。年上の彼はなかなかどうして生真面目だった。
しかし、花はめげなかった。こんなことでめげていては、文若の恋人などやっていられない。
「だって、文若さんいつもお風呂長いですし、ひとりで待ってるのもなんだか退屈で、寂しくて……」
最後の「寂しくて」を花はあえて強調した。それらしい芝居もつけて、露骨に泣き落としを狙う。
「……っ!!」
再び、扉の向こうで文若がうろたえる気配がする。
「お、お前は……」
「駄目、ですか?」
「……っ!」
そして、盛大に息を呑む気配。「あとちょっとでいける!」花は確信した。
「文若さんっ……!」
「……っ、こ ……今回、だけだぞ」
「ありがとうございますっ!」
もっと渋られるかと思ったのに、許可はあっさりと出た。わかりやすく寂しがってみせたのが効いたのだろうか。本当はすごく優しい人だから。
小さく咳払いをして、心優しい文若は早速本件の注意事項の申し送りをしてきた。
「……入ってくるのは構わんが、必ずバスタオルを巻いてくるように。そして入浴剤を持ってこい。湯舟が乳白色になるものだ。その、目のやり場に困る、から、な……。わかったな」
「はいっ」
あからさまにしどろもどろになっている文若があまりにも愛しくて、花の口元に自然と笑みが浮かぶ。
文若相手にどうしても通したい我儘があるときは、とりあえず泣き落としをしておけばいい。恋人である自分にだけ見せてくれる文若の甘さと優しさを、花はよく知っていた。
文若のマンションのお風呂は広めだ。白を基調とした清潔感のある明るい浴室はよくある感じだけど、なんとなく家主らしい気もする。
花はすっかりご機嫌だった。なにせ、大好きな文若と一緒の初めてのお風呂なのだ。二人仲良くお湯に浸かって体も心もポカポカだった。
「文若さん、いいお湯ですね!」
「ああ、そうだな……。しかし、まさかこんなことになるとはな……」
しかし、花とは対照的に。文若は盛大に顔をしかめてこめかみに手を当てていた。あまりにもあまりな彼の様子に、花は不安になってしまう。
「やっぱり、ご迷惑でしたか……?」
「っ! ……別に、そういうわけではない。お前と一緒に風呂に入れるというのは、その…… 浴槽は狭くなるが、心が安らぐ。とても、喜ばしいと思える。……だが」
「?」
妙にもったいぶった文若のコメントに、花はきょとんとしてしまう。
日頃はあれだけ容赦なく、己の上司に対してさえズバズバ物申している彼にしては珍しい歯切れの悪さだ。
「……いや、なんでもない。こちらの話だ」
しかし、文若はそこまで口にすると、小さくため息をついてかぶりを振った。
いつもと違う彼の様子が気になった花は、文若をじっと見つめた。心なしか頬が赤いように見えるけど、今は入浴中なのだから当たり前な気もする。
けれど、不意に。再び文若が口を開いた。
「……花。お前は忘れているのかもしれないが、私も男だ。このような苦境に立たされて、全く、何も、感じずにいることは不可能だ」
己の置かれた状況を噛みしめるように、文若は固く瞳を閉じて呻吟する。
「苦境?」
花は理解が追いつかず戸惑うが、文若はさっさと会話を打ち切ると、おもむろに立ち上がった。ざぱんと湯舟が揺れる。
「……花、私はもう先に出るぞ。これ以上お前とこんなところにいれば、いよいよ妙な気を起こしてしまいかねん」
「ちょっ、ちょっと待ってください……!」
まだ一緒に入って五分も経っていない。今まさに浴槽から出ようとする文若を、花は立ち上がって引き留めようとした。けれども、勢い余って花は足を滑らせてしまう。
「――っ、きゃあっ!!」
転倒を避けたくて、反射的に。花はすぐそこにいた文若にしがみついてしまった。薄手のバスタオルを巻いただけの姿で、裸の彼に抱きつく。
花の胸の膨らみが布一枚越しに、文若の素肌に強く押しつけられる。
「……っ!!」
さすがにこれは刺激が強すぎる。文若は激しく動揺して固まった。
彼の上司ならいざ知らず、女性経験の多くない文若にとってはまさに甘い拷問だった。
風呂の湯でぐっしょりと濡れたバスタオル一枚隔てて伝わってくる、あまりにも柔らかな感触。
湯気でもうもうとしている浴室内に静寂が落ちる。
花の転倒はわざとではなく、完全なる事故だった。湯が乳白色に濁るタイプの入浴剤を入れると、浴室内が全体的に滑りやすくなる。湯にとろみがつくからだ。
しかし、完全に固まっている様子の文若とは裏腹に、花はこの甘酸っぱい状況を目いっぱい楽しんでいた。
文若の裸は男らしくてかっこいい。意外なほど広い背中はすっきりと綺麗で筋肉の固さがあって、おしりの形だって男の人らしい四角形だ。どこもかしこも丸みを帯びて柔らかな自分とは全く違う。
明かりを落とした寝室や着替えのときに目にすることもあるけど、こんなにも明るい場所でしっかりと見るのは初めてで、余計にドキドキしてしまう。
