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Paw, my girl!
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目の前を歩いている男性は、自らを人間だと語った。
その前を歩く妖怪の王様は、彼は妖怪だと語った。
一時として揃わない二人の足音。
私は戸惑いながら、不規則な足音を立てる。
4.妖怪の棲家
「久々に面白い会議だったな。お前の発言の後、鯱がずっとお前をにらんでいたぞ」
黄泉さんの声が廊下に響いた。
私がふと感じた疑問を蔵馬さんが言葉にした。
「わかるのか?」
「体温や血圧の変化、筋肉の緊張具合、空気の流れ、全てわかる」
黄泉さんはどこか皮肉げに笑った。
「オレは見えなくなって、強くなれたんだ」
まるで歩くICUか救急車みたい。
頼もしいといえば頼もしいけれど……。
きっといま私が目を見開いて驚いていることも、きっとバレバレ。
国中の会話が聞こえるんだったら、内緒話だって聞かれちゃうだろうし。
この国にいる以上、ほとんど心を読まれているようなものなのか……。
「娘、安心しろ。オレは心までは読まん」
読んでるじゃない!!
黄泉さんはふっと笑うと、蔵馬さんを見えない目で見て、再び前を向いた。
「ここにお前がきた時も、正直言って気配の違いに最初戸惑った。人間臭に混じった懐かしい妖気を感じとれなければ、とても信じられなかっただろう」
妖気を感じた、なんて言われても蔵馬さんの背中はもうぴくりともしない。
それはつまり、妖怪だって私に思われても、関係ないってことなんだ。
確かにさっき、「話すつもりだった」とは言ってたけれど……。
スラリと均整の取れた背中をじっと見つめる。
艶やかな髪が歩みに合わせてサラサラと揺れていた。
身体は人間だって言ってたし、見た目も私たちと全然変わらない。
でも違う生き物だっていうなら、なにかしら隠し通せない部分が出てくるだろうから先に話しておこうと思ったのかもしれない。
または、どうせ黄泉さんがいつかこうして喋っちゃうだろうから、驚かさないように自分で話すつもりだったのかもしれない。
でも、具体的に蔵馬さんと私の違いって何なんだろう?
食べるものが違うとか?
満月になったり眠ったりすると姿や性格が変わるとか?
と、私は今まで後回しにし続けていた問題を急に思い出す。
ペット……ということは、私はやはり蔵馬さんの部屋で「飼われる」っていうこと?
その場合、蔵馬さんに人血をすすったり、特定の条件下で猛獣に変化したりする性質があったりしたら、どうしたら?!
「”組織のカギは副将が握る”――お前の持論だったな」
黄泉さんがぽそりと言った言葉で、初めて蔵馬さんは少し顔をあげて、黄泉さんを見た。
ちょうど廊下の曲がり角に差し掛かっていたところで、その横顔が見える。
血をすするとか、人を襲うとか、そんなどす黒いイメージとは正反対の、天使のような清らかな横顔。
あの顔でそんなことするっていうなら……食べられてもいいかも……。
思わずゴクリと息をのみ、ハッとしてぶんぶんと首を振る。
狂わされた! あの顔だけでちょっと一樹のこと意識から追い出しちゃってた!
もしかしてそういう妖怪なのかも!
セイレーンとか九尾の狐とかサキュバスみたいな!
「おい、娘。こんなところで倒れるなよ」
「え?」
「さっきから心拍数も血圧もとんでもないことになっているぞ」
黄泉さんが足を止めて怪訝そうにこちらを振り返る。
「大丈夫ですか?」
言いながら蔵馬さんが顔を覗きこんできて、ほっぺがカーッと熱くなる。
「なっ、なにこれ……妖術?」
「え?」
つい座り込むと、蔵馬さんはキョトンとして黄泉さんを振り返る。
「お前、何かしたのか?」
「妖術ではない、フェロモンだ。オレもまだまだ……フフフ」
なんだ、黄泉さんのせいだったのか……って、そんなわけないから!
