SSL沖千
名前変換設定
恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
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二人にとっては恒例の苗字家でのお部屋デート。部屋の真ん中のローテーブルの上には、ハチミツ漬けのレモンが添えられた紅茶の入ったカップが二つ置かれていた。
「お疲れさまでした、総司先輩。屋台のごはん美味しかったです。皆さんの仮装も格好よかったですよ」
ふわふわとした淡い色の部屋着のカーデを羽織った名前は、自分の隣に腰をおろしている沖田に柔らかな笑みを向ける。
当初は色々と心配された井吹主導の剣道部の屋台も、蓋を開ければ大好評で何の問題も起きずに無事に終了した。
ハロウィンモチーフのスイーツやノンアルコールのカクテルは、可愛くて美味しいと女子に評判で。しっかり食べたい人向けの粉物も、こちらは主に男性客に好評だった。
華やかな仮装のコスプレ店員に記念撮影を求める客が続出したけど、人当たりが良くて空気の読める藤堂や機転が利いて口の上手い沖田が、適切に対応して事なきを得た。
しかし、名前はおもむろに眉を下げると申し訳なさそうな顔をする。
「……私も、もっとお手伝いが出来ればよかったんですが、お客さんとして少し顔を出したくらいで、何もできなくてすみません」
「え? いや、名前ちゃんは手伝いとかそんなことしなくていいよ。元々は井吹君の個人的な事情に付き合わされただけの屋台だし……」
心優しい彼女に唐突に謝られて、沖田は面食らってしまう。
井吹主導の屋台は女子客狙いのホストクラブまがいのもので、客とはいえ他の女子に愛想よくしているところを名前に見られたくなかった沖田にしてみれば、少し顔を出したくらいでちょうど良かった。
けれど、そのあたりのことはあまり触れられたくなくて、沖田はさりげなく話題を変える。
「あ、そういえばさ。衣装合わせとか文化祭の最中に、写真を撮ったんだよ。見てみる? 井吹君からプリントしたやつもらったんだ」
「えっ、見たいです!」
「うん、いいお返事」
頬を紅潮させる名前に、沖田はカバンの中から封筒を取り出して差し出す。
名前はさっそく中身を取り出して眺めた。狼男の衣装を着た沖田に吸血鬼姿の斎藤。文化祭当日にお店に来てくれた近藤や土方、永倉に原田、そして島田の写真まであった。そして、応援団の仮装で真剣にたこやきを作る藤堂の写真も。
「……懐かしいですね。薄桜祭を思い出します」
藤堂の写真に見つめて懐かしげにつぶやく名前に、沖田も小さな頷きを返す。
「そうだね。平助の粉物も人気だったよ。僕は適当にお客さんの相手してるだけだったけど、平助は調理も接客も真面目にしてたし」
「平助君…… さすがですね」
いつかの薄桜祭のときの藤堂を思い出してか、名前は感動している様子だ。そんな彼女に、沖田はちょっとヤキモチをやいてしまう。
「そんなことよりさ、見てよ。僕バンパイアの仮装もしてみたんだ、ほら」
名前から写真の束を取り上げて中の一枚を選ぶと、沖田は改めて名前に差し出す。吸血鬼姿の沖田の写真だ。隣の斎藤は有名な魔法学校のローブを着て、珍しく微笑んでいた。
「わ、吸血鬼も格好いいですね」
「でしょ~ それでね……」
「隣の斎藤先輩も、魔法学校のローブ可愛いです」
吸血鬼の沖田も素敵だけど、その隣で柔らかく微笑む斎藤に名前の関心が移ってしまう。
「赤い寮の紋章、よくできてますね。プリントじゃなくて、ちゃんと刺繍してあります」
「…………」
二度も自分をないがしろにされて、とうとう沖田は拗ねてしまう。片頬を小さく膨らませてむくれる沖田にようやく気がついて、名前は慌てて彼をフォローする。
「わ、すみませんっ! 総司先輩のバンパイアも格好いいですよっ!」
しかし、とってつけた感が否めないコメントに、沖田はついに本格的にへそを曲げてしまった。
「……名前ちゃんのバカ」
「ごっ、ごめんなさい総司先輩っ……!」
「許さないから。何で僕より他の奴を優先するのさ」
「そ、そんなつもりじゃ……。ご機嫌直してください~~」
可哀想なほどに焦って、沖田の部屋着のふわふわのカーデの裾を引っ張ってくる名前に、沖田の機嫌が少しだけ直る。
いかにも聞き分けのない子供を諭すように、沖田は名前を注意した。
「こら、名前ちゃん。このカーデの裾はひっぱっちゃダメでしょ。せっかくのお揃いなんだから、大事に着ないと」
「あっ、すみません…… 総司先輩……」
