僕の可愛い子猫ちゃん(R18)
名前変換設定
恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
僕の可愛い子猫ちゃん
街路樹の葉が色づき始め、本格的に秋本番となったある日のデートの帰り道。千鶴と沖田は駅ビルに入っている生活雑貨店の前を通りかかった。
この時期らしく店頭にはカボチャのランタンやコウモリのオーナメント、吸血鬼や黒猫といった仮装の衣装がディスプレイされていて、それらに目を奪われた千鶴が不意に足を止める。
「……そういえば、もうすぐハロウィンなんですね」
女の子らしく季節のイベントが好きな千鶴は、楽しげなディスプレイに笑みをこぼす。
ハロウィンといえばなんといっても仮装だろう。かっこいい吸血鬼にワイルドな狼男、セクシーな小悪魔にユーモラスなミイラなど。雑貨屋の店頭にも様々なコスプレ衣装が飾ってあった。
「……どれも素敵ですね。楽しそうです」
「ほんとだ、楽しそう」
上機嫌な千鶴に、彼女の隣の沖田もまた微笑む。しかし、出し抜けに沖田は何かを思い出したように声を上げた。
「――あ、そういえば。僕、大学の学祭でコスプレすることになってたんだよね」
「えっ、総司先輩がコスプレですか?」
「うん。……剣道部有志っていうか、井吹くん発案でみんなで屋台やることになってさ。昼間に飲み物とか軽食を売るんだけど、それだけじゃつまんないからって、売り子は全員仮装することになったんだよね。ほら、ハロウィンも近いし」
不思議がる千鶴に、沖田は丁寧に事情を説明してくれる。沖田と千鶴の通う大学の文化祭は例年はもっと別の時期に行われるのだが、今年は変則スケジュールで十月下旬に実施されることになっていた。
「す、すごいですね。楽しそうです……」
「楽しそうっていうか、僕は井吹君の小遣い稼ぎに使われるだけなんだけどね」
「そうなんですか……?」
「うん。っていうか芹沢さんが『もう大学生なら自分で使う金くらいは自分で稼げ』って、井吹君を詰めててね。屋台で儲かっても、利益は井吹君の部費と剣道部の活動予算にあてられるんだけど」
「すごいですね…… さすが芹沢さんです……」
芹沢のスパルタは相変わらずだ。やりすぎのような気もするけど、経済観念や自立心を養うにはいいのかもしれない……? 千鶴はかつての級友でもある井吹の苦労に思いを馳せて、心配そうに眉を寄せる。
しかし、沖田はどうでもよさそうに投げやりな言葉を口にした。
「ほーんと、まさか大学生になってまで、あの人に迷惑かけられるなんて思わなかったよ」
そしてひと呼吸置くと、沖田は改めて話を続ける。
「……そう、それでさ。そのコスプレ屋台で着る衣装を、各自で用意しなきゃいけなくてね」
「えっ、自分で用意するんですか?」
大学の文化祭の出し物だから、てっきり支給されるのかと思っていた。千鶴は驚いてしまう。
「そうだよ。でも既製品でいいって言われてて、あとで衣装代ももらえるから、僕は適当にどこかで買えばいいと思ってたんだけど……。ちょうどいいからここで買っとこうかな」
「えっ、今ここでですか?」
沖田の藪から棒な発言に、千鶴は目を丸くする。しかし、沖田はいつも通りに飄々としている。肩をすくめて苦笑すると。
「せっかく君と一緒にいるんだからね。……ねえ千鶴ちゃん。仮装の衣装、君が選んでよ」
「ええっ!?」
沖田が学祭でコスプレ屋台の売り子をするという話だけでも驚きだったのに。さらに着る衣装を選んで欲しいと言われて、千鶴は戸惑ってしまう。
「そんな、私が選ぶなんて…… 私より総司先輩がご自分で選んだ方が……」
高校時代、文化祭でメイドの格好をしたことはあるけど、とりたてて仮装やコスプレに詳しいわけでもない、千鶴は固辞しようとするが。沖田はどうしても千鶴に選ばせたいらしい。ぐいぐいと押してくる。
