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Paw, my girl!
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赤みのかった長い髪。
甘い微笑を湛えた唇。
長い睫毛の下で輝く翡翠色の瞳。
通った鼻筋も、滑らかなラインの輪郭も、何もかもが美しく、均整が取れていて、世の中にはこんなに綺麗な人がいるんだ、と見とれるばかりだった。
美しい彼は、私の顔を覗き込み、優しく微笑んで――その甘い声でとんでもないことを言った。
私は息を呑んだまま、聞き間違いであることを祈って、彼を見つめた。
Paw, my girl!
ことの起こりは夏休み前の終業式の日。
終業式って言っても、転校生の私は出ていない。
親の都合でもう引っ越して来ちゃったんだし、手続きとかあれやこれや、やること済ませてすっきり夏休みを迎えようと思ったんだけど……
「……しかし失敗でした」
この日はカラッカラに晴れた真夏日。
学校に行くんだから、って前の学校の制服を着てきたけれど、これが首の開かないデザインで暑いのなんの。
夏カゼをひいたのか、頭は物凄く痛いし、吐き気もする。
その上、新しい学校で使う教科書や、ついでに夏休みの宿題まで渡されちゃって、気分も荷物もズッシリ。
ねえ、神様。学校から開放されるこの日にこんなに憂うつな学生が存在していいの……?
……それに、気を重くするのはヤブヘビでもらった大量の宿題だけじゃない。
転校と同時に、愛しの彼氏にもあっさりフラれてしまった。
そもそも私は「遠距離恋愛になっちゃうけどこれからもよろしく」って言おうとしていたのだった。
それなのに、転校の話をした途端、
『そっか、じゃあ、もう会えなくなるな。お前といられて楽しかったよ。元気でな!』
なんて、笑顔ですらすらっと言われちゃったもんだから、私は「う」とか「あ」とかしか言えなくて、手を振る彼を見送るだけだった。
――もしかして、うっとうしがられてたのかな、私。
「……あれ?」
大きく溜息をついて顔をあげた私は、しばらく硬直してしまった。
光も射さないくらい、うっそうと生い茂る木々が視界を覆い尽くしている。
「また……やっちゃった」
考えごとを始めると、周りのものが一切目に入らなくなるのが私の悪い癖。
どこぞの立て看板をカバンで引き摺ったまま歩いていたり、壁にぶつかっていることに気付かず、足踏みを続けていたことさえあった。
まだ引っ越してきたばかりの街で迷子になっちゃうなんて!
落ち着いて。落ち着いて。
まっすぐ歩いてきたんだから、まっすぐ引き返せばいいだけ。
そうそう。深呼吸して回れ右。
……えーと。
私は、駅前の繁華街から”まっすぐ”歩いてきたんだよね?
腕時計だってそんなに働いていない。
なのになんで、ビルのひとつも見えないの!?
周囲は真っ暗。
木々に寄り添うように生える下草も腰くらいの高さまであって、ひとけもへったくれもない。
途方に暮れて、脇の木の幹に寄りかかる。
あれ? なんかこの木、ごつごつするな。そう思って何気なく振り向いて、
「きゃああああ!!」
思わずのけぞって尻餅をついてしまった。
幹には、洞と瘤とがまるで人の顔のように並んで付いていた。
びっくりさせないで! 心臓に悪いでしょ!
そう思って腹立たしくそいつを睨み上げていると、何だかそれがこっちを見て笑ったような気がした。
……はっ、早く街に出よう!
私は両脇に転がってしまった荷物を手繰り寄せた。
「ぅ……?」
突然、眩暈がした。
身体中が焼けるように熱く、息ができない。
肌がピリピリして、手足も思うように動かせない。
私はたまらず、カバンに覆い被さるように倒れてしまった。
……何? 一体どうしちゃったの?
気力を振り絞って立ち上がろうとするけれど、結局、カバンから転げ落ちて横向きに転がっただけ。
視界はだんだんぼやけてきて、息もますます苦しくなってくる。
こんなところで倒れていても、誰も気付いちゃくれない。
やだ……やだ……私、こんなところで意味もわからず、唐突に死んじゃうの……?