名前と沖田が着ているふわふわのこのカーディガンは、有名な部屋着ブランドのお揃いのものだった。名前はピンクのボーダーで、沖田はネイビーのボーダー。
二人のお揃いを欲しがった沖田が、いつかのクリスマスに名前と自分に贈ったものだ。せっかくメンズとレディスあるんだし、一緒の着ようよ。意外と古風でベタなのが好きな彼らしい贈り物だった。
それはさておき。沖田はしょんぼりとする名前を見おろすと、改めて悪戯っぽい、何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる。
「機嫌、直してもいいけどそのかわり……。キャンディキスチャレンジに付き合ってよ名前ちゃん」
「え、何ですか? それ」
「えっとね、カップルの一人が目隠しして、もう一人がキャンディ舐めて、そのあと舌入れるキスしてして何味食べたか当てるっていうゲームだよ。ハロウィンシーズンにおすすめのパーティーゲームってSNSで見かけたんだ」
爽やかな笑顔で沖田は解説するが、表情と発言の内容は全くかみ合っていない。卑猥なゲームの提案に、名前は見る間に顔をゆでダコのようにする。
「そっ、そんな……! 恥ずかしいです……!」
「それがいいんじゃない。ちょうど僕、飴じゃないけどアソートチョコ持ってるし」
脇に置いたカバンから、沖田はスマホと同じくらいのサイズの箱を取り出した。
箱入りの粒チョコだ。バナナにアーモンド、いちごにパイナップルのいずれかの味のクリームが、ミルクチョコの中に入っている、あの有名な。
「僕がお菓子食べる役やるから、名前ちゃん味を当ててよ」
「でも、そんなの、恥ずかしいです……! 無理ですよ……!」
笑顔で名前に迫る沖田だが、名前はやはり全面拒否の構えだ。しかし、ここで素直に引く沖田ではない。
「いつもはベッドでもっと凄いことしてるくせに、舌入れるキスくらいで今更慌てないで。はい、向こう向いて目を閉じて。僕がいいよって言ったらこっち向いてね」
強引にそう押し切ると、沖田は名前にそっぽを向かせた。
「……はい」
ついに観念したのか、名前はそうとだけ口にすると沖田に背を向けて目を閉じる。彼女がこちらを見ていないのを確かめて、沖田はチョコを一粒だけ口に放り込んだ。選んだのはパイナップル味。
もぐもぐとよく噛んでチョコを食べ終えた沖田は、名前に声をかける。
「いいよ。それじゃあキスしてくれる? 僕の可愛いお姫様?」
柔らかく艶やかな笑みは、名前にしか見せない笑顔だ。文化祭の屋台でコスプレ店員をしていた彼に群がる女子たちには、色気はあれどもどこか冷たい微笑みを向けていたのに。名前に対してだけは、たっぷりの愛情を込めた優しい笑みを向ける。
「……っ!」
沖田のそんな表情に、名前は改めて頬を赤く染めてしまう。お付き合いの長い恋人とはいえ、こんなに格好いい彼に今から大人のキスをしなきゃいけないなんて。
名前は固まってしまうが、沖田は待ちきれないらしく遠慮のない催促をしてきた。
「ほら、恥ずかしがってないで早くしてよ。君がしてくれないなら僕からしちゃうよ? すっごいヤラシイやつを」
「なっ、何言ってるんですか総司先輩……!」
「あははっ。されたくないなら早くしてよ。ほら」
「……はい」
快活に笑う沖田にもう何を言っても無駄だと観念した名前は、改めて彼と向かい合う。
「じゃあ、失礼します……」
「うん、失礼して?」
冗談めかした軽口を叩いて、沖田は瞳を閉じて軽く顎を上げた。いわゆるキス待ち顔だ。そういえば、彼のこんな顔を見たのは初めてかもしれない。口づけはいつもされるばかりだったから。
こうして改めて沖田を見ているとそのあまりの格好よさに、なんだか羞恥がこみあげてしまう。
若手の俳優さんのようにすっきりと整った容貌。まつ毛も長くて鼻筋も通っていて、薄い唇も男らしくて色っぽい。
この唇に今からあんなキスをするんだ。改めてそう思ったら逃げだしたくなるけど、そんなことをしたら拗ねて怒った彼に後で何をされるかわからないから。名前は顔を赤くしながらも彼の両肩に両手を置いて、ゆっくりと身体を近づけて、そっと唇を重ねた。
控え目に触れるだけのキスは、とても名前らしい。けれど、今日はそれだけじゃ終われない。例の味当てゲームをしなければならないからだ。
薄く開けられた沖田の唇に、名前は遠慮がちに舌を差し入れる。けれど、名前の舌はすぐに絡めとられて沖田の口内に引き込まれてしまった。急にそんなことをされて、驚いた名前は大きく体を震わせて、反射的に沖田の肩を強く掴んでしまうが。
