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8月の電車には独特の雰囲気がある。
ひと目見て「ああ、海に行くんだな」などと行き先のわかる行楽客。
開放感にあふれてキラキラと輝く夏休みの学生客。
街を歩いているぶんには特に注目もしないけれど、電車の中だと浴衣や肌を出した服などが、やけに夏を主張してくる。
そう! 電車の中には夏が凝縮されている!
だというのに別にリゾートに行くでもなく、休みですらない人間としては何だか白けた気分になってしまっても仕方がないではないか。
微笑ましい気分で優しく眺める……なんて気にもなれない暑さなのだ、このホームは。
私はハンカチで汗をぬぐったり、パタパタ扇いだりしながら、もうすぐ目の前に到着するはずの夏空間を待ち――ピシリと固まった。
……は?
ど、どういうこと?
あれ、征士……だよね?
え、コスプレ? コスプレ感まったくないけど……。
乗ったら何が何でも座ろうと灼熱の太陽の下で並んでいた列を思わず離れ、征士コスさんの列の最後尾に並ぶ。
その列は柱の前だったので途中で折れ曲がり、私はじっくりと征士さん(仮)の横顔を観察することができた。
……すごい。完璧に征士だ。
声……掛けてみる?
コスプレイヤーさん、それもこんな上手な人だったら、本人やキャラのファンから急に声を掛けられることにも慣れてるだろうし、写真とか撮らせてもらえるかも?
ゴクリと息を飲みこみ、両手で顔を覆う。
いや、この人が慣れていても私は初めてだし!
勇気が……。
自分の小心ぶりにほとほと愛想を尽かしながら顔を上げた私の前を、これまたありえない美人が通り過ぎる。
……って……いまの……。
思わず凝視する私の目の前を涼やかな無表情で通り過ぎ、その人は人ごみに消えて行った。
なっ、なっ、なっ、なんで蔵馬―――っ!?
……ってまあ、ここは蔵馬がウロウロしてる世界線だしね。
蔵馬だって電車くらい乗るよ。
でもよく気付かれなかったな……。
バクバクする胸を押さえながらその姿を見送る。
うん、私は乗客Aだ。いやもういっそ、中村●樹が万年当ててる兵士D辺りでいい。
気にしないでおくれ、蔵馬。
いまの私はそれどころじゃないんだ。
気を取り直して征士(仮)さんに視線を戻した瞬間、その前方に電車が滑りこんだ。
はあ……さっきの列に並んでいたら確実に座れたのに。
おまけに例の麗しの征士(仮)も見失ってしまうとは何たる不覚……。
私は吊り革をつかんでため息をつく。
まあ、いいか。次はターミナル駅だから乗客の入れ替わりが多くてきっと座れるだろう。
私の征士サマも降りちゃうかな……やっぱりさっき勇気を振り絞ればよかった。
目立たないように視線だけを動かして車内を見回す。
ついでに通り過ぎていった蔵馬も探してみるけれど、どちらもその姿は見つけられなかった。
まあ、別にいいんだけどね。
話したいことがあるわけでもなし、用があるなら会いに行けばいいだけの話だし。
思った通り、到着した次の駅では乗客の入れ替えとなり、私はすかさず目の前の空席に腰を下ろした。
はあ、座れてよかった。今日も疲れたよ。
ホウッと息をついて少しだけ目を閉じる。
さっきまでとはうって変わっての涼しさに心地よい揺れ。
――ああ、ダメだ、寝ちゃう。スマホでも見よう。
膝の上のバッグの口をめくってスマホをつまみ出していると、突然左隣から声が掛かる。
「失礼。この列車は蟲寄駅まで行きますか」
「あ、はい、蟲寄が終て……」
何気なく振り返り、思わずスマホを落としそうになる。
征士(仮)サマ―――!?
「……何か?」
「あ、ごめんなさい。はい。この電車の終点が蟲寄駅です」
「ありがとうございます」
こ、声が男だった……!
あんまりに綺麗だから男装だと思ったんだけど、声も、肩幅も、手のゴツゴツ加減も座り方も、完全に男の人だ!
ああ……声掛けづらくなっちゃったな。
いや、最初から声なんて掛けられなかったとは思うんだけどね。隙あらばというか、どさくさ紛れのチャンスとかあればさ……そっか、男の人か……残念……。
でもこれだけ完璧な征士コスの隣に座れているだけでもラッキーだよね。
自撮りしたら髪の毛の先とか写らないかな……って、電車の中でひとりで自撮りなんてできるかー!
スマホを握り締めて悶々としていると、右隣に文庫本を読みながら人が座り、私は慌ててブラウザアプリを開いてネットを見ているフリをした。
そもそも読書中の人が隣の席の人のスマホなんて覗きこむわけがないのだけれど、後ろめたい気持ちは人間を挙動不審にするのだ。
うん。盗撮ヨクナイ。
男の人だろうが女の人だろうが、コスプレイヤーさんなら誠心誠意お願いしたらきっと撮らせてくれるはず。
蟲寄まで行くって言ってたし、どうしても写真が欲しいんだったらそこまでついて行ってお願いしよう! どうせもう帰るだけなんだし!
……ま、写真が欲しいなら、だけどね。
写真……あっても……いやいや、こんな完璧な征士見たことないし……うーん……。
真剣に考えこむ私の左肩にコトン、と何かが当たった。
何気なく振り返ると、そこにはその征士サマの、ど、ど、どアップが!!
ひー!! ナニゴトー!?
もしかして私、心の声ダダ漏れデシタカ?
これはサービス? それとも無言の抗議?
目を見開いたまま硬直する私の肩がだんだん重くなっていき、耳にはスウスウという規則正しい呼吸音が届き始める。
……ね、寝てるだけでした……セーフ!
セーフ……というかこれは盗塁チャンスか?
再びスマホを持ち上げカメラアプリを起動したがる指を理性がなだめる。
だから、ダメです。盗撮犯罪! しかも寝顔なんて絶対ダメ!
