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Paw, my girl!
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――胃に穴が開きそう。
私は食卓を挟んで目の前に座ってる黄泉さんと、隣にいる蔵馬を盗み見た。
ずっ…………………………と、沈黙。
誰か助けてー!!
黄泉さんは、ただ喋らないだけで、いつもどおり。
口元には笑みなんて浮かべている。
蔵馬は怒ったような顔をして食べているけれど、仕草は上品。
私だけ落ち着いて食べられず、挙動不審。
「なかなか、見事な働きだったな」
ようやく黄泉さんが口を開いたときは、すでに食器は下げられ、お茶が並べられていた。
「ただ単に、応急処置、間に合わせの準備が終わっただけに過ぎない。これからが正念場だ」
蔵馬は相変わらず目を伏せたまま、愛想無く答える。
「これからどうするつもりだ?」
「正直、際立って有効な手段が思いつかない。鯱たちを攻撃して失うのは国の勢力を考えた場合、得策ではない。しかし、この騒動の原因になったオレが出て行って説得しようが脅迫しようが、反感情を煽るだけだ」
蔵馬は冷たい視線で、ちらっと黄泉さんを見た。
「それは、最後の最後に彼らの背中を押してやったお前も同様だろうがな」
黄泉さんは焦りもせず、余裕の表情を浮かべている。
その様子に、蔵馬は苛立たし気な息をついた。
「彼らはかき集めた兵力を警戒してこちらをうかがっている。まだ増強するだろうと判断したなら、いまのうちにと攻め込んでくるかもしれない。そうなる前に手を打つ。デマで不安を促して兵士をこちらに取り戻し、同時に3人を仲間割れさせるように仕組むつもりだ」
蔵馬ってば悪役みたい……。
簡単そうに言うけれど、冷静に考えれば、それをするのって、大変で危険。
不安顔の私の前で、黄泉さんは正反対に満足顔でうんうんと頷いている。
そうね、たぶん蔵馬は、やると言ったらやるんだ。
たったの数日で、あれだけの仕事をしてしまったんだから。
……それでも、心配しちゃうのは、仕方のないことだよね。
私は胸が切なくなって、そっと手を置いた。
黄泉さんと蔵馬が同時にこちらを振り向く。
あ、テリトリー広げちゃった。
「夏希を預かってくれたこと、礼を言う」
蔵馬が幾分柔らかな声を出した。
私は手を下ろそうとしたけれど、ちょっとだけ雰囲気が柔らかくなった蔵馬を見て、そのままにしておいた。
黄泉さんは微笑んでこちらを向いた。
「いや、オレもなかなか楽しかったよ。また留守にするようなことがあれば、ここに来させてくれ」
言いながら黄泉さんは湯呑みに手を伸ばす。
「不思議な娘だ。なかなか面白い術を使うな。本人は意識せずやっているようだが、極悪などと呼ばれたお前でさえ、こうも簡単に掛かってしまう」
今度は蔵馬と私が黄泉さんを同時に見た。
「夏希の能力が何かわかるのか?」
黄泉さんはちょっと意外そうに蔵馬の方を向いた。
「気付いていなかったのか?」
私はコクンと喉を鳴らした。
「その娘は不思議な空間を作り出すだろう。すると、その中にいるものは、よっぽどの精神力をもって維持していない限り、悪意を打ち消されている」
悪意を打ち消す?