沖田はそのまま名前の背中と腰に腕を回して、彼女の身体を引き寄せると、舌を絡めた口づけを続けた。
「……っ、ん……」
息継ぎの合間に甘い喘ぎを漏らしながら、名前は懸命に沖田のキスについていこうとする。
しかし、控え目な彼女はこんなときでも遠慮がちで。ついに痺れを切らしたのか、沖田は唇を離すと名前を煽ってきた。
「……ほら名前ちゃん、もっと僕の口の中探さないと。味わかんないよ?」
「……っ、先輩」
淫らな挑発をしかし叱責と受け取ったのか、名前は申し訳なさそうに眉を下げる。
元々、生真面目で素直な名前は、彼をないがしろにしてしまった負い目もあるのか、まさに沖田の言いなりだった。促されるまま再び口づけると、名前は沖田の口内に舌を差し入れて丹念に探る。
味当てゲームのためにそうしているだけ。けれど、あの内気な名前が自分からキスしてくれて、あまつさえ舌を入れてきて、口内を丁寧に愛撫してくれるから。
無自覚のうちに大胆に振る舞う名前に気をよくした沖田は、彼女の口づけに優しく応えた。自分の口内を舌で探る名前の様子を薄目を開けて眺めながら、沖田もまた甘いお菓子の味のする淫らな口づけを楽しむ。
「……っ、ん……」
羞恥に耐えながらも、名前は沖田の口内に残るチョコレートの味を懸命に探した。甘くて少し酸っぱいこの味は何だろう。
やがて、味の見当をつけた名前は沖田から唇を離し、そのまま生理的な涙で潤んだ瞳で、彼を見上げた。
「総司、先輩……」
「良かったよ。名前ちゃん。やらしいキスも上手になったね」
「……っ!」
不意にそんなことを褒められて、名前は息をのむ。彼に叱られながらの味当てゲームで今まで気づかなかったけど、つい先ほどまでの自分のあまりにも大胆で積極的な振る舞いに今更気がついて、名前は顔を真っ赤にして潤んだ瞳を揺らした。
そんな彼女に嗜虐心と男の欲望を大いに刺激されながらも、沖田は平静を装い余裕の笑みを向ける。
「……僕が食べたチョコ、何味かわかった?」
「いちご、ですか?」
「残念、ハズレ」
「えっ……!?」
「ほら、もう一回してごらん?」
可哀想なほどに愕然とする名前を薄い笑みを浮かべながら引き寄せて、今度は沖田の方から深いキスをお見舞いした。それはさながら残酷な捕食者の楽しげな狩りだ。
「っ、ん……」
眉を寄せて甘い呻きを漏らしながらも、名前は沖田からの口づけを受け止めて。しばらく経ってから、ようやく自分を離してくれた沖田を見上げて、名前は解答を口にする。
「……パイナップルですか?」
「うん、正解」
口元をおさえながらもゲームの答えを口にする律儀な名前に、沖田は満足げな笑みを浮かべた。甘酸っぱい味ということで最初は間違えたけど、イチゴじゃないならパイナップルで当たりだった。名前はようやく安堵する。
「……総司先輩、わざとわかりにくいやつ選びました?」
「うん、そりゃあね。一度で当てられたらつまらないもの」
ニヤニヤと笑う彼はやっぱり筋金入りのいじめっこだ。名前は頬を染めたままため息をつく。もうこの人に何を言っても無駄な気がしてきた。疲れた表情の名前に、しかし沖田はさらなる要求をしてくる。
「それじゃあ、今度は名前ちゃんに食べる役してもらおうかな」
「えっ、まだやるんですか!?」
「当たり前でしょ。はいこれ、後ろ向いて食べて、食べ終わったら教えて? 僕は目でもつぶってるから」
疲労をにじませた名前に、沖田はチョコを強引に押しつける。
「も、総司先輩…… わかりました。じゃあチョコ一粒頂きますね」
有無を言わさない沖田に、名前は渋々従った。彼に背を向けてチョコを一粒口に入れる。名前が選んだのはアーモンド味だった。わざとわかりやすいものを選んだのは彼女らしさ。よく噛んで食べ終えた名前は振り返ると沖田を呼んだ。
「せ、先輩。食べ終わりました」
「はーい」
明るく返事をして、沖田は閉じていた目を開けた。
「それじゃあ、名前ちゃんとやらしい味当てゲーム、しちゃうね?」
多少の引っ掛かりを覚えつつも、いかにも楽しげな彼の言葉に頷いて、名前は顎を上げて瞳を閉じた。先ほどの彼と同じキス待ち顔。だけど、恥ずかしくて仕方がない。
改めてキスを待つのってこんなに恥ずかしいんだ。逃げ出したい気持ちをこらえて、名前は自分の膝の上に乗せた手でぎゅっと握りこぶしを作る。身体の震えを誤魔化すにはそうする他なかった。
「それじゃあ、いただきま~す」
閉じられた瞼の向こうで彼が楽しそうに笑って、首の後ろに両腕が回されて、いよいよ彼の身体が近づいてくる気配がした。まるで食べられちゃうみたいでドキドキする。