落ち着きなさい、私よ。よいではないの。
この高身長の美顔をこんな角度から眺められるなんてちょっとできない経験だ。
それにこの完璧すぎるコスの秘密もじっくり観察できる。
はっきりと日本人なのに、まったく違和感のない明るく輝く髪色。
そして何より奇妙奇天烈なこの髪形の謎!
これらを完璧に再現したコスプレを分析すること、これすなわち征士の謎を分析するに等しいのだ!
よっしゃ! 攻略するわよ! 風雲征士城!
心の中でガッツポーズをとった瞬間、右肩をトンと叩かれる。
お巡りさん――!?
私はそのままピシリと固まる。
やっぱり……やっぱり心の声、漏れてる?
ギギギと振り返ると、右隣の人も眠り込んで寄りかかってきているだけだった。
そう、それだけ――って、全然それだけじゃないんですけど!?
思わず立ち上がりそうになり、逆側の征士のことを思い出して踏みとどまった。
「く……」
思わず声を掛けそうになり、でも声を出したらせっかくの肩乗り征士に逃げられるのではと慌てて飲みこむ。
なんで……なんでこんなところに蔵馬が……全然気づかなかった……。
私がバカ面で征士の寝顔を眺めてたところ見られた……?
いや、蔵馬も本を読んでいたし、私と気づいているなら声くらい掛けるだろうし!
とはいえこの蔵馬が気づかないなんてことある?
やっぱり私の様子を見て何か意図的にやってる?
それともよっぽど睡眠不足だったとか、本が面白かったとか?
うーん……。
考えあぐねてチラッと蔵馬の寝顔を盗み見る。
『オレ、あなたのこと、好きみたいなんです』
いつかもらったその言葉は、まるでさっきの灼熱のホームにふわっと落ちたかき氷のよう。
一瞬で溶けて、さっと蒸発して、跡形も残さない。
いったいどんなつもりで言ったのか知らないけれど、蔵馬の態度もまったく変わらず、だから私も聞かなかったことにして友達として付き合っている。
けれど、平然としている顔を見ると少々癪にもさわる。
目の前の寝顔を小突きあげてやりたい衝動を征士(仮)の安眠のために押し殺し、苦々しい思いでにらみつける。
この角度から見ても変わらず、女の子みたいに甘く整った顔立ち。
反り返ったまつ毛には車窓から降り注ぐ陽射しが宿ってキラキラと輝き、まるで天使だ。
私を気に入った……なんて気の迷いか、そうでなければいつものブラックな冗談に違いない。
分かってる。分かってはいるのに。
心の中がモヤモヤしてきて、私は征士(仮)を起こさないようゆっくりと、しかし深く深ーく息を吐き、心のゴミ箱にポイッと蔵馬を放り込んだ。
腹いせではない。いまは征士(仮)だ! そうだ!
蔵馬はいつでも見られるけれど、征士はそうはいかない。
私は鼻息も荒く左隣に視線を戻す。
はあ、神様……ここは何という名の天国でしょう……!
まさに本物、本物としか言いようのない征士サマが私の肩に頬を寄せてスヤスヤと寝息を立てているなんて!
……とりあえず髪形どうなってるのか観察しよう。
って髪の毛サラサラ~! ツヤピカ~!
お、つむじ発見。
なるほど、ここからこっち向きに流れて、この辺で分け目を作るとこういうことに……ふむふむ。
ワンダービートスクランブルに乗り込み、神秘の髪林を夢中で探検している私の耳に、聞き慣れた駅名が飛び込む。
……あ、降りる駅――って、そんなの知ったことかぁ!
征士(仮)サマの隣は誰にも譲りはせん!
蟲寄市だろうが地獄の果てだろうがどこまでもお供いたしまするー!
……っていうかたぶん蔵馬も降りる駅なんじゃないかと思うんだけど……起こしたほうがいい?
でももし腕を動かしたり声を出したりして征士(仮)が起きちゃったら……。
えーい! 蔵馬も蟲寄へGO☆
お久しぶりの海藤君が待ってるゾ!
それにしても蔵馬が降りる駅を寝過ごすほど爆睡するなんて……?
やっぱり寝たふり? それとも普通に海藤君に用事?
私は意に反して征士サマから蔵馬に目を戻す。
正直鬱陶しい……隣に爆弾が座ってるみたいな気分……。
本当だったら隣に蔵馬がいるなんて……ん? いるなんて?
嬉しい……のか?
私、好意をほのめかすようなことを言われて舞い上がってるのかも。
うん、きっとそうだ。
あんなこと言われなかったら普通に「よう!」って感じなはず。
そっちのほうが楽しいのに、なんでぶっ壊すようなこと言うんだ。
蔵馬のばーかばーかばーか! 以上! フン!
脳内でクレームをつけ終わってさっぱりして、改めて征士に向き直る。
さあて、もういちどワンダービートスクランブルに……
「ご乗車大変お疲れさまでございました~。次は終点、蟲寄駅ぃ~。蟲寄駅ぃ~。車内にお忘れ物の無いよう……」
わっ! しーっ! しーっ!
終点とか蟲寄とか大きい声で言わないで!
征士(仮)が起きちゃったらどうするの!
あ、いや、終点なんだからいつまでも座り込んでいたら起こしに来るか……。
でももしかしてこのまま車庫に入っちゃったり?
そこで征士サマ独占撮影会なんてしちゃったり!?
ふるふると震えながら妄想に浸る私の前からだんだんと人が消えて行く。
征士(仮)さん……よっぽど疲れてるのかな……まだ起きない。
起きないっていえばもう片側の……。
「しまった!」
突然声が上がり、右肩がフッと軽くなった。
しまった! クラマが立った!
いや、立ってもいい、立ってもいいからこっちを向くな!
私の必死の願いもむなしく、蔵馬はこちらを振り返る。
「夏希?」
「あ……ええと」
「ここは……?」
「終点。蟲寄」
蔵馬はぼんやりとした瞳でこちらを見ていたけれど、急にぱっちりと目を開けた。
「あれ、もしかしてオレが寄りかかってたから降りられなかった?」
「そ……そういうわけでは……」
正確には征士(仮)がもたれかかってたからなんだけどね。
そんなこと言ったら蔵馬の注意がそちらに向いてしま……
「そちらは……?」
ぎゃー! いきなり向いた!
