現パロ文花
名前変換設定
恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
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ある秋の日。
「あっ、文若さん! 今度のハロウィンパーティーでこれ着ようと思うんですけど、どうですか?」
だしぬけに笑顔の名前が声をかけてきて、文若にスマホの画面を見せてくる。表示されていたのは露出度の高い小悪魔セクシーコスプレで、文若は盛大に固まった。
「っ、名前、お前……!」
「冗談ですよ、こんなの外で着れるわけないじゃないですか。友達はこれ着て遊びに行くって言ってますけど、私は無理です」
「そうか、お前が着ないのならよ…… おい待て、お前の友人の倫理観はどうなっているんだ! おいっ名前!」
下着同然の過激な衣装で一体どこに出かけるつもりでいるのか。そして、名前はなぜそのような友人と付き合いがあるのか。
近頃の若い女子は慎みというものがない。あのような破廉恥な衣装などけしからん。ありえない……。ありえない……。
その翌日。
「おい文若! もうすぐハロウィンだが、お前はもちろんあの子の仮装は用意したんだろうな?」
「……は?」
「は? じゃないだろ! 何よりも大切なことじゃないか!」
ここは孟徳と文若しかいないオフィスの役員室。勤務時間中であるにも関わらず、孟徳はとても楽しそうだ。
「ハロウィンといえば、セクシーな衣装でホームパーティー! これで決まりだろ!」
なぜ家なのか。それは好きなタイミングでベッドになだれ込めるからだ。それ以外の理由はない。
色好みの孟徳にとって、季節のイベントなどその程度の意味しかなかった。好きな子と楽しい時間を過ごすための口実。
「バニーガールにチャイナドレス、ミニスカポリスも捨てがたいよな! ところでお前は何にするんだよ。彼女に何を着せるつもりなんだ?」
セクシーなのとキュートなの。孟徳はセクシー派だった。バニーガールに酒を注がれ、チャイナドレスの美女を侍らせ、ミニスカポリスに逮捕されたい人生だった。
しかし。孟徳相手にそんな話をしたくなかった文若は、彼に突っ込みを入れる。
「おそれながら常務。今は業務時間内であり、ハロウィンの仮装も本来は魔除けのために自分たちが魔物に扮するものです。それ以外は……」
文若の言う通り。もともとハロウィンは秋の収穫を祝い、悪霊を追い払う宗教的な行事だった。なので、お化け以外の……例えばミニスカポリスやバニーガールといった仮装は、本来は無関係だ。
けれど。ハロウィンの由来になど毛ほども興味のない孟徳は、面倒くさそうに文若の言葉を遮った。
「はいはい、だったらセクシー小悪魔でいいだろ? サキュバスコスプレで誘惑してもらえ」
ベッドで絶命させちゃうぞ! 女淫魔サキュバスである。セクシー小悪魔コスプレ。しかし、それは文若の地雷だった。
「常務! 私の名前はそのようなふしだらな娘ではありません! むしろ彼女の清らかさは天使のようで……!」
「お前、セクシー小悪魔に故郷の村でも焼かれたのかよ」
突然ムキになる文若に孟徳は呆れる。しかし、このとき孟徳は密かにスマホを操作して、あるものの注文を済ませていたのだった。
「……それで文若さんのご自宅に届いたのが、このセクシー天使コスプレなんですね? 私が着る用の」
「そういうことになるな」
文若のマンションのリビング。テーブルの上にはキラキラとしたコスプレ衣装が鎮座していた。
ふたりの間に沈黙が落ちる。重苦しい空気に、先に耐えられなくなったのは文若だった。
「……本当に申し訳なかったと思っている。名前。着たくなければ着なくていいぞ。私から責任を持って常務に着払いで返送しておくからな」
「別に、そこまで怒ってないですよ……」
「ほ、本当か」
「孟徳さんの無茶振りはいつものことですし……。それにこのセクシー天使の衣装、よく見ると露出度も低くて可愛いですし、着てもいいかなって思えてきました」
「……そ、そうか?」
オーガンジーの生地がたっぷりと使われた光沢のある白いワンピースに、背負うタイプの天使の羽根。さらに、魔法のステッキのような錫杖と手袋までついている。
孟徳が選んだ衣装はなかなかの本格派で。そして、名前もまた可愛いものが好きな女の子のひとりだった。