文若はむやみやたらに素肌を晒してくれるような人ではないから。いかに恋人の花であっても、こんな機会でもなければ文若の裸を堪能することなんてできない。
浴室の明るい照明は彼の身体の隅々まで照らし出す。
文若本人も好きだけど、彼の凛々しい体躯も好きだ。筋肉質で引き締まった身体は素直に憧れる。文若はすごく綺麗な人だと思う。その身体も、顔も、生き方も。
そう思ったら、素直な言葉は口をついて出ていた。
「もう少し、一緒にいたいです……」
困らせるとわかっていても、譲れない気持ちがあった。
「花、お前は…… もうどうなっても知らんぞ……!」
情欲にかすれた囁きが花の耳に届くと同時に。
「っ、文若さん……! っ……!!」
きつく抱きしめられていた。
花の身体に巻かれていたバスタオルは、文若の手で乱暴に引き剥がされて、浴室の隅に投げ捨てられていた。
花は浴室の壁に手をつかされて、後背から文若の愛撫を受ける。
「っ…… あっ…… っ……」
花の甘やかな喘ぎが浴室内に反響し、より一層大きく聞こえる。
「文、若さ…… ん……」
呼びかけに返事はない。
文若は花のうなじに顔を埋め、その柔らかな身体を貪るように味わっていた。左手ひとつで花の両胸を強く揉みしだきながら、残る右の手を容赦なく花の下肢に伸ばす。
「っ、そんなとこ、だめです……!」
「――この期に及んで、いやはなしだ。……もうどうなっても知らんと言っただろう。男を煽った、お前が悪い」
『私を煽った』ではなく『男を煽った』という文若の物言いに彼の意図を察して、花の頬にさっと朱が走る。しかし、同時に彼女の身体の内側はとろりと甘く潤った。
文若はずるい。こんな形で性別を意識させられたら、どうしようもなくなってしまう。
そうこうしているうちに、花の脚の間の下生えが文若の指先で優しく擽られ、秘められた入り口の潤いを確かめられる。
そして、すぐに。何本もの文若の指が、花のその場所に容赦なく入り込んできた。
「っ…… ああっ……!!」
これまでの力強い愛撫と責めできちんと潤っていたとはいえ、己の肉体の最も柔らかな場所をひと息に押し広げられて、花は甘やかな悲鳴を上げて無防備な裸身をのけぞらせる。
一足飛びにその場所に訪れた重い圧迫感。こんなことをされてはもうたまらない。まだ始まったばかりだというのに、自分ひとりだけ悦楽の頂点を極めてしまいそうだ。こんなの、まるで。
(……お仕置き、されてるみたい)
花の目尻に生理的な涙が浮かぶ。
甘やかで苦しげな喘ぎや呼吸音が浴室内で反響して、エコーのように響いていた。耳慣れた自分の声のはずなのに、あまりの淫らさに眩暈がする。
愛の営みに勤しんでいるときの自分の声は、なんだか自分じゃないみたいだ。とってもいやらしくてかわいくて、誰より恋に積極的な、知らない女の子。
(……っ!)
花は文若に自分自身の裂け目の内側を蹂躙されながらも、瞳を閉じてその快楽に浸った。
彼の肉の楔をその場所に穿たれたかのような強い圧迫感も、すでにじんわりとした心地よさへと変化していた。
花がどうされれば喜ぶかくらいとっくに知り抜いている。
文若の指は的確に花の感じてしまう場所ばかりを擦り上げながら、彼女の小さな裂け目の中を大きく柔らかく押し広げてゆく。
けれど、あまりに早い展開に花の心は追いつかない。
「っ、やっぱり…… だめです…… 文若さん……」
だけど、いくら口ではそう言っても。身体の方は情けないほど快楽に素直で、正確で容赦のない文若の愛撫に、花の全身から力が抜けていく。
やっぱり抵抗なんてできない。文若のことが好きだから、彼の愛に身体の全てを預けたくなってしまう。たとえそれが、自分では受け止めきれないほどの、激しく狂おしい熱情だったとしても。
高温多湿の浴室内での立ったままの行為は、思った以上に体力を消耗する。
文若の愛撫は相変わらずペース配分なんて全く考えていないかのような、手加減のなさで、花は気を抜けば今この瞬間にも、この場に崩れ落ちてしまいそうだった。
しかし、今の文若に日頃の優しさなどない。
「――誘ってきたのはお前の方だろう。この程度でへばられても困る。私が身体を支えてやるから、最後まできちんと相手をしろ」
「っ……!」
恋人同士の愛の営みにまで、まるで仕事のような厳しさと責任を求められて、花は別の意味で倒れそうになってしまう。
こんなの思ってたのと違う。本当は、ただほんの少しイチャイチャして、ふたりでゆっくりしたかっただけなのに。
けれど、あまりにも素直な花の胸は甘美な期待に高鳴っていた。いつもと違う文若に、今夜はどんなことをしてもらえるんだろう。
ようやく花の脚の間から指を抜くと、文若はその逞しい両腕で今にもへたりこみそうになっている花を抱え上げるようにして無理やり立たせた。
「浴室の壁に上体をもたれさせて、腰を少し突き出せ。その姿勢なら立っていられるはずだ」
「……っ!」
言うが早いか、文若は花の上体を壁に押し付けて細い腰を掴んで引き上げて、花を強引にその体位にしてしまった。
