本棚全体の夢小説設定の説明
Paw, my girl!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
うっそうと生い茂る木が陽の光を遮って、森の中は目を凝らす必要があるほど暗かった。
正直、この森を抜ける自信なんてなかった。
2.冷たい瞳の美少年
ところがこれがどういうわけか、私は意外とあっさりそこを脱出してしまった。
やっぱり、日頃の行いがモノをいうんだよね!
だけど、抜けた先は、見渡す限りの荒野。
キノコみたいな地棚がにょきんにょきんと生えているのが見える。
当然、人の気配なんてゼロ。
……やっぱり、日頃の行いが悪いのかな……。
迷ったときは下手に動くなっていうし……どうしよう。
空はどんよりと曇って、たまに雷光が走る。
雲にしたって、灰色っていうより、紫とか暗いオレンジみたいなヘンな色。
なんか、ここでじっと待っていても、誰も助けてくれない、そんな気がする。
自分の足で歩かなきゃ帰れない。
私はじっと目を凝らして、街や人や人造物を探した。
目をこすって、何度も何度も探した。
そしてようやく、さっき抜けた森の向こうに何かが歩いているのを見つけた。
よくよく見ると、どうも道になっているみたい。
道は人がいるところに通じているよね!
その道に辿りついたときには、時計の針はもう夜の時間を指していた。
それなのに空は明るくも真っ暗でもなく、さっきと同じでどんより薄暗い。
……一体私はどこに来ちゃったんだろう。
不安で一杯になりながら、道をとぼとぼと歩いた。
誰にも会わない。それがより一層不安を掻き立てた。
足が棒になるほど歩いて、ようやく街が見えてきた。
一気に元気を取り戻したとたん、この眼に信じられないものが映った。
多分、さっきの熊と同じような生きもの。
姿は全然違う。小型のゴジラみたいな。
私はとっさに茂みに身を隠した。
街は目の前だっていうのに!
仕方なく、再び森に入って街道に沿って進んだ。
その判断は多分、正解だった。
街に近付くにつれ、そんな生きものの数は増えた。
息を殺して彼らをやり過しながら、何とか街の入口まで辿り着いた。
それはかなり大きな街のようだった。
大きなビルもいっぱい建っていて、奥には一際高いビルが見える。
でも私は、その街に入ることをためらっていた。
というのも、さっき見たような怪獣みたいなお化けみたいなのが堂々とその街に入っていくから。
だいたい、街の入口の門番、どう見ても直立して鎧を着たトカゲ!
一体何なんだろう? 私の考えすぎで、やっぱりあの中には人間が入っているのかな?
出るに出られず身を潜めていると、ようやくどこからどう見ても人間! な女の人が歩いてくるのが見えた。
良かった……!
私は彼女を追いかけ、木陰を飛び出した。
――違う。
よくよく見ると、耳が尖っていて、猫みたいな尻尾が付いている。
愕然として立ちすくんでいると、急に腕を引っ張られた。
はっと振り向いたその先には、まるで昔話に出てくる鬼のような怪物が立っていた。
「へへへ、こりゃ大したご馳走だ」
私はあまりの恐怖に悲鳴さえ上げられず、その鬼につまみ上げられた。
腕を掴まれたせいで、また胸が痛み出す。
「やっぱり癌陀羅には何でもあるな。わざわざ来た甲斐があったぜ……」
「はな……して……」
恐怖なのか痛みなのか、嫌な汗が首筋を伝う。
仕方なく荷物を手放して、空いた手で胸を庇った。
口をあけたカバンやトートからバサバサと本が散らばる音と共に、痛みが少し治まる。
私は何とか首をもたげて鬼の方を見た。
「なあ……」
下のほうから別の声がした。
見れば、鬼の連れなのか、その陰に隠れていた犬のような小さな怪物が鬼の服をツンツンと引っ張っていた。
「もし、こいつが幹部用のご馳走だったら、まずくないか?」
「……うぅ、いくら癌陀羅とはいえ、確かにこんなところを人間がうろつくのはおかしいか……」
鬼は言って、私の腕を離した。
急に落とされて強かに腰を打ち、すぐに立ち上がれない。
「食糧ならまだしも、お偉いのペットだったりしたら、目も当てられねえぞ。こいつ、いい布地の服着てやがる」
鬼は、犬の言葉にじりじりと後退りしながら、大きな声で門番を呼んだ。
呼ばれた鎧トカゲは走って来て、何やら犬たちと話している。
「おいらはこの人間、見たこともないが、お偉い様の中にはペットがいることを隠してなさる方もいるからなあ……」
トカゲはそう言ってこっちを困ったように見ている。
ペットって……ペットって、もしかして、『人間』がペットなの?