「……文若さん、この衣装、着てみてもいいですか?」
「あ、ああ。お前が構わないなら、私も構わんぞ」
「じゃあ、着替えてきますね!」
そして、着替えを終えた名前は、先ほどとは打って変わって随分と浮かれた様子でワンピースの裾をひらひらとさせていた。
「わ、やっぱりすごく綺麗ですね!」
透け感のある生地が何層にも重ねられたドレスのような衣装は、ところどころに宝石のようなガラスビーズがあしらわれていて、とても華やかだ。名前がスカートを揺らすたびに、照明を反射してキラキラと輝いている。
「似合ってますか? 文若さん」
「……あ、ああ。もちろんだ」
白一色の衣装は可憐な名前によく似合っている。大粒の模造ダイヤがあしらわれた錫杖も本格的で、ファンタジー映画に出てくる女神のようだった。
「やっぱり孟徳さんが選んだだけあってすごいですね。このステッキも輝いています……」
「そ、そうだな……」
名前は衣装や小道具の素晴らしさに舌を巻いていたが、文若は服のことなど気にしていなかった。そもそも、孟徳の気に入った人間に対する貢ぎ癖は今に始まったことではないし、いちいち気にしていたら身が持たない。
豪華な衣装よりも、今はそれを着てくれた名前を褒めたい。せっかく可愛い仮装をしてくれたのだから。けれど、色ごとに疎い自分の口からは、気の利いた褒め言葉のひとつも出てこない。
そんな己を恨めしく思いながらも、文若は自分なりの精いっぱいの賛辞を贈る。
「……その、まるで良い魔法使いのようだな。映画に出てきそうだと思う。清らかで、お前がいれば世界が浄化されそうだ」
「もう、文若さんってば、コメントが面白いです」
意味不明の講評だけど、文若が褒めようとしていることは伝わってくる。名前は吹き出すように笑うと、ご機嫌な様子で週末の予定を話題にしてきた。
「あ、そうだ。そういえば、今週の土曜日に芙蓉姫や尚香さんとハロウィンパーティーをやるんですよ。せっかくですし、この衣装を着て行ってもいいですか?」
「あ、ああ。私は別に構わんぞ。これであれば服としての体裁をなしているからな」
以前名前に見せられた破廉恥な小悪魔コスプレを思い出しながら、文若は太鼓判を押す。
半裸のセクシー小悪魔はダメだけど、この天使のワンピースはちゃんと服だからよし。彼なりの可否基準だった。
文若の許可を得て、名前は顔をほころばせる。
「ありがとうございます! この衣装着れるの嬉しいです。楽しみだな……」
後半はひとりごとのようだった。
名前もまた、可愛いものや綺麗なものを好む女の子。
名前は嬉しそうに自分が着ている衣装に視線をやると、特に意味もなくスカートをふわりとさせた。オーガンジーの生地が幾重にも重なったスカートが揺れ、美しいドレープを形作る。宝石のようなガラスビーズがキラキラと光り、ワンピースと名前自身に輝きを添えた。
名前のかわいらしい仕草と揺れるスカートに見惚れながらも、文若は改めて口を開いた。
「しかし名前、その、ハロウィンパーティーというのは、一体何をするための集まりなのだ?」
会合の目的の見当がつかない。そんな文若に名前は軽く苦笑すると。
「別に、大したことはしないですよ。コスプレしてみんなで写真撮ったら、お菓子食べながら海外ドラマでも見ようかなって話してます」
「そ、そうか」
健全な女子会のようで文若は安堵する。
名前によると、パーティーは今週の土曜日に芙蓉姫の家で行われるらしい。放っておかれるのは寂しいけれど『名前にも付き合いがあるから』と文若は自分を納得させる。
同性の友人との関わりも名前くらいの年頃の女子にとっては大切だろう。それを自分の我儘で制限してはいけない。
「あ、そうだ。ハロウィンパーティーで芙蓉姫がスワットレディのコスプレするんですよ! 私今からそれがすごく楽しみで」
スワットとは米国警察の特殊部隊である。黒ずくめの軍人のような重武装の戦闘員。しかし、あくまでも仮装なので見栄え優先だ。格好よくセクシーで露出度は高く足元はハイヒール。
「芙蓉殿がスワットか…… 似合いそうではあるな」
強く気高く美しく。血気盛んで勇ましい彼女にぴったりだ。
「尚香さんはチアガールやるんですよ。尚香さんも似合いそうですよね!」
すらっと背が高く華やかな容姿でダンスの上手い尚香なら、チアガールは適役だろう。文若は彼女のダンスパフォーマンスを見てみたいと思った。