「っ、あああっ……! 文若さんっ……!」
今夜の文若はやはり性急だ。いつもはもっと時間をかけて、宝物を扱うみたいにしてくれるのに。
「――声を抑えろ、ここは響く。私の名前も、今は呼ぶな」
欲情に掠れた囁き声で淡々と命じられて。しかし逆に、花は自分のその場所を濡らしてしまう。いつもの文若らしからぬ余裕のなさと、高圧的な男らしさ。
無理やりじみた雑な行為が、男の人にそうに扱われるのが、好きなわけじゃないけれど。普段とはまるで違う文若にたまらない色気を感じて、花は眩暈を覚えてしまう。
なんとなく、出会ったばかりの頃を思い出してしまう。あの頃の文若はいつもピリピリしていて、辛辣で容赦がなかった。
文若の持つ二面性。恋仲になってからの優しさと、出会ったばかりの頃の神経質さ。主君に仕える王佐としての彼と、部下たちを厳しく叱責する上役としての彼の姿。
そう、文若もまた。他人を使役する側の人間なのだ。誰かにただ使われるだけの人ではない。そんな彼だからこそ、今の花に対する居丈高な態度も違和感なく馴染んでしまう。
「……っ!」
花はぎゅっと瞳を閉じて口を噤んだ。文若の言う通り、浴室内は声がこもってよく響く。天井の換気扇だってきっと外に繋がっている。
行為のさなかの、彼の名前を呼びながら喘ぐ淫らな声を、文若のご近所の皆さんに聞かせるわけにはいかないのだ。花は文若の言いつけ通り、懸命に声を殺そうとした。
「……ああ、それでいい」
自分の背後で文若が柔らかく微笑んだ気配がして、花はますます甘やかに追い詰められる。この人に褒められるのは、すごくすごく嬉しい。それがたとえ愛の行為のさなかであっても。
もし今、自分が犬だったら。嬉しさのあまり尻尾をぶんぶんと振っていたに違いない。
浴室内というシチュエーションのせいか、今日の文若はらしくないほどに色っぽかった。
先ほど二人で湯舟に浸かっていたときも、洗いたての濡れ髪は毛先がへたっていつもより艶やかに、少しだけ長く見えた。
いつもよりずっと幼く無防備に見えた彼を焚きつけて、引き金を引いたのは自分の方だ。
後ろを振り向かずともわかる。今の文若は、きっと誰より男らしい。瞳の奥に燻るぎらついた熱は、まぎれもなく恋した女性に不埒な願いを抱いている男の人のものだ。
「……今日は、つけていないから挿入はしない。安心していろ」
周到な彼にそんな話までされて、花はますますどうしていいかわからなくなる。今までが事務的に命じられるばかりだったから余計に、突然の甘さに振り回されてしまう。
花の脚の間の肉の花弁が、文若の手によってぐっと限界まで広げられ、彼の屹立の竿の部分が強く押しつけられる。
文若は花に、そのまましっかりと股を閉じて自分のものを挟み込むように指示をした。
「……っ」
今までの人生でこんなことをしたことなんて一度もない。花は戸惑うが、その一方で身の内には淫らな期待が甘く広がる。女の子にだってそういう欲求はあるのだ。口には出せない浅ましい好奇心。
花の裂け目に密着しているのは文若の先端ではなく竿の部分だから、このまま動いても挿入にはならない。前後に擦れ合うだけだ。
そのまま文若は花の花弁を広げていた指を離して浴室の壁に手をつくと、もう片方の手で自身の竿の下部をぐっと押し上げるように支えて、花の裂け目の中央から自分のものが離れないようにした。
「……動かすぞ」
まるで待ちかねたような熱を帯びた囁きに、花は小さな頷きを返す。
「……んっ ……つっ!」
入れていないのに、まるで入れているみたいだ。
しっかりと股を閉じていないといけないのが少し大変だけど、だからこそ不思議なもどかしさと心地よさがある。
入れて欲しいのに入れてもらえない、まるで『お預け』をされているようだ。
文若が腰を前後に動かすたびに、彼の屹立の先端が花の一番感じてしまう肉芽に当たり、花は甘やかに喘いで自分自身の内側を濡らす。
花の蜜はやがて重力に従って小さな裂け目からじわじわと染み出て、ぴったりと押しつけられている文若の屹立に纏わりついて、彼の滑りをよくしていく。
女性の体液が律動の潤滑油になる点は、普通の抜き差しと変わらない。
今回の行為は文若が全てをリードしていた。
充血しきって反り返った避妊具をつけていない自身の屹立が、花の中に入ってしまわないようにしっかりと手で押さえながら、腰を前後に動かして快楽を得ている。
花はといえば、ただ両手を浴室の壁について、股を閉じて腰を突き出しているだけだ。
逆に言えば、文若がほんの少しその手を滑らせてしまえば。避妊具をつけていない彼の屹立は、花のしっかりと濡れた裂け目に、いともたやすく入り込んでしまうだろう。
「……っ!」
規則正しい律動による心地よい刺激を文若の手によって与えられながらも、生身のままの文若のものでついうっかり貫かれてしまう、そんな事故を花は空想してしまう。