「僕こういうのあんまり興味ないから、決められないんだよね。別にどれでもいいし」
「どれでもって……」
沖田の場合どれでもいいじゃなくて、どうでもいいだよね。気のない様子の彼に千鶴はそんなことを思ってしまうが、もちろん口に出したりしない。
「だからさ。千鶴ちゃんが選んでよ。どうせなら君が選んでくれたやつを着たいんだよね。コスプレなんて興味ないけど、君が選んでくれたやつなら、少しは真面目に着る気になれるだろうし」
甘いのか、甘くないのか。ただ単に口の上手い彼に面倒ごとを押しつけられただけの気もするけど。大好きな沖田に『君が選んでくれた衣装を着たい』と言われてしまえば、千鶴はやはり断れない。
「は、はい…… わかりました」
「ありがと、じゃあ行こっか」
戸惑いながらも衣装選びを了承した千鶴は、妙に上機嫌な沖田に連れられて雑貨店の衣装コーナーに向かったのだった。
女性用と比べて男性用の仮装の衣装は少ないのかと思いきや、そうでもなかった。沖田と千鶴がいる雑貨店が駅ビル内の大型店舗だからか、男性用の衣装も意外なほどに品揃えが豊富で、千鶴は目移りしてしまう。
お決まりの吸血鬼にフランケンシュタイン、狼男に軍服に、警官や海賊に医師風の白衣、他には今流行りのアニメや漫画の男性キャラの衣装など、様々な種類があった。
先ほどは戸惑っていた千鶴だったが、華やかな衣装を目にして今やすっかり浮かれてしまっていた。
「どれも、格好いいですね!」
そう言って千鶴は屈託のない笑みを浮かべる。沖田は相変わらず興味なさそうだけど、彼女につられてかそれなりに楽しそうにしていた。
「すごいね、結構いっぱいあるんだ。こういうコスプレって、男がしてもつまんないでしょって思ってたけど、意外と楽しいのかもね」
そこまで口にして、沖田は改めて千鶴に問いかけた。
「千鶴ちゃんはどれがいい?」
「えっ……!? えっと……」
選ぶ時間も与えらないうちに沖田に尋ねられて、千鶴は困ってしまう。まだ売り場についたばかり。もう少し品物を眺めて考える時間が欲しい。
沖田は本当に興味がないようで、すごくせっかちだ。『どれでもいいから早く選んでよ』と言わんばかりのペースで尋ねてくる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね……」
さすがに大事な衣装を即決できない。千鶴は陳列棚とにらめっこして彼に似合いそうなものを探す。
「う~~ん……」
「……あははっ! 千鶴ちゃん真面目に探しすぎ。こんなの適当でいいのに」
眉間に皺を寄せて真面目に探す千鶴に、沖田は吹き出すようにして笑う。
「でもせっかく着るんですし、ちゃんと選んだ方がいいかなって……」
マイペースな沖田に千鶴は困惑してしまう。沖田に言われて彼のために一生懸命に選んでいたのに、なぜ笑われてしまうのか。理不尽な思いを抱えつつも、千鶴は沖田に言い返す。
「……それに、井吹君にも悪いですよ」
いつも金欠を公言して高校時代は学内で副業までしていた井吹のためにも、コスプレ屋台の目玉の売り子の衣装は真面目に選ばないと。そんな思いを抱えていた千鶴だったが、沖田の方はそうでもないようだ。
「井吹君のことなんて心配しなくてもいいのに……。でも、千鶴ちゃんらしいね。……いいよ。わかった。気が済むまでゆっくり選んでよ。君のために着る衣装なんだし」
「わ、私のためではないような気がするんですが……」
なぜか妙に爽やかに笑う沖田に、千鶴は一抹の不安を覚える。本来は井吹のためというか、学祭の屋台の客引きのために着るんだけど。沖田の中ではなぜか、千鶴のために着る衣装になっていた。
そして、数分後。
「……こ、これがいいです」
「へぇ、ちょっと意外だね。狼男かぁ」
「吸血鬼とかだと、かぶりそうな気がしたので……」
「あ、それは確かにありそう」
結局、悩んだ末に狼男になった。千鶴が沖田のために選んだ衣装。他の人とかぶらないように、王道をあえて避けて変わり種でも格好いいものにした。