しかも『食糧』とか何とかって……。
私は荷物をかき集めて、何とか逃げ出す隙をうかがった。
トカゲは考えあぐねたように周りを見回して、たまたまやって来た馬車みたいな乗り物に向かって走っていった。
まだ鬼と犬はじっとこちらを見ている。
「こちらでごぜえます」
すぐにトカゲは妙に頭の尖った、顔にピラピラが付いた不思議な男の人を連れてやってきた。
その人はじろじろとこちらを見て、私の手首をぐいっとひっぱって立たせた。
「まあいい。メイドにでも聞けば知ってるだろう。ご苦労だった。そいつらに礼を」
「はっ!」
深々と頭を下げるトカゲに目もくれず、彼は私を馬車に乗せた。
自分も乗り込み、私の斜め前に座ると、面白そうに再び眺め始める。
「お前、誰に飼われてるんだ?」
私は頭が大パニックで何も喋れず、ちょっとでもその人から離れようと壁に身を寄せた。
「まあ、隠せと言われたら言えないよなあ。あんなところにいたってことは、脱走でも思い立ったか」
彼は前かがみになっていた上体を起こし、足を組んだ。
「やめとけやめとけ。お前は知らんかもしれんが、この魔界では人間はどこに行ってもただの食糧だ。考えようによっちゃ、癌陀羅にいるのが一番幸せだぜ。平和ボケした妖怪が、地位と豊かさを誇示するために人間を飼って愛でている。そんな街、ここだけだ」
節くれ立った指がからかうように宙をさまよう。
「お前がそんなにきれいな格好していられるのも、そうやってたくさん書物を持てるのも、ここだけだ」
『妖怪』? 『この魔界では、人間は』って、どういうこと?
聞いてはいけないことを聞いてしまったような、知りたくない現実を突きつけられたような気分になる。
青ざめる私から目を離し、彼は外を見た。
「確かに屈辱かも知れないがな。お前、脱走するくらいだから、人間界から連れて来られたんだろ? あっちの世界じゃ、人間が何かを飼ったり、殺して食ったりしてる。魔界では、人間がそんな立場になっちまう」
彼はグッとこぶしを作ってそれを見た。
「この世は、力が全てだ。お前が再び強者の立場に立ちたいのなら、逃げるな。戦え。この世界でも、どんな場所でも、強者にはなれる」
言葉を区切り、彼はニッと笑った。
「力って言っても腕力が全てじゃない。人間には考える力がある。そうだろ?」
――この人は――。
見た目も怖い。雰囲気も怖い。言葉も怖い。存在が怖い。
だけど、きっと、優しいことを言ってくれているんだ。
……きっと、私を励ましてくれているんだ。
私はようやく、彼を真っ直ぐに見ることができた。
それに気付いて彼はこちらを向くと、顔をしわくちゃにして笑ってくれた。
「俺は人間を飼うなんて変態みたいで嫌だったが、お前だったらいいぜ。もし、今の飼主に見限られて食糧庫に入れられたら、俺が拾ってやる。思う存分やんな」
馬車から、さっき見えたお城の玄関まで送ってくれた彼は、そう言って背を向けた。
『妖怪』って言ってた。
よく昔話やマンガに出てくる存在。
悪いモノ、怖いモノ、危険なモノ……として描かれがちな彼ら。
ちゃんと彼らにも心があって、優しい人も、良い人もいるんだね。
「ありがとう」
私は見えなくなった彼にそう呟いた。
でも、実際問題、私は誰かのペットじゃない。
ここでチャンピオンになるつもりもない。
この世界の人たちは人間も、人間界の存在も知ってる。
きっとこの世界のどこかに人間が暮らす場所があるか、人間界に通じる場所があるんだ。
ここにはいられない。何とかこの街から逃げ出して、人に会わなきゃ。
ペット……いいことを聞いちゃった。
ここを抜け出すまでは、私は偉い人の秘密のペットだってことにしておこう。
下手に隠れ回るより、堂々としていた方がバレにく……
「君は、人間か」
背後から、冷たい声がした。
いけない! また自分の世界に行ってた!
