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間違ってるだろ!
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「ちょっとよそ見している間に……こっちもどうしてになってしまった……」
オレは頬が触れ合うほどに近付いていた美馬さんを見下ろす。
「皺が増えましたね」
「何だとぅ……!」
皺がさらに深くなる。
あれからもう20年が経っていた。
初めて会ったときだって若いとは言い難かったのだ。皺の一本や二本は仕方がないのだが。
「もう! もう! ふん! ふん! ちょっともうやだこのポジション。ねえ、多分ここ特等席だよ。誰か替わって!」
しかし中身は成長の痕跡のカケラも見受けられない。むしろ退化している。
「替わりたいですー! そっちがいいですー!」
「若菜さん動かないで……トリモチに口と鼻をふさがれそうです……!」
切羽詰った声に首を回して体勢を確認し、左腕に目いっぱいの力を入れて肘を浮かす。
「大丈夫ですか?」
「……助かりました」
しかし間髪入れず、背後から別の声が上がる。
「あ……あの、蔵馬さん……肘が私の胸に……」
「あっ、ごめん……」
「ちょっと蔵馬!! なにやってんのよこのエロ狐!!」
「……お嬢様。あまりはしたない声を上げるものではありませんわよ」
この場にそぐわぬのんびりした声に目を上げると、テーブルではトリモチから逃れた数名が優雅にティーカップを傾けていた。
「……何なんですか、このシチュエーションは」
「ぼんやりしているから状況が把握できないのよ、集中なさい」
「お茶会では一瞬のぼんやりが命取りです」
「一瞬の隙に髪を抜くのがこのお茶会です」
オレの呟きに、そこかしこから苦しげな声が返ってくる。
言いたいことはたくさんあったがそれらを全て飲み込み、目の前のバカ面を睨みつける。
「はい。オレが悪かったです。反省しています。それで、状況が把握できないオレに説明してもらえますか? 何故先ほどまでお嬢様などと呼ばれていたあなたがイバラで拘束された挙句にトリモチで接着されているのか」
「先ほども何も、お嬢様はお嬢様でございます」
テーブルの方から飛んできた声にため息がこぼれる。
「では、お嬢様役のあなたが何故このようなことになっているのか。いえ、あなたはともかく何故、日頃行いの良い彼女たちや何もしていなかったはずのオレまでトリモチに絡めとられて団子状になっているのか」
「そういえば何ででしたっけ……?」
「この回のログは消失しているんです」
「VAIO君が連れて行ってしまったんですね……」
「ああ、VAIO君……君の笑顔は忘れない……」
再び団子内の会話に引き戻されていく目の前の女を睨み据えたまま、口元だけで笑って押し留める。
「ヒ……ッ? いや、えっと、それは……ノリ?」
「好きですね、その言葉」
「いやあ、ははは」
この人はいつもそうだ。何も考えていない。
身体をガッチリと固定されているため横を向くと首筋が痛む。
仕方なく目を伏せて白々しい笑顔を視界から締め出す。
この10年、彼女が言うところのノリだの勢いだのなりゆきだのに巻き込まれて被った災難を数え始めたらキリがなかった。
茶室が魔界になるのは見ての通り、連載は書いている本人が目指していたゴールとは逆方向に向かっているし、茶会やブログで盛り上がった話題をそのまま小説にしていくものだからギャグ作品ばかりが増える一方。
短編を書いているつもりが気が付けば一般的な携帯小説サイトの長編より長くなっていることもしばしば。
恋愛小説を取り扱うサイトにも関わらず、バレンタインやクリスマスそっちのけで13日の金曜日が祭りになっている。
「私、13金は手帳に印をつけてます」
「私も! 指折り数えちゃいますよね」
しかし13日の金曜日を祭るなどという悪乗りをやっていなかったら今頃このサイトのことを覚えている人などいなかっただろうし、ペットシリーズが迷走を続けているからこそ書く習慣が辛うじて残っているとも言える。