ワイルドというよりは綺麗目の狼男。大きな獣耳のカチューシャに存在感のある首輪、黒の合皮の指なし手袋に同じく黒のベスト。ベストはスリーピースのスーツのようなデザインだ。
よくある赤いチェックシャツのカジュアル系じゃなくて、あくまでも綺麗目のフォーマルだから沖田に似合いそう。
見ようによっては狼というより黒猫みたいだけど、それなりに気に入ったのか、沖田は柔らかな笑みをこぼした。
「……そういえばこういう猫耳みたいなやつ、高校の文化祭でもつけてた気がするよ。近藤さんと二人で写真撮った気がする」
「そ、そうですよね……! 私もそのときのことを思い出して……」
懐かしい思い出話に千鶴も相槌を打つ。彼の言う通り。敬愛する近藤と二人で猫耳をつけて、写真に収まっていた沖田の笑顔がとても輝いていたから。
それを思い出して千鶴はこの衣装を選んだのだ。気まぐれでクールな彼には猫が似合いそうというのもあるけど。
沖田は千鶴が選んだ衣装のパッケージを改めて見つめると、穏やかな表情で小さく頷いた。
「……うん、値段もこれくらいなら予算内かな。サイズも大丈夫そうだし」
沖田の満足げな様子に千鶴は安堵する。最初はコスプレなんて興味ないって言ってたから心配してたけど、気に入ってもらえてよかった。
「ありがと千鶴ちゃん。じゃあお会計してくるから、ちょっと待ってて」
沖田は千鶴に笑顔で礼を言うと、そのままレジに向かった。そして、数分後。
「……お待たせ、じゃあ行こっか」
「はいっ!」
レジが混んでいたらしく少し時間がかかったものの、沖田は無事にお会計を終えて戻ってきた。千鶴は彼を笑顔で迎えて、そのまま二人で千鶴の家に向かったのだった。
沖田の家には両親や姉がいるが、千鶴の家は一人暮らしのため彼女以外は誰もいない。なので、デートのときはいつも沖田が千鶴の家にお邪魔していた。
さっそく、沖田は千鶴の部屋で買ったばかりの衣装を試着していた。
「わぁ、すごい! かっこいいです総司先輩。お似合いです」
狼男の衣装を見事に着こなす沖田に、千鶴は惜しみない賛辞を贈る。
「……ははっ、ありがと。千鶴ちゃん」
恋人に手放しで褒められて悪い気がしないのか、沖田も機嫌がよさそうだ。得意げな笑みを浮かべている。
頭には黒い三角の獣耳、首には犬の首輪を模したチョーカー、手には黒の合皮の指なし手袋。腰につけられたベルトの背中からはふわふわのシッポが垂れ下がっていて、さらりと羽織られたフォーマルな黒のベストもクールで格好いい。
今は私服の上からこれらの衣装をつけているだけの手抜きの仮装だけど、モデルがいいのかとても華やかに見える。狼よりは黒猫に見えるけど、やっぱり沖田は何を着ても様になるし、三角の獣耳は妙に彼に似合っていて。千鶴は浮かれた様子で彼にお願いをする。
「狼の耳よくできてますね、触っていいですか?」
「え? 別にいいけど……」
彼女にそうねだられて、沖田は頭の獣耳に千鶴の手が届くように、少しかがんでやった。
千鶴は嬉しそうに沖田の獣耳に触れる。
「わあ、ふわふわです……!」
「君、本当にこういうの好きだよね……」
感激した様子でフェイクファーの手触りに夢中になっている千鶴に沖田は苦笑する。もう大学生なのに、こんなことではしゃぐなんて。沖田の心中はつゆ知らず、千鶴は無邪気にはしゃぎながら。
「なんだか、狼っていうより猫の耳みたいですね」
「ははっ、そうだね」
沖田は一応相槌を打つが、完全に舞い上がっている様子の千鶴は、彼の話をほとんど聞いてないようだ。さきほどからずっと彼の獣耳をモフモフとしている。
沖田はなんとなくムッとしてしまう。自分のことよりモフモフに夢中な彼女が気に入らない。
(……僕の本体は耳じゃないんだけど。獣耳なんかより、僕のことを気にしてよ千鶴ちゃん)