あまりにも淫らで危うい、しかしそれは現実に起こりうる刺激的な事案で、花のその場所からは甘やかな蜜がさらに溢れ出してしまう。
(……もし、入っちゃったら、どうなっちゃうんだろう)
疑似挿入による刺激でたまらない気持ちになっていた花は無意識に、さらなる快楽を求めて腰を動かしてしまう。
生身のままの彼の屹立が自分の中に入り込んでくるように、自分から腰の角度を……。
「ッ、花っ、勝手に動くな……!」
「――あああっ!!」
ずぷりっ。あまりにも卑猥な水音とともに、ついに生身のままの文若の屹立が花に挿入されてしまった。
これまでも激しい前後運動を続けていた。文若の肉の楔は花の濡れた裂け目の最奥まで、ひと息に達してしまう。
日頃の行為では明かりを落とした寝室で、避妊具をつけた彼のものを少しずつ優しく受け入れていたのに。
今回は違う。明るい浴室で、避妊具をつけていない彼のもので勢いよく貫かれてしまったのだ。
「っ……! ああっ……! っ……!」
声を殺すことも忘れて、花はひときわ大きく喘いで裸の身体をのけぞらせた。
本能が求め続けていたものをようやく与えられて、花の目尻に生理的な涙が浮かぶ。
花自身の濡れた粘膜もまた、根元まで呑み込んでいる文若の屹立を、もう離したくないとばかりにきゅっと締め上げた。
「すごく…… 気持ちいいですっ…… 文若さんっ……」
花は懸命に顔を横に向けて、背後の文若に心地よさを訴えた。彼の剥き出しの愛情によって良くなっている自分の姿を見て欲しい。
そして、自分の裂け目に生身の楔を挿入して快楽を得ているであろう文若の姿も、見てみたかった。
生真面目な彼が、浅ましい本能に振り回されている姿を。獣のような剥き出しの衝動に突き動かされている、ひとりの男の人としてのありのままの姿を。この目で見てみたかったのだ。
「――ったく、お前は……!」
動揺に瞳を揺らして、彼女を叱りつけながらも。文若は己の屹立を抜こうとはしなかった。
よほど名残惜しいのか。花を無防備な裸身をきつく抱きしめながら、文若は深く息をつく。心地よさを嚙みしめるかのように、あるいは強すぎる快楽を逃がすかのように。
「っ……! くっ……」
避妊具をつけない生身のままの挿入の心地よさを、より強く味わえるのは男の方だ。それはいかに文若といえども例外ではない。
ラテックスの皮膜越しではない生身のままの、愛しい女性の粘膜の温もりを、文若は衝動的に追い求めたくなってしまう。
けれど、そんなことは許されないのだ。たとえ花が許しても、文若自身がそのような己を許せない。
強すぎる快楽に理性を焼き切りそうになりながらも、文若は花の体内から己自身を引き抜いた。
「……くっ ……っ、は」
切なげに眉を寄せ苦悶の息をつくと、文若は小さく呻いて乱れた呼吸を整える。
ただ差し入れているだけで、動いてなどいなかったのに。彼女の中に出してしまいそうになったのだ。避妊具をつけずにそんなことをしてしまったら、取り返しがつかない。
「っ、勝手に腰を動かすな。中に入ってしまうだろ、う……」
もう入ってしまったから、完全なる後の祭りだ。
けれど、今更のように注意をして。文若は自身を落ち着かせるように眉間に手を当て、瞳を伏せて再び呻いた。
「すみ…… ません……」
生でしても外に出せば平気、なんて言う人もいるけど。文若はそんな行為は許さない。たとえ花が求めたとしても、きっと許容してくれない。それを知っている花は、文若に何も求めない。
「……続きをするぞ」
「っ、はい……」
再び、文若は自身の竿の部分を花の秘部に押し当てたが。
「――っ! だから勝手に腰の角度を変えるなと……!」
「っ、だって……」
「だって、ではない……!」
これで二度目だ。あまりにもあっさりと、花の裂け目は文若の生身の楔を吞み込んでしまった。
一度目の挿入で花の蜜が文若の屹立の全体にまとわりついて、滑りが格段に良くなってしまったから、という理由もあったが。
主な原因は花だった。腰の角度を一定に保てずに、つい動かしてしまう。
「――っ!」
あまりにも危険すぎる。花の中に出してしまうことを恐れて、文若はすぐさま彼女の体内から自身の屹立を引き抜くが。
「っ、あああっ……!!」
あまりにも勢いよく引き抜いたせいで、花に予想だにしない強い快楽を与えてしまい、ますます彼女を昂らせて、追い詰めてしまう。
極限まで充血し、質量をいや増した文若の肉の楔の張り出した傘の部分が、花の隘路の粘膜を削り取るかのように引き抜かれ、彼女の蜜をひと息に掻き出したのだ。
上背もあり体格にも恵まれている文若のものは、華奢な花にとっては元々手に余るところがあった。
そんな彼のもので急にそんなことをされてしまえば、耐えきれるはずもない。今度こそ花の身体から力が抜け、華奢な裸体が大きく傾ぐ。
文若は慌てて彼女を支えようとするが、巻き込まれるようにして体勢を崩してしまった。
ひときわ大きな水音が浴室内に生々しく響くが、そのような状況にあっても文若は花を厳しく叱責する。