互いの唇が触れ合うと同時に名前は薄く口を開けた。すると、ぬるついた舌が入り込んでくる。
「……っ!」
舌を入れるキスはやっぱりちょっと苦手だ。小さく身体を震わせて、名前は反射的に沖田にしがみついてしまう。彼の腰のあたりの衣服をぎゅっと握りしめる。
すると、沖田は名前を安心させるように、大きな手のひらを彼女の背に回して優しく撫でてくれた。そのまま腕に力を込めて、沖田は名前をなだめるように抱き寄せながら、彼女の口内を舌で丁寧に探ってくる。
沖田はずるい。こんなふうにされてしまったら、ただのゲームを愛情表現と錯覚してしまう。
「……っ、せんぱい」
「っは、名前ちゃん…… すっごく美味しい……」
口づけの合間に交わされるやり取りは、なんだかとてもいやらしい。沖田は恍惚に浸った様子で緑の瞳を溶かしながら、うわごとのように囁く。
チョコにも舌を絡めるキスにも催淫効果があるっていうけど、本当なのかな。まるで裸の身体を重ねている最中のような彼の様子に、名前も小さな胸を高鳴らせる。
最初はこの淫らな味当てゲームも恥ずかしくて嫌だったのに、今やすっかり楽しんでしまっていた。自分もまた甘いお菓子の味のするいやらしい口づけの虜になっている。
気がつけば、名前は自分から身体を寄せて沖田の口づけに応えていた。沖田の広い背中に腕を回して、彼の身体に自分の胸を押しつけながら、舌を絡めるキスをして。
やがて、どちらからともなく唇が離されて、口元を親指で拭いながら、沖田は自信に満ちた笑みを浮かべると。
「……アーモンドかな?」
「当たりです」
名前はこくりと頷いた。
「名前ちゃん、わざとわかりやすい味選んだでしょ」
「だ、だって」
「まあ別に君らしくていいけどね。……それじゃあ、続きしよっか」
「えっ……!?」
「まさか、これで終わりなわけないでしょ。一回で当てれたご褒美が欲しいな」
「そ、そんな、総司先輩……」
「総司でいいよ 先輩はいらないから」
動揺する名前に沖田は瞳を細めて余裕たっぷりに笑うと。
「ほら、もっといっぱい…… キスしようよ。名前ちゃん」
艶やかな囁きはずるいほどに格好いい。無意識に逃げようとする名前の腕を掴んで自分の方に引き寄せて、沖田は名前の首の後ろに手を回して再び彼女の唇を奪った。
強引な口づけに名前は嫌がるそぶりを見せるが、そこでやめる沖田ではない。名前の拒否は単なる羞恥と知っているから、そのままなしくずしに行為を進めようとする。
「っ…… 総司先輩……」
「っは、名前ちゃん……」
自分の身体を名前の身体に押しつけて、沖田はさらに二人の密着度を高めてくる。名前のシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり沖田は甘い眩暈を覚える。名前もまた沖田の香水のシトラスに理性を溶かされていた。
爽やかで軽やかで、どこか冷たくてとらえどころがなくて、けれど柔らかくて温かな柑橘の香りは、なんだか彼自身に似ている。
名前の抵抗が緩んだ隙に、沖田は彼女の唇の隙間から舌を差し入れた。そのまま先ほどの味当てゲームとは比較にならないほどの、本気の口づけを名前にお見舞いする。
「っ……! せんぱ……」
名前の小さな悲鳴は、そのまま沖田の唇に吸い込まれてしまう。
やがて、口づけを終えると。名前はもう完敗ですとばかりに、真っ赤な顔で口元を押えて俯いてしまった。
「……僕、さくらんぼのへた口の中で結ぶの得意なんだ。名前ちゃんは苦手そうだよね」
そんな彼女を見おろしながら、沖田は意地悪な笑みを浮かべる。まるで名前をからかうような。図星だったのか、名前は大きく肩を震わせて、おそるおそる彼を見上げた。
器用で何をやらせても一通りこなしてしまう沖田は、キスもとても上手かった。
「ありがと、名前ちゃん。やっと満足できたかな」
瞳を細めて不敵な笑みを浮かべて、沖田はぺろりと舌なめずりをする。彼の仕草や表情のひとつひとつがとても色っぽくて、名前は羞恥と戸惑いで視線を泳がせてしまう。沖田はそんな彼女に向かって。
「続き、ベッドでしちゃう?」
「し、しませんっ!」
「なんだ、しないのかぁ。……でも、君がしないっていっても僕がしちゃうんだけどね」
あっと思う間もなく、名前は沖田にお姫様抱っこで抱え上げられた。
「っ、総司先輩! さっき満足したって言って……!」
「忘れたなぁ。そんなことより、先輩はいらないって言ってるでしょ?」
沖田の『先輩はいらない』は、今や合言葉がわりになっていた。『君としたい』彼がそう思ったときに口にされる、二人だけの秘密の。