千鶴の関心を全て獣耳に持っていかれた沖田は、つい彼女の気を引きたくなってしまって。
「……隙あり」
「きゃっ!」
獣耳に夢中になっていた千鶴を、沖田はひょいっと抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。そのまま沖田は彼女を部屋の隅のベッドに連行する。
「そ、総司先輩ダメですっ! やめてください、降ろしてくださいっ……!」
千鶴はなんとか沖田の腕から逃れようとするが、それを許す彼ではない。
「うん、わかった。降ろしてあげる」
そう言って沖田はベッドの上に千鶴を下ろすと、流れで彼女を組み敷いた。
「ここじゃなくて別の場所にしてください……! あと離れてくださいっ……!」
千鶴の狼狽ぶりは、まるで狼に食べられる寸前の子羊のようだ。沖田はそんな千鶴を見おろしながら楽しげに目を細めると。
「えーいいじゃない別に。せっかくコスプレしたんだしイチャイチャしようよ。元々コスプレってこういうときにするものなんでしょ?」
「それは違うと思います……! せめて何かするなら衣装を脱いでください! 汚してしまったら……」
「いいよ、少しくらい」
「でも……」
「いいじゃない。もともとは君のために買った衣装なんだから、これくらいしたってバチは当たらないでしょ」
まるで千鶴に恩を着せるように、沖田は君のためにを連呼する。
「い、衣装は井吹君のためであって、私のためじゃないはずです」
「……君ってほんっとうにに真面目だよね」
あからさまにげんなりとした様子で、沖田はため息をつく。自分の気持ちを何ひとつ理解しない、生真面目すぎる恋人に呆れていた。しかし、沖田はめげなかった。瞳に艶めいた光を宿して、吐息交じりに千鶴に囁きかける。
「――僕これでも尽くすの好きなんだよね。君限定でだけど」
「っ!?」
急に醸し出された恋人同士の雰囲気に、千鶴は動揺してしまう。しかし、沖田は平然としていた。そのまま何食わぬ顔で続ける。
「――あ、この場合の尽くすはやらしい意味での尽くすだよ? 念のため言っておくけど」
だからもう井吹君のことは言わないでと、沖田は千鶴に言外の圧をかける。あくまでも沖田の献身は千鶴のため、もしくは自分のためであって、井吹のためではない。
彼らしい回りくどい物言いだけど、千鶴には効果的な牽制だった。
二の句が継げなくなっている彼女に沖田は畳みかける。
「……だから、この格好で君に尽くさせてよ。ね、いいでしょ?」
まだハロウィンは先のはずなのに、今まさにイケメンの狼男さんに美味しく頂かれそうになっている寸前。千鶴は沖田を見上げながら、困ったような拗ねたような様子で問いかける。
「……総司先輩、お菓子あげるので悪戯しないでくださいって言ったら、やめてくれますか?」
「あはは! ――やめるわけないじゃない。くだらないこと聞かないで」
快活に笑ったかと思いきや一転、沖田の言葉にヒヤリとした冷たさが混じる。細められた緑の瞳にはいつの間にか、獰猛な輝きとほの暗い情熱が宿っていた。
「……っ!」
千鶴はもう声も出ない。いつも明るくて冗談ばかりで、二人だけのときは意外なほど甘やかしてくれて。彼がそれだけの人じゃないことくらい、わかっていたつもりだけど。
いざぎらついた欲望を向けられると、少しだけ怖気づいてしまう。
けれど、彼の欲を向けられて千鶴は心の奥底で期待してしまっていた。沖田との愛の行為は楽しくて気持ちよくてすごく幸せだから。
相対する彼女の瞳に、自分と同じ欲望の光が確かに宿ったのを確かめて。沖田はどこか切実な様子で、彼女を強引に口説きにかかった。
「……お菓子ももらうし悪戯もするよ、当たり前じゃない。
僕はね、君に関しては絶対全部手に入れるんだから……」
普段は飄々としているのに、心から愛した人への執着は人一倍強くて。淡泊そうでいて諦めが悪くて、冷たそうでいて、狂おしいほどの熱情を抱えている。