キョトンとする私の表情が見えているかのように黄泉さんはにやりと笑う。
「魔界には、結界師と呼ばれるたくさんの者がいる。夏希のその空間は一見、彼らと比べるとひどく脆弱にも思えるが、考えようによっては最強の結界でもある。魔界の瘴気や、森の促迷性を悪意と考えれば、それにやられなかったのも、その力のお陰だろう」
「森?」
「夏希は最初に森に迷い込んだらしいが、聞いてないのか?」
へえ……、なんかピンと来ないんだけどな。
私が首を傾げていると、蔵馬と目が合った。
その目は、何だか淋しそうな、どこか悔しそうな、不思議なものだった。
私が驚いて彼を見ると、すぐに黄泉さんの方を向いてしまう。
「確かに、いま言われて辻褄が合ったよ。……お前に教えられるとはな」
黄泉さんはちょっと苦笑した。
「さあ、明日からもまた忙しくなる。お前も疲れているだろうから、そろそろ開放してやろう」
どこか皮肉っぽい言い方が、黄泉さんらしいと思った。
ほんの数日離れていただけなのに、この部屋は何だか懐かしい感じがする。だけど……。
私はこれまた懐かしい腕のぬくもりのなかで、自分を落ち着かせるように長く息を吐いた。
この部屋に帰ってきてから、特にこれと言って会話もしていない。
いまも顔は見えないけれど、寝息をたててもいないので、起きていると思う。
だけど、何も言わない。
何か怒っているのかな? 私ってば、何かしでかしちゃった?
焦って、今日の蔵馬との会話を振り返る。
……ちょっと思いつかない。
気付かず怒らせてるってこともあるかもしれないけど、あの温厚な蔵馬が悪意のない言動でそこまで怒るとも思えないし……。
「眠れない?」
蔵馬が私の百面相に気付いたのか、小さく声を掛けてくる。
私は神妙な面持ちで彼を見上げた。
……だとすると、思いつくのは、アレしか……。
『そうじゃなくて、ヤキモチですよ』
たっ、確かに、ご飯の後のあの目は、見ようによってはヤキモチを妬いているようにも見えた?
私は内心シュンとなりながらうつむいた。
ヤキモチ……かぁ。
蔵馬のこと、好きなんだなって気付いた直後にこんな形で失恋だなんて。
「夏希?」
思わずため息をつくと、蔵馬が不思議そうに私の髪を撫でた。
そういう仕草があんまりに自然で当たり前過ぎてツラいの!
つまりそれって、私のことなんて恋愛対象じゃないから、ペットか、せいぜい小さい妹にでもするように自然にできちゃうってことなんだろう。
もちろん、こんなパーフェクトな蔵馬と私なんかが釣り合うわけないし、彼女になりたいとかそんな大志は持っていなかったけど……。
私は蔵馬に気付かれないようにそっと指先でその上着をつまんだ。
せめて、ここにいる間だけでも独り占めしたかったな。
……なんて、ズルいことだよね。だから神様に意地悪されたんだ。
よりにもよって男の人に好きな人を取られちゃうなんて……。
それにしても皮肉だよね。
こんなにカッコよくて、女の子にだってモテモテに違いないのに、男の人が好きだなんて。
でも、恋愛は個人の自由だものね。
私は世の乙女の代弁者より、蔵馬の味方になることを選ぶからね!
「蔵馬、今日は……ご機嫌斜め?」
「え? そんなことないよ」
「そ、そう」
どう言って切り出したらいいの?!
なんとか誤解は解いて安心させてあげたいのに!
ひきつる私に、蔵馬はにこっと笑った。
「どうしたの?」
「あ、い、あ……何でもないの。元気なさそうだったから」
不思議そうにこちらを見ていたけれど、彼はややして苦笑した。
「そうですね。確かにご機嫌じゃなかったかも」
私は深呼吸し、思い切って言った。
「勘違いだったら許して? あ、あの、も、もしかして、黄泉さんと私のことで何か怒って、る?」
「え……?」
蔵馬は目を真ん丸にして私を見つめ、ややして小さく笑って目を伏せる。
そして、再び私の髪を手悪戯のように撫でながら、ぽつり、ぽつりと喋った。
「怒ってはいませんよ。ただ、ちょっと複雑、かな。夏希と一緒にいた時間はオレの方が長かったのに、黄泉は君の能力をあっさり見抜いたでしょ。それだけ夏希のことをよく見ていたんだなって。それに君も、何だか話し方が変わったからね。前までは、何か話そうとしても、いつも飲み込んでいたようだったから。黄泉は、きっと君を安心させて、リラックスさせたんだろうね」
私は蔵馬の言葉に大慌てで起き上がった。
それで蔵馬は、ちょっと身体を起こして頬杖をつき、斜めにこちらを見上げた。
ルームランプが柔らかく蔵馬を光と影で描き出して、とっても色っぽく見えた。
やっぱり蔵馬ってキレイ……って、そんなこと言ってるじゃない!!