「……ねぇ、味当てゲームどうだった?」
「す、すごかったです……」
「何それ」
名前の要領を得ない返答に、沖田は苦笑する。名前をベッドに降ろして、沖田はそのまま彼女を組み敷いていた。彼の悪戯な片手はすでに名前のトップスの中に入り込んでおり、ちゃっかりと胸に着けている下着のホックを外している。
「そ、総司先輩っ…… ダメですっ……」
容赦なく行為を進めようとしてくる沖田の手をのけようとする名前だが、彼女のささやかな抵抗が彼に通じるはずもなく。沖田は下着の間に大きな手のひらを差し入れて、名前の胸の膨らみを優しく揉み始めた。
「っ、あっ……! やっ……!」
感じてしまう場所への直接の愛撫で、名前の声が甘く淫らに震えてしまう。
「ん、いい声だね…… いいよ、名前ちゃん」
クスクスと含み笑いを漏らしながら名前の身体の感触を楽しみつつも、沖田は彼女に問いかけた。
「あんなのただの深いキスじゃない。もしかして、名前ちゃんはああいうキス苦手?」
「ちょっとだけ……」
「でも僕は好きだからいっぱいしようね」
「っ、総司せんぱ……」
「ほら、もう黙って」
「っ……!」
不意に沖田は名前の胸を揉むのをやめると、今度は彼女のスカートをたくし上げた。そのまま、沖田は名前の下着の上から、彼女の秘部を刺激し始める。
「あっ、せんぱい……! ダメです…… もっ……」
「ダメじゃないでしょ、ほら、もう諦めて?」
沖田の欲望の熱を帯びた囁きとともに、彼の下腹部が名前の身体に押しつけられる。沖田のその場所はしっかりと充血し存在を主張していて、名前はますます追い詰められてしまう。
「……名前ちゃんだって、こここんなに濡らしてるくせに、往生際が悪いよ?」
沖田が欲望にぎらつく瞳を細めてそう口にした、そのとき。ピンポーン、という玄関のチャイムが階下から響いてきた。
「っ……! で、出ないと……」
名前は沖田の身体の下から半ば無理やり抜け出すと、そそくさと身支度を整え始める。
「えっ、居留守でいいじゃない…… ダメ?」
「でも……」
「今は、僕のことだけ見ててよ。名前ちゃん……」
今にも彼のもとを離れ、階下に向かおうとする名前の腕を掴んで。沖田は切実そうに見上げてくる。
燻る熱をその奥に宿した、濡れた緑の瞳。その危うい輝きについ流されて、彼の願いに応えてしまいそうになるけど。
大好きな人に剥き出しの欲望を向けられる女としての嬉しさも、ないわけじゃないけど。
「……だ、ダメです! すぐ戻りますから、総司先輩はここで待っていてください」
以前から、その手口にずっとしてやられている。もう流されるのは嫌で、名前は沖田から逃げるようにして玄関に向かった。
乱れた髪を手櫛で直しながら、名前はインターホンで応対する。
『名前~ 文化祭の写真、龍之介がお前に渡してくれって言ってたやつ、持ってきたんだけどさ!』
「へ、平助君。わかった、ちょっと待ってね」
来客はお隣さんの藤堂平助だった。沖田のこともあり少し迷ったが、物品の受け渡しなら時間もかからないだろうと名前はドアを開けた。沖田にも待っていてって言ったし大丈夫なはず。
「よぉ、名前! 悪いな、急に来ちまって。はいこれ、龍之介から」
「ありがとう。私の方こそ、わざわざごめんね。平助君」
「別にいいって、どうせすぐ隣なんだし。あれっ。名前、もしかして寝てたのか? 髪の毛が……」
「えっ……!? 別に違うよ……」
意外に目ざとい藤堂に痛いところを突かれてしまって、名前は心臓が口から出そうなほど驚いてしまう。髪は手櫛で直したと思ったのに。先ほどまで沖田とベッドで「してた」痕跡はそう簡単には消せないらしい。
そういえば、胸につけている下着のホックだって外されたままだし。脚の間だってしっかりと濡れていて。
そう思ったら、にわかに恥ずかしくなってきた。けれど名前は全力の作り笑顔を張りつけて、藤堂に無難に応対しようとする。
「写真、ありがとね。平助君。龍之介君にもよろしくね。
文化祭、平助君も格好良かったよ。たこやきも美味しかったし……」
「お、ありがとな! すっげー頑張ったから、そう言ってもらえると嬉しいぜ! じゃあ俺、ぱっつぁん先生と約束あるからもう行くな。邪魔して悪かったな、名前。疲れてたならゆっくりしてろよ、せっかくの休みなんだし」
「――ほーんと邪魔だよね。平助は」
不意に冷たい声がして、名前と藤堂の二人は固まった。声の主はむろん沖田だ。