「……そうだな。尚香殿も似合いそうだ」
「私もダイナーガールのコスプレをしようと思って衣装も用意してたんですけど……」
「……ダイナー? それは何というものなのだ?」
「あ、アメリカのウェイトレスなんですけど……。こういうやつです」
珍しく興味を持ってくる文若に、名前はスマホの画面を見せた。
「アメリカの昔のファミリーレストランのウェイトレスなんですよ。レトロでポップな衣装がかわいいなって、このピンクの衣装を買ってみたんです」
「そうか……」
液晶画面の画像検索結果。映し出されている沢山のカラフルな衣装の中で、名前は特定のひとつを指差して教えてくれた。
「へそ出しなのが気になるが、かわいらしい衣装だな。お前に似合いそうだ」
先ほどの白一色の天使とは違う、色鮮やかなストライプが可愛らしいポップなメイド服。本来のハロウィンとは無関係だが、カジュアルでキュートな雰囲気が名前に似合いそうだ。
露出度は比較的高めだったが、男に媚びるようないやらしさはなく、文若の許容範囲だった。すっかり機嫌を良くした文若は、柔らかな笑みをこぼす。
「この衣装を着たお前も見てみたい気がするな」
「えへへ、ありがとうございます。じゃあ、ダイナーの衣装も着ることにします」
ご機嫌の文若に名前も嬉しそうに笑う。
「パーティーで写真撮ったら、文若さんにも送りますね。楽しみにしててください!」
「あ、ああ。……楽しみにしている」
一体何が楽しみなのか、自分でも意味不明だったが。成り行きで文若は約束を取りつけた。下心なんてない、はずだ。多分そのはず。ないと思う。
名前のウェイトレス姿は、きっとすごくかわいい。こんなに可愛いウェイトレスがいたら、何かと理由をつけて毎日のように店に顔を出しているに違いない。
彼女の笑顔を見るだけで元気になれる。どんなに格好をつけていても、しょせんは自分もただの男だから。好きな女の子の笑顔が一番。それに癒やされて励まされるのだ。
***
そしてやってきたパーティー当日。
芙蓉の部屋に集まった年頃の女子三人は、さっそくノンアルピーチのスパークリングワインで乾杯していた。
「かんぱーい! ハッピーハロウィーン!」
「ハッピーハロウィーン!」
「ハッピーハロウィーン!」
「私たち! 生まれた日は違っても、結婚する日は一緒よ! 名前、尚香!」
スワットレディのコスプレで瞳を輝かせる芙蓉に、名前はころころと笑う。
「芙蓉姫、面白い~」
けれど、尚香は不安げに尋ねた。
「結婚できなかったらどうするんですか?」
「そのときは同じマンションの別の部屋で暮らしましょ! 週末はみんなで集まってワイワイ過ごすの!」
自信なさげな尚香を励ますように、芙蓉は笑い飛ばす。
「楽しそう! 私それがいいな」
女の子同士っていいな。名前は思わず芙蓉に同調してしまう。
「名前には文若殿がいるじゃない~ 婚約までしてるくせに」
「そうですよ~。一番結婚に近いのは名前さんだと思います」
けれど、芙蓉と尚香に突っ込まれてしまった。
言われてみれば、確かにそうかもしれない。生真面目な文若は、お付き合いと結婚がイコールで結ばれているタイプの男性だ。彼に遊びの恋愛という概念はない。名前もすでにプロポーズされていて、婚約指輪もプレゼントされていた。名前の誕生日、一番特別な贈り物。
今がチャンスとばかりに、芙蓉と尚香は名前を問い詰めてくる。
「ねぇ名前、文若さんとは最近どうなのよ~」
「あっ、それ私も聞きたいです~」
「惚気でも愚痴でも何でも聞くわよ~」
「え~」
友人たちに笑顔で圧をかけられて、名前はタジタジだ。
恋人の話を他の人にするのはやっぱり恥ずかしい。話せることなんて何もない気がする。けれど、尚香も芙蓉も諦めない。
「文若殿は生真面目なお方ですから、恋愛しているところが想像つかないですね」
「キスするときとか! 文若殿はどんな顔するのかしら! 堅物な人だからこそ気になるのよね~」
「芙蓉姫、セクハラだよ……」
名前は主に芙蓉を止めようとするが芙蓉はめげなかった。容赦なく圧をかけてくる。
「文若殿に送るコスプレ写真! かわいく撮ってあげたんだから、それくらい教えなさいよ!」
「えっ、別に普通だよ……」
これは、彼女を納得させない限り離してもらえない流れだ。
