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Paw, my girl!
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ものものしい音を立てて扉が開いていく。
蔵馬さんがコクリと喉を鳴らす。
そっと彼を見遣ると、緊張した面持ちに、冷や汗を浮かべていた。
私は彼の視線を辿り……悲鳴をあげそうになって、口元を押さえた。
5.似たもの同士
「ここ数日、腐蝕が進んでね。しゃべる言葉もめっきり少なくなった」
黄泉さんがポケットに手を突っ込んだまま、それを見下すように立った。
……妖怪だった。
壁に直接、数十の楔のようなものでその身を打ち付けられ、痩せ細った妖怪。
黄泉さんの言うとおり、随所が腐り、腕は千切れて、ウエストもかろうじて数箇所皮膚でつながっている程度。
しゃべる言葉がどうとか言ってたけれど、たぶんそれはものの例えだろう。
どう考えても生きているようには思えなかった。
私は吐き気を覚えて目をつぶりかけたけれど、それじゃいけないと思って、頑張って黄泉さんを見た。
黄泉さんはそんな私を観察するようにこちらへ向けていた顔を、蔵馬さんに動かした。
「蔵馬。心拍数が少し上がっているぞ」
ホント、性格悪い! 楽しそうな顔しちゃって。
「千年ほど前になるかな。こいつに襲われたのは」
私は思わず、さっきまでのムカムカも忘れて目を見開いてしまった。
千年!!
いったいこの人何歳?!
色んな意味で恐ろしい……。
「そう……お前とオレが新興勢力として名を上げようと躍起になっていた頃だ」
って……もしかして、蔵馬さんも千年以上生きているってこと?
相変わらずギンギンと黄泉さんを睨みつけている蔵馬さんは、どう見ても私と同年代にしか見えないんだけど。
人って、あ、いや妖怪って、見た目じゃないんだな。
ひとりで百面相をしている私を黄泉さんはチラッと見てふっと笑った。
それは本当に見えているような仕草だった。
そして、何もわからない私にも説明するかのように語り始めた。
「名を上げ国を建てるためには力と財産がいる。一挙両得として選んだ方法が盗賊。魔界で最もポピュラーな職業。オレが副総長で、お前が頭」
この高潔そうな蔵馬さんと黄泉さんが盗賊……それも蔵馬さんが「お頭」……。
アラビアンナイトに出てくる盗賊みたいなのを思い浮かべた私は頭が真っ白になってしまう。
「当時のオレは、我が強く、単独行動も目立った。力を過信し、血の気も多く、何より頭が悪かった」
何があったのか分からないけれど、彼の語る「過去」はいまの黄泉さんとは丸きり正反対の性格のようだった。
黄泉さんは自嘲するように唇を歪める。
「逆にお前は沈着冷静。オレとは質の違う残酷さはあったが、まず計画を重視し、人より三つくらい先のことを常に考えていた。今思えば、あの頃のオレの愚直な玉砕主義は、将来を見越すお前の懸念材料だったといえる」
正直、妖怪の寿命とかそんなことより、こんな冷たい空気を作り出す二人が同じ夢を追っていたってことの方が驚きだった。
どっちかっていうと、宿敵とか、せいぜいライバルって雰囲気なのに。
だいたい、蔵馬さん、昔のお仲間に対してどうしてこんなに警戒しているんだろう……?