「あっ、あっ、あのねっ! 黄泉さんも私も、ちっともそんなんじゃ、だから異性としてどう、ってんじゃないからね! 別になんにもなかったし! 寝る部屋もすっっっごく離れてたし! ただ、一緒にお食事してただけよ! ホントに、神に誓って、ただのお友達だから! だから、蔵馬は何にも心配しなくていいんだよ!」
蔵馬は、ちょっと戸惑った顔をして私と同じように身体を起こした。
「夏希、君は……」
やっ、やっぱりそうなんだ。
落ち込んじゃダメ、私!
応援してあげるんだから!
「あ、あのね。黄泉さん、言ってたよ。蔵馬のこと、好きだって。だから、頑張ってね!」
「……はい?」
私の言葉を聞いて、再び蔵馬は目をまん丸にした。
私は蔵馬を勇気付けるために、彼の目を覗き込んで力強く頷く。
蔵馬はぎこちなく口元を覆って、私から顔を背けた。
よく見ると、肩が小刻みに震えている。
あら。嬉しくて泣いちゃったのかしら。
普段、あんなにクールなのに、恋は蔵馬をも感激屋さんに変えるのね。
「蔵馬も、もっと素直にならなきゃダメだよ。あんなに睨んだりしたら、黄泉さん誤解するかもしれないでしょ? まあ、あの人も相当素直じゃないけど……。でも、素直になったら、こんな下らないことでヤキモキしなくて済むのに。だって、冷静に考えたらね、一介の人間の小娘を、天下の黄泉サマが相手にするワケないじゃない」
照れているんだろうか、蔵馬は顔を背けたまま、探すように腕を伸ばして私の頭を引き寄せ、その胸に押しつけた。
「本当にね。素直になれたら、どんなにいいだろうね。……なかなか、障害が大きくて、イヤになるよ」
うんうん、それはわかる。男同士だもんねぇ。
「オレの想い人は、鈍感な上に、思考回路が常人とかけ離れているんです」
まあ……一国の主になるような大物だものね。
普通の人とはひと味もふた味も違うでしょうね。
「だったら、なおさら素直にならなきゃ」
私はもぞもぞと顔を上げる。
暖かい色の薄い光の中で、蔵馬は皮肉げに笑い、親指を動かして私の頬を撫でる。
ちょっと孤独な雰囲気は、胸が痛くなるほど美しくて、見えない力で引き寄せられそうになり、慌てて目を伏せた。
いけない、いけない。もう私は恋のキューピッドになるって決めたんだから。
「素直になりたいのは山々だけどね……どうしたって、どうにもならない関係だから、必ず訪れる別れにお互い傷つくだけだから、何も言えない。……何もできない」
そっか……魔界でも男同士って許されない関係なんだ。
……本当に、本当に、大切に思っているんだね。
羨ましいな。
私もそんな風に愛されたら、どんなに幸せだろう。
それでもやっぱり、いま一緒にいられるなら精いっぱい愛したほうがいいんじゃないのかな。
先のことは先のことだし、それに何か、一緒にいられるいい考えが見つかるかもしれないし。
「大丈夫だよ。蔵馬はとっても優しくて、綺麗で、頭が良くて、何でもできて……本当に素敵な人だもん。あなたに愛される人は、この世で一番の幸せ者だと思うよ」
「……本当にそう思う?」
蔵馬は、もう片方の手も伸ばして私の頬を包み込み、じっと覗き込んだ。
ひゃー! 近い!
こちらの複雑な乙女心にもご配慮ください!!
私は真っ赤になりながら、コクコクと頷いた。
蔵馬はくすっと笑って私を放し、掛け布団を直して横になった。
「じゃ、いまはそれで我慢することにします。寝よ?」
言って、私を甘く見つめて引き寄せる。
もう! もう! もうっ!
黄泉さんの、黄泉さんのバカーッ!!
