現パロ孟花
名前変換設定
恋戦記は現在一部のお話のみヒロインの名前変換可です薄桜鬼とテニプリは名前変換可、刀剣乱舞はネームレス夢です
恋戦記小説について
現在一部作品のみ名前変換可にしていますが、ヒロインの下の名前「花」が一般名詞でもあるため「花瓶の花」などで巻き込み変換されてしまいます
それでも良い方は変換してお楽しみください。それがダメな方はデフォ名「山田花」でお楽しみください
すみませんが、よろしくお願いいたします
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巨大なサンルームのような建造物の中にあるのは、大きなプールに滑り台のようなスライダー。ここはとある街にある温水プールだ。
そして、今まさに船のような大きな浮き輪に乗ってウォータースライダーを楽しんでいるのは……。
「――キャー! 名前ちゃん怖いよぉー!」
「――わわっ! 孟徳さん危ないっ……!」
すさまじい勢いで滑り降りてきたふたりは、水着姿で抱き合ったまま浮き輪ごと勢いよくプールに放り込まれる。
大きな水音と同時に上がる水しぶき。ふたりはプールに沈んだまま、なかなか浮かんでこなかったが。ようやくバシャッという水音と同時に、威勢よく顔を出した。
「――孟徳さん! 危ないじゃないですか!」
「――ごめんごめん~」
主に連れの男性の能天気な雰囲気に、ふたりの溺水を心配してプールサイドに集まっていた人々は、呆れたようなため息をついてその場から離れていく。
『なんだ元気じゃん』
今やプールサイドに残されていたのはたった二名。夏候元譲と荀文若だ。苦虫を噛み潰したような顔でプールサイドに佇むふたりに、孟徳は冷たい目を向ける。ずぶ濡れの髪をかきあげてから堂々と言い放った。
「……何だお前ら。わざとやってるだけだから来なくていいぞ」
「孟徳さん……」
髪をかきあげる仕草は格好いいのに、これじゃあ台無しだ。自分の恋人の相変わらずの態度に名前は呆れてしまうが、気を取り直して彼を睨みつけた。
「溺れたフリはナシでお願いします! 危ないですし、みんな心配しますから!」
プールの監視員に見つからないかったのが不幸中の幸いだった。しかし、孟徳に反省の色はない。
「はーい」
返事は明るく適当で、それどころか孟徳はご機嫌な様子で水着姿の名前に抱きついてきた。
「っ!」
名前はまわりの目を気にして彼を引きはがそうとするが、孟徳が名前を離すはずもなく。結局、名前はプールの中で孟徳に一方的に抱きしめられていた。周りの視線が痛い。
びしょぬれの水着姿で、こんなことをされるのはすごく恥ずかしい。まるで裸で抱き合っているかのような密着度の高さで、名前はソワソワとしてしまう。
このままではいけない。そう判断した名前は孟徳の気を逸らすべく話題を変えた。
「……一緒に流れるプールで遊びましょう。孟徳さん。私が浮き輪を使うので、孟徳さんは私の浮輪につかまってください。そうすればずっと一緒にいられます」
「うんわかった!」
ようやく納得したのか、孟徳は笑顔で名前を解放して。ふたりはようやくプールから上がってくる。そんな孟徳と名前に向かって、元譲と文若は口々に声をかけた。
「――そうしてくれ、寿命が縮む」
「まったくもってその通りです。名前、常務を頼んだぞ」
「はいっ!」
名前は孟徳をなるべく視界に入れないようにしながら、元譲と文若に返事をする。
「おいお前ら、俺は子供じゃないぞ!」
「孟徳さん、わかりましたからもう行きましょう」
これ以上おかしな目立ち方をしたくない。名前は周囲の、主にプールの監視員の目を気にして、孟徳を連れ出そうとした。
ビキニに薄手のパーカーを羽織っただけの格好で孟徳の腕に自分の腕を絡めて、さりげなく胸の膨らみを押しつける。本当はこんなこと恥ずかしいからしたくないけど、背に腹は代えられない。
そして、名前の思惑通り。名前に胸を押しつけられた孟徳はとたんに上機嫌になる。
「うん行く! 流れるプール楽しみだね! 名前ちゃん!」
「……っ!!」
なんとなく、孟徳の腕が自分の胸の膨らみを押し返すように動いている気がするが、思い過ごしだろうか。
名前の胸が孟徳の身体に先ほどよりもしっかりと押しつけられて、名前は思わず変な声を出してしまいそうになる。感じてしまう胸の膨らみの先端が水着の中でこすられて、その刺激にたまらない気持ちになってくる。
(も、孟徳さんのバカ……!)