「え? いや、違う! 何でもな……」
蔵馬は怪訝そうに自分の顎をつまみ、無慈悲にも征士(仮)に向かって手を伸ばした。
「あの、終点ですよ」
蔵馬のバカヤロー!!
内心絶叫する私の隣で、征士(仮)がハッと身体を起こす。
「ここは……」
「あっ、蟲寄駅です」
征士(仮)は蔵馬同様、ぼんやりとした目でこちらを眺め、ハッとしたように立ち上がった。
「申し訳ない。寄りかかってしまったでしょうか」
……すごい。完璧に征士だ。
声も、口調も、話すことまで完全に征士。
プロだ。プロの征士だ……!
感動して目を潤ませる私を蔵馬はちらりと見て、なぜか不機嫌そうに手を伸ばす。
「とりあえず降りましょう」
突然、目の前に差し出された手に戸惑っていると、征士が手早く網棚の荷物を下ろし、蔵馬がそれに気を取られている隙を狙って立ち上がる。
車内を巡回している乗務員から逃れるように電車を降りると、ホームは夕焼けに染まっていた。
「夏希、ごめん。オレがもたれかかっていたから降りられなかったんですよね」
「そうだったのか? すまない。私も寄りかかっていたのだ」
「えっ? あっ、ううん。どうせ帰るだけだったし、それに征士さん、蟲寄に行くって言ってたから……」
思い切って言うと、征士(仮)は不思議そうに瞬きをした。
「私はあなたに自己紹介しただろうか」
「……!」
し、しまった! 勝手に征士コスって思い込んでたけど、実はサイボーグ009とか味皇さまコスだったのかも!?
「ち……違いました? すみません……」
「私はそんなに有名人だったのか! もしかして先日の盆栽コンクールを見てくれたのか?」
がっちりと両手をつかまれ、私はゴクリと息を飲んだ。
本気だ……本気の征士だ。完全になり切ってる。さすが征士プロ!
「盆栽に興味が?」
「え? はい、まあ……」
正確には盆栽やってる征士に、だけどね。
「実はこの近くによい盆栽園があってな。あなたさえよければ一緒にどうだろう。迷惑をかけたお詫びに一鉢プレゼントさせていただきたい」
いや~、いらないかな。
……とも言えず、へらへらと笑っていると、私の隣で蔵馬が腕組みをした。
「もしかして木魚園のことですか? あそこならもう閉園時間では……」
「何? もうそんな時間か! ……夏希さんと言いましたか。ご迷惑を掛けたお詫びをしたいのだが、何かできることはないでしょうか」
えっ? 渡りに船!? 蔵馬グッジョブ??
私は両手で握り締めていたスマホを恐る恐る持ち上げる。
「あの、写真撮らせてもらっていいですか?」
「写真?」
征士(仮)はオウム返しに小首を傾げる。
んん? なんかコスプレイヤーらしくない反応……。
だけど言ったものは引っ込められない!
「あっ、あのっ、あなたのファンなので!」
征士(仮)はオリジナル征士ファンと取ったのか、レイヤーさん自身のファンと取ったのかはわからない。
しかしプロらしくこう答えて私の手からスマホを取り上げた。
「こんなに熱心な愛好家がいるとは、盆栽界の未来も明るいな。お願いできるだろうか」
そしてなんとそれを蔵馬に渡し、私の隣に立って真顔でVサインを出した。
ええっ! ここまで完璧なレイヤーさんが素人みたいなVサイン?
……いや、待て待て、征士だったらやるかな、ピース。
さすがでございます。征士プロ。
でもそれはいいとして、私と一緒に撮るの!?
「ほら夏希、こっち向いて。はい、チーズ」
「えっ、あっ」
「はい、もう一枚」
蔵馬は容赦なく征士(仮)の、レアに違いないVサインと、私の油断顔をカメラに収めてこちらに返す。
「盆栽を見ないのなら、このままオレたちと引き返しますか?」
隣のホームを指差して蔵馬が問うと、征士(仮)は首を振る。
「いや、今日来たのは盆栽ではなくカボチャのためなのだ」
「カボチャ?」
今度は蔵馬がオウム返しに首を傾げた。
征士(仮)は両腕を組むと、端正な横顔を見せ、二、三歩あるく。
「このあたりに前年度オバケカボチャ大会の優勝者がいるらしい。私は彼に会いに来たのだ」
「カボチャを見に?」
蔵馬の言葉に、征士(仮)は真剣な瞳をこちらに向けた。
「カボチャ栽培の極意をうかがうためだ。私はカボチャに目がなくてな」
「食べるのが好き……ではなく、作るのがですか?」
「どちらも好きなのだ」
困惑したように蔵馬が何か言いかけたとき、改札のほうから大きな声が上がった。
「あー! いた! オマエなにやってたんだよ、4時間も遅刻して!」
「もう観光終わって帰るところだぜ」
口々に何か言いながら、4人の男性が歩いてくる。
その姿がだんだんとはっきりしてくるのを見て、私は思わず脇のベンチに座り込んだ。
な、な、なんでこんな完璧なお仲間まで揃ってるのー!?