これが、千鶴の愛してやまない沖田という人だった。
「……狼というか、猫みたいですね」
自分を組み敷く沖田を見上げて、千鶴はそう口にする。狼の仮装は黒猫と共通点が多い。三角の大きな獣耳に首輪に黒手袋は、黒猫と言われても納得しそうだ。彼自身も狼というよりは猫のようだから余計に。
「……じゃあ物真似でもしてあげよっか?」
口の端を上げて、沖田は余裕たっぷりに微笑む。自分が絶対的な優位に立っている確信があるからか、今の彼はひどく穏やかだ。
「えっ?」
彼の意外な発言に千鶴は驚いてしまうが。
「――にゃおーん」
驚く彼女を差し置いて、沖田はそう口にして招き猫のポーズをした。そのまま握りこぶしの猫の手で顔を洗う仕草をして、舌なめずりまでしてみせる。意外と似ている物真似はびっくりするくらい可愛くて面白くて、千鶴は吹き出してしまう。
「そ、総司先輩ズルいですっ……! なんでこんなに似てるっていうか、かわいいです……! 面白すぎます……!」
格好よくて可愛くて、そのうえ面白い。改めて沖田は最高の彼氏かもしれない。高い観察力と再現力の賜物なのか。物真似が上手いという意外な特技に、千鶴は沖田に惚れ直してしまう。
けれど、猫の鳴き真似で大喜びしている千鶴とは対照的に、沖田は呆れまじりに息を吐くと。
「……千鶴ちゃん反応よすぎでしょ。そんなに猫好きだったっけ」
「猫も好きですよ、可愛いじゃないですか」
「ふうん…… じゃあ今日は一日猫語でしゃべってあげようか? ――なでてほしいにゃあん、とかさ」
「っ……!」
沖田の猫語に千鶴は目を見開き顔を真っ赤にして口を押える。よほどツボにはまったのか。彼女は目尻を下げて両腕を上方に伸ばすと、沖田をなでなでし始めた
「な、なでてあげますっ……! よしよしよしっ……!」
沖田の柔らかいくせっ毛が千鶴の手によってわしゃわしゃにされてゆく。
「ねえ…… なんかおかしくない? 何で僕はこの状況で君によしよしされているのさ」
一応軽めにセットしている髪型をめちゃくちゃにされるのに若干へこみながら、沖田は唇を尖らせる。恋人をベッドに押し倒しているはずなのに、色気もあったものではない。
「そ、総司先輩っ! ちゃんと語尾に『にゃん』をつけてくださいっ!」
「……嫌だよ。やっぱりやめた。猫語はもうおしまい。雰囲気ぶち壊しになるし」
「え~~」
今更ほのぼのとした空気など要らないのだ。今から愛の行為になだれこもうとしてるのに。沖田はむくれるが、そんな彼の本心など知る由もない千鶴は、あからさまにがっかりとした顔をする。
「なんでそんなに残念そうなのさ…… 千鶴ちゃんは……」
「だって……」
千鶴の当を得ない返答に、沖田は不機嫌そうに眉を寄せた。
(……ねぇ、君は僕とイチャイチャしたくないの? 久しぶりの二人だけの時間なのに?)
口には出さないけど、沖田がそのような不満を持ったことは顔を見ればわかる。気づいていないのは当の千鶴だけ。そのうえ彼女はこりもせず沖田の物真似への執着を口にする。
「だって…… すっごく可愛かったんです」
「可愛いって…… 可愛い担当は僕じゃないでしょ……」
沖田は心底呆れた様子でぼそりとつぶやいた。
「えっ?」
「何でもない。――それより、猫の交尾ってどうやるか知ってる?」
「っ、え!?」
唐突にそんな話をふられて千鶴は面食らう。しかし、沖田は容赦ない。
「……知らないなら教えてあげる。後ろからするんだよ。雄が雌の首筋を噛んで、押さえつけながらね。――せっかくだから、やってあげるよ」
千鶴を強引にうつぶせにして抑え込み、沖田は千鶴の首筋に歯を立てる。不意に訪れた強い痛みに、千鶴は息をのみびくりと身体を震わせた。怪我をさせない程度に力加減はされてるけど、これは甘噛みではないような。
沖田の突然の荒々しい振る舞いに、千鶴は怯えた様子を見せてしまう。
「そ、総司せんぱい……っ」