周囲にはまだ多くの無関係な人たちがいる。その人たちに恥ずかしい声を聞かせるわけにはいかず、名前は必死に声を押し殺す。
少し離れたところでふたつの盛大なため息が聞こえたが、名前は聞かなかったことにした。
ようやくたどり着いた流れるプール。
赤地に白の水玉模様の大きな浮輪をつけて、名前はぷかぷかと浮きながら流されていた。孟徳もまた名前の浮輪につかまって一緒に流されている。
真ん中に穴の開いたドーナツのような、あるいは運動場のトラックのような楕円型のプール。中央は川の中州のようになっていて、泳ぎ疲れた人が休めるようになっている。
もう夏も終わりだけどまだ暑いから、プールの水のぬるさが心地よい。冷たすぎない適温だ。屋内だから直射日光に当たらずに済むのも、温水プールの長所だった。
「こうやってふたりで泳ぐの楽しいですね」
「うん、そうだね。すごく楽しい」
ひとつの浮き輪をふたりで使っているから、相変わらず名前と孟徳の密着度は高いまま。
好きな人と水着でくっつくのはとても刺激的だ。まるでふたり一緒にお風呂に入っているみたいでドキドキする。
浮き輪につかまって流されながら、名前と孟徳は他愛ないお喋りをしていた。
「ただ流れているだけなのに、何でこんなに楽しいのかなって思うよ。名前ちゃんと一緒だからかな」
「も、孟徳さん」
「ジムで泳ぐのは飽きるけど、こういうところは飽きないね。一日中ここにいたいって思える」
目尻を下げて甘い微笑みを浮かべる孟徳に、名前も幸せな気持ちになる。
「私もです。私もこうやって孟徳さんと一緒にいたいです」
「ありがと。じゃあ、流れるプールもう一周しようか」
「はいっ!」
そのまま名前と孟徳は、流れるプールを何周もして楽しんだ。
***
そして、沢山泳いだから少し休もうということで。孟徳と名前は軽食やドリンクなどのプールサイドグルメが楽しめる売店に向かって歩いていた。先ほどまでふたりで使っていた大きな浮き輪は、孟徳がかつぐようにして運んでいる。
「わ、孟徳さん、あそこ滝がありますよ! すごいですね」
目立つところにある人工の大きな滝。川下りを模したウォータースライダーに併設してあるものだ。
「小さな虹が出てます! 見えますか?」
「え? ……あっ、見えた見えた! すごいね!」
ささやかなことで、ふたりははしゃぐ。
「あ~ 名前ちゃんといるとホントに楽しいなぁ」
「私もですよ。すごく楽しいです」
「そっか~ 嬉しいな!」
明るく優しい名前と社交的でノリのいい孟徳。笑い合うふたりは年が離れていても似合いのカップルだ。しかし、孟徳は不意に真面目な顔になると。
「ところでさ、名前ちゃん……」
「なんですか?」
「ちょっと大事なお願いがあるんだけど」
「えっ……?」
「そのパーカーみたいなラッシュガード、脱いでみてほしいんだよね……」
「あの……。……どうしてですか?」
「別にやましい気持ちはないんだけどさ! 下に着てるビキニかわいいなってと思って、ちゃんと見たいって言うか……!」
「……水着のデザインが気になるんですか?」
「うんそう! 水着の柄とかもっとよく見たいなって……」
「白の無地なんですけど、そんなに気になりますか……?」
「うん! ほら、脱いだら日焼け止めなんかもさ! 俺、塗ってあげるし……!」
「……屋内プールなんですけど、必要ですか?」
「必要だよ! ここサンルームみたいになってて、結構日差しも強いしさ、だから……!」
「――孟徳っ!! お前はさっきから一体何を言っているんだ!!」
孟徳と名前の不毛なじゃれあいに割り込んできたのは、夏候元譲その人だった。
「あっ元譲さん」
名前は驚いた顔をするが、孟徳は盛大に舌打ちをする。