びくっとして振り向いたその先には、軍服姿の、息を呑むほど美しい男の子が、氷のような眼差しをこちらに向けていた。
初:20051006
改:20250413
正直、この森を抜ける自信なんてなかった。
2.冷たい瞳の美少年
ところがこれがどういうわけか、私は意外とあっさりそこを脱出してしまった。
やっぱり、日頃の行いがモノをいうんだよね!
だけど、抜けた先は、見渡す限りの荒野。
キノコみたいな地棚がにょきんにょきんと生えているのが見える。
当然、人の気配なんてゼロ。
……やっぱり、日頃の行いが悪いのかな……。
迷ったときは下手に動くなっていうし……どうしよう。
空はどんよりと曇って、たまに雷光が走る。
雲にしたって、灰色っていうより、紫とか暗いオレンジみたいなヘンな色。
なんか、ここでじっと待っていても、誰も助けてくれない、そんな気がする。
自分の足で歩かなきゃ帰れない。
私はじっと目を凝らして、街や人や人造物を探した。
目をこすって、何度も何度も探した。
そしてようやく、さっき抜けた森の向こうに何かが歩いているのを見つけた。
よくよく見ると、どうも道になっているみたい。
道は人がいるところに通じているよね!
その道に辿りついたときには、時計の針はもう夜の時間を指していた。
それなのに空は明るくも真っ暗でもなく、さっきと同じでどんより薄暗い。
……一体私はどこに来ちゃったんだろう。
不安で一杯になりながら、道をとぼとぼと歩いた。
誰にも会わない。それがより一層不安を掻き立てた。
足が棒になるほど歩いて、ようやく街が見えてきた。
一気に元気を取り戻したとたん、この眼に信じられないものが映った。
多分、さっきの熊と同じような生きもの。
姿は全然違う。小型のゴジラみたいな。
私はとっさに茂みに身を隠した。
街は目の前だっていうのに!
仕方なく、再び森に入って街道に沿って進んだ。
その判断は多分、正解だった。
街に近付くにつれ、そんな生きものの数は増えた。
息を殺して彼らをやり過しながら、何とか街の入口まで辿り着いた。
それはかなり大きな街のようだった。
大きなビルもいっぱい建っていて、奥には一際高いビルが見える。
でも私は、その街に入ることをためらっていた。
というのも、さっき見たような怪獣みたいなお化けみたいなのが堂々とその街に入っていくから。
だいたい、街の入口の門番、どう見ても直立して鎧を着たトカゲ!
一体何なんだろう? 私の考えすぎで、やっぱりあの中には人間が入っているのかな?
出るに出られず身を潜めていると、ようやくどこからどう見ても人間! な女の人が歩いてくるのが見えた。
良かった……!
私は彼女を追いかけ、木陰を飛び出した。
――違う。
よくよく見ると、耳が尖っていて、猫みたいな尻尾が付いている。
愕然として立ちすくんでいると、急に腕を引っ張られた。
はっと振り向いたその先には、まるで昔話に出てくる鬼のような怪物が立っていた。
「へへへ、こりゃ大したご馳走だ」
私はあまりの恐怖に悲鳴さえ上げられず、その鬼につまみ上げられた。
腕を掴まれたせいで、また胸が痛み出す。
「やっぱり癌陀羅には何でもあるな。わざわざ来た甲斐があったぜ……」
「はな……して……」
恐怖なのか痛みなのか、嫌な汗が首筋を伝う。
仕方なく荷物を手放して、空いた手で胸を庇った。
口をあけたカバンやトートからバサバサと本が散らばる音と共に、痛みが少し治まる。
私は何とか首をもたげて鬼の方を見た。
「なあ……」
下のほうから別の声がした。
見れば、鬼の連れなのか、その陰に隠れていた犬のような小さな怪物が鬼の服をツンツンと引っ張っていた。
「もし、こいつが幹部用のご馳走だったら、まずくないか?」
「……うぅ、いくら癌陀羅とはいえ、確かにこんなところを人間がうろつくのはおかしいか……」
鬼は言って、私の腕を離した。
急に落とされて強かに腰を打ち、すぐに立ち上がれない。
「食糧ならまだしも、お偉いのペットだったりしたら、目も当てられねえぞ。こいつ、いい布地の服着てやがる」
鬼は、犬の言葉にじりじりと後退りしながら、大きな声で門番を呼んだ。
呼ばれた鎧トカゲは走って来て、何やら犬たちと話している。
「おいらはこの人間、見たこともないが、お偉い様の中にはペットがいることを隠してなさる方もいるからなあ……」
トカゲはそう言ってこっちを困ったように見ている。
ペットって……ペットって、もしかして、『人間』がペットなの?