「っ、だから、声を抑えろと……!」
「ム、リですっ……」
完全にコントロールを失っている。強すぎる刺激と快楽に振り回されているのは、お互い様だった。花は息も絶え絶えに、文若に訴えた。
「気持ちよくて…… 立てなく…… ああっ……!!」
「っ! 花っ……!」
不安定な姿勢の花は、なし崩しに三度目の挿入を許してしまう。
文若に身体を支えられながら無理な姿勢を取らされて、生身の彼自身で己の秘部を貫かれるのが心地よくてたまらない。いけないとわかっているのに求めてしまう。しかし。
文若の逞しい腕に抱かれながら、花は心の内でつぶやいた。
(いま、入っちゃったのは…… 文若さん、が……)
今まさに行われている三度目の挿入は、なんとなくだけど文若のせいだと思う。
身体に力が入らなくて何の抵抗もできない自分に、避妊具をつけていない彼自身を事故を装って挿入してきたのは……。
「……このままでは、埒が明かんな」
剥き出しの本能で繋がり合ったまま、花を抱きしめて。文若は淡く苦笑した。
ようやく生身での挿入に慣れたのか、今の文若は不思議なほど落ち着いているように見える。先ほどまでの厳しさはようやく鳴りを潜めて、彼本来の優しさがわずかに顔をのぞかせていた。
先ほどまでとは大違いだ。さっきまでは、男の人というよりは雄の獣のような、余裕のなさだったのに。
避妊具をつけないままでの挿入という危険なことをされているはずなのに、花の心に温かなものが広がった。大好きな文若とずっとこうしていたい。
しかし、その願いは叶わなかった。
「……取ってくるから待っていろ」
しばしの間の静かな抱擁のあと。結局、文若は花を置き去りにしてそれを取りに行ってしまった。
あまりにもトラブル続きだった激しい愛の行為からようやく解放された花は、その場にひとりで座り込んでいた。といっても浴槽内だから、風呂の湯に自分ひとりで浸かる形になる。
自分が湯舟に浸かったばかりの頃は、それなりに温かかったのに。お湯はすっかりぬるくなっていた。不意に蛇口から雫が滴り落ちて、ちゃぽんという水音がした。
「……っ」
つい先ほどまで、あれほど激しく愛されて興奮させられた身体を急に投げ出されて、花はもどかしい気持ちに囚われる。脚の間がむずむずして、どうしてもその場所に触れたくなってしまう。
まだ、疑似挿入と挿入の感触は、花の体内にありありと残っていた。行為の最中にこんな形でいきなり中断されて放置されたことなんてなかったから、おかしな興奮を覚えてしまう。
ただ文若を待っているだけなのに、余計に昂ってしまう。この昂ぶりは、自分ひとりでは決して解決できない。早く彼が欲しい、彼自身のものが。
すると、誰かがバタバタと走ってきた気配がして、脱衣所に影が差した。文若が戻ってきたのだ。いささか乱暴に浴室の扉が開けられる。
「――持ってきたぞ、花」
「も、早くしてください……」
「……わかっている」
おおよそ自分たちらしくない、浅ましいやり取りだけど少しも気にならなかった。お互いがお互いをこれ以上ないほどに求め合っていると、本能で確信していたから。
文若は持ってきたばかりのそれを手早く開封し、装着すると。
「――入れるぞ」
「っ、ああっ……!!」
浴室内にもう何度目かの嬌声が響く。ようやく、ちゃんと入れてもらえた。はしたない喘ぎをこらえようとしても、あまりのよさに我慢しきれない。
今度の挿入は避妊具をつけているから、このまま動いてもらえるはずだ。
「文若さん……っ このまま……」
「……ああ、もちろんだ」
今回も後背からの挿入だった。立ち上がって浴室の壁に両手をついて腰だけを軽く突き出して、花は文若の屹立を受け止めていた。
浴室内は明るい。こんなにも明るい場所で、大好きな文若と最後までできるのかと思うと、花はどうしようもなく昂ってしまう。
恥ずかしい姿をもっと見て欲しくて、花は自分から見せつけるかのように腰を反らした。文若もまたそれに応えるかのように、花の身体をしっかりと支える。
「……っあ ……あっ ……つっ!」
花にとっても、待ちに待った突き上げだった。彼の肉の楔を自分の中に勢いよく入れられて、ひと息に抜かれる。その繰り返しが、信じられないくらい心地いい。
浴槽に張られている湯が、主に文若の身体の動きに合わせて、ばしゃばしゃと音を立てる。
内蔵を突かれる圧迫感と苦しさが、あっという間にぞくぞくとした快楽に変化して、花は息を殺して浴室の壁に爪を立てた。
自分だけに捧げられている彼の激しい律動を、深い愛と狂おしい情熱を。もっと味わっていたい。この身に与えられる悦楽を、もっと貪っていたい。
「っあ…… もっとぉ……」
それらしくねだったら、文若が上体を倒して後ろから抱きしめてくれた。
文若は片腕を花の下腹部に巻きつけて彼女の身体を支えながらも、もう片方の手のひらで彼女の胸を強く掴んできた。
「っ……!」