呆れたように黄泉さんを見る蔵馬さんの脇で、平静を装って立ち上がる。
「すみません、考えごとをしていて……なんでもありません」
「まことの恋をするものは、みな一目で恋をする……と言ったのは誰だったかな」
私……一樹のこと、忘れたわけじゃないもん。
黄泉さんの言葉に、私たちは別々の理由で苛立たしく息をつく。
白けた空気を感じたのか、黄泉さんは、少し高いトーンで話題を変えた。
「ああ、そうそう。前に言ったが、オレから光を奪った妖怪を最近捕らえる事ができたんだ」
黄泉さんはそう言って蔵馬さんを振り返る。
やや首が動いて、蔵馬さんが彼から目を逸らしたのがわかった。
黄泉さんは少しだけ面白そうに「どうした?」と聞く。
彼は蔵馬さんが何も答えないことで、いよいよ笑顔を作った。
それはとても綺麗な笑顔だったけれど、その奥にあるものが怖くて何だか好きになれなかった。
「こっちだ。ついてこいよ」
それきり会話は途切れた。
黄泉さんは黙って長い長い廊下を歩いていく。
階段を下りて、暗い通路に入る。
窓が無くなった。多分、地下に入ったんだと思う。
周囲の景色はずいぶん変わり、まるでSFまんがみたい。
コンクリートの壁に、たくさんのパイプが通っている。
蔵馬さんは相変わらず何も喋らない。
顔にかかった髪をうるさそうに払うときに、一瞬その横顔が見えた。
私は思わず足を止めてしまった。
話は全然わからないけれど、ついて行ったらいけないんじゃないかって気がして。
黄泉さんがさっきした話は、彼にとって触れられたくない嫌な話なのかもしれない。
思わずそこで立ち止まったまま躊躇していると、彼はそれに気づいて振り返った。
「どうしました?」
優しい声。柔らかい表情。
「私……ここで待っていたほうがいいんじゃ……?」
思い切って聞くと、蔵馬さんはびっくりしたようにまばたきをした。
「よく知りもしない他人に……聞かれたくない話なんじゃないかと思って……」
「あなたには話すつもりでした。それに、妖怪がどんなものか、魔界がどういうところかも分かるはずです――オレのことも、オレが自分で話すより」
そう、なのかな。
黄泉さんは蔵馬さんが、さも非情な妖怪のように言うし、蔵馬さんも黄泉さんに対して冷淡に接していた。
でも、本当にそんなに冷たい人なら私にも黄泉さんと同じようにするんじゃないのかな。
そうしないんじゃなくて、できないんじゃないのかな。
たったひとり異界に迷い込んできてしまった私を怖がらせたくなくて。
それなのに自分は怖い存在なんだって懸命に思わせようとしてるみたい。
それはきっと、この世界や自分と深く関わらせないため、垣根を作るための――思いやり。
間違っているかもしれないけれど、もしそれが真意なんだったら、もうこれ以上私が知る必要はない。
黄泉さんでなくたって分かる。
蔵馬さんがひどく緊張していること、嫌な話をされるのを察していることなんて。
それをどう伝えたものかと思い悩んでいると、彼は通路を引き返して私の手をそっと引いた。
きゃあ! 手を引っ張っちゃイヤ!
胸をかばっていた手を引かれて、一瞬焦ってしまったけれど、どういうわけか、さっきみたいに苦しくならない。
あれ……? なんでだろう?