上階からゆっくりと降りてきた彼は、なぜか髪の毛がくしゃくしゃで部屋着のカーデのボタンも全て外してあって、まさに寝起きというか恋人と肌を重ねた後の無防備な姿そのもので、名前は驚きに言葉を失う。
だって、自分はともかくさっきまでの彼はこんな姿じゃなかった。これは確実に、わざと髪の毛のセットを崩して着衣を乱してから、藤堂の前に姿を見せたパターンだ。
不意に現れた沖田の乱れた姿に驚いているのは、名前だけではなく藤堂も同じだった。驚愕に目を見開いて口をぱくぱくさせている。
名前と藤堂の二人が絶句する中、沖田は乱した髪を手櫛で直しながら玄関土間に視線をやると、不機嫌を隠そうともせず言い捨てる。
「っていうか平助、空気読んでよね。そこに僕の靴あるでしょ」
「あああっ! くそ、気づかなかった! 名前しか見てなかったし~! っていうか気づいてても綱道おじさんのかなって思いたかった……」
平助は赤い顔で頭を抱える。沖田はそんな彼を冷めた瞳で見おろしながら。
「おじさんはこんな靴はかないと思うんだけど。それより今日は僕たちお部屋デートなんだよね。お揃いの部屋着可愛いでしょ」
沖田は黒いオーラを放ちながらも、名前を後ろから抱きしめて藤堂に見せつける。
「……だからお邪魔虫はさっさと出て行って」
「っ! くっそ~~ 総司のヤツっ!」
昔から意外と独占欲が強くて、他の男の子に対して牽制みたいなことをする人だってことは、周囲から聞かされて知っていた。けれど、今日のこれはやり方がひどすぎるというか。
『――僕たち今ヤッてたとこなんだよね。邪魔しないでくれるかな』
沖田の真意は火を見るより明らかで、名前はもう真っ赤だ。沖田の方も藤堂の方も恥ずかしくて見れなくて、何も言えなくなってしまう。
藤堂は堂々としている沖田より、赤い顔で俯く名前にいたたまれなくなったのか。
「ち、名前っ……! なんかすっげーゴメンなっ! またなっ!」
慌てて踵を返すと音を立ててドアを閉め、逃げるように去ってしまった。そんな彼を冷たい瞳で見送ると、沖田は小さく息を吐く。
「……またな、じゃないよね。お届け物なら郵便受けに入れてから、ラインでもくれればいいのに」
「そっ、総司先輩! なんで出てきちゃうんですか、バカっ……!」
「バカって…… 上半身裸で出ていかなかっただけ褒めてほしいんだけどね。我慢したんだよ? これでも」
そんなの輪をかけてひどいし、名前にとっては考えられない。今だってわざと髪や着衣を乱して、充分すぎるほど『恋人としてたところです』みたいな雰囲気を出してるくせに。名前は赤い顔で文句を言う。
「なっ、何で脱ぐ必要があるんですか! そんなのダメです、ありえないです!」
「え? 必要はあるでしょ。さて、お邪魔虫はいなくなったし、ベッドで続きしよっか、僕のお姫様?」
「も、総司先輩の意地悪……!」
屁理屈の得意な彼にいつもしてやられてしまうのが悔しくて、反抗しようとしたら、とてつもないお返しをされてしまった気がする。
やっぱりどう頑張っても沖田には敵わないのかと、名前はうなだれるのだった。
番外編
沖田や名前たちの通う大学の文化祭が間近に迫った、ある日のこと。今日は剣道部の出し物でもある、井吹主導のコスプレ屋台の衣装合わせだった。皆で持ち寄った衣装を試着し不備がないかなどを点検する。
日頃使わない特別教室の使用許可をもらって、井吹や沖田、藤堂たちの剣道部有志は集まっていた。
「さすが、うちの部のメンバーは華があるぜっ! これで女子客も沢山見込めるっ!」
衣装を着ているメンバーを眺めながら、井吹はひとり感動に打ち震えていた。
狼男の沖田、吸血鬼の斎藤、学ラン姿の藤堂といった二年生の主要メンバーはもちろん、上級生や下級生もスポーツで鍛えた体躯は見栄えが良く、そんな彼らが着るハロウィンの衣装はやはりとても華やかで。
感動にむせび泣く井吹を沖田は冷めた目で眺めるが、斎藤と藤堂は違った。それぞれらしい励ましの言葉をかけている。
「女子がどう感じるかはわからぬが、部費が工面できそうなら良かったな、井吹」
「芹沢さんはキツイけど、せっかくの文化祭なんだし、楽しんでいこうぜ! 部のためにも俺も頑張るからさ!」
しかし、彼らと違って、沖田は変わらず不機嫌なままだ。
「二人とも親切過ぎない? やらされるのはホストまがいの接客だよ?」
一度はやると決めたものの。名前以外の女子に愛想よくしたくなかった沖田は、このコスプレ屋台にはいまいち乗り切れないでいた。我ながら面倒くさい処女みたいだけど嫌なものは嫌で、自分にこんな一面があるなんて知らなかった。
そんな沖田を藤堂たちはなんとかなだめようとする。