けれど、文若のキス顔なんて覚えていない。彼の顔が近づいた瞬間、反射的に目を閉じてしまうからだ。緊張して目を開けていられない。愛しあう恋人同士で数えきれないほど口づけを交わしているのに、そんなことも知らないなんて不思議だと思う。
困った名前はとっさに話題をそらした。
「あっ、キスするときは、ブラックコーヒーの味がするかな!」
「えー! 文若殿はお茶派かと思ってました! コーヒーも飲まれるんですね!」
幸いにも、尚香が話題に乗ってくれた。名前はこの機を逃さないように話を続ける。
「眠気覚ましにたまに飲むんだって。あと、たまにミントのフリスクの味もするよ」
すると、芙蓉が頬を染めて、悲鳴のような叫びを上げた。
「キャー意外!」
「ガムだと捨てるのが手間だから、フリスク派なんだって」
「それは、なんだか意外ですね!」
ボトルに入ったミントガムをデスクや車に置いている人は多いけど、フリスクを持ち歩く人は少数派な気がする。文若のプライベートをネタに芙蓉と尚香は大はしゃぎだ。
浮かれた様子の二人を見て名前は心の中でつぶやいた。
(朝ごはんにかわいいパンケーキ作ってもらった話は、一生の秘密にしよう……)
話したら、前日の夜のことまで根掘り葉掘り聞かれそうだし。
『一緒に朝ごはんってことは、前の日の夜も一緒だったんでしょ! そこのところ詳しく聞かせなさい! 口を割るまで離さないわよ!』
芙蓉なら普通に言いかねないし、さすがにベッドでのことを話すのは名前も気恥ずかしかった。
(文若さんも、こういうことがあるから二人だけの秘密だって言ったのかな……)
こうやって、彼氏とのやりとりを話さなければいけないのは確かに恥ずかしいけど、いつも文若や孟徳や元譲といった、年の離れた大人の男性とばかり一緒にいた名前だから。
こうやって同世代の女の子同士で集まってお喋りするのはすごく新鮮で、とても癒された。こういう時間もいいなと素直に思えてくる。
やっぱり持つべきものは友達だ。困ったときに支え合える、女の子同士の固い絆。
(ハロウィンパーティー、来てよかったな)
名前は桃色のスパークリングワインをちびちびと飲みながら、パーティーを企画してくれた芙蓉たちに感謝していた。
名前のいない土曜日。文若は無言で彼女が送ってくれた写真を見つめていた。
芙蓉が撮影したという、名前のダイナーガールの写真はとてもかわいらしかった。キュートでセクシーな衣装は名前の可憐な魅力をより引き立てている。
へたな芸能人よりも、名前の方がずっとかわいい。少なくとも自分の瞳にはそう映っている。今までコスプレには全く興味がなかったけど、いいかもしれないと思い始めていた。しかし。
「破廉恥な仮装などけしからん!」
当初うっかりそう口にしてしまったため。文若は「ダイナーガールの衣装を自分の前でも着て欲しい」とは言いたくても言えない状況に陥っていた。
(やってしまった……)
己の愚かさを悔やみながら、文若は可愛らしい名前の写真を何をするでもなく見つめ続ける。
***
「それで? お前は俺のおかげで、名前ちゃんの天使姿を楽しんで、ダイナーガールのコスプレ写真を大量に送ってもらったわけか」
オフィスの役員室。週明け早々、文若はさっそく毒っけたっぷりの孟徳に絡まれていた。
「その翌日には評判のパンケーキ屋に二人で行って? ったく、いいご身分だよなぁ。俺はシワッシワの爺さん連中の接待で、したくもないゴルフして酒飲んで愛想笑いしてたっていうのにお前ときたらな」
取引先のお偉方の接待で孟徳は土日とも働いていた。気遣いで溜め込んだストレスで憎まれ口を叩いて、文若をいびっている。
「…………」
そんな孟徳の嫌味を文若は黙って聞いていた。この状態の彼に反論しても無意味だと知っている。
孟徳にとっては会員制ゴルフクラブや高級料亭よりも、好きな子と一緒に食べる流行りのパンケーキのほうがよほど羨ましいのだ。本当は甘いものなんて好きじゃないくせに、女子と食べるスイーツだけは別腹というタイプ。
「よかったなぁ、文若。俺に感謝しろよ」
じとっとした瞳で孟徳は文若を睨みあげてくる。
なぜ、文若と名前のふたりのやりとりが孟徳に知られているのか。それは名前がコスプレ衣装のお礼をわざわざ孟徳に送ってしまったからだ。しかも着用写真つきで。それから芋づる式に全てのやりとりがバレてしまった。
(……名前、お前という奴は)
真っ直ぐで礼儀正しく心の優しい名前を愛しているが、孟徳のしつこい嫌味を浴び続けていると、そんな彼女が恨めしくなってくる。
