猫孟徳
名前変換設定
本棚全体の夢小説設定薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
※恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと目を開けると世界がいやに巨大だった。しかし、この展開ももう二度目だ。驚くことはない。
漢の丞相曹孟徳は、落ち着いた様子で己の手を見た。予想通りそこには猫の前足があった。赤茶色の体毛に覆われた小さな子猫の足で、手のひらにあたる場所に肉球がある。
そのまま孟徳は己の頭頂部を確かめた。そこにあったのは大きな三角の耳。
(また子猫になる夢かぁ……。仕方がないな。夢から覚めるまで、名前ちゃんに構ってもらうとするか)
小さな体でぐーっと伸びをして、猫の孟徳は名前の姿を求めて一歩を踏み出した。
目の前に見覚えのある景色が広がる。ここは丞相府の名前の私室だ。自分が与えたのだから、見間違えるはずもない。
しかし、そのとき。
「――ワン! ワンワン!」
やにわに、すぐ近くから犬の鳴き声が聞こえた。
(……いつから動物王国になったんだよ、うちの城は)
心の中で毒づきながらも放っておくわけにもいかず、孟徳は声の方に足を向ける。
名前の部屋の隅に置かれた大きめの籠。その中に、前足に包帯を巻いた小さな黒い犬がいた。
(なんだよこいつ、見ない顔だな)
しかしこの犬、初対面のはずなのに妙な既視感がある。見知らぬ他人とは思えない、この糸目。
「ワン! ワンワン!(丞相っ! こんなところで何をなさっているのですか!)」
「フニャッ!?(なっ、文若! なんでお前がこんな姿でここにいるんだよ!)」
「ワンワン!(それはこちらの台詞です! なぜあなたまでこのような姿に!)」
これが、猫の孟徳と犬文若の運命の出会いであった。
「ニャウ……(なるほどね。警備犬として働いていたが、怪我をして療養中というわけか)」
「ワンッ……(丞相は働きたくない一心で子猫になられたのですね……)」
お互いに呆れかえっていた。
孟徳は犬畜生に成り果ててまで働こうとする物好きな部下に対して。そして文若は何の役にも立たない子猫に成り下がってまで、労働から逃れようとする上司に対して。
しかし、互いに白い目を向けあっていても時間を無駄にするだけである。
猫の孟徳はフンと鼻を鳴らすと、再び伸びをしておもむろに毛づくろいを始めた。なぜか、妙に念入りに。犬の文若はそんな彼にいぶかしげな視線を送る。
「ワンッ……(どうかなさったのですか、丞相。何かお気に障るようなことでも)」
「ニャウッ(身だしなみを整えてるんだよ。今日こそ名前ちゃんにちゃんと構ってもらうんだからな)」
「ガウ(……は?)」
「ニャウッニャッ(名前ちゃんは勉強にかまけてすぐ俺を放り出すからな。少しでも可愛くして、気を引かなきゃならないんだよ。……よしっ、これで今日一番カワイイ!)」
毛づくろいを終えて、猫の孟徳は大きな瞳をキラッと輝かせた。全力のぶりっ子である。このかわいらしさで、今日こそ愛しの名前を骨抜きにする。猫の孟徳は名前への愛に燃えていた。
けれど、今この部屋に彼女はいないから、戻ってくるまで待たねばならない。
「ガウッ(……そうですか)」
犬文若は完全に呆れていた。愛に生きるより、仕事をして欲しい。
それからしばらく。
部屋の扉の向こうから誰かの足音が聞こえてきた。この軽やかな気配は、間違いなく名前だ。
「――マオくん、文若号、ただいまー!」
「ニャウッ!(名前ちゃん!)」
「ワウッ!(名前!)」
名前が扉を開けると同時に、二匹はにわかに活気づいた。猫の孟徳は小さなしっぽをぴんと立て、犬文若はふさふさの尾を左右にぶんぶんと振っている。動物たちの歓喜の表現である。
二匹はきらきらと瞳を輝かせ、名前の近くに向かおうとしたが。手に包帯とはさみを持った名前は、ひとまず文若に声をかけた。
「文若号、お怪我は大丈夫? 包帯変えてあげるから、こっちにおいで!」
「ワンッ!」
「フニャッ!?」
猫の孟徳は血相を変えた。なぜ自分は放置で文若だけ構われるのか。
「ニャウウー! シャアアア!(お前だけずるいぞ文若! ふざけるな!)」