「すまんな。途中まで車で来ていたのだが、途中で事故現場を目撃してしまって現場検証に付き合うために運転手を残してきてな」
「まさかお前、ひとりで電車に乗ったのかよ」
「やればできるんだな……」
……おかしい。どう考えてもおかしい。
いくらなんでも、これだけいればひとりくらい頭数合わせの雑なレイヤーさんが入るのが普通なはず。
まさか……いや、そんな馬鹿な……。
目を皿のようにしてコスプレ集団のアラを探していると、ひとりの男性がそれに気づいたように人当たりのいい笑顔でこちらを向く。
「こちらは?」
「ああ、私がうっかり迷惑を掛けてこんなところまで付き合わせてしまったのだ」
「だろうね……本当に申し訳ありません。僕からもお詫びします」
困った仲間たちにいつも振り回されては尻拭いをさせられ、どす黒いオーラを振りまくのがお約束のその彼の姿も様子も……完璧に本物……。
「あの?」
「……あっ、いえ! もうお礼していただいたので!」
「礼? 征士が? 笹かまでも持ってたのかよ?」
「いや、一緒に写真を撮った」
「……そ、それが詫び……?」
「あっ! オレたちこれから飯食いに行くんだけど、よかったら一緒にどうだ?」
「いえ」
蔵馬も余所行きの笑顔で静かに首を振る。
「これからオレたち、デートなんです」
「……はっ? はあ? 誰と誰g%)¥&*!?」
抗議の声を上げる私の口をふさぎ、蔵馬は涼やかな顔でポケットから何か取り出し、征士(?)に手渡した。
「これは……」
「大きくなりますよ、それ」
「……まさか……!」
「じゃ」
まるで図ったようなタイミングでホームに電車が滑りこむ。
「待って、待ってくれ!!」
「ほら、征士、とっとと乗る!」
「師匠ー!!」
「フガモガー!!」
征士(?)と私の悲痛な叫びを遮断するようにドアが閉まり、私はズルズルと蔵馬に引きずられて階段を上る。
「あれ本物だったかもしれないのに!」
折り返しの電車に乗り込んだ私はむくれて抗議したが、蔵馬は小さく笑うだけだった。
「でしょうね」
うわ、これ確信してる!
それなのにあんな引き離すようなことして、しかも征士の目の前で別の男とデート宣言させるとか……!
「ひどい……」
「あなたが言いますか?」
なにが?
私が顔を上げると、蔵馬は視線だけをこちらに向けた。
「オレの気持ちを知っていながら、他の男に鼻の下を伸ばして」
私が慌てて口元を覆うと、蔵馬は小さく吹き出した。
「自覚あるんですね」
別に鼻の下なんて伸ばして……たかもしれないけど……。
私はチラッと蔵馬の横顔をうかがう。
またしてもサラッと言いやがった……。
やっぱりあの言葉は生きてる?
じゃあなんでこんなに平然としてるんだろ。
「で、何がいいですか?」
「何が?」
「迷惑を掛けたお詫び」
「いいよ、そんなの」
どうせ迷惑のメインは征士だったし。
あ、そうだ、さっきの写真!
もしかして世界線が違うから写ってなかったりとか……ないよね?
気になる……けど蔵馬の前でまた鼻の下を伸ばすわけには……。
「オレとも写真撮ります?」
「何で?」
「寝過ごし記念の思い出に」
「寝てたのは蔵馬でしょ?」
「なかなか珍しいものが見られたと思いませんか?」
それは確かに。
写真撮っておいたらユスれるかもしれないし、どさくさに紛れてさっきの写真確認できそう。
「じゃあ……撮る?」
さっきはひとりだったからできなかったけど、ふたりなら割と怖いものはない。
始発駅直後で他に人が少ないのもある。
蔵馬にスマホを渡すと、彼はそっと私の肩に腕を回した。
わ、わっ、なんか、ちょっと刺激が強い!
慌てて身体を離そうとするのをグイッと抱き寄せ、蔵馬はスマホを持ったもう片方の手を斜め前方に伸ばした。
「ほら、夏希、こっち」
「あ、ちょっと待っ……わっ!」
思い切り口開けてますよ――言いながら蔵馬はスマホ画面をこちらに向ける。
ユスるどころかこっちがユスられそうな写真になってしまった……。
「ちょっとそれ消して!」
「はいはい。じゃあ、次はちゃんと笑ってくださいね。はい、チーズ」
いくらふたりではあっても、やっぱり公衆の面前で「はい、チーズ」は気恥ずかしく、私は曖昧な薄ら笑いを浮かべてフレームに収まっていた。
「気に入らない? 撮り直す?」
「もういい。私には写真に写る才能がないんだよ」
「なんですか、それ」
蔵馬との写真を確認するフリをして、シレッと履歴をさかのぼる。
さっきの征士の写真……写真……?
「なにコレー!?」
「はい?」
思わず大声を上げると、蔵馬はニヤニヤとこちらを振り返った。
くっそ、わざとやったな……!
「なんで征士が写ってないの!」
「あれ、失敗したかな」
そこに映し出されていたのは、限界までズームで引き延ばされた私の顔面とおぼしき物体だった。
それも2枚とも!!
「ひどい……いくらなんでもこれはひどい……私が征士ファンだって知っててこれってあくどすぎない!?」
「あなただって似たようなものでしょう?」
「今回は特別だったんだよ! 神様のプレゼント! 幻の珍獣だったんだよ! それを、それを、それを~~~!!」
自分で言うのも何だが、私はできれば地味に目立たずおとなしく生きていたいタイプだ。
だからこそキラキラ星人の蔵馬の言葉を素直に受け取れないし、知らない人にこちらから話しかけたり、公衆の面前で写真を撮ったりできなかったわけだ。
だが、さすがに今回ばかりは公衆の面前で絶叫することを抑えられなかった。
そのくらいショックだったのだ!
わかってもらえるだろう、このサイトに来ているみんなならば!
「夏希、落ち着いて」
「落ち着く?! 一体誰のせいで私がこんなになってると思ってるの!」
「まさかそんなに怒ると思わなくて」
飄々とした様子で放たれた言葉に髪の毛が逆立つ気がした。
怒髪天を突くってのはこういうことだ。
しかし蔵馬は相変わらずおっとりとした様子でこちらに手を伸ばし、私の頭を撫でた。
「じゃあ、お詫びに、もういちど彼に会わせてあげますよ」
「……へ?」
どういうこと? 実は知り合いだったとか?
だったらもったいぶっていないで、とっとと! いますぐ! 会~わ~せ~ろ~!