「そんな折だ。ある村を襲撃するため別行動をとっていたオレの目の前に、こいつが現れた」
黄泉さんは言って、つながれた妖怪を見た。
「こいつは強かった。当時のオレと比べての話だが」
襲われたそのときに、黄泉さんは視力を失ったのだという。
「目を失う代わりに、相手にも深手を負わせた。『報酬よりも命が大事』それがヤツの捨てゼリフ。わけもわからぬまま、本隊の救助を待った。しかし、ついに合流する事はなかった」
蔵馬さんはますます青ざめた顔で冷や汗をいっぱい浮かべている。
その表情で、黄泉さんが何を言いたいのか、私にもわかった。
蔵馬さんは――裏切ったんだ。黄泉さんを。
ようやく、蔵馬さんのさっきからの態度の理由がわかった。
私は俯いて唇を噛み、上着の裾を爪でしごいた。
やっぱり……やっぱり、私は外にいればよかった。
私は、こんな話を聞くような立場の人間じゃないのに。
イヤだよね。私だったら絶対聞かれたくないもん。
突然、肩に手が乗り、驚いて顔を上げると、蔵馬さんと目が合った。
彼は「気にしないで」という風に微笑み、すぐに厳しい顔で黄泉さんを見た。
「心拍数が正常に戻ったな。さすがだ」
黄泉さんはその蔵馬さんの表情の変化を敏感に感じとると、目の前の妖怪に更に近付いた。
「起きろ」
思わず、口を覆ってしまった。
息絶えていると思った妖怪は、あんな状態だったのに、生きていた。
苦しそうなうめき声をあげている。
「殺……してくれ……頼む……殺し……て」
死を懇願するその妖怪を見下ろして、黄泉さんは静かに答えた。
「いいだろう。だが、その前にもう一度オレの質問に答えろ。誰に頼まれてオレを狙った」
「ぎ……銀……髪の妖狐。おそろしく冷たい眼をした男」
銀髪? それじゃ、蔵馬さんじゃないじゃない。
そんな風に疑問を浮かべていた私は、急に蔵馬さんの胸に抱きかかえられた。
なっ、何っ!?
私が聞くより先に、ぐしゃっとイヤな音が背後に響いた。
「見るな」
小さく蔵馬さんの声が頭の上から降ってくる。
背中がぞくっとした。
ま……まさか……本当に、殺してしまったの?
自ら死を願うほど酷い状態で生かしておいて、蔵馬さんへの見せしめに使って、その挙句に千年も前の怒りをぶつけて殺してしまったの?
黄泉さんは確かに光を失ったけど、あの人だってあんな身体にされていたじゃない。
殺すなんて、酷すぎる!
私は黄泉さんにひとこと言ってやろうと彼に向き直ろうとしたけど、蔵馬さんは腕に力をこめて、それを許さなかった。
「静かに」
私はもちろん、あの妖怪と話したことなんてない。知らない。
それでも、くやしくって涙がにじんだ。
こんなことが許されるこの世界が腹立たしかった。
「断っておくが、オレは恨んでいない。今、考えれば、当時のオレは確かに無知だった。切られて当然だ」
珍しく、ほんの少しだけ興奮したような黄泉さんの声がした。
「何が望みだ」
蔵馬さんは私を抱きしめたまま、冷たい声で問う。
黄泉さんの声は、もう既にいつもどおりの静かな口調になっていた。
「これからも手を貸してほしいだけだ。あの当時、オレはバカなりにお前の役には立っただろう? 今度は今のお前なりにオレを助けてほしい」
「いやだ――と言ったら」
あんなものを突きつけられた直後だって言うのに、落ち着いた口調。
黄泉さんが語った過去のふたり。
黄泉さんは明らかに正反対の性格になっているようだったけれど、蔵馬さんはこうして見るぶんに、頭がよくて冷静という意味ではさほど変わっていないようだった。
蔵馬さんは蔵馬さんで言いたいこともあるだろうけれど、即座に駆け引きに切り替えている。
「人間は旅行好きらしいな」
何を突然、と思う私の上で、蔵馬さんは息を呑んだ。
「飛行機が落ちないといいが。熟年カップル、再婚旅行で悲劇。ワイドショーのネタとしてもB級だ」
「貴様」
蔵馬さんが歯軋りする。
もしかして、蔵馬さんと親しい人が旅行に行っているの?
黄泉さんはそれを知っていて……脅しているの?