新連載を書くことになったら企画段階で飽きてサイトの看板を下ろすのは目に見えていた。
読み切りに至ってはプロットや設定など準備せず、行き当たりばったりで書いた方が反響が多いくらいだ。
何か食べに行けばそれだけで一本掛けるほどの強烈なメニューに遭遇するし、病院では必ず衝撃的な医師が待ち構えてブログネタを提供してくれる。
つまり、恐ろしいほど悪運が強いのだ。
そしてこの女は平然とした顔で言う。
「まさかこんなことになるとは、おいしいところをもらったわ」
『大団円を迎えた後のヒーローたちは、彼をヒーローたらしめた素晴らしい能力をひた隠し、普通の人間に混ざって普通の人生を送ろうとするの』
美馬と名乗ったその女は街頭演説でもするかのように的外れな説得を延々と続けていた。
最初は話を聞く気はなく、ただ吃驚して眺めていたに過ぎなかった。
これがもし、オレの疑問を的確に解決してくれていたら、その時点で適当に理由をつけて帰ってしまっただろう。
『毎日何事もなく学校に行き、時が来たら毎日何事もなく会社に行き、さらに時が来たら毎日何事もなく盆栽をいじって誰にも知られず終わる』
黒い瞳に白い肌、ごくごく標準的な日本人が語るその日常こそが、オレから見た彼らの人生だった。
そして自分もそうなろうと慎重に慎重を重ねて模倣していたことでもあった。
そう、だからその日もそのつもりでいた。
いつも通り家に帰ったら母さんがいて、父さんがいて、弟がいて、いつも通りみんなで夕食を食べる。
いつも通り風呂に入ったら、いつも通り少し本を読んで、いつも通りベッドに入る。
別に不満だとは思っていなかった。
その女はオレという人間は母さんの幸せな人生のピースのひとつだと言った。
そして、それこそがオレの望みだった。自分の人生には興味がなかった。
……はずだった。
なのに、一度はその場を離れたオレは、何故か引き返してしまった。
今になって思えば、あの的外れな説得はまぐれ当たりで図星をついていたのかもしれない。
もしかしたら「あるある」に書かれるほどお嬢様扱いされ続けてきた彼女たちは、この雑な対応が新鮮だったのかもしれない。
本人は明らかに何も考えていないのだが……とにかく悪運の強い女だ。
しかし――それでいいのか?
20251228
オレは頬が触れ合うほどに近付いていた美馬さんを見下ろす。
「皺が増えましたね」
「何だとぅ……!」
皺がさらに深くなる。
あれからもう20年が経っていた。
初めて会ったときだって若いとは言い難かったのだ。皺の一本や二本は仕方がないのだが。
「もう! もう! ふん! ふん! ちょっともうやだこのポジション。ねえ、多分ここ特等席だよ。誰か替わって!」
しかし中身は成長の痕跡のカケラも見受けられない。むしろ退化している。
「替わりたいですー! そっちがいいですー!」
「若菜さん動かないで……トリモチに口と鼻をふさがれそうです……!」
切羽詰った声に首を回して体勢を確認し、左腕に目いっぱいの力を入れて肘を浮かす。
「大丈夫ですか?」
「……助かりました」
しかし間髪入れず、背後から別の声が上がる。
「あ……あの、蔵馬さん……肘が私の胸に……」
「あっ、ごめん……」
「ちょっと蔵馬!! なにやってんのよこのエロ狐!!」
「……お嬢様。あまりはしたない声を上げるものではありませんわよ」
この場にそぐわぬのんびりした声に目を上げると、テーブルではトリモチから逃れた数名が優雅にティーカップを傾けていた。
「……何なんですか、このシチュエーションは」
「ぼんやりしているから状況が把握できないのよ、集中なさい」
「お茶会では一瞬のぼんやりが命取りです」
「一瞬の隙に髪を抜くのがこのお茶会です」
オレの呟きに、そこかしこから苦しげな声が返ってくる。
言いたいことはたくさんあったがそれらを全て飲み込み、目の前のバカ面を睨みつける。
「はい。オレが悪かったです。反省しています。それで、状況が把握できないオレに説明してもらえますか? 何故先ほどまでお嬢様などと呼ばれていたあなたがイバラで拘束された挙句にトリモチで接着されているのか」
「先ほども何も、お嬢様はお嬢様でございます」