「夏希、苦しいです」
「どういうこと?」
蔵馬は首に絡みついていた私の手を剥がし、天井を見ながら襟元を整えた。
今さらだけど、左肩にサン●イズの誇る美形、右肩にこのべっぴんを乗せて優雅に電車旅なんてどこのマハラジャですかよって感じ。
いや、旅じゃないけどね。
きっと注目集めてたんだろうな、あのときは必死で周囲なんて見ていられなかったけど。
「さっき彼に渡したもの、魔界カボチャの種だったんです。育てれば軽く1メートルは超える」
「は……」
「それを持って彼はきっとオバケカボチャ大会に出場すると思いますよ」
「いやいや、魔界カボチャって大丈夫なの? それ」
蔵馬は顎をつまんで少し俯く。
「少し色好みなところがありますが、特に何をするわけでもないです」
「ちょっと意味が……カボチャが好色家ってどういうこと……」
「まだ種の段階では分からないんですが、メスだったら懐かれるかもしれませんね。彼、美形でしたし」
「カボチャにオスとメス……じゃなくて、懐くって具体的には!?」
「心配しなくても、とって食ったりしませんよ。ちょっと口説かれるくらいです」
「征士はカボチャが大好きなんだよ! そのカボチャに口説かれたら……」
果たしてどうなるのか、正直想像もできない。
何と言ってもあの征士なのだ。
私たちの常識ではかれるようなスケールの人間ではない。
脳内に白タキシード姿の征士とウェディングドレスを巻いた巨大カボチャが寄り添っている姿が浮かぶ。
……なんだこの絵面。
「ライバルを増やしたって怒ってます?」
「ラッ!? そんなこと考えてないよ」
「ふぅん」
蔵馬はどこからともなくカボチャの種を取り出し、コロコロとてのひらで転がした。
「これでお詫びになるかな」
「え?」
「これを育てて大会に出ればまた会える。彼に渡したのと同じ種ですからね」
ま、魔界カボチャ……!
が、ふたつも紛れ込んでる「オバケ」カボチャ大会って大丈夫なんだろうか……。
魔界の入り口が開いたりしないよね?
「残念。もう少し喜んでくれるかと思いました」
「え?」
そりゃ征士に会えるとしたら嬉しい。
けど、なんでいまになってそんな淋しそうな顔するの。
いままでおくびにも出さなかったくせに。
「じゃあ、そしたら今度こそ征士の写真撮ってきて。できたらさっきの5人全員集合写真も」
「夏希も連れて行きますよ」
「やだよ、ずっとそんなつまんなさそうな顔されてたら気が滅入る」
「オレ、そんな顔してる?」
「してる」
けれどそれは蔵馬が始めて見せてくれた「ほんとう」で、私が長い間戦ってきた疑惑との決別のサインでもあった。
だから――
「別にいいよ、もう。たぶん今日見たの幻だし」
「このサイト、多いですよ、幻。管理人の妄想でできているんですから」
「自分の妄想より他人の妄想のほうが信用できるっていうか……それに最初に幻食らわせてきたの蔵馬じゃん」
蔵馬は不思議そうにこちらを振り返り、私はその視線に押されるようにそっぽを向く。
窓の外はだんだんと夜に染まりゆき、街の明かりが筋を描きながら後ろに流れていた。
こうなってしまうと、どこを走っているのかもわからなくなり、だから蔵馬が急に立ち上がったときもぽかんとして眺めてしまった。
「着きましたよ」
言いながら蔵馬は再び私に片手を差し出す。
ちゃんと触れるだろうか――そんな好奇心も多少はあった。
そう。今度こそ私はその手を取り、その瞬間に私を覆っていた霞のような膜が一気に硬質化し、そしてパリンと割れる音を聞いた――気がした。
背後でドアの閉まる音が聞こえ、風と共に電車が走り去っていく。
それを追いかけるように歩いていた私たちは、どちらからともなく足を止めて見送った。
「……妄想電車」
「何?」
「いや、なんで蔵馬と征士が同じ電車に乗り合わせてるわけ? おかしいでしょ!」
「と言われてもなあ」
「いまね、私の妄想が走り去っていったんだよ」
もう消え散りそうな電車の灯りを指差すと、隣で蔵馬が小さく笑う。
あの電車が走り去っても蔵馬は消え失せたりしなかった。
この妄想の極みみたいな生き物が私の現実、なのらしい。
「カボチャ、どこで育てるの? 1メートルとか言ってたよね?」
「当日会場の近くで一気に膨らませます」
「そんな、浮き輪やビーチボールみたいに……」
「運ぶのが大変ですからね」
「そりゃそうだけど」
「大会、幽助たちも一緒だったら来てくれます?」
「え……それだったら考えるけど……佐々木望のギャラかさむよ。2人分だよ?」
改札を抜け、高架をくぐり、いつもの道を歩く。
他愛ない話をしながら。
別に蔵馬の気持ちが分かったからといって話の内容が変わったわけでもない。
ただ、いつもの別れ道をひとつ飛ばして冷やし中華を食べに行ったことくらいだ。
■元ネタバトン
20260816
ひと目見て「ああ、海に行くんだな」などと行き先のわかる行楽客。
開放感にあふれてキラキラと輝く夏休みの学生客。
街を歩いているぶんには特に注目もしないけれど、電車の中だと浴衣や肌を出した服などが、やけに夏を主張してくる。
そう! 電車の中には夏が凝縮されている!
だというのに別にリゾートに行くでもなく、休みですらない人間としては何だか白けた気分になってしまっても仕方がないではないか。
微笑ましい気分で優しく眺める……なんて気にもなれない暑さなのだ、このホームは。
私はハンカチで汗をぬぐったり、パタパタ扇いだりしながら、もうすぐ目の前に到着するはずの夏空間を待ち――ピシリと固まった。
……は?
ど、どういうこと?
あれ、征士……だよね?
え、コスプレ? コスプレ感まったくないけど……。
乗ったら何が何でも座ろうと灼熱の太陽の下で並んでいた列を思わず離れ、征士コスさんの列の最後尾に並ぶ。
その列は柱の前だったので途中で折れ曲がり、私はじっくりと征士さん(仮)の横顔を観察することができた。
……すごい。完璧に征士だ。
声……掛けてみる?
コスプレイヤーさん、それもこんな上手な人だったら、本人やキャラのファンから急に声を掛けられることにも慣れてるだろうし、写真とか撮らせてもらえるかも?
ゴクリと息を飲みこみ、両手で顔を覆う。
いや、この人が慣れていても私は初めてだし!