「戦略の第一歩は情報収集。これもお前の教えだよ」
私の疑問を、黄泉さんはその言葉で肯定した。
悔しいのか、怖いのか、よくわからない感情で身体が震え出す。
蔵馬さんは私の後頭部を胸に押し付けていた手を少しおろして背中をさすってくれた。
「オレに会って最初はとまどった……だと? 猿芝居は誰に習った?」
悔しそうではあるけれど、やっぱり冷静な蔵馬さんの声。
それを聞いて、黄泉さんは声を出して笑った。
この二人は似ている。
感情を押し殺して、冷静に状況を分析し、有利に物事を進めようと一番に考えちゃうところ。
さっき、黄泉さんのずっと優しかった声が、一瞬だけ怖くなった。
それだけあの妖怪を憎んでいたってことなんだろう。
すぐにでも殺してしまいたいほど。
それなのに、黄泉さんは彼を生かしておいた。
蔵馬さんに力を貸してもらうために。
蔵馬さんもそう。
こんな卑怯な脅しを受けて、普通だったら殴りかかっているようなところなのに、言葉だけで相手の真意と突破口を探ろうとしている。
そんな真似、私にはとってもできない。
それはとっても器用な生き方かもしれないけど、何だか淋しい。
泣きたいときに泣いて、怒りたいときに怒って、笑いたいときに笑わなかったら、心はどうなっちゃうんだろう。
心を後回しにして上手に生きたって、そうやって成功を手に入れたって、それって幸せっていうのかな。
「これだから、お前が必要なんだ」
黄泉さんが笑いながらそう言った。
それは……
有能だから必要だ、というより、似た者同士の淋しい心が隙間を埋めるように惹かれあっているような気がしてならなかった。
もちろん、私にはそう思えたってことだけど。
黄泉さんは入口のインタフォンで人を呼んで、部屋を出た。
「……大丈夫?」
相変わらず、私の頭を抱きかかえたまま、蔵馬さんは優しく声をかけてくれた。
その声で、私は自分が今どうされているかを思い出し、慌てて離れようとしたけれど、
「女の子の見るものじゃないよ」
そう言って、蔵馬さんは離してくれない。
別の意味で、ちっとも大丈夫じゃない!
心臓が破裂しそうなの!
「とりあえず部屋を出ま……」
「おやおや、これはこれは」
蔵馬さんの声に誰かの声が被った。
きゃああ! 誰か来たっ!!
「違っ……!」
私は力の限り蔵馬さんを突き飛ばして、彼に背をむけ、そして見てしまった、頭を潰されたさっきの妖怪の死体!
今度こそ大悲鳴をあげ、くらっと後ろに倒れかかったところを、蔵馬さんは笑って抱きとめてくれた。
「だから言ったのに」
さっきの声の主は妖駄さんだった。
彼は私の悲鳴にあからさまに嫌な顔をした。
「人間を飼うなら、躾はしっかりして頂かないと」
失礼ね!
「わかっている」
ふくれる私を立たせて、蔵馬さんは妖駄さんに言い、ちらっとこっちを向いて可笑しそうに笑った。
その含みのある笑い!
妖怪って性格悪いんだ、覚えておこう。
...coming soon
初:20051006
改:20250524
蔵馬さんがコクリと喉を鳴らす。
そっと彼を見遣ると、緊張した面持ちに、冷や汗を浮かべていた。
私は彼の視線を辿り……悲鳴をあげそうになって、口元を押さえた。
5.似たもの同士
「ここ数日、腐蝕が進んでね。しゃべる言葉もめっきり少なくなった」
黄泉さんがポケットに手を突っ込んだまま、それを見下すように立った。
……妖怪だった。
壁に直接、数十の楔のようなものでその身を打ち付けられ、痩せ細った妖怪。
黄泉さんの言うとおり、随所が腐り、腕は千切れて、ウエストもかろうじて数箇所皮膚でつながっている程度。
しゃべる言葉がどうとか言ってたけれど、たぶんそれはものの例えだろう。
どう考えても生きているようには思えなかった。
私は吐き気を覚えて目をつぶりかけたけれど、それじゃいけないと思って、頑張って黄泉さんを見た。
黄泉さんはそんな私を観察するようにこちらへ向けていた顔を、蔵馬さんに動かした。
「蔵馬。心拍数が少し上がっているぞ」
ホント、性格悪い! 楽しそうな顔しちゃって。
「千年ほど前になるかな。こいつに襲われたのは」
私は思わず、さっきまでのムカムカも忘れて目を見開いてしまった。
千年!!
いったいこの人何歳?!
色んな意味で恐ろしい……。
「そう……お前とオレが新興勢力として名を上げようと躍起になっていた頃だ」
って……もしかして、蔵馬さんも千年以上生きているってこと?