黄泉さま聞き耳たてて笑い死に
初:20051015
改:20260329
私は食卓を挟んで目の前に座ってる黄泉さんと、隣にいる蔵馬を盗み見た。
ずっ…………………………と、沈黙。
誰か助けてー!!
黄泉さんは、ただ喋らないだけで、いつもどおり。
口元には笑みなんて浮かべている。
蔵馬は怒ったような顔をして食べているけれど、仕草は上品。
私だけ落ち着いて食べられず、挙動不審。
「なかなか、見事な働きだったな」
ようやく黄泉さんが口を開いたときは、すでに食器は下げられ、お茶が並べられていた。
「ただ単に、応急処置、間に合わせの準備が終わっただけに過ぎない。これからが正念場だ」
蔵馬は相変わらず目を伏せたまま、愛想無く答える。
「これからどうするつもりだ?」
「正直、際立って有効な手段が思いつかない。鯱たちを攻撃して失うのは国の勢力を考えた場合、得策ではない。しかし、この騒動の原因になったオレが出て行って説得しようが脅迫しようが、反感情を煽るだけだ」
蔵馬は冷たい視線で、ちらっと黄泉さんを見た。
「それは、最後の最後に彼らの背中を押してやったお前も同様だろうがな」
黄泉さんは焦りもせず、余裕の表情を浮かべている。
その様子に、蔵馬は苛立たし気な息をついた。
「彼らはかき集めた兵力を警戒してこちらをうかがっている。まだ増強するだろうと判断したなら、いまのうちにと攻め込んでくるかもしれない。そうなる前に手を打つ。デマで不安を促して兵士をこちらに取り戻し、同時に3人を仲間割れさせるように仕組むつもりだ」
蔵馬ってば悪役みたい……。
簡単そうに言うけれど、冷静に考えれば、それをするのって、大変で危険。
不安顔の私の前で、黄泉さんは正反対に満足顔でうんうんと頷いている。
そうね、たぶん蔵馬は、やると言ったらやるんだ。
たったの数日で、あれだけの仕事をしてしまったんだから。
……それでも、心配しちゃうのは、仕方のないことだよね。
私は胸が切なくなって、そっと手を置いた。
黄泉さんと蔵馬が同時にこちらを振り向く。
あ、テリトリー広げちゃった。
「夏希を預かってくれたこと、礼を言う」
蔵馬が幾分柔らかな声を出した。
私は手を下ろそうとしたけれど、ちょっとだけ雰囲気が柔らかくなった蔵馬を見て、そのままにしておいた。
黄泉さんは微笑んでこちらを向いた。
「いや、オレもなかなか楽しかったよ。また留守にするようなことがあれば、ここに来させてくれ」
言いながら黄泉さんは湯呑みに手を伸ばす。
「不思議な娘だ。なかなか面白い術を使うな。本人は意識せずやっているようだが、極悪などと呼ばれたお前でさえ、こうも簡単に掛かってしまう」
今度は蔵馬と私が黄泉さんを同時に見た。
「夏希の能力が何かわかるのか?」
黄泉さんはちょっと意外そうに蔵馬の方を向いた。
「気付いていなかったのか?」
私はコクンと喉を鳴らした。
「その娘は不思議な空間を作り出すだろう。すると、その中にいるものは、よっぽどの精神力をもって維持していない限り、悪意を打ち消されている」
悪意を打ち消す?