(……お前が常務を気遣う必要などないと、何度言えば伝わるのだ)
かといって、本当に邪険にして怒らせても厄介なのが曹孟徳という男だった。全くもって救いがない。
しかし、孟徳はやにわに私用スマホを取り出すと液晶画面をスワイプし始めた。先ほどまでの険しい表情がわかりやすく緩んでいき、孟徳はご機嫌な様子で口を開く。
「……しっかし、名前ちゃんのダイナーかわいかったよな~ ちらっと映り込んでる芙蓉ちゃんのスワットや尚香ちゃんのチアもよかったけど、やっぱり名前ちゃんのダイナーが一番輝いてたよな。なっ、お前もそう思うだろ?」
「それを私に訊ねられましても」
返答に困ることを質問しないで欲しい。自分にとっては、名前が一番に決まっている。なにせ結婚の約束までしている愛しい恋人なのだから。けれどそれを理由に他の女性……名前の友人たちを貶したくはなかった。
「つまらない奴だな。俺は断然、名前ちゃんが一番だね。こんなにかわいいウェイトレスがいたら、毎日だって通いつめるさ」
レトロポップでセクシーでキュート。ダイナーガールはウェイトレスだが、その容姿も売りにしていた。制服もかわいらしくて露出度の高いものが多く、それは主に男性客の目を楽しませるためのもの。
かわいらしい名前の姿に孟徳も上機嫌だ。先ほどまでの毒はすっかり抜けて、スマホの中の彼女にデレデレとしている。人の恋人に鼻の下を伸ばすなと言ってやりたかったけど、文若は黙っていた。
「しかし、この女子会に一度でいいから混ざってみたいよな~ 芙蓉ちゃんにぶちのめされそうだけど」
先ほどから、孟徳は文若を差し置いて好き勝手に喋っていたが。発言内容は完全にセクハラだ。
三度の飯より可愛い女の子が大好きで、女性と触れ合うのも好きな孟徳が、女子会に混ざりたがるのは自然な気もする。
しかし、文若はあの集まりに混ざりたいとは思わなかった。芙蓉に殴られるのが嫌だからではない。あの空間は触れてはならない聖域のように思えたからだ。
キラキラしていて、いい匂いがしそうな異空間の中で、自分の知らない名前の姿を垣間見た気がする。今まで女性に縁遠かったせいか、文若にとっては名前たちの集まりが余計に尊く感じられたのだ。
しかし、今はそんな話をしている場合ではない。腕時計を確認してから、文若は口を開いた。
「……常務、すでに十三時を回っております。昼休憩は終わりましたので、執務にお戻りくださいますよう」
「まだ十三時一分だろ? それぐらい許せよ」
「常務」
「はいはい、働くよ。働けばいいんだろ」
「その通りです」
「ったく、月末を乗り越えたと思ったら次は年末進行か、嫌になるよな」
十一月のカレンダー。ハロウィンも終わり、いよいよ近くなった冬の足音。すまじきものは宮仕え。文若と孟徳は今日も今日とて労働に勤しむのだった。
***
◆おまけ:百合が大好き文若さん
※キャラ崩壊のギャグです。
文若「ああ、百合は美しいな。女子同士の秘められし美しき関係性……。彼女たちを第三者の立場から見守り続けたい。百合に男など不要だ。男の姿など見たくもない」
孟徳「おい何読んでるんだよ文若」
文若「常務!」
孟徳「なんだ流行りの百合漫画かよ、俺もそれ読んでるぞ」
文若「ま、まことでございますか!? まさか常務が百合を嗜む同志であるとは!」
孟徳「ああ、百合って最高だよな! 俺も挟まりたいぞ! 二人まとめて可愛がりたい! 性的な意味でな!」
文若「くぁwせdrftgyふじこlp!」
孟徳「なんだよ文若! 俺は男として当たり前の意見を口にしただけだろ!」
文若「私はあくまでも第三者視点で二人の関係性を見守っているのです! 私はあくまでも壁に過ぎないのです! 決して百合に挟まりたいと思っているわけではないのです!」
元譲「文若…… 否定すればするほどお前が百合に挟まりたがっているように聞こえるのだが……」
孟徳「なんだよ文若のやつ! 多様な価値観の尊重って言うんなら、俺の百合に挟まりたい価値観だって尊重されてもいいはずだろ! それにそもそも女なんかより男同士の関係性の方が尊いだろ! 真に対等になれるのは男同士! 女はたまに性欲解消のために触れ合うくらいで……!」
元譲「さっきからお前たちは一体何の話をしているんだ! もういい加減にしてくれ!」
◆おまけ:女子会でネタにされるのってどうですか?