花の胸の突端がさらなる愛撫を求めてぷっくりと立ち上がり、その存在を主張し始める。すると、文若がその場所を刺激し始めた。
「……っ、……文若さん」
「――大人しくしていろ」
「っ……!」
甘くすがるように名前を呼んだのに、威圧的に返されてしまった。文若も余裕がないのだろうか。今の自分と同じように。
けれど、マンションのお風呂場の換気扇がどこに繋がっているかなんて、わからないから。花は声を押し殺して、大人しく文若の愛撫を受けた。
周りに気づかれないように声を我慢しながら、ベッド以外の場所で、明かりをつけたまま立ってしているなんて。
まるで本当にいけないことをしているみたいだ。高圧的な文若の様子も背徳感に拍車をかけていた。
大好きな文若にあんなふうに命令されたら、それだけで。浅ましい自分の身体はより昂ってしまう。体の全てが溶けてなくなってしまいそうだ。
(……こんなの、初めてだよ)
彼の大きな手が自分の裸の胸を掴んでいるところだって、こんなにはっきりと目にしたのは初めてだった。
いつもされていることなのに、明るい中で見るとすごくいやらしくて。今まさに他でもない自分自身が文若にされていることなのに、不思議な非現実感を覚えてしまう。
まるで主観視点の『そういう動画』を鑑賞しているかのような当事者意識のなさだ。
そして特に意味もなく完全なる傍観者の視点で、さらなる刺激と過激さを追い求めたくなる。もっとその先に行きたい。その先を知りたい。
愛しい彼に蹂躙されながら、悦楽の頂点まで駆け上がりたい。
いつしか、文若の突き上げは限界までその速さを増していた。そして、ついに。
「……っ ……くっ」
秘めやかな呻きとともに、文若は花の中で己の欲望の全てを吐き出した。限界まで固さを増した彼の屹立がどくどくと脈打つ感触を、花は自身の体内で感じ取る。
やっと終わったのだと思った瞬間。文若の両腕に不意に力が込められて、花はきつく抱きしめられた。自然な流れで唇を重ねられる。
まだ、文若の屹立は抜かれていない。ふたり繋がり合ったまま。
愛の営みの最後に、射精し終えた文若に抱きしめられながら唇を重ねられるこの瞬間が、花は特別好きだった。
まだ、固さを残した彼の楔で貫かれながら、花はこれ以上ないほどの満ち足りた幸福の余韻を噛みしめる。
***
「――ったく、お前という奴は……!!」
「――すみませんでした」
場所を移してここは寝室だ。早速、花は正気を取り戻した文若に叱られていた。
しかし、今回の件は文若の側にもやましいことが大いにあるようで、叱り方も手ぬるいものだった。自分を棚に上げて花だけを責めるような彼ではない。
「こういった事故を防ぎたかったから、お前と一緒の入浴をこれまでずっと避けてきたのだ。それなのに……!」
「そうだったんですねぇ……」
しみじみと心の底から納得したような花に後ろめたさを刺激されたのか、文若は頬を染めて咳払いをする。
「っ! 花、とにかくお前はだな……!」
文若は改めて彼女に向き直った。
「……先ほども言ったが、あまり男を煽るものではない。今の私が何を口にしても説得力はないだろうが、私はこれでもお前のことを、何より大切にしたいと思っているのだ。お前を身体と心を、傷つけたくはない」
「文若さん」
「今さら慎みがどうのと言うつもりはないが、お前があまりに伸びやかだと私は自信がなくなってしまう」
生真面目な文若にここまで言われてしまって。さすがに花は反省する。
心優しい文若に、なんてことをさせてしまったんだろう。ようやく自分がしてしまったことの罪深さを自覚して、花はうつむいた。
「…………」
しかし。神妙な様子で視線を落とす彼女を目にして、文若は淡く苦笑した。
「……わかったならもういい。お前は風邪をひかないように暖かくしていろ」
付き合ってから文若は優しくなった。出会ったばかりの頃と比べたら考えられない変化だ。けれど、それが嬉しくて愛おしい。
彼の優しさで元気を取り戻した花は顔を上げて「はい」と小さく返事をした。
***
その数日後。年末年始休暇中にも、己の職場の同僚や上司と過ごすことはある。
移動中のハイヤーの中。文若は助手席で仕事用のスマホをスワイプしながら、自分たちの今後の予定を確認していた。
車窓の外には美しく輝く繁華街のイルミネーション。まだ日が落ちたばかりで少し渋滞している、今は信号待ちだ。
運転席には文若の同僚である夏侯元譲、そして後部座席には。
「――この時期はやっぱり混むよなぁ。はぁーあ、俺もかわいい花ちゃんと二人でイルミネーションを見に行きたいもんだよ。寒いからって恋人繋ぎした手をコートのポケットに入れて、くっついて歩きたいよなぁ」
「――孟徳!」
早速、運転席から叱咤の声が飛ぶ。しかし、部下からの注意などどこ吹く風で、孟徳と呼ばれた彼は話を続ける。
「腰を抱くのもいいが、あの子くらいならやっぱり手を繋ぐのが一番良さそうだよな。なんか馴染むというか」