勇気が……。
自分の小心ぶりにほとほと愛想を尽かしながら顔を上げた私の前を、これまたありえない美人が通り過ぎる。
……って……いまの……。
思わず凝視する私の目の前を涼やかな無表情で通り過ぎ、その人は人ごみに消えて行った。
なっ、なっ、なっ、なんで蔵馬―――っ!?
……ってまあ、ここは蔵馬がウロウロしてる世界線だしね。
蔵馬だって電車くらい乗るよ。
でもよく気付かれなかったな……。
バクバクする胸を押さえながらその姿を見送る。
うん、私は乗客Aだ。いやもういっそ、中村●樹が万年当ててる兵士D辺りでいい。
気にしないでおくれ、蔵馬。
いまの私はそれどころじゃないんだ。
気を取り直して征士(仮)さんに視線を戻した瞬間、その前方に電車が滑りこんだ。
はあ……さっきの列に並んでいたら確実に座れたのに。
おまけに例の麗しの征士(仮)も見失ってしまうとは何たる不覚……。
私は吊り革をつかんでため息をつく。
まあ、いいか。次はターミナル駅だから乗客の入れ替わりが多くてきっと座れるだろう。
私の征士サマも降りちゃうかな……やっぱりさっき勇気を振り絞ればよかった。
目立たないように視線だけを動かして車内を見回す。
ついでに通り過ぎていった蔵馬も探してみるけれど、どちらもその姿は見つけられなかった。
まあ、別にいいんだけどね。
話したいことがあるわけでもなし、用があるなら会いに行けばいいだけの話だし。
思った通り、到着した次の駅では乗客の入れ替えとなり、私はすかさず目の前の空席に腰を下ろした。
はあ、座れてよかった。今日も疲れたよ。
ホウッと息をついて少しだけ目を閉じる。
さっきまでとはうって変わっての涼しさに心地よい揺れ。
――ああ、ダメだ、寝ちゃう。スマホでも見よう。
膝の上のバッグの口をめくってスマホをつまみ出していると、突然左隣から声が掛かる。
「失礼。この列車は蟲寄駅まで行きますか」
「あ、はい、蟲寄が終て……」
何気なく振り返り、思わずスマホを落としそうになる。
征士(仮)サマ―――!?
「……何か?」
「あ、ごめんなさい。はい。この電車の終点が蟲寄駅です」
「ありがとうございます」
こ、声が男だった……!
あんまりに綺麗だから男装だと思ったんだけど、声も、肩幅も、手のゴツゴツ加減も座り方も、完全に男の人だ!
ああ……声掛けづらくなっちゃったな。
いや、最初から声なんて掛けられなかったとは思うんだけどね。隙あらばというか、どさくさ紛れのチャンスとかあればさ……そっか、男の人か……残念……。
でもこれだけ完璧な征士コスの隣に座れているだけでもラッキーだよね。
自撮りしたら髪の毛の先とか写らないかな……って、電車の中でひとりで自撮りなんてできるかー!
スマホを握り締めて悶々としていると、右隣に文庫本を読みながら人が座り、私は慌ててブラウザアプリを開いてネットを見ているフリをした。
そもそも読書中の人が隣の席の人のスマホなんて覗きこむわけがないのだけれど、後ろめたい気持ちは人間を挙動不審にするのだ。
うん。盗撮ヨクナイ。
男の人だろうが女の人だろうが、コスプレイヤーさんなら誠心誠意お願いしたらきっと撮らせてくれるはず。
蟲寄まで行くって言ってたし、どうしても写真が欲しいんだったらそこまでついて行ってお願いしよう! どうせもう帰るだけなんだし!
……ま、写真が欲しいなら、だけどね。
写真……あっても……いやいや、こんな完璧な征士見たことないし……うーん……。
真剣に考えこむ私の左肩にコトン、と何かが当たった。
何気なく振り返ると、そこにはその征士サマの、ど、ど、どアップが!!
ひー!! ナニゴトー!?
もしかして私、心の声ダダ漏れデシタカ?
これはサービス? それとも無言の抗議?
目を見開いたまま硬直する私の肩がだんだん重くなっていき、耳にはスウスウという規則正しい呼吸音が届き始める。
……ね、寝てるだけでした……セーフ!
セーフ……というかこれは盗塁チャンスか?
再びスマホを持ち上げカメラアプリを起動したがる指を理性がなだめる。
だから、ダメです。盗撮犯罪! しかも寝顔なんて絶対ダメ!
落ち着きなさい、私よ。よいではないの。
この高身長の美顔をこんな角度から眺められるなんてちょっとできない経験だ。
それにこの完璧すぎるコスの秘密もじっくり観察できる。
はっきりと日本人なのに、まったく違和感のない明るく輝く髪色。
そして何より奇妙奇天烈なこの髪形の謎!
これらを完璧に再現したコスプレを分析すること、これすなわち征士の謎を分析するに等しいのだ!
よっしゃ! 攻略するわよ! 風雲征士城!
心の中でガッツポーズをとった瞬間、右肩をトンと叩かれる。
お巡りさん――!?
私はそのままピシリと固まる。
やっぱり……やっぱり心の声、漏れてる?
ギギギと振り返ると、右隣の人も眠り込んで寄りかかってきているだけだった。
そう、それだけ――って、全然それだけじゃないんですけど!?
思わず立ち上がりそうになり、逆側の征士のことを思い出して踏みとどまった。
「く……」
思わず声を掛けそうになり、でも声を出したらせっかくの肩乗り征士に逃げられるのではと慌てて飲みこむ。
なんで……なんでこんなところに蔵馬が……全然気づかなかった……。
私がバカ面で征士の寝顔を眺めてたところ見られた……?
いや、蔵馬も本を読んでいたし、私と気づいているなら声くらい掛けるだろうし!
とはいえこの蔵馬が気づかないなんてことある?
やっぱり私の様子を見て何か意図的にやってる?
それともよっぽど睡眠不足だったとか、本が面白かったとか?