「……元譲。俺は『来なくていい』と言ったはずだが?」
「俺だって来たくて来てるんじゃない!」
やりたい放題の孟徳に元譲は全力で反論する。
「孟徳、ここはプライベートビーチではなく公共の場だ! 人目もあるんだからいい加減自重してくれ!」
「――元譲殿の仰る通りです」
「文若さんもいつの間に……」
元譲のあとをついてきていた荀文若は、かわいらしいビキニに薄手のパーカーを羽織っただけの姿の名前に視線をやると、大きなため息をついた。
「……名前、お前はもう少し物事を深く考える癖をつけろ。このような場所で無駄な露出などする必要はない」
その言葉通り、文若はラッシュガードで完全武装していた。ハーフパンツのような水着の下には足首まである黒のレギンス、上半身は首元のつまったぴったりとした長袖。なかなか暑そうないでたちだ。
「文若さんはフル装備ですね」
「ああ。強い日差しを浴びるだけでも体力を消耗するからな。それを防がねばならん」
(文若さんもUV気にするんだ……)
夏季休暇中でも自宅で仕事をしていそうな彼が、日焼けを気にしているのが不思議だ。
名前が文若に気を取られている隣で、孟徳と元譲は子供のような喧嘩をしている。
「……孟徳、お前は女子大生相手に自分が恥ずかしくないのか。俺は情けなくて涙が出たぞ」
「嘘つくなよ、元譲。お前泣いてないじゃないか」
「ただの誇張表現だ!」
「ふん! お前と俺を一緒にするなよ! 俺は何ひとつ恥ずかしくないね! なんせ、今まで散々やってきたことだからな!」
「孟徳ッ!」
くだらないことで胸を張る孟徳に元譲は青筋を立てる。しかし、なんとなく看過できない発言を聞いた気がして名前は真顔になった。
「え……?」
文若も呆れた様子でこめかみに手を当てている。
元譲は思わず盛大に咳き込んだ。
「ゴホッ!」
名前が慌てて元譲に駆け寄り、背中をさする。
「だ、大丈夫ですか? 元譲さん」
このままではいけない。主に孟徳が墓穴を掘る一方だ。そう思い直した元譲は最後の手段に出た。
「いや、平気だ。すまんな……。ところで、名前。向こうに美味そうなソフトクリームが売っていたぞ。たまには俺が買ってやろう」
「……元譲さん?」
「……元譲殿?」
いぶかる名前と文若に構わず、元譲は名前をこの場から連れ出そうと、彼女のパーカーの袖口を掴んだ。
「お前にはいつも孟徳の件で迷惑をかけているからな。好きなものを頼むといい。さぁ行くぞ。孟徳の世話は文若に任せておけ」
「わわっ、元譲さん……!」
そのまま元譲は名前を引きずってゆく。
「あっ、待てよ元譲! 俺の名前ちゃんを連れて行くな! この……!」
「お待ち下さい、常務! 元譲殿っ……!」
何の生産性もない揉めごとにようやく決着をつけて。四人は並んでソフトクリームに舌づつみを打っていた。
「すごく美味しいです! 元譲さん、ありがとうございます!」
「いや、別に構わんのだが……」
笑顔の名前と疲れた様子の元譲に視線をやってから、孟徳は呆れたように息を吐く。
「なんかこの絵面、ものすごくシュールだよな……」
四人揃って派手な見た目のかわいらしいソフトクリームを食べている。
ピンクと白のソフトクリームがプラカップにクルクルに巻かれて入れられて、トッピングにチョコレートでできたうさぎの耳とリボンが飾られている。若い女性に大人気のSNS映えスイーツだ。
「……名前ちゃんはかわいいからいいけど、お前らはつくづくどうしようもないな」
孟徳は呆れた様子で、ピンクのソフトクリームを口に運ぶ男ふたり、文若と元譲を見やった。
「仕方がないでしょう。これ以外メニューになかったんですから」
「元はと言えば孟徳、お前が余計なことばかり言うから……!」
「余計なことじゃない! 何よりも大切なことだ!」