ミラー越しに、自分の左手を愛おしげに見つめている己の上長の姿を見つけて、文若の眉間にわずかに皺が寄る。この言動はさすがに看過できなかった。
『恋人を想うような瞳で、私の花の話題をしないで頂けますか』
よほどそう言ってやりたかったが、その後巻き起こる事態を憂慮し文若は無言を保った。
曹孟徳と夏侯元譲。文若の職場の上司と同僚だ。この二人だけは文若と花が現在交際中なのを知っている。
そして、孟徳はといえば。ことあるごとに文若をからかって遊んでいるのだ。ここで反応を返したら余計にオモチャにされるだけだと知っている文若は、ひたすら孟徳の放言に耐える。
しかし、文若から思うような反応が返ってこずに退屈したのか、孟徳はさらなるイジりを加えてきた。
日本を代表する巨大企業の常務取締役を務める孟徳の生き甲斐は、文若をからかうことだった。なんとしてでもこの生真面目な部下から面白い反応を引き出したい。
「――おい、黙ってないで何か言えよ、文若。お前、この休暇中ももちろんかわいい花ちゃんと一緒に過ごしてるんだろうな?」
さすがにここまで煽られれば返事をせざるを得ない。文若は平静を装いながらも無難な返しをする。
「……まぁ、多少は時間を作っていますが」
これは嘘だ。本当は休みの間中べったりで、寸暇を惜しんでイチャイチャしていた。
避妊具だって買い置きだけでは足りなくて、慌てて買いに走ったくらいだ。まさか自分の人生でそんなことが起きるとは夢にも思わず。
しかし、文若はそのようなことはおくびにも出さない。
けれど、文若のバレバレの嘘としれっとした顔をなんとしてでも崩したい孟徳は、攻め手をゆるめなかった。
「――寒くなってきたし泊まりの温泉旅行もいいんじゃないか? 近場でいいとこがあるから手配してやるよ、花ちゃんと一緒にゆっくり風呂にでも……」
風呂。盛大にやらかしたアレコレを思い出し、文若の瞳がわずかに見開かれる。
けれど、幸いなことに助手席と後部座席で離れているせいか、孟徳は文若の異変に気づかない。文若は心の内で密かに安堵する。
するとタイミングを計ったように元譲が話に割り込んできた。
「――孟徳、それよりもこれから先のことを考えてくれ。終わらせなければならない仕事はまだある。お前の判断待ちだ」
「……わかってる。わざわざお前に指図されずとも、やるべきことは期日までに終らせるさ」
楽しい話を無理やり打ち切られて、孟徳はややふてくされ気味だ。
しかし、文若は元譲の助け舟に心の内で感謝した。きっとお互いに自分を曲げられない二人が喧嘩にならないように、仲裁してくれたのだろう。
年が明けても、いつもと変わらない日々。文若もまたかわいらしい恋人の姿を心の奥にしまい込み、意識を仕事モードに切り替える。
■番外編
(2600文字、文若✕花、イルミネーションデート、参考は渋○の青の○窟です)
寒い冬の夜。花はカフェで温かな飲み物を買い、ザワザワと賑やかな繁華街の街角でひとり恋人の文若を待っていた。
ここはお仕事ではなく遊びに来る人の方が多い街だから、目の前を通り過ぎていくのはカップルが多い。その上、今は年末年始のホリデーシーズン。
「……あっれー? キミ、こんなところでどうしたの?」
「っ、師匠?」
出し抜けに、花に声をかけてきたのは諸葛孔明だった。今は離れてしまったけれど、中高時代の花の先輩だった人だ。
「久しぶりだね。こんな時間にこんな場所にいるってことは…… もしかして、デート?」
「っ、まぁ…… そんなところです」
かつての先輩は、相変わらず容赦がない。『そうなんです!』と答える勇気もなかった花がしどろもどろになっていると、孔明はさらに距離を詰めてきた。
「否定しないんだぁ、そっかぁ……。あ、それスターコーヒーの新作だよね。うらやましいなぁ、一口ちょうだい」
「えっ……!?」
花が返事をする間もなく、孔明は花の手からさっとドリンクを取り上げるとゴクゴクと飲み始めた。
「あっ、ちょっと師匠! 何するんですか!」
せっかくのスターコーヒーを横取りされてはたまらない。花は孔明に抗議するが、孔明の一口はなかなか大きくドリンクも返してもらえない。
「師匠っ! 飲み過ぎですよっ……! 返してください……!」
「ごめんごめん、つい美味しくてさ……。お詫びに何か買ってあげるよ、花。欲しいものはある?」
「欲しいものなんてないです! それより師匠、ドリンクを……!」
花と孔明が揉めていると、ようやく花の待ち合わせ相手が現れた。
「――花。天下の往来で、先程から何をしているのだ……」
「文若さん」
「あっ、文若殿」
「待たせてすまなかったな。……しかし孔明殿。私の花に、何か御用でしょうか」
別に怒っているわけではない。しかし絶妙な不機嫌をにじませながら、文若は孔明に向き直った。
眉間には彼らしい深い皺が刻まれており、孔明へ向ける視線もきつい。
「……別に用なんてありませんよ。久々に会った不肖の弟子と親睦を深めていただけで」