不安に震えるか細い声は沖田の嗜虐心を煽ったらしく、沖田は緑の瞳を楽しげに細めて、熱にうかされたように囁いた。
「千鶴ちゃん可愛い…… やっぱり可愛い担当は君だよ……」
彼女のうなじからわずかに唇を離して、沖田は小さく息を吐く。彼の熱い吐息が首筋にかかり、千鶴もまた当人の意思とは別に、身体の奥の欲望が目覚め始めてしまう。
彼女のうなじにかかるおくれ毛を優しく払い、沖田は自分がつけた歯形に舌を這わせ始めた。
その瞳に宿るのは獲物を狩る獣のような危うい光だ。瞳の奥に燻る熱、何かに酔ったような物言い、沖田はこの状況にすっかり興奮してる様子だった。
先ほどの動物好きの彼女のために、猫の鳴き真似を披露していたほのぼのとした空気は、すっかり雲散霧消していた。
確実に仕留めるために相手の急所を正確に狙う容赦のなさ。高校時代、千鶴とお付き合いする前は勝利に過剰に執着し、得意の剣道ではラフプレーすれすれの激しい戦いぶりで大会でも勝ち上がってきた彼。
決め技の突きでは何人もの失神者を出して、部内の相掛かり稽古の荒っぽさも有名で。日頃いくら飄々としていても、負けず嫌いで闘争心は強い方。
「っ…… そ、総司さん……」
「ん、その呼び方もいいよ……。してるときは先輩は禁止だからね」
「は、はい……」
「いいお返事 素直ないい子にはご褒美あげるよ ――大好きだにゃん、ご主人様」
「っ!」
出し抜けに沖田に猫語を使われて、千鶴は動揺してしまう。まさかこのタイミングでされるなんて思わない、文字通りの不意打ちだ。
「総司さん…… それは反則です……!」
「そう? よくわかんないけど…… 君が喜んでくれるなら、もうなんでもいいよ」
耳まで赤くする千鶴に沖田は小さく息を吐いて微笑むと、さっそく彼女の服を脱がそうとしてきた。
「……せっかくのコスプレだから僕は脱がないけど、君はちゃんと全部脱いでね?」
穏やかな口ぶりとは裏腹に、沖田の悪戯な利き手は着実に千鶴の衣服をはぎ取ってゆく。胸につけている下着のホックをあっという間に外されて、千鶴は羞恥に息をのんだ。
「っ……!」
窓の外にはまだ秋晴れの青空が広がっていて、室内も電気がついてて明るい。そんな中で生まれたままの姿になるのは気恥ずかしく、千鶴は沖田にお願いをした。
「そ、総司さん 電気を……」
「はいはい。でも、電気消しても普通に明るいと思うけどね」
軽口を叩きながらも、沖田は千鶴に言われた通りに消灯する。筋金入りのイジメっ子でも優しいところもある。意外にも千鶴の言うことは比較的聞いてくれるのだ。
電気は消されたものの室内はまだ薄明るい。彼の言った通りだったが、千鶴は多少なりとも安堵の息がつけたのだった。
「……君は全部脱いでるのに、僕は服着たままって、なんかドキドキするね」
密やかな含み笑いを漏らしつつ、沖田は黒の合皮の指なし手袋をしたまま、千鶴の素肌を愛撫していた。
「本当に君にいけないことをしてるみたいで…… ぞくぞくするよ」
「総司さん……」
ベッドの上にぺたりと座る彼女を、背後から抱き込むようにして慈しんでいる沖田に、千鶴は淫らな熱を帯びた囁きを返す。沖田はわずかに苦笑すると。
「でもまぁ、今日はコスプレだからね。僕まで脱いだら意味ないし…… ご主人様はどんなふう可愛がられたいのかな…… にゃん」
「っ! も、もう猫語はいいですよ。総司さん……!」
急に沖田に猫語を使われて、千鶴は動揺と羞恥に赤面する。
「あれっ、もういいの? さっきはあんなに喜んでたのに?」
わかりやすい反応を見せる千鶴を忍び笑いを漏らしながら揶揄して、沖田はさらに彼女を追い詰めてゆく。
「遠慮なんてしなくていいのに…… にゃん」
「……っ!」
猫の物真似を続けながらも、沖田は指なし手袋をした両手で千鶴の胸の膨らみを可愛がる。黒の皮手袋をした骨ばった大きな手が、千鶴の裸の乳房を形が変わるほどにしっかりと掴んで、むにむにと揉んでいた。