「ここは妖怪の棲む場所です。危ないから離れないで」
黄泉さんが少しだけこちらを振り向いたけれど、すぐにまた歩き始めた。
とっさに手を取ったのだろうか、蔵馬さんは一瞬考えるような表情を見せ、そっと放して隣に並んでくれた。
もしかしたら、本当にそれだけかもしれない。
「危ないから」一人にさせないためだけに、彼はそんな嫌な状況を選んでくれた。
一瞬触れ合った感触がまだ残る手をぎゅっと握りしめる。
妖怪だとか、人間だとか、そんなこと、関係ない。
この人は優しい人。それだけでいい。
だから私はこの先で何を聞いても、何を見ても、蔵馬さんの優しさを信じよう。
できることなら支えて、その心を守ってあげよう。
血だって少しくらいあげてもいい。
だって彼はきっと、ここで「ひとり」で戦っているんだから。
黄泉さんが一枚の扉の前に立ち、電子ロックを解除し始めた。
私は唇をかんで、自分の決意をしっかりと打ち付けた。
初:20051006
改:20250625
その前を歩く妖怪の王様は、彼は妖怪だと語った。
一時として揃わない二人の足音。
私は戸惑いながら、不規則な足音を立てる。
4.妖怪の棲家
「久々に面白い会議だったな。お前の発言の後、鯱がずっとお前をにらんでいたぞ」
黄泉さんの声が廊下に響いた。
私がふと感じた疑問を蔵馬さんが言葉にした。
「わかるのか?」
「体温や血圧の変化、筋肉の緊張具合、空気の流れ、全てわかる」
黄泉さんはどこか皮肉げに笑った。
「オレは見えなくなって、強くなれたんだ」
まるで歩くICUか救急車みたい。
頼もしいといえば頼もしいけれど……。
きっといま私が目を見開いて驚いていることも、きっとバレバレ。
国中の会話が聞こえるんだったら、内緒話だって聞かれちゃうだろうし。
この国にいる以上、ほとんど心を読まれているようなものなのか……。
「娘、安心しろ。オレは心までは読まん」
読んでるじゃない!!
黄泉さんはふっと笑うと、蔵馬さんを見えない目で見て、再び前を向いた。
「ここにお前がきた時も、正直言って気配の違いに最初戸惑った。人間臭に混じった懐かしい妖気を感じとれなければ、とても信じられなかっただろう」
妖気を感じた、なんて言われても蔵馬さんの背中はもうぴくりともしない。
それはつまり、妖怪だって私に思われても、関係ないってことなんだ。
確かにさっき、「話すつもりだった」とは言ってたけれど……。
スラリと均整の取れた背中をじっと見つめる。
艶やかな髪が歩みに合わせてサラサラと揺れていた。
身体は人間だって言ってたし、見た目も私たちと全然変わらない。
でも違う生き物だっていうなら、なにかしら隠し通せない部分が出てくるだろうから先に話しておこうと思ったのかもしれない。
または、どうせ黄泉さんがいつかこうして喋っちゃうだろうから、驚かさないように自分で話すつもりだったのかもしれない。
でも、具体的に蔵馬さんと私の違いって何なんだろう?
食べるものが違うとか?
満月になったり眠ったりすると姿や性格が変わるとか?
と、私は今まで後回しにし続けていた問題を急に思い出す。
ペット……ということは、私はやはり蔵馬さんの部屋で「飼われる」っていうこと?
その場合、蔵馬さんに人血をすすったり、特定の条件下で猛獣に変化したりする性質があったりしたら、どうしたら?!
「”組織のカギは副将が握る”――お前の持論だったな」
黄泉さんがぽそりと言った言葉で、初めて蔵馬さんは少し顔をあげて、黄泉さんを見た。
ちょうど廊下の曲がり角に差し掛かっていたところで、その横顔が見える。
血をすするとか、人を襲うとか、そんなどす黒いイメージとは正反対の、天使のような清らかな横顔。
あの顔でそんなことするっていうなら……食べられてもいいかも……。
思わずゴクリと息をのみ、ハッとしてぶんぶんと首を振る。
狂わされた! あの顔だけでちょっと一樹のこと意識から追い出しちゃってた!
もしかしてそういう妖怪なのかも!
セイレーンとか九尾の狐とかサキュバスみたいな!
「おい、娘。こんなところで倒れるなよ」
「え?」
「さっきから心拍数も血圧もとんでもないことになっているぞ」
黄泉さんが足を止めて怪訝そうにこちらを振り返る。
「大丈夫ですか?」
言いながら蔵馬さんが顔を覗きこんできて、ほっぺがカーッと熱くなる。
「なっ、なにこれ……妖術?」
「え?」
つい座り込むと、蔵馬さんはキョトンとして黄泉さんを振り返る。
「お前、何かしたのか?」
「妖術ではない、フェロモンだ。オレもまだまだ……フフフ」
なんだ、黄泉さんのせいだったのか……って、そんなわけないから!