相変わらずギンギンと黄泉さんを睨みつけている蔵馬さんは、どう見ても私と同年代にしか見えないんだけど。
人って、あ、いや妖怪って、見た目じゃないんだな。
ひとりで百面相をしている私を黄泉さんはチラッと見てふっと笑った。
それは本当に見えているような仕草だった。
そして、何もわからない私にも説明するかのように語り始めた。
「名を上げ国を建てるためには力と財産がいる。一挙両得として選んだ方法が盗賊。魔界で最もポピュラーな職業。オレが副総長で、お前が頭」
この高潔そうな蔵馬さんと黄泉さんが盗賊……それも蔵馬さんが「お頭」……。
アラビアンナイトに出てくる盗賊みたいなのを思い浮かべた私は頭が真っ白になってしまう。
「当時のオレは、我が強く、単独行動も目立った。力を過信し、血の気も多く、何より頭が悪かった」
何があったのか分からないけれど、彼の語る「過去」はいまの黄泉さんとは丸きり正反対の性格のようだった。
黄泉さんは自嘲するように唇を歪める。
「逆にお前は沈着冷静。オレとは質の違う残酷さはあったが、まず計画を重視し、人より三つくらい先のことを常に考えていた。今思えば、あの頃のオレの愚直な玉砕主義は、将来を見越すお前の懸念材料だったといえる」
正直、妖怪の寿命とかそんなことより、こんな冷たい空気を作り出す二人が同じ夢を追っていたってことの方が驚きだった。
どっちかっていうと、宿敵とか、せいぜいライバルって雰囲気なのに。
だいたい、蔵馬さん、昔のお仲間に対してどうしてこんなに警戒しているんだろう……?
「そんな折だ。ある村を襲撃するため別行動をとっていたオレの目の前に、こいつが現れた」
黄泉さんは言って、つながれた妖怪を見た。
「こいつは強かった。当時のオレと比べての話だが」
襲われたそのときに、黄泉さんは視力を失ったのだという。
「目を失う代わりに、相手にも深手を負わせた。『報酬よりも命が大事』それがヤツの捨てゼリフ。わけもわからぬまま、本隊の救助を待った。しかし、ついに合流する事はなかった」
蔵馬さんはますます青ざめた顔で冷や汗をいっぱい浮かべている。
その表情で、黄泉さんが何を言いたいのか、私にもわかった。
蔵馬さんは――裏切ったんだ。黄泉さんを。
ようやく、蔵馬さんのさっきからの態度の理由がわかった。
私は俯いて唇を噛み、上着の裾を爪でしごいた。
やっぱり……やっぱり、私は外にいればよかった。
私は、こんな話を聞くような立場の人間じゃないのに。
イヤだよね。私だったら絶対聞かれたくないもん。
突然、肩に手が乗り、驚いて顔を上げると、蔵馬さんと目が合った。
彼は「気にしないで」という風に微笑み、すぐに厳しい顔で黄泉さんを見た。
「心拍数が正常に戻ったな。さすがだ」
黄泉さんはその蔵馬さんの表情の変化を敏感に感じとると、目の前の妖怪に更に近付いた。
「起きろ」
思わず、口を覆ってしまった。
息絶えていると思った妖怪は、あんな状態だったのに、生きていた。
苦しそうなうめき声をあげている。
「殺……してくれ……頼む……殺し……て」
死を懇願するその妖怪を見下ろして、黄泉さんは静かに答えた。
「いいだろう。だが、その前にもう一度オレの質問に答えろ。誰に頼まれてオレを狙った」
「ぎ……銀……髪の妖狐。おそろしく冷たい眼をした男」
銀髪? それじゃ、蔵馬さんじゃないじゃない。
そんな風に疑問を浮かべていた私は、急に蔵馬さんの胸に抱きかかえられた。
なっ、何っ!?
私が聞くより先に、ぐしゃっとイヤな音が背後に響いた。
「見るな」
小さく蔵馬さんの声が頭の上から降ってくる。
背中がぞくっとした。
ま……まさか……本当に、殺してしまったの?
自ら死を願うほど酷い状態で生かしておいて、蔵馬さんへの見せしめに使って、その挙句に千年も前の怒りをぶつけて殺してしまったの?
黄泉さんは確かに光を失ったけど、あの人だってあんな身体にされていたじゃない。
殺すなんて、酷すぎる!