ちゃっかりと名前の腕の中におさまる犬文若を、猫の孟徳は射殺さんばかりの瞳で威嚇する。
さっきまでの可愛らしさは雲散霧消して、獣の本能剥き出しだ。毛を逆立ててシャーシャー鳴いて、全力でケンカを売っていた。
しかし、残念ながら少しも怖くない。小さな子猫がどんなに凄んだところで、可愛いだけで全く怖くないのだ。犬文若もシレッとした澄まし顔である。
治療の一環ですので仕方ありません。と顔に書いてあったが、その尻尾は先ほどからちぎれんばかりに左右に振られていて、喜びを全く隠せていない。
そんな犬文若の姿に猫の孟徳の殺意はいよいよ高まる。
『お前、俺の名前ちゃんに……!』
猫の孟徳は背中を丸めて全身の毛を逆立てた。大きな瞳を見開いて犬文若を睨みつけながら、唸り声を上げる。
その姿は今まさに相手に飛びかかり、全力の噛みつきをお見舞いする直前の猫そのものだったが。
「もう、マオくんヤキモチ焼かないの。文若号はお仕事で怪我したんだよ? その手当なんだから」
名前は手際よく犬文若の包帯を変えてやりながら、孟徳を叱った。文若号、黒い子犬。これでも丞相府の警備犬である。
「ニャウッ! ニャアアア! ニャアー!(何それ名前ちゃん! 仕事なんて関係ないよ! 怪我なんてするやつが悪いんだよ! 文若なんかより俺を構ってよ! 君に構ってもらえないなら、俺は猫になった意味なんてないのに!)」
夢の中の世界とはいえ。猫の孟徳にとっては、名前が世界の全てだった。大好きな飼い主さん。彼女に見捨てられたら生きている意味がないほどに。
さすがに猫の孟徳――名前から見れば猫のマオくんでしかない――が不憫になってきた。全力で己の気持ちを訴える孟徳にほだされたのか、名前は小さく息を吐くと。
「……わかったよ。文若号のお世話が終わったら、マオくんを構ってあげるから、少し待っててね」
「ミャウッ!」
猫の孟徳は瞳を輝かせて、大きな三角の耳をピンと立てた。
『名前ちゃん、ありがとう! 大好き!』
これが猫の孟徳の日々である。
「……よしよし、マオくんいい子いい子」
猛烈な自己主張の結果、仕事で怪我をした警備犬を押しのけて。猫の孟徳はちゃっかりと名前の腕の中に収まっていた。
何の役にも立っていない、かわいさしか取り柄のない愛玩動物である。しかし、猫の孟徳は堂々としていた。名前に顎の下を撫でられながら、当たり前のようにゴロゴロと喉を鳴らしている。
まるで当然の権利とばかりに名前に可愛がられている猫の孟徳を、犬文若は半眼で見つめていた。こんなの全然いい子じゃない、むしろわがまま放題のバカ猫なのになぜ。
「……グルル(丞相、お恥ずかしくはないのですか)」
「ニャッ(ないね)」
なりふり構わず、猫の孟徳は名前の歓心を買おうとしていた。見た目はとても可愛いが、あいにく可愛さしか取り柄がない。孟徳はその唯一の取り柄を生かして名前に全力で媚を売り、よしよしと撫でてもらっている。
働くこともせず、ただ名前に可愛がられながら。城の柱で爪とぎをしたり、いたずらをして寝台の下に逃げ込んだり、自分一人で運動会を開催したり。孟徳は子猫の本能の赴くまま、好き勝手に過ごしている。丞相府の警備犬として日々働いている犬の文若とはあまりにも違う。
犬文若は猫の孟徳のあまりのやる気のなさと理不尽さに頭を抱えたくなったが、そのとき。名前の部屋の扉が叩かれた。
「――名前様、鈴麗(リンリー)です。マオ様と文若号のお食事をお持ちしました」
「あっ、ありがとうございます。今開けますね」
気がつけば太陽は空の最も高い位置にあった。お昼ごはんの時間だ。
その後。動物二匹の食事の世話をしてから自分の昼食をとって。名前は勉強をしていた。今日も今日とて文字の書き取りをしている。
猫の孟徳と犬文若はそんな名前を視界の隅に入れながら、動物用の毛布の上でゴロゴロとしていた。
「ミャウ(名前ちゃん…… なんで君はそんなに真面目なの? 勉強なんかより俺と遊ぶ方がずっと楽しいのに)」
お気に入りのねこじゃらしをガジガジと噛んでけりけりとしながら。孟徳は名前を切なげに見つめ続けていた。さっきまであれだけ構ってもらったのに、まだ満たされていない。
「ガウッ(丞相っ……! あなたというお方は! いい加減に!)」
「ニャウニャウッ!(うるさいぞ文若! 今の俺は名前ちゃんだけが全てなんだ! 俺に指図するな!)」