テーブルの方から飛んできた声にため息がこぼれる。
「では、お嬢様役のあなたが何故このようなことになっているのか。いえ、あなたはともかく何故、日頃行いの良い彼女たちや何もしていなかったはずのオレまでトリモチに絡めとられて団子状になっているのか」
「そういえば何ででしたっけ……?」
「この回のログは消失しているんです」
「VAIO君が連れて行ってしまったんですね……」
「ああ、VAIO君……君の笑顔は忘れない……」
再び団子内の会話に引き戻されていく目の前の女を睨み据えたまま、口元だけで笑って押し留める。
「ヒ……ッ? いや、えっと、それは……ノリ?」
「好きですね、その言葉」
「いやあ、ははは」
この人はいつもそうだ。何も考えていない。
身体をガッチリと固定されているため横を向くと首筋が痛む。
仕方なく目を伏せて白々しい笑顔を視界から締め出す。
この10年、彼女が言うところのノリだの勢いだのなりゆきだのに巻き込まれて被った災難を数え始めたらキリがなかった。
茶室が魔界になるのは見ての通り、連載は書いている本人が目指していたゴールとは逆方向に向かっているし、茶会やブログで盛り上がった話題をそのまま小説にしていくものだからギャグ作品ばかりが増える一方。
短編を書いているつもりが気が付けば一般的な携帯小説サイトの長編より長くなっていることもしばしば。
恋愛小説を取り扱うサイトにも関わらず、バレンタインやクリスマスそっちのけで13日の金曜日が祭りになっている。
「私、13金は手帳に印をつけてます」
「私も! 指折り数えちゃいますよね」
しかし13日の金曜日を祭るなどという悪乗りをやっていなかったら今頃このサイトのことを覚えている人などいなかっただろうし、ペットシリーズが迷走を続けているからこそ書く習慣が辛うじて残っているとも言える。
新連載を書くことになったら企画段階で飽きてサイトの看板を下ろすのは目に見えていた。
読み切りに至ってはプロットや設定など準備せず、行き当たりばったりで書いた方が反響が多いくらいだ。
何か食べに行けばそれだけで一本掛けるほどの強烈なメニューに遭遇するし、病院では必ず衝撃的な医師が待ち構えてブログネタを提供してくれる。
つまり、恐ろしいほど悪運が強いのだ。
そしてこの女は平然とした顔で言う。
「まさかこんなことになるとは、おいしいところをもらったわ」
『大団円を迎えた後のヒーローたちは、彼をヒーローたらしめた素晴らしい能力をひた隠し、普通の人間に混ざって普通の人生を送ろうとするの』
美馬と名乗ったその女は街頭演説でもするかのように的外れな説得を延々と続けていた。
最初は話を聞く気はなく、ただ吃驚して眺めていたに過ぎなかった。
これがもし、オレの疑問を的確に解決してくれていたら、その時点で適当に理由をつけて帰ってしまっただろう。
『毎日何事もなく学校に行き、時が来たら毎日何事もなく会社に行き、さらに時が来たら毎日何事もなく盆栽をいじって誰にも知られず終わる』
黒い瞳に白い肌、ごくごく標準的な日本人が語るその日常こそが、オレから見た彼らの人生だった。
そして自分もそうなろうと慎重に慎重を重ねて模倣していたことでもあった。
そう、だからその日もそのつもりでいた。
いつも通り家に帰ったら母さんがいて、父さんがいて、弟がいて、いつも通りみんなで夕食を食べる。
いつも通り風呂に入ったら、いつも通り少し本を読んで、いつも通りベッドに入る。
別に不満だとは思っていなかった。
その女はオレという人間は母さんの幸せな人生のピースのひとつだと言った。
そして、それこそがオレの望みだった。自分の人生には興味がなかった。
……はずだった。
なのに、一度はその場を離れたオレは、何故か引き返してしまった。
今になって思えば、あの的外れな説得はまぐれ当たりで図星をついていたのかもしれない。
もしかしたら「あるある」に書かれるほどお嬢様扱いされ続けてきた彼女たちは、この雑な対応が新鮮だったのかもしれない。
本人は明らかに何も考えていないのだが……とにかく悪運の強い女だ。
しかし――それでいいのか?
20251228