私は黄泉さんにひとこと言ってやろうと彼に向き直ろうとしたけど、蔵馬さんは腕に力をこめて、それを許さなかった。
「静かに」
私はもちろん、あの妖怪と話したことなんてない。知らない。
それでも、くやしくって涙がにじんだ。
こんなことが許されるこの世界が腹立たしかった。
「断っておくが、オレは恨んでいない。今、考えれば、当時のオレは確かに無知だった。切られて当然だ」
珍しく、ほんの少しだけ興奮したような黄泉さんの声がした。
「何が望みだ」
蔵馬さんは私を抱きしめたまま、冷たい声で問う。
黄泉さんの声は、もう既にいつもどおりの静かな口調になっていた。
「これからも手を貸してほしいだけだ。あの当時、オレはバカなりにお前の役には立っただろう? 今度は今のお前なりにオレを助けてほしい」
「いやだ――と言ったら」
あんなものを突きつけられた直後だって言うのに、落ち着いた口調。
黄泉さんが語った過去のふたり。
黄泉さんは明らかに正反対の性格になっているようだったけれど、蔵馬さんはこうして見るぶんに、頭がよくて冷静という意味ではさほど変わっていないようだった。
蔵馬さんは蔵馬さんで言いたいこともあるだろうけれど、即座に駆け引きに切り替えている。
「人間は旅行好きらしいな」
何を突然、と思う私の上で、蔵馬さんは息を呑んだ。
「飛行機が落ちないといいが。熟年カップル、再婚旅行で悲劇。ワイドショーのネタとしてもB級だ」
「貴様」
蔵馬さんが歯軋りする。
もしかして、蔵馬さんと親しい人が旅行に行っているの?
黄泉さんはそれを知っていて……脅しているの?
「戦略の第一歩は情報収集。これもお前の教えだよ」
私の疑問を、黄泉さんはその言葉で肯定した。
悔しいのか、怖いのか、よくわからない感情で身体が震え出す。
蔵馬さんは私の後頭部を胸に押し付けていた手を少しおろして背中をさすってくれた。
「オレに会って最初はとまどった……だと? 猿芝居は誰に習った?」
悔しそうではあるけれど、やっぱり冷静な蔵馬さんの声。
それを聞いて、黄泉さんは声を出して笑った。
この二人は似ている。
感情を押し殺して、冷静に状況を分析し、有利に物事を進めようと一番に考えちゃうところ。
さっき、黄泉さんのずっと優しかった声が、一瞬だけ怖くなった。
それだけあの妖怪を憎んでいたってことなんだろう。
すぐにでも殺してしまいたいほど。
それなのに、黄泉さんは彼を生かしておいた。
蔵馬さんに力を貸してもらうために。
蔵馬さんもそう。
こんな卑怯な脅しを受けて、普通だったら殴りかかっているようなところなのに、言葉だけで相手の真意と突破口を探ろうとしている。
そんな真似、私にはとってもできない。
それはとっても器用な生き方かもしれないけど、何だか淋しい。
泣きたいときに泣いて、怒りたいときに怒って、笑いたいときに笑わなかったら、心はどうなっちゃうんだろう。
心を後回しにして上手に生きたって、そうやって成功を手に入れたって、それって幸せっていうのかな。
「これだから、お前が必要なんだ」
黄泉さんが笑いながらそう言った。
それは……
有能だから必要だ、というより、似た者同士の淋しい心が隙間を埋めるように惹かれあっているような気がしてならなかった。
もちろん、私にはそう思えたってことだけど。
黄泉さんは入口のインタフォンで人を呼んで、部屋を出た。
「……大丈夫?」
相変わらず、私の頭を抱きかかえたまま、蔵馬さんは優しく声をかけてくれた。
その声で、私は自分が今どうされているかを思い出し、慌てて離れようとしたけれど、
「女の子の見るものじゃないよ」
そう言って、蔵馬さんは離してくれない。
別の意味で、ちっとも大丈夫じゃない!
心臓が破裂しそうなの!
「とりあえず部屋を出ま……」
「おやおや、これはこれは」
蔵馬さんの声に誰かの声が被った。
きゃああ! 誰か来たっ!!
「違っ……!」
私は力の限り蔵馬さんを突き飛ばして、彼に背をむけ、そして見てしまった、頭を潰されたさっきの妖怪の死体!
今度こそ大悲鳴をあげ、くらっと後ろに倒れかかったところを、蔵馬さんは笑って抱きとめてくれた。
「だから言ったのに」
さっきの声の主は妖駄さんだった。
彼は私の悲鳴にあからさまに嫌な顔をした。
「人間を飼うなら、躾はしっかりして頂かないと」
失礼ね!
「わかっている」
ふくれる私を立たせて、蔵馬さんは妖駄さんに言い、ちらっとこっちを向いて可笑しそうに笑った。
その含みのある笑い!
妖怪って性格悪いんだ、覚えておこう。
...coming soon
初:20051006
改:20250524