胸の突端が手袋の固い合皮に擦れて、千鶴は眉を寄せ心地よさそうな吐息を漏らす。
そのまま彼女の胸を優しく揉んでいると、沖田は千鶴が自分の手を見つめていることに気が付いた。男の手に興奮する女の子がいるのは知っていたけど、まさか千鶴もだったとは。ちょっと意外な気もしたけど、大好きな彼女が自分の身体に欲情してくれるなんて、これほど嬉しいことはない。
沖田は自分の手指の骨ばった筋や血管を、千鶴にさりげなく見せつけるようにして、彼女の膨らみを可愛がる。竹刀を握って激しい練習や試合を続けているのに、すっきりと綺麗な長い指は密かな自慢だ。顔とセットでよく褒められるパーツでもある。
(……そろそろ、いいよね)
呆けた様子で自分の手を見つめる千鶴に、沖田は声をかける。
「――女の子って、男の手結構好きだよね」
「っ! 総司さん……」
「千鶴ちゃんも、僕の手に見とれてた?」
見つめていたのに気づかれていた恥ずかしさからか、千鶴は耳まで赤くする。否定しないのは肯定で、千鶴の初々しい反応に沖田は喉を鳴らして笑うと。
「――ご主人様はわかりやすいにゃん」
「っ、総司さん……!」
「見たいなら好きなだけ見ててくれていいよ。こういうときでもないと、手なんて眺める機会ないだろうし。……ちゃんと見てて、僕の手が千鶴ちゃんの身体を可愛がってるところ」
そう口にして、沖田は充血して固くなった下腹部を彼女にぐっと押しつけた。
「……っ」
千鶴は小さく肩を震わせて俯く。明らかに動揺している様子だ。そんな彼女にますます気をよくした沖田は、彼女の脚の間に片手を差し入れた。
薄明りの室内で沖田は後背から千鶴の裸の身体を責める。指なし手袋をした手が千鶴の両胸を強く揉みしだいて、脚の間の割れ目を存分に嬲り、押し寄せる快楽の奔流に千鶴は呼吸を忘れそうになっていた。
「あっ…… 総司さん…… 手袋が……」
「痛くなったら教えて……?」
硬い合皮の手袋をしたままの愛撫だから、千鶴の柔らかく潤んだ粘膜に合皮の冷たく固い生地が何度となく触れ、そのたびに千鶴は甘やかな悲鳴を上げた。
脚の間のあの場所を固い異物で責められるなんて、千鶴にとっては初めてのことだ。
指なし手袋だから、合皮の固い生地が入り込んでくるのは割れ目の浅いところまでだけど、その独特の刺激の虜となってしまった千鶴は、躊躇いがちに沖田に声をかける。
「っ……! 総司さん……!」
「なぁに?」
「手袋の生地があそこに当たるの、なんだか……」
気持ちいいんです、とはさすがに続けられない。千鶴は顔を火照らせたまま俯くが、沖田は容赦がなかった。千鶴に素直な気持ちを吐露させようとしてくる。
「なんだか…… なあに? その先が聞きたいな」
「……っ!」
「当ててあげる。気持ちいいんでしょ? ……ほら、言ってごらん千鶴ちゃん。手袋の固いのがあそこに当たって気持ちいいですって」
「そ、総司さんの意地悪……」
「こら、拗ねないの。……ちゃんと言えたら、いっぱいご褒美あげるよ。 ……ほらご主人様、言ってほしいにゃん」
「っ!」
ここまで追い詰められては、もうどんな願いでも口にするほかない。千鶴は意を決して、震える唇に言葉を乗せた。
「あそこに手袋の固いの当たって気持ちいいですっ……! もっといっぱい触ってくださいっ……!」
淫らな愛猫へのご主人様からの切なるお願い。もちろんそれはすぐに叶えられる。
「……ご主人様は素直で可愛いにゃん、なんてね」
そう口にしてすぐ。沖田は手袋をつけたまま、千鶴の割れ目を容赦なく愛し始めた。
何本もの指を裂け目の最奥まで沈みこませ、手袋が彼女の体液で汚れてしまうのも構わずに、素手での愛撫と寸分違わぬ動きで千鶴の内部を蹂躙する。
「っあ……! 総司さんっ……! ごつごつしたの当たって、いっぱい入ってきてるっ……!」