文若に叱られても、猫の孟徳は己の想いを止められなかった。何の役にも立たない子猫と成り果てた今となっては。孟徳にとっては名前に構ってもらうことだけが人生の全てなのだ。
「ワンッ(丞相っ……!)」
文若はそんな孟徳を諫めようとしたが、はたから見れば子犬と子猫のかわいいじゃれあいだ。何の意味もない。
「ミャウッ(大体お前なぁ! 今の俺はただの子猫なんだから、何をして過ごそうが俺の勝手だろ!)」
「ガウッ(子猫であってもできることはあります! 例えば、丞相府の庭園の害獣駆除など……!)」
「ミャウッ(お前、この俺にネズミ捕りをしろとでも言うのか!?)」
「ガウ(そ、それは……)」
「ニャウウッ(そんなものは庭師にでもやらせておけばいいだろ! 俺は名前ちゃんに可愛がられて過ごすんだ! それ以外のことは絶対にやらないからな!)」
かわいい姿になってもケンカばかりの二匹である。すると、あまりに騒ぎ過ぎたからか、名前が筆を置いて話しかけてきた。
「……もう、ふたりともさっきから何ケンカしてるの? 仲良くできないなら鈴麗さんと兵士さんに預かってもらうよ」
二匹に自分の言うことを聞かせるために、あえて怒ったふりをしている名前はとてもかわいい。お互いの言うことは聞けなくても、名前の言うことには従える二匹はすぐさま名前に謝った。
「ミャウ……(名前ちゃんごめん)」
「ガウッ……(私としたことが、すまなかったな……)」
先ほどまでずっと騒いでいた二匹はようやく大人しくなる。そんな彼らを見て名前は安堵したように微笑むと。
「――あ、そういえば文若号! 元譲さんから聞いたよ! この前、軍鼓に合わせてお歌を歌ってたんでしょ? 私も聞いてみたかったな!」
軍鼓に合わせて「ワオ~ンワオ~ン」哀しき犬の習性である。無邪気な名前に恥ずかしいことを暴露されてしまった。犬文若はビクッと大きく身体を震わせる。
猫の孟徳はその隣でじたじたと暴れながら大笑いしている。
「ニャッニャッニャッ!」
自分の方こそ気ままに過ごしていたというのに、孟徳は完全に他人事だ。
名前の話はまだ続く。
「あと、この前一緒にお庭をお散歩したときも、文若号が『まだ帰りたくない』って拒否犬発動したんだよね。あのときは大変だったな~」
ある日の夕方の庭園で。犬文若の首輪から伸びている紐を全力で引っ張りながら、名前は叫んだ。
『――帰るよ! 文若号! もう晩御飯の時間過ぎてるんだから!』
しかし、犬文若はてこでも動かない。延々と行われる不毛な綱引き。
『もうっ! 文若号いいかげんにしなさいっ! 言うこと聞かない子は、抱っこして連れて行っちゃうんだからね』
ぷんぷんと怒りながら、名前は犬文若を抱き上げた。まだ小さな黒い犬は名前の腕の中にすっぽりと収まる。こうなっては仕方がない。犬文若は観念した様子でうなだれた。
『まだ小さいから私でも抱っこして運べるけど、大きくなったら元譲さんにやってもらってね』
『クウ~ン(お前ならよいが、元譲殿に抱かれるのは御免こうむりたいな……)』
まるで、赤ちゃんとお母さんのような帰り道。暴れて逃げ出さないように犬文若をしっかりと抱える名前と、犬小屋に連行されていく犬文若。
名前はしばらく前の出来事を楽しげに思い出しながら、にこにこと笑う。
「文若号はお散歩とかけっこが大好きなんだもんね。お家よりお外がいいもんね」
犬文若はとても活発だった。いつも元気が有り余っていて、よく丞相府の庭園を大興奮で駆けまわっている。
「私も文若号のお世話するようになって、体力ついた気がするんだ」
名前は犬文若との日々を思い出し満足げに微笑んでいるが、猫の孟徳は全く笑えなかった。不機嫌を隠そうともせず、犬文若を睨みつける。
「ミャウウ……(おい文若、お前どういうことなんだよ)」
「ガウッ……(そ、それは)」
「ニャウッ(こんのバカ犬! お前、俺よりひどいじゃないか! ふざけるなよ!)」
「ワンッワンッ!(い、犬の本能だったのです! あのときは、自分でもいかんともしがたく……!)」
「ニャアア!(言い訳するな!)」
再び猫の孟徳と犬文若はケンカし始める。正確には猫の孟徳が犬文若を攻撃し、犬文若がそれを防いでいるだけなのだが、同じことである。