また喧嘩をされてはかなわない。名前は孟徳と元譲の会話に割り込んだ。
「げ、元譲さんがピンクのウサギさんアイス食べてるの可愛いです!」
「そ、そうか……?」
イカツイとカワイイのコラボ。筋骨隆々の元譲が半裸でピンクのうさ耳ソフトクリームを食べているのが面白い。
名前に褒められて満更でもなかったのか、元譲はモジモジと照れ始めた。無事に話の腰は折られたが、今度は嫉妬深い孟徳がライバル意識をむき出しにしてくる。
「名前ちゃん! 元譲のことなんか褒めないでよ! 俺の方がかわいいでしょ! イエベだからピンクも似合うし!」
「家……? 常務、ご自宅がなにか……?」
「文若さん、あの、そういうことじゃなくてですね……! 孟徳さんもいい加減にしてください!」
結局、収拾がつかなくなってしまった。大人げない大人たちを前に、名前は叫んでしまうのだった。
その後。
「わぁ! こっちは海みたいですね」
「ほんとだね、海水浴場みたい」
長方形の大きなプール。その最奥には造波装置があり、その手前には機械に人が近づかないように太いロープが張られて、いくつものオレンジのブイが注意喚起のために繋がれている。
名前のパーカータイプのラッシュガードを脱がせてビキニ姿を楽しみながら、彼女の素肌に日焼け止めを伸ばしたかった孟徳だが。現状その野望は阻止されていた。
(あいつら、ふざけるなよ! 俺は今度こそ絶対に名前ちゃんを脱がせてみせるんだからな!)
そんな心の声はおくびにも出さず、孟徳は名前に爽やかな笑顔を向ける。
「じゃあ泳ごっか! はい名前ちゃん浮き輪どうぞ」
「ありがとうございます。でも、その前に……」
「どうかしたの?」
もじもじと恥ずかしそうにする名前に、孟徳は戸惑うが。
「……ラッシュガード、脱いだほうがいいんですよね? ちゃんと脱ぎます」
「は、名前ちゃん……」
まさかの展開である。恥ずかしそうにしながらも、孟徳の目の前でパーカーを脱いで大胆なビキニ姿を披露してくれる名前に、孟徳はごくりと喉を鳴らす。
名前はパーカーを手にしたまま、淡く頬を染めて孟徳をじっと見つめてきた。
「私も、孟徳さんに水着を見てもらいたくて……。似合ってますか?」
白い無地のホルターネック。ボトムスはティアードのミニスカートになっていて、赤のパイピングと同色のリボンがワンポイントでついている。
しかし、もちろん孟徳のお目当ては水着ではなく、それをつけている本体だ。すらりと伸びた脚に健康的な太もも、すっきりと細いウエストに小さなおへそ。そして、ささやかだけど確かに存在するふたつの胸の膨らみ……。
(つくづく、ビキニって素晴らしいよな……)
女の子の大切な場所を、わずかな布で隠しているだけの裸同然の格好なのに。ただの水着として市民権を得ている。
こんな大胆な姿の名前を見ているだけで、どうにかなりそうな気もするが。孟徳はそのような感情はおくびにも出さず、名前の水着姿を褒め称えた。
「うん、かわいいよ! すごくかわいいし、よく似合ってる!」
しかし、心の奥の欲望はごまかせない。あまりにもわかりやすく、孟徳はデレデレとしていた。目尻は自然と下がり、まるで思春期の少年のように妙なテンションで浮かれている。
けれど、そんな孟徳の心の内を知ってか知らずか。名前もまた、はにかんだ笑みを浮かべて謝意を述べてきた。
「……ありがとうございます。頑張って着てきてよかったです」
しかし、名前は不意に怒ったように眉を寄せると、孟徳に詰め寄ってきた。
「でも、孟徳さん、さっきの発言はひどいです! 今まで散々やってきたって、一体どういうことなんですか!?」
「えっ!? いやだな名前ちゃん、そんな昔のことはもういいじゃない!」