千鶴の最奥まで入れられた何本もの指がばらばらと動き、手袋の合皮の生地もまた彼女の中の深くまで侵入し、その無機質な固さで千鶴を責める。
割れ目の表面や内部を襲うごつごつとした異物の感触。秘すべき裂け目に固く冷たい異物の侵入を許したのなんて初めてだ。すごくいやらしくて、すごく気持ちいい。千鶴は涙声で沖田に訴える。
「固いの中にたくさん当たって、すごくいいです…… こんなの初めて……」
「ははっ、――だろうね」
初心な千鶴が自分のあそこに異物を挿入した経験があるとも思えない。沖田は想定内とばかりに薄く笑う。
「千鶴ちゃんの異物バージンもらっちゃったかな」
「え……っ?」
「なんでもない。……いつもこんなふうにしてるんだよ。これでももっとひどくしたいのに、我慢して優しく触れてるんだから」
滾る欲望をそのままぶつけているのではなく、彼女を思いやってセーブしている。これでも。千鶴は信じないと思うけど本当なのだ。
沖田は手袋が彼女の蜜で汚れているのを確かめると、満足げに笑った。
「あはは。手袋、ご主人様の甘酸っぱいのでいっぱい汚れちゃったにゃん」
「っ、総司さん……」
彼の言う通り、沖田の黒の皮手袋には千鶴の透明な体液がそこかしこに付着して、てらてらと光っていた。粘度の高い白いものまでしっかりとこびりついている。
学祭で使う衣装を自分のあそこの蜜で汚してしまった。千鶴にしてみれば笑っている場合ではないのだが、沖田は呑気そのものだ。なんでもないことのように、千鶴の体液で汚れた手袋をゆっくりと引っ張って外す。
それだけの仕草がなぜかとても色っぽくて、千鶴の胸は高鳴った。
黒の皮手袋が外れて、沖田の右手がむき出しになる。こんなにもまじまじと彼の手を見つめたのは、きっと初めてだ。筋張って血管の浮いた手の甲はとても綺麗で、男の人の手がこんなに色っぽいなんて思いもしなかった。
今からこの手でもう一度、自分の感じてしまう場所を愛してもらえるとかと思うと、千鶴は期待に喉を鳴らしてしまう。
「……うん。じゃあ今度は手袋なしで弄ってあげる。……たくさん可愛がってあげる」
再び沖田の長い指が千鶴の中に沈められ、千鶴は呼吸を詰めた。
「っ……!」
千鶴の様子を確かめながら、沖田は彼女の中に入れている指の数を徐々に増やしてゆく。そして、先ほどと同じく。千鶴の中に沈められた彼の指がばらばらに動き始めた。
そのうえ、今度は沖田の左手の指先が千鶴の割れ目の先端の突起に添えられて、そのまま強い力でその場所を刺激し始めた。こんなことをされては、もうたまらない。
「っ、ああっ……! 総司さんっ……!」
待ちに待った快楽に千鶴は裸の身体をのけぞらせた。
「……ご主人様はすっごく気持ちよさそうだにゃん」
反応のよい千鶴に、沖田はくすくすと笑う。嬉しげに細められた緑の瞳はまさに上機嫌な猫のよう。
沖田は猫に似ている。じゃれて甘えて拗ねてみせて飼い主の気を引く、甘え上手なわがままっ子。恵まれた容姿や悪戯な振る舞いで、何をしても許されてしまうのも猫と同じだ。
「っ、あ…… ああっ……」
割れ目の中と先端の突起を沖田に散々に弄られて、千鶴は息も絶え絶えだ。一番感じてしまう場所と二番目に感じてしまう場所を同時に責められて、気をやりそうになってしまう。
千鶴は脱いでいるけど沖田は服を着たままだったから。激しい愛撫に悶えながら身をよじるたびに、沖田の服の生地が肌に当たって、千鶴は気を散らしてしまう。この調子では愛の行為に浸りきれない。
彼の素肌の温かさやなめらかさが恋しくなった千鶴は、我慢できずに自分から彼を欲しがってしまった。
「総司さん…… お洋服脱いでほしいです……」
「うん、いいよ。脱いであげる……。そのかわり猫耳は君がつけてね」
「えっ……?」
「今度は君が僕の猫ちゃんになる番」
沖田は甘い微笑みを浮かべるが、千鶴はそんな彼に若干の不安を覚えてしまう。こういうときには絶対に裏がある。千鶴は経験でそれを知っていた。