うーん……。
考えあぐねてチラッと蔵馬の寝顔を盗み見る。
『オレ、あなたのこと、好きみたいなんです』
いつかもらったその言葉は、まるでさっきの灼熱のホームにふわっと落ちたかき氷のよう。
一瞬で溶けて、さっと蒸発して、跡形も残さない。
いったいどんなつもりで言ったのか知らないけれど、蔵馬の態度もまったく変わらず、だから私も聞かなかったことにして友達として付き合っている。
けれど、平然としている顔を見ると少々癪にもさわる。
目の前の寝顔を小突きあげてやりたい衝動を征士(仮)の安眠のために押し殺し、苦々しい思いでにらみつける。
この角度から見ても変わらず、女の子みたいに甘く整った顔立ち。
反り返ったまつ毛には車窓から降り注ぐ陽射しが宿ってキラキラと輝き、まるで天使だ。
私を気に入った……なんて気の迷いか、そうでなければいつものブラックな冗談に違いない。
分かってる。分かってはいるのに。
心の中がモヤモヤしてきて、私は征士(仮)を起こさないようゆっくりと、しかし深く深ーく息を吐き、心のゴミ箱にポイッと蔵馬を放り込んだ。
腹いせではない。いまは征士(仮)だ! そうだ!
蔵馬はいつでも見られるけれど、征士はそうはいかない。
私は鼻息も荒く左隣に視線を戻す。
はあ、神様……ここは何という名の天国でしょう……!
まさに本物、本物としか言いようのない征士サマが私の肩に頬を寄せてスヤスヤと寝息を立てているなんて!
……とりあえず髪形どうなってるのか観察しよう。
って髪の毛サラサラ~! ツヤピカ~!
お、つむじ発見。
なるほど、ここからこっち向きに流れて、この辺で分け目を作るとこういうことに……ふむふむ。
ワンダービートスクランブルに乗り込み、神秘の髪林を夢中で探検している私の耳に、聞き慣れた駅名が飛び込む。
……あ、降りる駅――って、そんなの知ったことかぁ!
征士(仮)サマの隣は誰にも譲りはせん!
蟲寄市だろうが地獄の果てだろうがどこまでもお供いたしまするー!
……っていうかたぶん蔵馬も降りる駅なんじゃないかと思うんだけど……起こしたほうがいい?
でももし腕を動かしたり声を出したりして征士(仮)が起きちゃったら……。
えーい! 蔵馬も蟲寄へGO☆
お久しぶりの海藤君が待ってるゾ!
それにしても蔵馬が降りる駅を寝過ごすほど爆睡するなんて……?
やっぱり寝たふり? それとも普通に海藤君に用事?
私は意に反して征士サマから蔵馬に目を戻す。
正直鬱陶しい……隣に爆弾が座ってるみたいな気分……。
本当だったら隣に蔵馬がいるなんて……ん? いるなんて?
嬉しい……のか?
私、好意をほのめかすようなことを言われて舞い上がってるのかも。
うん、きっとそうだ。
あんなこと言われなかったら普通に「よう!」って感じなはず。
そっちのほうが楽しいのに、なんでぶっ壊すようなこと言うんだ。
蔵馬のばーかばーかばーか! 以上! フン!
脳内でクレームをつけ終わってさっぱりして、改めて征士に向き直る。
さあて、もういちどワンダービートスクランブルに……
「ご乗車大変お疲れさまでございました~。次は終点、蟲寄駅ぃ~。蟲寄駅ぃ~。車内にお忘れ物の無いよう……」
わっ! しーっ! しーっ!
終点とか蟲寄とか大きい声で言わないで!
征士(仮)が起きちゃったらどうするの!
あ、いや、終点なんだからいつまでも座り込んでいたら起こしに来るか……。
でももしかしてこのまま車庫に入っちゃったり?
そこで征士サマ独占撮影会なんてしちゃったり!?
ふるふると震えながら妄想に浸る私の前からだんだんと人が消えて行く。
征士(仮)さん……よっぽど疲れてるのかな……まだ起きない。
起きないっていえばもう片側の……。
「しまった!」
突然声が上がり、右肩がフッと軽くなった。
しまった! クラマが立った!
いや、立ってもいい、立ってもいいからこっちを向くな!
私の必死の願いもむなしく、蔵馬はこちらを振り返る。
「夏希?」
「あ……ええと」
「ここは……?」
「終点。蟲寄」
蔵馬はぼんやりとした瞳でこちらを見ていたけれど、急にぱっちりと目を開けた。
「あれ、もしかしてオレが寄りかかってたから降りられなかった?」
「そ……そういうわけでは……」
正確には征士(仮)がもたれかかってたからなんだけどね。
そんなこと言ったら蔵馬の注意がそちらに向いてしま……
「そちらは……?」
ぎゃー! いきなり向いた!
「え? いや、違う! 何でもな……」
蔵馬は怪訝そうに自分の顎をつまみ、無慈悲にも征士(仮)に向かって手を伸ばした。
「あの、終点ですよ」
蔵馬のバカヤロー!!
内心絶叫する私の隣で、征士(仮)がハッと身体を起こす。
「ここは……」
「あっ、蟲寄駅です」
征士(仮)は蔵馬同様、ぼんやりとした目でこちらを眺め、ハッとしたように立ち上がった。
「申し訳ない。寄りかかってしまったでしょうか」
……すごい。完璧に征士だ。
声も、口調も、話すことまで完全に征士。
プロだ。プロの征士だ……!
感動して目を潤ませる私を蔵馬はちらりと見て、なぜか不機嫌そうに手を伸ばす。
「とりあえず降りましょう」
突然、目の前に差し出された手に戸惑っていると、征士が手早く網棚の荷物を下ろし、蔵馬がそれに気を取られている隙を狙って立ち上がる。
車内を巡回している乗務員から逃れるように電車を降りると、ホームは夕焼けに染まっていた。
「夏希、ごめん。オレがもたれかかっていたから降りられなかったんですよね」
「そうだったのか? すまない。私も寄りかかっていたのだ」
「えっ? あっ、ううん。どうせ帰るだけだったし、それに征士さん、蟲寄に行くって言ってたから……」
思い切って言うと、征士(仮)は不思議そうに瞬きをした。
「私はあなたに自己紹介しただろうか」
「……!」
し、しまった! 勝手に征士コスって思い込んでたけど、実はサイボーグ009とか味皇さまコスだったのかも!?