ビキニ姿の名前に急に距離を詰められて孟徳はタジタジだ。
経験豊富な大人の男として女性の裸くらい見慣れていたが、孟徳が今いる場所はシティホテルのベッドではなく昼日向の温水プールだ。ついうっかり男の生理現象を起こして股間を膨らませてしまったら目も当てられない。
変な気を起こしてしまわないように、孟徳は特に意味もなく左上の虚空を見つめて、荀文若の顔を思い浮かべた。
(よしっ、萎えてきたな)
ほんの少しでも視線を下にやれば名前の胸の谷間が見えてしまう。
身長差があるから今なら合法的に覗き放題なのだが、今のこの状況で彼女の胸を見ていることがバレたら炎にガソリンを注いでしまう。
「……そ、それより早く泳ぎに行こうよ! 名前ちゃん! パーカーは適当なところに置いといてさ!」
「ひゃっ、孟徳さん!」
孟徳は名前のパーカーを取り上げてそのあたりに投げ置くと、自然な流れで彼女の手を取った。そのままプールへずんずんと入っていく。
少し離れたところに浮かぶ色鮮やかなブイに、本物そっくりのヤシの木に人造の砂浜。寄せては返す波も本物の海と全く同じで、ここはまさに人工の海水浴場だ。
「……ここは人が多いですね」
浮き輪をつけて波に揺られながら、残念そうに名前はつぶやく。このプールはなぜか人が多くて芋洗い状態だった。
「そうだね。……でもこれだけ人が多いと、くっついていても目立たないよ」
ここぞとばかりに、孟徳は名前に身体を近づけて片目を閉じる。
「も、孟徳さんってば……」
先ほどの流れるプールと同じように。大きな浮き輪を名前が使って孟徳はそれにつかまる形で、ふたりは波に揺られていた。引く波でプールの奥に引き込まれ、寄せる波で押し返されて、それをずっと楽しんでいる。
「こうやって、波に揺られているだけでも楽しいですね」
「そうだねぇ」
流れるプールで流されていたときとほぼ同じ名前の発言に、孟徳はのんびりと同意する。
ただ波に揺られて漂っているだけだから。まるで海の浅瀬のクラゲのようだ。相変わらず周りに人は多いけど、すごく楽しい。それはきっと隣に名前がいるからだろう。
自分のために羽織っていたパーカーを脱いでくれた名前。
先ほどからずっと、名前のビキニ姿の上半身を至近距離で楽しんでいる孟徳はご機嫌だった。華奢な彼女らしく、文字通り水の溜まる鎖骨はすっきりと美しかった。色白の素肌も美しく、なだらかな肩のラインは見惚れるほどだ。
自分の眼前にあるささやかな胸の膨らみにも、たまらなく心惹かれる。この柔らかさを知る男は自分だけという事実を噛みしめて、孟徳は幸福に浸った。彼氏の特権として、隙を見つけてもう一度抱きつこうと孟徳が決意した、そのとき。
「……あ、そういえば」
「なぁに?」
「文若さんは、プールに来たのに泳がないんでしょうか……?」
「え?」
「さっき、水着が濡れてなかったように見えて……」
「…………」
愛する恋人に他の男の話をされてしまって。孟徳のテンションが一気に下がる。他の男のことを気にする彼女の姿なんて見たくなくて、気がつけば孟徳は名前から目を逸らしていた。
「……別にどうでもいいじゃない。あんな奴のことなんて」
わかりやすくむくれる孟徳に、名前は慌てて言い訳をした。
「す、すみません孟徳さん……。ただの世間話ですよ、怒らないでください」
「……別に、名前ちゃんには怒ってないよ」
なんとなく腹が立つが名前に手は出せないし出したくもない。やり場のない感情を孟徳はここにいない文若に向けた。
「……名前ちゃんあいつはね、実はね」
「……?」
「泳げないんだよ。昔、川に落ちてそれがトラウマなんだって。だから今日はね、俺の見張りをしながらプールサイドで適当に時間潰すらしいよ」
「……そ、そうだったんですか」