「も、二匹とも暴れないでよ!」
名前に再び怒られて、二匹は見事にしょぼくれてしまったのだった。
***
「……っていう夢を見たんだよねぇ」
「もう、またですか?」
ある秋の日。丞相府の庭園の東屋で、孟徳と名前のふたりはお茶をしながら楽しげに語らっていた。
すっかり色づいた庭園は紅葉がとても美しく、眺めているだけでも楽しい。ふたりが飲んでいるのも、懐かしの桂名前のお茶だった。
「……文若さんが犬って面白いですね。犬になってまで働いてるのが文若さんらしいです」
たくさん働いてたくさん遊んで、毎日充実。丞相府の警備犬、文若号である。
「忠犬じゃなくて駄犬だけどね~。ったく、俺を怒る前に自分を何とかしろよって話でしょ。ね、名前ちゃん」
返答に困る話を振られて名前は苦笑する。孟徳は相変わらず理不尽だ。夢の中の文若に腹を立てている。すると。
「――丞相。こちらにおられたのですか」
「あ、文若さん」
犬ではなく人の彼がやってきた。丞相曹孟徳の腹心の部下、麗しき尚書令である。
名指しで呼ばれたにもかかわらず、孟徳は黙ったままそっぽを向く。文若は聞き分けのない子供のような上司に小さくため息をつくと、改めて口を開いた。
「元譲殿が探しておられましたよ。執務室にお戻りください」
「……嫌だ。俺はまだここで名前ちゃんとゆっくり過ごす」
「そうですか」
孟徳を働かせたい文若と、今は休みたい孟徳。またケンカになってしまうのではないかと名前は心配したが、意外なことに今日の文若は優しかった。
「……では元譲殿には私の方からそのようにお伝えしておきます」
それだけ言い残して、文若はぷいと踵を返す。もっと怒られて、執務室に強引に連れ戻される覚悟をしていたのに意外だった。
「あれ、文若さん、今日はなんか優しいですね」
「ほんとだ。嵐でも来るかな」
ふたりが不思議がっていると。どこか遠くから風に乗って動物の鳴き声が聞こえてきた。
「――フンギャ―! シャー!」
「――ワンワンワンワン!」
子猫と子犬の叫び声である。名前と孟徳は顔を見合わせた。
「……あ、あの孟徳さん」
「ちょっと気になるね……。様子を見に行こうか、名前ちゃん」
「はいっ!」
孟徳が見たという不思議な夢の再演を期待して、心を弾ませながら。孟徳と名前のふたりは、声の主たちを探しに丞相府の庭園の奥を目指したのだった。
あとがき・約750文字
お疲れ様です、作者です。
久し振りの動物パロでした。
この動物パロシリーズはかわいくて間抜けな孟徳さんや文若さんはいても、
カッコいい孟徳さんや文若さんはいないので、
私しか楽しくない、おふざけの出オチのようなお話なのですが、
自分はとても気に入っています。(動物が好きなので)
人を選ぶお話かなとも思いますが、ゆるふわギャグ枠で皆さんにもお楽しみ頂けたら嬉しいです。
今回は犬文若と猫の孟徳に名前ちゃんを奪い合ってケンカしてもらいました。
カワイイ動物たちに懐かれて愛されるのもいいですよね……
私自身が動物好きなので、動物に愛されるのもとても嬉しいです。
(もちろんただ愛されるだけではなく、
自分が動物を可愛がったり、お世話したりするのも好きです)
今回はせっかくの機会なので
恋〇記ワンマンスドロ九月のテーマ「秋・ささやかな幸せ」を入れてみました。
あまり季節感のないお話で申し訳ないのですが、夢から覚めたシーンの季節を「秋」にしています。
「ささやかな幸せ」については、このお話全体がユルフワほのぼのコメディなので、
小説本文中で明言はしなかったのですが、
昨日見た夢の話を楽しそうに名前ちゃんに語って聞かせる孟徳さんや、
孟徳さんに珍しく優しい文若さんに「ささやかな幸せ」を感じ取ってもらえたら嬉しいです
余談ですが孟徳軍・動物パロ既存作です
【孟名前・猫パロ】俺が子猫で丞相も俺で
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16692931
【文名前・犬パロ】荀文若と犬文若
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17484760
それではまた次回に、お目に書かれましたら嬉しいです。
お読みくださりありがとうございました。