呆れたように黄泉さんを見る蔵馬さんの脇で、平静を装って立ち上がる。
「すみません、考えごとをしていて……なんでもありません」
「まことの恋をするものは、みな一目で恋をする……と言ったのは誰だったかな」
私……一樹のこと、忘れたわけじゃないもん。
黄泉さんの言葉に、私たちは別々の理由で苛立たしく息をつく。
白けた空気を感じたのか、黄泉さんは、少し高いトーンで話題を変えた。
「ああ、そうそう。前に言ったが、オレから光を奪った妖怪を最近捕らえる事ができたんだ」
黄泉さんはそう言って蔵馬さんを振り返る。
やや首が動いて、蔵馬さんが彼から目を逸らしたのがわかった。
黄泉さんは少しだけ面白そうに「どうした?」と聞く。
彼は蔵馬さんが何も答えないことで、いよいよ笑顔を作った。
それはとても綺麗な笑顔だったけれど、その奥にあるものが怖くて何だか好きになれなかった。
「こっちだ。ついてこいよ」
それきり会話は途切れた。
黄泉さんは黙って長い長い廊下を歩いていく。
階段を下りて、暗い通路に入る。
窓が無くなった。多分、地下に入ったんだと思う。
周囲の景色はずいぶん変わり、まるでSFまんがみたい。
コンクリートの壁に、たくさんのパイプが通っている。
蔵馬さんは相変わらず何も喋らない。
顔にかかった髪をうるさそうに払うときに、一瞬その横顔が見えた。
私は思わず足を止めてしまった。
話は全然わからないけれど、ついて行ったらいけないんじゃないかって気がして。
黄泉さんがさっきした話は、彼にとって触れられたくない嫌な話なのかもしれない。
思わずそこで立ち止まったまま躊躇していると、彼はそれに気づいて振り返った。
「どうしました?」
優しい声。柔らかい表情。
「私……ここで待っていたほうがいいんじゃ……?」
思い切って聞くと、蔵馬さんはびっくりしたようにまばたきをした。
「よく知りもしない他人に……聞かれたくない話なんじゃないかと思って……」
「あなたには話すつもりでした。それに、妖怪がどんなものか、魔界がどういうところかも分かるはずです――オレのことも、オレが自分で話すより」
そう、なのかな。
黄泉さんは蔵馬さんが、さも非情な妖怪のように言うし、蔵馬さんも黄泉さんに対して冷淡に接していた。
でも、本当にそんなに冷たい人なら私にも黄泉さんと同じようにするんじゃないのかな。
そうしないんじゃなくて、できないんじゃないのかな。
たったひとり異界に迷い込んできてしまった私を怖がらせたくなくて。
それなのに自分は怖い存在なんだって懸命に思わせようとしてるみたい。
それはきっと、この世界や自分と深く関わらせないため、垣根を作るための――思いやり。
間違っているかもしれないけれど、もしそれが真意なんだったら、もうこれ以上私が知る必要はない。
黄泉さんでなくたって分かる。
蔵馬さんがひどく緊張していること、嫌な話をされるのを察していることなんて。
それをどう伝えたものかと思い悩んでいると、彼は通路を引き返して私の手をそっと引いた。
きゃあ! 手を引っ張っちゃイヤ!
胸をかばっていた手を引かれて、一瞬焦ってしまったけれど、どういうわけか、さっきみたいに苦しくならない。
あれ……? なんでだろう?
「ここは妖怪の棲む場所です。危ないから離れないで」
黄泉さんが少しだけこちらを振り向いたけれど、すぐにまた歩き始めた。
とっさに手を取ったのだろうか、蔵馬さんは一瞬考えるような表情を見せ、そっと放して隣に並んでくれた。
もしかしたら、本当にそれだけかもしれない。
「危ないから」一人にさせないためだけに、彼はそんな嫌な状況を選んでくれた。
一瞬触れ合った感触がまだ残る手をぎゅっと握りしめる。
妖怪だとか、人間だとか、そんなこと、関係ない。
この人は優しい人。それだけでいい。
だから私はこの先で何を聞いても、何を見ても、蔵馬さんの優しさを信じよう。
できることなら支えて、その心を守ってあげよう。
血だって少しくらいあげてもいい。
だって彼はきっと、ここで「ひとり」で戦っているんだから。
黄泉さんが一枚の扉の前に立ち、電子ロックを解除し始めた。
私は唇をかんで、自分の決意をしっかりと打ち付けた。
初:20051006
改:20250625