※ギャグです。
文若「私は…… やはり気恥ずかしいな。できれば上手く誤魔化して欲しいものだ。そもそも、恋人のプライベートな事柄を本人の許可なく他人に共有するなど……」
孟徳「俺は別に何話されてても構わないけどね〜」
文若「……」
孟徳「まぁ俺は彼氏としても夫としても完璧だからね!」
元譲「……孟徳。学生の頃お前を巡って取っ組み合いの大喧嘩をしていた女子たちの仲裁をしたのは俺なのだが」
文若「あなたに殴りかかろうとした男を取り押さえて負傷したのは私です」
元譲「あのときの妻を寝取られた男か……。あの男も哀れだったな」
文若「ええ、まったく……」
孟徳「あーはいはい! お前らはいちいち鬱陶しいな! 過去のちょっとした過ちだろ? 青春の足跡じゃないか!」
文若「常務……」
元譲「孟徳……」
孟徳「お前ら、名前ちゃんにだけは言うなよ!! この話は!!」
おしまい。
あとがき(約〇文字)
お疲れ様です。作者です。
文若さんで秋のお話を何か書きたいとずっと悩んでいたのですが、
なかなかネタが降りてこず、紆余曲折を経てこのような内容の短編になりました。
ハロウィンの仮装の準備をして、少しだけパーティーの描写があって、
その後は宴のあと(パーティーのあと)というお話です。
前後の描写はあるのに、肝心の宴の最中の描写が少ししかないのってどうなの(;_;)
と自分でも思うのですが、なかなか思いつかなくて書けませんでした(;_;)
ですが、ワンマンスドロのテーマには一応添えていると思うので、
そこに注目していただけたら嬉しいです。
今回の文名前短編でも孟徳さんに出張ってもらいました。
文若さんが生真面目でなかなか積極的になってくれないので、
孟徳さんにきっかけを作ってもらいました。
ミニスカポリスに逮捕されたい、女子会に混ざりたい、
欲望のままに生きる孟徳さんが愛しいです。
文若さんも「破廉恥な仮装などけしからん!」とか怒ってないで、
孟徳さんの季節イベントを全力で楽しむ姿勢を
見習ってほしいと思います。(余計なお世話)
そして、このお話を書いているうちに、
文若さんが謎に百合に目覚め始めたのが面白かったです。
孟徳さんは「女子会より俺とデートしようよ」みたいなことを普通に言いそうですが、
文若さんは名前ちゃんの女子同士のつきあいも尊重してくれそうです。
文若さんは意外といい彼氏になってくれるんじゃないのかな……
という希望的観測や願望を抱いている筆者です
女子会ではプライベートをバラされまくってる文若さんが不憫ですが(笑)
『キスしたらどんな味がする?』というテーマは程よくセクシーでグッとくるなと思いました。
ちなみに名前ちゃんとキスするとお菓子の味がします。
ハイ◯ュウとかピュ◯グミとか……。
たまにミルクティーやリップティントの味がします。可愛いな……。
リップティントつけてキスしたら相手の唇も染まりそうですよね(笑)
孟徳さんは……。
それこそ電子タバコとか、さっきまで飲んでたお酒とかでも似合いそうです。
コーヒーやカフェラテや烏龍茶でもいいけど、
せっかく孟徳さんなので不健全なのがいいなと思います。
抱きしめられたらブランドの香水とか高価な柔軟剤の匂いとかしそうです。
なんか腹立ってきましたね(笑)
余談ですが、とてもかわいい名前ちゃんのダイナーガールのコスプレは
Twitter相互様が出してくださった案となります。
とても助かりました。ありがとうございました。
ダイナーすごく可愛いですね。
ダイナーガールのコスプレをした恋◯記ガールズを見てみたいなと思いました。
尚香さんや芙蓉姫も似合いそうです。
それでは今回はこの辺にて失礼いたします。
お読みくださりありがとうございました。