しかも『食糧』とか何とかって……。
私は荷物をかき集めて、何とか逃げ出す隙をうかがった。
トカゲは考えあぐねたように周りを見回して、たまたまやって来た馬車みたいな乗り物に向かって走っていった。
まだ鬼と犬はじっとこちらを見ている。
「こちらでごぜえます」
すぐにトカゲは妙に頭の尖った、顔にピラピラが付いた不思議な男の人を連れてやってきた。
その人はじろじろとこちらを見て、私の手首をぐいっとひっぱって立たせた。
「まあいい。メイドにでも聞けば知ってるだろう。ご苦労だった。そいつらに礼を」
「はっ!」
深々と頭を下げるトカゲに目もくれず、彼は私を馬車に乗せた。
自分も乗り込み、私の斜め前に座ると、面白そうに再び眺め始める。
「お前、誰に飼われてるんだ?」
私は頭が大パニックで何も喋れず、ちょっとでもその人から離れようと壁に身を寄せた。
「まあ、隠せと言われたら言えないよなあ。あんなところにいたってことは、脱走でも思い立ったか」
彼は前かがみになっていた上体を起こし、足を組んだ。
「やめとけやめとけ。お前は知らんかもしれんが、この魔界では人間はどこに行ってもただの食糧だ。考えようによっちゃ、癌陀羅にいるのが一番幸せだぜ。平和ボケした妖怪が、地位と豊かさを誇示するために人間を飼って愛でている。そんな街、ここだけだ」
節くれ立った指がからかうように宙をさまよう。
「お前がそんなにきれいな格好していられるのも、そうやってたくさん書物を持てるのも、ここだけだ」
『妖怪』? 『この魔界では、人間は』って、どういうこと?
聞いてはいけないことを聞いてしまったような、知りたくない現実を突きつけられたような気分になる。
青ざめる私から目を離し、彼は外を見た。
「確かに屈辱かも知れないがな。お前、脱走するくらいだから、人間界から連れて来られたんだろ? あっちの世界じゃ、人間が何かを飼ったり、殺して食ったりしてる。魔界では、人間がそんな立場になっちまう」
彼はグッとこぶしを作ってそれを見た。
「この世は、力が全てだ。お前が再び強者の立場に立ちたいのなら、逃げるな。戦え。この世界でも、どんな場所でも、強者にはなれる」
言葉を区切り、彼はニッと笑った。
「力って言っても腕力が全てじゃない。人間には考える力がある。そうだろ?」
――この人は――。
見た目も怖い。雰囲気も怖い。言葉も怖い。存在が怖い。
だけど、きっと、優しいことを言ってくれているんだ。
……きっと、私を励ましてくれているんだ。
私はようやく、彼を真っ直ぐに見ることができた。
それに気付いて彼はこちらを向くと、顔をしわくちゃにして笑ってくれた。
「俺は人間を飼うなんて変態みたいで嫌だったが、お前だったらいいぜ。もし、今の飼主に見限られて食糧庫に入れられたら、俺が拾ってやる。思う存分やんな」
馬車から、さっき見えたお城の玄関まで送ってくれた彼は、そう言って背を向けた。
『妖怪』って言ってた。
よく昔話やマンガに出てくる存在。
悪いモノ、怖いモノ、危険なモノ……として描かれがちな彼ら。
ちゃんと彼らにも心があって、優しい人も、良い人もいるんだね。
「ありがとう」
私は見えなくなった彼にそう呟いた。
でも、実際問題、私は誰かのペットじゃない。
ここでチャンピオンになるつもりもない。
この世界の人たちは人間も、人間界の存在も知ってる。
きっとこの世界のどこかに人間が暮らす場所があるか、人間界に通じる場所があるんだ。
ここにはいられない。何とかこの街から逃げ出して、人に会わなきゃ。
ペット……いいことを聞いちゃった。
ここを抜け出すまでは、私は偉い人の秘密のペットだってことにしておこう。
下手に隠れ回るより、堂々としていた方がバレにく……
「君は、人間か」
背後から、冷たい声がした。
いけない! また自分の世界に行ってた!
びくっとして振り向いたその先には、軍服姿の、息を呑むほど美しい男の子が、氷のような眼差しをこちらに向けていた。
初:20051006
改:20250413