「……そうでしたか」
飄々とした孔明に文若は苛立った様子で淡々と答えると、改めて彼に釘を差した。
「……彼女のドリンクの返却は不要です。貴殿に差し上げます。花には私が新しいものを購入して渡しますので、お気遣いも不要です。――では失礼。……行くぞ、花」
文若は花の手を取ると、さっさとその場をあとにする。
「え……? すみません、師匠。また今度……」
花もまた文若に引きずられるようにして、その場を辞去した。
華やぐ街を花と手を繋いで歩きながら、しかし文若は悶々としていた。もちろん先程の一件のせいである。
『花、お前は……! 間接キスだろう、一体何を考えているのだ……! まさか他の男とも日頃からあのようなやりとりをしているのか……!?』
文若にしてみれば、他の男との恋人然としたじゃれあいを見せつけられたも同然なのだ。平静ではいられない。
けれど、このような文句を素直に口に出せる文若ではない。男の嫉妬なんて器が小さい。たとえ花が嬉しいと口にしようとも、文若自身がそのような己を許せなかった。
しかし、芽生えてしまった感情を押し殺すことはできずに、文若はつい筋の通らない小言を口にしてしまう。
「……花。お前はもう少し振る舞いに気をつけてくれ。お前があのように無防備では、私はおちおち待ち合わせもできん」
「……文若さん?」
しかし、やはり無邪気な花は理解できないようだ。文若は小さくため息をつくと、わざとらしく咳払いをした。
「……孔明殿と、いささか距離が近すぎるのではないか? 私は、お前が他の男とあのように戯れている姿は、あまり見たくはない」
「えっ……?」
「……お前は、私の婚約者なのだろう?」
ここまで口にして、文若は己の頬に熱が集まるのを感じた。なかなかに気恥ずかしかったが、言わずにおれなかったのだ。
「っ……。すみません、文若さん……。これからは気をつけますね……」
花もまた頬を染め、照れた様子で答えてくれた。この素直さ、真っ直ぐさを愛している。ずっと昔から。
「ああ、そうしてくれ。……あまり私を心配させるな」
「はい……」
「……わかったならいい」
そう口にして、おもむろに。文若は花と繋いでいる自分の手をコートのポケットに押し込んだ。孟徳が口にしていた、意中の女性を喜ばせて距離を縮めるテクニック。
「文若さん……」
「……夜は寒いからな。こうしておけば温かいだろう」
「はい……」
幸いにも付け焼き刃の技術は奏功し、花は嬉しそうに微笑んだ。そんな彼女に文若の表情も緩む。
自然な成り行きで二人の距離が縮まり、文若と花はぴったりと寄り添って歩く形になる。
ご機嫌の花が白い息を吐きながら自分から身体をくっつけてきて、文若は無意識のうちに冬の寒さに感謝していた。
繁華街をしばらく歩いて、ようやく今日のデートのお目当てのイルミネーションが見えてきた。
駅から少し歩いたところのケヤキ並木だ。あたり一面が青く輝き、人だかりができている。
ここだけがまるで異世界のようだった。
ホリデーシーズンの夜に相応しい幻想的な光景は、いかにも話題のデートスポットといった様子だ。この場所だけが光り輝く青の世界。
「……きれいですね、文若さん」
「ああ、そうだな……」
「私、こんなに綺麗なイルミネーション初めてみました。連れてきてくださって、ありがとうございます」
「……お前が気に入ったならよかった。もう少しそのあたりを歩いてみよう」
「はいっ!」
元々、イルミネーションデートは孟徳の世間話がきっかけだった。自分が思いついたわけではない。
しかし、そのことは伏せたまま、文若は無難な返事をして、花と二人で青く輝く世界を散策する。
冬の夜は肌を刺すような寒さだけど、空気が澄んでいてとても綺麗だ。イルミネーションの輝きも、より美しく感じられる。
これまで自分はこのようなものに興味を持てず、全てを無駄だと切り捨てていた。
けれど、花と二人で華やいだ街を歩くと、こういったものも何か大切なもののように思えてくる。
きっかけをくれた孟徳に対しても、なんとなくの謝意がわいてきた。素直に感謝したくはないけど、感謝せざるをえない。やはり尊敬すべき上司なのだ。
「……花、風が出てきたが寒くはないか?」
「え……?」
「冷えないように、これでも使っていろ」
文若は鞄の中から大判のストールを取り出すと花にぐるりと巻いてやった。
そして、先ほど口にした約束通り二人分のホットドリンクを買い求め、そのうちひとつを花に渡した。
「……ありがとうございます、文若さん」
文若のストールをぐるぐるに巻き、文若が買ってやったドリンクを持ってニコニコとする花は、いつも以上に可愛らしくて、文若の心の中に温かな灯がともる。
「……いや、構わない。もうしばらく、この景色を眺めていようか」
文若は花に寄り添い青い輝きを見上げる。来年もまた、こうした穏やかな時間が過ごせるように、心の内で願いながら。
End
次Pあとがきあります