「総司は深く考えすぎだろ! こんなんメイド喫茶の男版みたいなもんだろ? イロモノコスプレ喫茶店なんて、ただの文化祭の定番じゃねぇか。確かに女子狙いだけどさ、ただの軽食出す屋台ってだけだし」
「総司、あんたは盛り場でのアルバイト経験もあったはずだが……。酒類の提供のない昼間だけの店なら揉め事も少ないはずだ。売上は部の活動資金にも充てられる。何でも器用にこなすあんたの協力があると、俺たちにとってもありがたい」
真顔で訥々と語る斎藤に、沖田はなんともえいない複雑な顔をする。
「まさか一君に、ここまでマジ口説きされると思わなかったんだけど……」
井吹主導のイロモノ屋台とはいえ、生真面目な斎藤は部費のために真剣に取り組む気でいるらしい。そんな彼を横目に再び藤堂が口を開く。
「ってかさ、街中にある流行りのパンケーキ屋だって、女子客狙いで客は女子ばっかだけど、男の店員も普通にいるぜ? 店先で見かけたし」
「まあ、そうなんだけどさ……」
酒を出さない昼間だけの店で、流行りのスイーツショップのようなもの。藤堂と斎藤の言葉にようやく気持ちの整理をつけた沖田は、小さく息を吐いた。
「……うん、それもそうだね。あんまり気負わず普通に接客するよ」
ようやく機嫌を直した沖田に安堵したのか、藤堂は彼らしい明るい笑みを浮かべると。
「仮装だってハロウィンが近いからやるってだけだろ? 総司のやつも着させてくれよ! 狼男もかっこいいよな!」
「え? 別にいいけど……」
藤堂の仮装は応援団だ。黒の学ランを羽織って鉢巻を締めるだけという簡単なもの。
これをきっかけに沖田は衣装替えをすることにした。狼男の獣耳カチューシャやベストに手袋を外して藤堂に渡すと、沖田は特別教室の机の上に並べ置かれている別の衣装を物色しはじめた。藤堂の学ランは身長差からいってもサイズが合わないだろうから着れない。
せっかくのコスプレ喫茶でずっと同じ衣装というのも何だから、文化祭当日も体格が似たような者同士で衣装交換する予定だった。なので衣装合わせの今日は、自分が持ってきた服以外も着ることになっていたのだ。
沖田はふと机の上に無雑作に置かれていた吸血鬼の衣装に目を留める。
「あ、あれって……」
確かあれは背の高い一年生が持ってきたもので、他にも同じものを持ってきた者がいたため放置されていた。
「――なぁ一君、狼男カッコよくね!? 総司のやつ借りたんだ~」
「――ああ、似合っているぞ平助。ハロウィンらしくていいな」
「――あっ、なんだよその感想~! 一君、俺の学ラン貶してね!?」
「――なっ……!? すまない、そのようなつもりでは」
「――嘘だよ! 被らないようにハロウィンぽいやつあえて避けたんだけどさ、普通にフランケンとか買えばよかったよな……」
「――いや、学生服もお前らしくてよく似合っているぞ」
獣耳に浮かれてワイワイとしている藤堂たちを尻目に、沖田は吸血鬼の衣装を身に着けてみる。ブローチ付きのスカーフに深紅のベスト、そして立ち襟の黒いマント。これだけあれば、あとは適当なワイシャツに黒のスラックスと合わせればいいだけだ。
沖田はスマホを取り出して自撮りモードにすると、改めて今の自分の姿を確かめた。
「……ベタだけど格好いいね。さすが王道」
皆に選ばれるのもよくわかる安定の格好よさだ。これで写真を撮って名前に送ろう、きっと喜んでもらえるはず。彼女の笑顔を思い出し機嫌を直した沖田は、そのままの流れで一枚だけ自分の写真を撮った。
すると、沖田の雰囲気が和らいだのを見て取ったのか、すかさず井吹が絡んできた。
「沖田先輩、バンパイア格好いいじゃないっすか~~ 俺にも写真撮らせてくださいよ~~」
「嫌だよ、君は撮る必要ないでしょ」
「ひ、必要はありますよ! 学校に提出する書類に添付しなきゃいけなくてっ!」
「えっ、必要なの? 写真が?」
参考資料か何かなのだろうか。でもそれにしたって……。不審がる沖田をスルーして、井吹は勝手に撮影を始めた。沖田に堂々とスマホを向けて内蔵カメラでパシャパシャと。
「沖田先輩! そこの壁で俺に壁ドンしてくださいよ~~ 先輩の壁ドンスチル欲しいっす!」
瞳の奥に日本円のマークを輝かせながら元気いっぱいの笑顔で寝言を口にする井吹に、ようやく沖田は彼の発言を嘘だと断じると、井吹のスマホを取り上げた。
「は? 嫌だよ。嫌に決まってるよね。さっきの僕の写真も、消させてもらうからね」
「ああああああっ沖田先輩っ!!」
壁ドンなんて、なぜそんなことを好きでもない、しかも同性にしなければならないのか。