やだ……やだよ……一樹とまだちゃんと話してない……。
やりたいことだっていっぱいあるのに……こんなところで死ねない……っ。
意識を手放したら終わりだと思った。
……痛いなんて言ってたら、死んじゃう……息を吸わなきゃ。
「!!!!」
肺の中を火傷したみたいな激痛に、悲鳴やうめき声さえあげられずに、反射的にうずくまった。
汗なのか涙なのか、鼻を伝ってポトポト雫が落ちる。
胸が……焼けそう……。
私は震える手をぐっとそこに押し当てた。
それしかできなかった。
――不意に、ふうっと痛みが遠のいた。
ついに意識か命を失ったか、と思ったけれど、ぐらぐら揺れる視界はまだ、暗い森を映している。
気持ち悪い……けど、痛みはだんだんマシになっていく……。
私はしばらく、まん丸にうずくまって、痛みの引きを待った。
多分、そのままの体勢で少し気を失っていたんだと思う。
はっと気付いたときには、さっきまでの焼けるような痛みはひいていた。
のたうちまわったときについた擦り傷や切り傷は痛んだけれど、大したことはない。
なんだったんだろう。
そういえば、さっき、胸を押さえた途端、痛みが楽になったんだよね。
「……ううっ」
本当にこういうところがバカだと思う。
私は離してみた手を再び胸に押し当てた。
「胸を冷やさなければ平気ってことかな……ん?」
足元の鋭い痛みだけ引かないので不審に思って見ると、矢車草みたいな花が張り付いている。
「いたた……?? ぇぇぇええ?!」
何気なく剥がして覗き込むと、なんと、その花には、口がついていた!
悲鳴と共に振り払うと、非常識にもソレは根っこを使って走って逃げた!
はっと視線を感じて振り向くと、そこにはさっきもたれかかった人面樹。
気のせいじゃない、やっぱりこっちを見ている。
よくよく見れば、発光している花とか、歩き回っている木とか、目玉に羽が生えた鳥みたいなのだとか……。
私は混乱しつつ、一つの結論に辿り着いた。
「あ! 映画のセットだ!」
なんだ、だったらどこかにスタッフの一人や二人いるよね。
帰り道を教えてもらったら、まず病院に行こう。
入院するような病気じゃないといいんだけど……。
それにしても、どう考えてもB級映画の素材なのに、ずいぶんお金掛けてるなあ。
私はすっかり安心して、もたつく足で出口を探した。
そうして、しばらく歩いた後、がさがさっという音に気付いてそちらを見やった。
なにやら、紫色の大きな着ぐるみを着た人がいる。
うわ、ホントにB級。あれ、キャストだよね。撮影中?
でも、いっか。こっちは病人なんだし。緊急事態、緊急事態。
「あの! すみません!」
着ぐるみは止まらない。聞こえないんだ。もっと近くに行かなきゃ。
私はその後を追った。
――つもりだったけど、見失っちゃった。
「あの、誰かいませんか~! ……あ」
さっきの着ぐるみが見当外れの所に見えた。今度はさっきより近い。
「あ、えっと、すみま……」
言い終わる前に――正確にはその姿をはっきり見た途端、私は咄嗟に身を隠した。
どうしてそうしたのか不思議だった。
ただ、私は生まれて初めて『恐怖』というものの形を知った、そんな気分だった。
あれは着ぐるみじゃない、人じゃない。
あれは私を「食う」。私はあれに「食われる」。
何故かそんな現実離れした考えが私の身体を凍りつかせた。
それはだんだんとこちらに近付いてくる。
紫色の毛皮を持った、熊くらいの大きな獣。しっかりとは見えないけれど、ツノが生えている。
私は身を隠している岩に背中をぴったりくっつけた。
私は岩! 岩なんです! お願い、私に構わずどこかに行って!!