思わぬ裏話を聞かされて名前は反応に困った顔をする。見張りって子供の親じゃあるまいし。
「文若にしろ元譲にしろ、別に来なくていいのにね。ね、名前ちゃん」
「……孟徳さん」
返す言葉に詰まって名前は苦笑した。へそを曲げられるのは分かりきっているから『ふたりともあなたを心配してるんですよ』とは言えない。
「あ、そういえば名前ちゃんも昔、川で溺れてたことがあったよね」
「そ、そうでしたね……」
名前が子供の頃。キャンプ場の近くの川で溺れていたところを孟徳に助けられたことがあった。それが、今世での孟徳と名前の出会いだった。
「懐かしいよね……。また君が溺れたら、必ず俺が助けてあげるからね」
「あっ……。……だから、こうやっていつも近くにいるんですか?」
同じ浮き輪につかまって、片時も離れずに。孟徳はずっと名前にくっついていた。
「うんそう。ま、それだけじゃないけどね。……君のそばにいたいからいるだけ」
「孟徳さん……」
相変わらず孟徳は過保護で心配性だった。
(さすがにもう溺れたりしないと思うんだけどな……。というか、昔溺れたときは孟徳さんのせいだったような……?)
孟徳の行動は、やっぱりわかるようでいてわからない。でもきっと彼なりの理由や事情があるのだろうと名前は自分を納得させた、
「そんなことより、名前ちゃん! ウォータースライダーもっかいやろうよ!」
「……こ、今度は抱きつくのはだめですよ! 孟徳さん!」
今の名前はビキニ姿だ。パーカーを脱いでいるから、大事なところをわずかな布で隠しているだけ。
先ほどパーカーを羽織った状態で孟徳に抱きつかれたのも、かなり恥ずかしかったのに。露出過多の今の姿でそんなことになってしまったら、さすがに恥ずかしいでは済まないだろう。完全なるセクハラだ。公衆の面前でビキニ姿で水着の彼氏と抱き合うなんて、非常識が過ぎる。
しかし、孟徳はあからさまに残念そうな顔をした。
「ちえっ、仕方ないな」
先ほどもしっかり絞られたはずなのに、やはり彼の辞書に反省の文字はないようだった。
「……」
盛大に拗ねている様子の孟徳を、名前はこっそりと見つめる。
細身だけど引き締まっている筋肉のついた綺麗な上半身。孟徳はラッシュガードを着ておらず、ハーフパンツのような水着だけだったから。なかなかどうして、名前の目には刺激が強かった。
(私の水着より孟徳さんの水着姿の方がずっとかっこいいよ……)
恋しい人の姿はいつだって特別に輝いて見える。プールサイドで誰より目立っていた恋人の姿を思い出し、気がつけば名前は柔らかな笑みを浮かべていた。
夕方までプールで楽しく過ごして。その場で孟徳たちと解散した名前は帰り道を一人でとぼとぼと歩いていた。
(いつもは孟徳さんが家まで送ってくれるんだけど、今日はなしかぁ。寂しいな……)
茜色の混ざり始めた夕焼け空はすごく綺麗だけど、なんだか行きよりも荷物が重い気がする。水を吸ったバスタオルが肩にずっしりとくる。持ってきた水筒はもう空で、そのぶん軽くなっているはずなのに。自然と名前の足取りも重くなりがちだった。
(でも、仕事があるなら仕方がないよね)
名前が自分を励まして気持ちを切り替えた。せっかくの楽しかったデートの帰り道で、暗い顔でいたくなかった。
けれど、ずっとそばにいて笑いかけてくれた孟徳に、自分たちの世話を焼いてくれた元譲や文若の姿を思い出すたびに、名前の心の内で寂しさが降り積もってゆく。なんだか泣いてしまいそうだ。いつから自分はこんなに弱くなってしまったのだろう。
しかし、そのとき。出し抜けに名前のスマホが震えた。表示されたのは『そこで待ってて!』という孟徳からのメッセージ。
「……え? なにこれ」
「――名前ちゃん!」
「孟徳さん……!?」