「っていうか井吹君、写真は書類に添付って嘘でしょ。僕の壁ドン写真が大学の提出書類にいるわけないもの」
自分の画像を消し終えて、井吹のスマホを彼に押し付けるようにして返すと、沖田は井吹に半眼を向けた。
「いやっ、それはだな! 冗談だよ冗談! 言葉のあやっていうか! しかしこうイケメン揃いだと、ちゃんとした場所で写真撮影してそれを売りたくなっちまうよな!」
「君、高校の時もそうやって、クラス写真だって嘘ついて撮った名前ちゃんの写真、売りさばこうとしてなかった? 一君から聞いたんだけど」
「昔のことは忘れたぜ!」
井吹は力強くそう返すと、再び妄想を逞しくする。
「そういえば、丘の上のチャペルとかコスプレ撮影会プランみたいなのやってたよな。そこでバンパイアの先輩たち撮影したらイイ感じだと思うし、それで写真を六枚五百円くらいで売って、写真集みたいなパンフレットを一部千五百円くらいで……」
さすが、筋金入りの商売人。ご先祖様はお侍のはずなのに、相変わらず商魂逞しい。
「写真とパンフ合わせて二千円でおつりの出ない値段にしてるのは偉いけど、何なのさそのアイドルのライブグッズは……」
ツッコミを入れながらも、沖田は小さく息を吐いて、かねてからの懸案を口にする。
「なんかもう僕らの屋台、完全にコスプレが本体になってるよね。井吹君、料理の方は大丈夫なの? さすがにおいしくないごはんは僕もお勧めできないよ」
「それは藤堂先輩が料理上手いし! 特にたこやきとか!」
「ああ、そういえば平助は上手かったね」
高校二年の文化祭。藤堂と沖田はクラスの出し物でたこ焼き屋をやった。そのときの猛練習の成果で、藤堂は粉物の料理がすっかり得意になったのだった。井吹は妙に凛々しい表情で話を続ける。
「斎藤先輩も地味に料理できるし、俺も自信あるからやるし!」
気に入らない味であれば何度でも作り直しをさせられる、芹沢さんのパワハラで鍛えられた井吹の料理の腕はなかなかのものらしい。
「へぇ、意外と盤石な布陣」
井吹を貶しつつも沖田は感心する。
「けどメインの女子向けに、スイーツとおしゃれなドリンクの準備をしないといけないんだよな。レシピ手に入れて練習しないと。さすがに俺もスイーツはそんなに作ったことねぇし」
あの芹沢がスイーツを所望するとは思えない。しかし高校の文化祭で名前擁するメイド喫茶で、裏方として活躍した井吹は一応の勝算はあるらしい。
「昼間で酒は禁止だからノンアルコールカクテルのレシピ集めて、原田先生に相談してみるつもりだ。いい仕入れ先を教えてもらうぜ」
大学の規則で文化祭の昼間の出店は酒類の提供は禁止になっている。それを踏まえてのノンアルコールのドリンクだった。
「あと甘いものと言えば島田さんだろ、島田さんにも相談する」
「なるほどねぇ……」
相談相手は意外に的確だった。井吹の判断力と実行力に沖田は舌を巻く。原田なら女子受けのいいお洒落なドリンクに詳しそうだし、甘味マニアの島田は流行りのスイーツについて色々と教えてくれそうだ。
井吹から具体的な事業計画を聞かされて、沖田の中でようやくコスプレ屋台が現実味を帯びてくる。
「俺はやるんだ……! 絶対に稼いでやるぜ……!」
「すごいね、僕は適当な冷凍食品解凍したのを出すだけかと思ってたよ」
燃えに燃える井吹を、沖田はようやく素直に褒めた。今まではあまり期待してなかったけど、話を聞いていたら普通にいけそうな気がしてきた。脇を支えるメンバーや相談役の優秀さに勝機を見出して、沖田もなんだかわくわくしてくる。
薄謝で駆り出されて、興味のない女子相手にホストまがいの接客をさせられるだけかと思っていたけど、意外と楽しそうだ。
(……そうだね。大学の文化祭、せっかくなんだから楽しまないと。付き合いで働かされた思い出だけが残っても仕方がないし)
かつての名前に対して口にした言葉を沖田は改めて思い出し、これまでの考えを改める。
特に今年は同じ学校に名前がいるのだ。沖田は二年で名前は一年。同じ大学になって初めての文化祭。
「やるからには徹底的にやるぜ……! 俺は勝ちに行く……!」
「井吹君は何と戦ってるのさ……」
「あっ、沖田先輩は接客だけやっててくれればいいっすから! 問題起こさずに! 女子客に馴れ馴れしくされても、笑顔でかわしてくれればいいっすから! 毒舌は封印で!」
「やっぱりホストだよね、僕は。まあ料理の腕を求められても困るから、それでいいけど」
唐突に冷静さを取り戻した井吹に釘をさされて、沖田は小さく苦笑して肩を竦めるのだった。