キョトンとする私の表情が見えているかのように黄泉さんはにやりと笑う。
「魔界には、結界師と呼ばれるたくさんの者がいる。夏希のその空間は一見、彼らと比べるとひどく脆弱にも思えるが、考えようによっては最強の結界でもある。魔界の瘴気や、森の促迷性を悪意と考えれば、それにやられなかったのも、その力のお陰だろう」
「森?」
「夏希は最初に森に迷い込んだらしいが、聞いてないのか?」
へえ……、なんかピンと来ないんだけどな。
私が首を傾げていると、蔵馬と目が合った。
その目は、何だか淋しそうな、どこか悔しそうな、不思議なものだった。
私が驚いて彼を見ると、すぐに黄泉さんの方を向いてしまう。
「確かに、いま言われて辻褄が合ったよ。……お前に教えられるとはな」
黄泉さんはちょっと苦笑した。
「さあ、明日からもまた忙しくなる。お前も疲れているだろうから、そろそろ開放してやろう」
どこか皮肉っぽい言い方が、黄泉さんらしいと思った。
ほんの数日離れていただけなのに、この部屋は何だか懐かしい感じがする。だけど……。
私はこれまた懐かしい腕のぬくもりのなかで、自分を落ち着かせるように長く息を吐いた。
この部屋に帰ってきてから、特にこれと言って会話もしていない。
いまも顔は見えないけれど、寝息をたててもいないので、起きていると思う。
だけど、何も言わない。
何か怒っているのかな? 私ってば、何かしでかしちゃった?
焦って、今日の蔵馬との会話を振り返る。
……ちょっと思いつかない。
気付かず怒らせてるってこともあるかもしれないけど、あの温厚な蔵馬が悪意のない言動でそこまで怒るとも思えないし……。
「眠れない?」
蔵馬が私の百面相に気付いたのか、小さく声を掛けてくる。
私は神妙な面持ちで彼を見上げた。
……だとすると、思いつくのは、アレしか……。
『そうじゃなくて、ヤキモチですよ』
たっ、確かに、ご飯の後のあの目は、見ようによってはヤキモチを妬いているようにも見えた?
私は内心シュンとなりながらうつむいた。
ヤキモチ……かぁ。
蔵馬のこと、好きなんだなって気付いた直後にこんな形で失恋だなんて。
「夏希?」
思わずため息をつくと、蔵馬が不思議そうに私の髪を撫でた。
そういう仕草があんまりに自然で当たり前過ぎてツラいの!
つまりそれって、私のことなんて恋愛対象じゃないから、ペットか、せいぜい小さい妹にでもするように自然にできちゃうってことなんだろう。
もちろん、こんなパーフェクトな蔵馬と私なんかが釣り合うわけないし、彼女になりたいとかそんな大志は持っていなかったけど……。
私は蔵馬に気付かれないようにそっと指先でその上着をつまんだ。
せめて、ここにいる間だけでも独り占めしたかったな。
……なんて、ズルいことだよね。だから神様に意地悪されたんだ。
よりにもよって男の人に好きな人を取られちゃうなんて……。
それにしても皮肉だよね。
こんなにカッコよくて、女の子にだってモテモテに違いないのに、男の人が好きだなんて。
でも、恋愛は個人の自由だものね。
私は世の乙女の代弁者より、蔵馬の味方になることを選ぶからね!
「蔵馬、今日は……ご機嫌斜め?」
「え? そんなことないよ」
「そ、そう」
どう言って切り出したらいいの?!
なんとか誤解は解いて安心させてあげたいのに!
ひきつる私に、蔵馬はにこっと笑った。
「どうしたの?」
「あ、い、あ……何でもないの。元気なさそうだったから」
不思議そうにこちらを見ていたけれど、彼はややして苦笑した。
「そうですね。確かにご機嫌じゃなかったかも」
私は深呼吸し、思い切って言った。
「勘違いだったら許して? あ、あの、も、もしかして、黄泉さんと私のことで何か怒って、る?」
「え……?」
蔵馬は目を真ん丸にして私を見つめ、ややして小さく笑って目を伏せる。
そして、再び私の髪を手悪戯のように撫でながら、ぽつり、ぽつりと喋った。
「怒ってはいませんよ。ただ、ちょっと複雑、かな。夏希と一緒にいた時間はオレの方が長かったのに、黄泉は君の能力をあっさり見抜いたでしょ。それだけ夏希のことをよく見ていたんだなって。それに君も、何だか話し方が変わったからね。前までは、何か話そうとしても、いつも飲み込んでいたようだったから。黄泉は、きっと君を安心させて、リラックスさせたんだろうね」
私は蔵馬の言葉に大慌てで起き上がった。
それで蔵馬は、ちょっと身体を起こして頬杖をつき、斜めにこちらを見上げた。
ルームランプが柔らかく蔵馬を光と影で描き出して、とっても色っぽく見えた。
やっぱり蔵馬ってキレイ……って、そんなこと言ってるじゃない!!