しばらくその辺をウロウロして、その紫ツノ熊はどこかへ去っていった。
制服は冷や汗でびしょびしょになっていた。身体もまだ震えている。
放心状態で、目の前にいた、目が1つしかないリスのような小動物を眺めた。
この森はおかしい。早く出なきゃ。
私はふらふらと立ち上がり、逃げるときに放り出した荷物を拾うと、歩き出した。
初:20051006
改:20250320
甘い微笑を湛えた唇。
長い睫毛の下で輝く翡翠色の瞳。
通った鼻筋も、滑らかなラインの輪郭も、何もかもが美しく、均整が取れていて、世の中にはこんなに綺麗な人がいるんだ、と見とれるばかりだった。
美しい彼は、私の顔を覗き込み、優しく微笑んで――その甘い声でとんでもないことを言った。
私は息を呑んだまま、聞き間違いであることを祈って、彼を見つめた。
Paw, my girl!
ことの起こりは夏休み前の終業式の日。
終業式って言っても、転校生の私は出ていない。
親の都合でもう引っ越して来ちゃったんだし、手続きとかあれやこれや、やること済ませてすっきり夏休みを迎えようと思ったんだけど……
「……しかし失敗でした」
この日はカラッカラに晴れた真夏日。
学校に行くんだから、って前の学校の制服を着てきたけれど、これが首の開かないデザインで暑いのなんの。
夏カゼをひいたのか、頭は物凄く痛いし、吐き気もする。
その上、新しい学校で使う教科書や、ついでに夏休みの宿題まで渡されちゃって、気分も荷物もズッシリ。
ねえ、神様。学校から開放されるこの日にこんなに憂うつな学生が存在していいの……?
……それに、気を重くするのはヤブヘビでもらった大量の宿題だけじゃない。
転校と同時に、愛しの彼氏にもあっさりフラれてしまった。
そもそも私は「遠距離恋愛になっちゃうけどこれからもよろしく」って言おうとしていたのだった。
それなのに、転校の話をした途端、
『そっか、じゃあ、もう会えなくなるな。お前といられて楽しかったよ。元気でな!』
なんて、笑顔ですらすらっと言われちゃったもんだから、私は「う」とか「あ」とかしか言えなくて、手を振る彼を見送るだけだった。
――もしかして、うっとうしがられてたのかな、私。
「……あれ?」
大きく溜息をついて顔をあげた私は、しばらく硬直してしまった。
光も射さないくらい、うっそうと生い茂る木々が視界を覆い尽くしている。
「また……やっちゃった」
考えごとを始めると、周りのものが一切目に入らなくなるのが私の悪い癖。
どこぞの立て看板をカバンで引き摺ったまま歩いていたり、壁にぶつかっていることに気付かず、足踏みを続けていたことさえあった。
まだ引っ越してきたばかりの街で迷子になっちゃうなんて!
落ち着いて。落ち着いて。
まっすぐ歩いてきたんだから、まっすぐ引き返せばいいだけ。
そうそう。深呼吸して回れ右。
……えーと。
私は、駅前の繁華街から”まっすぐ”歩いてきたんだよね?
腕時計だってそんなに働いていない。
なのになんで、ビルのひとつも見えないの!?
周囲は真っ暗。
木々に寄り添うように生える下草も腰くらいの高さまであって、ひとけもへったくれもない。
途方に暮れて、脇の木の幹に寄りかかる。
あれ? なんかこの木、ごつごつするな。そう思って何気なく振り向いて、
「きゃああああ!!」
思わずのけぞって尻餅をついてしまった。
幹には、洞と瘤とがまるで人の顔のように並んで付いていた。
びっくりさせないで! 心臓に悪いでしょ!
そう思って腹立たしくそいつを睨み上げていると、何だかそれがこっちを見て笑ったような気がした。
……はっ、早く街に出よう!
私は両脇に転がってしまった荷物を手繰り寄せた。
「ぅ……?」
突然、眩暈がした。
身体中が焼けるように熱く、息ができない。
肌がピリピリして、手足も思うように動かせない。
私はたまらず、カバンに覆い被さるように倒れてしまった。
……何? 一体どうしちゃったの?
気力を振り絞って立ち上がろうとするけれど、結局、カバンから転げ落ちて横向きに転がっただけ。
視界はだんだんぼやけてきて、息もますます苦しくなってくる。
こんなところで倒れていても、誰も気付いちゃくれない。
やだ……やだ……私、こんなところで意味もわからず、唐突に死んじゃうの……?