「間に合ってよかったー! ちょっと焦っちゃったよ。こんなに走ったの久しぶりだし!」
後ろからバタバタと走ってきて名前を呼び止めたのは、メッセージの主その人だった。
「あいつら、ちゃんと撒いてきたら。今からふたりだけのデートしよう!」
全力疾走の余韻で呼吸をわずかに乱したまま、孟徳は明るく笑いかけてくる。
「今からが俺たちの本番! いいよね?」
「……っ、はいっ!」
「よしっ、じゃあ行こっか!」
これが策略だったら天才だ。名前は孟徳からのサプライズを噛み締める。どうしよう、嬉しくて泣いてしまいそうだ。
夕暮れの街を、ふたり手をつないで歩く。不意に孟徳の指先が名前の目尻に伸ばされて、流れ落ちる前の涙をぬぐってくれた。
「……寂しい思いさせちゃって、ごめんね」
あぁ、やっぱりこの人が好きだ。この我儘で優しい人のことを自分は手放したくない。どうすることもできない彼への恋心を名前は胸の内で噛みしめる。
◆後半「夜の水族館編」に続く
あとがき
お疲れ様です。作者です。
もう秋になってしまいましたが、孟徳さんの夏デート話でした。
本当はこれを7月中に書き上げてワンマンスドロ(7月のテーマは夏と食べ物)に
出せたら良かったんですが、こんな時期になってしまってすみません
7月は百日咳に苦しんでいました……涙
今回の孟徳さんとの夏デート話は、あまりにも長くなりすぎたため前後編になりました。
前半は孟徳軍のみんなでプール、孟徳さんから抜け駆けデートのお誘いとなっています。
今回のお話のお気に入りポイントは下記です。
◆みんなでプール
名前ちゃんのビキニが見たい孟徳さん、ウォータースライダーにかこつけて
水着の名前ちゃんに抱きついてくるスケベな孟徳さんがお気に入りです。
水着で抱き合うのきっとすごく刺激的ですよね!
プールデートは全年齢のはずなのにドッキドキだなと思いました。
さすがにウォータースライダーで名前ちゃんのビキニの上が外れて、
というのはやりませんが……(当たり前です)
プールの孟徳さんは下心丸出しのスケベオヤジ感満載ですが、
こういう孟徳さんがダメな方はすみません。
一応自分的には爽やかなオープンスケベを死守したつもりです。
元譲さんと文若さんも書いていてとても楽しかったです。
名前ちゃんに恋愛感情を持ってない脇役の文若さんは書いていてとても新鮮でした
名前ちゃんに褒められてデレる元譲さんや
孟徳さんとくだらない口喧嘩している元譲さんも書いていて楽しかったです
余談ですが、恋戦記のゲーム本編では
孟徳さんは名前ちゃんが嘘をついているときは目を逸らすんだそうです
確かに本編終盤の睡眠薬を飲ませようとする(飲ませないようにする)場面でも
名前「私嘘なんてついてません」
孟徳「もういい聞きたくない」
というやりとりがあったので、孟徳さんは「嘘をついている名前ちゃんを見たくない」
という気持ちがかなり強くあるのかなと思っています。
なので本作でも「他の男の話をする名前の姿を見たくなくて目を逸らす」
場面を書いてみました。
考え中Aの表情差分で脳内再生して頂けたら嬉しいです。
◆抜け駆けデートお誘い
追いかけてきてくれるのすごく嬉しいですし、私は滾るのですが、
キャラ崩壊だったらすみません。ここはとき◯モGS4リスペクトです!
なんだか今作の孟徳さんは全体的に学生さんみたいですね
庶民派ドキドキ健全グループデートをしている孟徳さんがなんだかとても新鮮です
今回の孟徳さんの夏デートも書いていてとても楽しかったです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それではまた次回、孟徳さん夏デート後半のお話でお目にかかれましたら幸いです