「あっ、あっ、あのねっ! 黄泉さんも私も、ちっともそんなんじゃ、だから異性としてどう、ってんじゃないからね! 別になんにもなかったし! 寝る部屋もすっっっごく離れてたし! ただ、一緒にお食事してただけよ! ホントに、神に誓って、ただのお友達だから! だから、蔵馬は何にも心配しなくていいんだよ!」
蔵馬は、ちょっと戸惑った顔をして私と同じように身体を起こした。
「夏希、君は……」
やっ、やっぱりそうなんだ。
落ち込んじゃダメ、私!
応援してあげるんだから!
「あ、あのね。黄泉さん、言ってたよ。蔵馬のこと、好きだって。だから、頑張ってね!」
「……はい?」
私の言葉を聞いて、再び蔵馬は目をまん丸にした。
私は蔵馬を勇気付けるために、彼の目を覗き込んで力強く頷く。
蔵馬はぎこちなく口元を覆って、私から顔を背けた。
よく見ると、肩が小刻みに震えている。
あら。嬉しくて泣いちゃったのかしら。
普段、あんなにクールなのに、恋は蔵馬をも感激屋さんに変えるのね。
「蔵馬も、もっと素直にならなきゃダメだよ。あんなに睨んだりしたら、黄泉さん誤解するかもしれないでしょ? まあ、あの人も相当素直じゃないけど……。でも、素直になったら、こんな下らないことでヤキモキしなくて済むのに。だって、冷静に考えたらね、一介の人間の小娘を、天下の黄泉サマが相手にするワケないじゃない」
照れているんだろうか、蔵馬は顔を背けたまま、探すように腕を伸ばして私の頭を引き寄せ、その胸に押しつけた。
「本当にね。素直になれたら、どんなにいいだろうね。……なかなか、障害が大きくて、イヤになるよ」
うんうん、それはわかる。男同士だもんねぇ。
「オレの想い人は、鈍感な上に、思考回路が常人とかけ離れているんです」
まあ……一国の主になるような大物だものね。
普通の人とはひと味もふた味も違うでしょうね。
「だったら、なおさら素直にならなきゃ」
私はもぞもぞと顔を上げる。
暖かい色の薄い光の中で、蔵馬は皮肉げに笑い、親指を動かして私の頬を撫でる。
ちょっと孤独な雰囲気は、胸が痛くなるほど美しくて、見えない力で引き寄せられそうになり、慌てて目を伏せた。
いけない、いけない。もう私は恋のキューピッドになるって決めたんだから。
「素直になりたいのは山々だけどね……どうしたって、どうにもならない関係だから、必ず訪れる別れにお互い傷つくだけだから、何も言えない。……何もできない」
そっか……魔界でも男同士って許されない関係なんだ。
……本当に、本当に、大切に思っているんだね。
羨ましいな。
私もそんな風に愛されたら、どんなに幸せだろう。
それでもやっぱり、いま一緒にいられるなら精いっぱい愛したほうがいいんじゃないのかな。
先のことは先のことだし、それに何か、一緒にいられるいい考えが見つかるかもしれないし。
「大丈夫だよ。蔵馬はとっても優しくて、綺麗で、頭が良くて、何でもできて……本当に素敵な人だもん。あなたに愛される人は、この世で一番の幸せ者だと思うよ」
「……本当にそう思う?」
蔵馬は、もう片方の手も伸ばして私の頬を包み込み、じっと覗き込んだ。
ひゃー! 近い!
こちらの複雑な乙女心にもご配慮ください!!
私は真っ赤になりながら、コクコクと頷いた。
蔵馬はくすっと笑って私を放し、掛け布団を直して横になった。
「じゃ、いまはそれで我慢することにします。寝よ?」
言って、私を甘く見つめて引き寄せる。
もう! もう! もうっ!
黄泉さんの、黄泉さんのバカーッ!!
黄泉さま聞き耳たてて笑い死に
初:20051015
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