やだ……やだよ……一樹とまだちゃんと話してない……。
やりたいことだっていっぱいあるのに……こんなところで死ねない……っ。
意識を手放したら終わりだと思った。
……痛いなんて言ってたら、死んじゃう……息を吸わなきゃ。
「!!!!」
肺の中を火傷したみたいな激痛に、悲鳴やうめき声さえあげられずに、反射的にうずくまった。
汗なのか涙なのか、鼻を伝ってポトポト雫が落ちる。
胸が……焼けそう……。
私は震える手をぐっとそこに押し当てた。
それしかできなかった。
――不意に、ふうっと痛みが遠のいた。
ついに意識か命を失ったか、と思ったけれど、ぐらぐら揺れる視界はまだ、暗い森を映している。
気持ち悪い……けど、痛みはだんだんマシになっていく……。
私はしばらく、まん丸にうずくまって、痛みの引きを待った。
多分、そのままの体勢で少し気を失っていたんだと思う。
はっと気付いたときには、さっきまでの焼けるような痛みはひいていた。
のたうちまわったときについた擦り傷や切り傷は痛んだけれど、大したことはない。
なんだったんだろう。
そういえば、さっき、胸を押さえた途端、痛みが楽になったんだよね。
「……ううっ」
本当にこういうところがバカだと思う。
私は離してみた手を再び胸に押し当てた。
「胸を冷やさなければ平気ってことかな……ん?」
足元の鋭い痛みだけ引かないので不審に思って見ると、矢車草みたいな花が張り付いている。
「いたた……?? ぇぇぇええ?!」
何気なく剥がして覗き込むと、なんと、その花には、口がついていた!
悲鳴と共に振り払うと、非常識にもソレは根っこを使って走って逃げた!
はっと視線を感じて振り向くと、そこにはさっきもたれかかった人面樹。
気のせいじゃない、やっぱりこっちを見ている。
よくよく見れば、発光している花とか、歩き回っている木とか、目玉に羽が生えた鳥みたいなのだとか……。
私は混乱しつつ、一つの結論に辿り着いた。
「あ! 映画のセットだ!」
なんだ、だったらどこかにスタッフの一人や二人いるよね。
帰り道を教えてもらったら、まず病院に行こう。
入院するような病気じゃないといいんだけど……。
それにしても、どう考えてもB級映画の素材なのに、ずいぶんお金掛けてるなあ。
私はすっかり安心して、もたつく足で出口を探した。
そうして、しばらく歩いた後、がさがさっという音に気付いてそちらを見やった。
なにやら、紫色の大きな着ぐるみを着た人がいる。
うわ、ホントにB級。あれ、キャストだよね。撮影中?
でも、いっか。こっちは病人なんだし。緊急事態、緊急事態。
「あの! すみません!」
着ぐるみは止まらない。聞こえないんだ。もっと近くに行かなきゃ。
私はその後を追った。
――つもりだったけど、見失っちゃった。
「あの、誰かいませんか~! ……あ」
さっきの着ぐるみが見当外れの所に見えた。今度はさっきより近い。
「あ、えっと、すみま……」
言い終わる前に――正確にはその姿をはっきり見た途端、私は咄嗟に身を隠した。
どうしてそうしたのか不思議だった。
ただ、私は生まれて初めて『恐怖』というものの形を知った、そんな気分だった。
あれは着ぐるみじゃない、人じゃない。
あれは私を「食う」。私はあれに「食われる」。
何故かそんな現実離れした考えが私の身体を凍りつかせた。
それはだんだんとこちらに近付いてくる。
紫色の毛皮を持った、熊くらいの大きな獣。しっかりとは見えないけれど、ツノが生えている。
私は身を隠している岩に背中をぴったりくっつけた。
私は岩! 岩なんです! お願い、私に構わずどこかに行って!!
しばらくその辺をウロウロして、その紫ツノ熊はどこかへ去っていった。
制服は冷や汗でびしょびしょになっていた。身体もまだ震えている。
放心状態で、目の前にいた、目が1つしかないリスのような小動物を眺めた。
この森はおかしい。早く出なきゃ。
私はふらふらと立ち上がり、逃げるときに放り出した荷物を拾うと、歩き出した。
初:20051006
改:20250320
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