嗚呼、青春とはかくも………




青春とは、若い時期、希望を持ち、理想に憧れ、異性を気にし始める時期、らしい。
俺、仁王雅治は今年中学三年生になった。
中学生といえばまさに青春を謳歌している時期だろうが、俺は青春を謳歌している気がしなかった。
部活は、確かに真面目に取り組んでいる。
勉強もそこそこ、交友関係も問題はない。
けれど、何かが欠けている。何かが足りない。


「刺激、かのう………」


全国区の強豪、立海大付属に所属しなが刺激が足りないとは自分でも呆れる。
俺は自嘲気味に笑うと屋上のフェンスに凭れ掛かり、シャボン玉を吹く。
シャボン玉はゆっくり風の力を借りて空へと上がっていく。
俺は、掴めないとわかっていてそれに手を伸ばす。


「仁王くん…？」
「っ……あぁ、六日坂か」


突然声をかけられ驚いた。
彼女は同じクラスの六日坂茶子だ。
三年間同じクラスで春先にまた同じクラスだなと話をした程度で、特に仲が良いということはない。
今は授業中のはずだが、サボりだろうか。
彼女は自分の様に周りを騙す様な人間ではないし、むしろ大人しく真面目に授業を受ける人だ。


「なんじゃ、六日坂もサボりか？意外だのう」
「うーん、サボりたいわけじゃないんだけど、授業に出たくない、みたいな…？」
「なんじゃそりゃ。サボりはサボりじゃろ」
「ふふ、うん、そうなんだけどね」


六日坂は少し気恥ずかしそうに微笑み、フェンス越しの校庭を眺める。
その横顔はどこか愁いを帯びている様で、普段の彼女とは違い大人びた印象だった。


……不覚にも少し胸が高鳴った


「仁王くんはサボり？」
「仁王くん"も"サボりなり」
「ふふ、そうだね。仁王くんもサボりだね。」


六日坂の問いかけにシャボン玉を吹きながら答える。
横目で様子を窺うと先ほどとは違い楽しそうに笑う彼女の横顔が目に入る。
楽しそうに、どこか、所在無さげな彼女は何を見ているのか、……少し気になった。


「お前さんは、何を見とるんじゃ？」
「私？私はね、シャボン玉を見てるよ」
「シャボン玉？」


校庭を見ていると思っていた彼女がシャボン玉を見ていることに驚いた。
どうやら彼女は下に落ちていくシャボン玉を見ていた様だった。
シャボン玉を見ている彼女をぼんやり眺めているとふいに彼女が俺を見た。


「ねぇ見て仁王くん」
「ん？なんじゃ？」
「シャボン玉がね、落ちていくときにね、いつもテニス部の方に落ちていくんだよ」


「仁王くんがテニス大好きだからかなぁ」なんて、屈託なく笑う彼女が逆光でもないのに眩しく見えた。
彼女はほらまた、と落ちていくシャボン玉を指さしては無邪気に笑っている。
風向きのせいとか、たまたまだとか、彼女自身もわかっているだろう。
それでも俺がテニスが好きだから、俺が吹いたシャボン玉がテニス部の方に行くんだろうと言う彼女が無性に愛しく思えた。



青春とは、若い時期、希望を持ち、理想に憧れ、異性を気にし始める時期、らしい。

嗚呼、青春とはかくも、胸が躍るのか。






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