「ち……違いました? すみません……」
「私はそんなに有名人だったのか! もしかして先日の盆栽コンクールを見てくれたのか?」
がっちりと両手をつかまれ、私はゴクリと息を飲んだ。
本気だ……本気の征士だ。完全になり切ってる。さすが征士プロ!
「盆栽に興味が?」
「え? はい、まあ……」
正確には盆栽やってる征士に、だけどね。
「実はこの近くによい盆栽園があってな。あなたさえよければ一緒にどうだろう。迷惑をかけたお詫びに一鉢プレゼントさせていただきたい」
いや~、いらないかな。
……とも言えず、へらへらと笑っていると、私の隣で蔵馬が腕組みをした。
「もしかして木魚園のことですか? あそこならもう閉園時間では……」
「何? もうそんな時間か! ……夏希さんと言いましたか。ご迷惑を掛けたお詫びをしたいのだが、何かできることはないでしょうか」
えっ? 渡りに船!? 蔵馬グッジョブ??
私は両手で握り締めていたスマホを恐る恐る持ち上げる。
「あの、写真撮らせてもらっていいですか?」
「写真?」
征士(仮)はオウム返しに小首を傾げる。
んん? なんかコスプレイヤーらしくない反応……。
だけど言ったものは引っ込められない!
「あっ、あのっ、あなたのファンなので!」
征士(仮)はオリジナル征士ファンと取ったのか、レイヤーさん自身のファンと取ったのかはわからない。
しかしプロらしくこう答えて私の手からスマホを取り上げた。
「こんなに熱心な愛好家がいるとは、盆栽界の未来も明るいな。お願いできるだろうか」
そしてなんとそれを蔵馬に渡し、私の隣に立って真顔でVサインを出した。
ええっ! ここまで完璧なレイヤーさんが素人みたいなVサイン?
……いや、待て待て、征士だったらやるかな、ピース。
さすがでございます。征士プロ。
でもそれはいいとして、私と一緒に撮るの!?
「ほら夏希、こっち向いて。はい、チーズ」
「えっ、あっ」
「はい、もう一枚」
蔵馬は容赦なく征士(仮)の、レアに違いないVサインと、私の油断顔をカメラに収めてこちらに返す。
「盆栽を見ないのなら、このままオレたちと引き返しますか?」
隣のホームを指差して蔵馬が問うと、征士(仮)は首を振る。
「いや、今日来たのは盆栽ではなくカボチャのためなのだ」
「カボチャ?」
今度は蔵馬がオウム返しに首を傾げた。
征士(仮)は両腕を組むと、端正な横顔を見せ、二、三歩あるく。
「このあたりに前年度オバケカボチャ大会の優勝者がいるらしい。私は彼に会いに来たのだ」
「カボチャを見に?」
蔵馬の言葉に、征士(仮)は真剣な瞳をこちらに向けた。
「カボチャ栽培の極意をうかがうためだ。私はカボチャに目がなくてな」
「食べるのが好き……ではなく、作るのがですか?」
「どちらも好きなのだ」
困惑したように蔵馬が何か言いかけたとき、改札のほうから大きな声が上がった。
「あー! いた! オマエなにやってたんだよ、4時間も遅刻して!」
「もう観光終わって帰るところだぜ」
口々に何か言いながら、4人の男性が歩いてくる。
その姿がだんだんとはっきりしてくるのを見て、私は思わず脇のベンチに座り込んだ。
な、な、なんでこんな完璧なお仲間まで揃ってるのー!?
「すまんな。途中まで車で来ていたのだが、途中で事故現場を目撃してしまって現場検証に付き合うために運転手を残してきてな」
「まさかお前、ひとりで電車に乗ったのかよ」
「やればできるんだな……」
……おかしい。どう考えてもおかしい。
いくらなんでも、これだけいればひとりくらい頭数合わせの雑なレイヤーさんが入るのが普通なはず。
まさか……いや、そんな馬鹿な……。
目を皿のようにしてコスプレ集団のアラを探していると、ひとりの男性がそれに気づいたように人当たりのいい笑顔でこちらを向く。
「こちらは?」
「ああ、私がうっかり迷惑を掛けてこんなところまで付き合わせてしまったのだ」
「だろうね……本当に申し訳ありません。僕からもお詫びします」
困った仲間たちにいつも振り回されては尻拭いをさせられ、どす黒いオーラを振りまくのがお約束のその彼の姿も様子も……完璧に本物……。
「あの?」
「……あっ、いえ! もうお礼していただいたので!」
「礼? 征士が? 笹かまでも持ってたのかよ?」
「いや、一緒に写真を撮った」
「……そ、それが詫び……?」
「あっ! オレたちこれから飯食いに行くんだけど、よかったら一緒にどうだ?」
「いえ」
蔵馬も余所行きの笑顔で静かに首を振る。
「これからオレたち、デートなんです」
「……はっ? はあ? 誰と誰g%)¥&*!?」
抗議の声を上げる私の口をふさぎ、蔵馬は涼やかな顔でポケットから何か取り出し、征士(?)に手渡した。
「これは……」
「大きくなりますよ、それ」
「……まさか……!」
「じゃ」
まるで図ったようなタイミングでホームに電車が滑りこむ。
「待って、待ってくれ!!」
「ほら、征士、とっとと乗る!」
「師匠ー!!」
「フガモガー!!」
征士(?)と私の悲痛な叫びを遮断するようにドアが閉まり、私はズルズルと蔵馬に引きずられて階段を上る。
「あれ本物だったかもしれないのに!」
折り返しの電車に乗り込んだ私はむくれて抗議したが、蔵馬は小さく笑うだけだった。
「でしょうね」
うわ、これ確信してる!
それなのにあんな引き離すようなことして、しかも征士の目の前で別の男とデート宣言させるとか……!
「ひどい……」
「あなたが言いますか?」
なにが?
私が顔を上げると、蔵馬は視線だけをこちらに向けた。
「オレの気持ちを知っていながら、他の男に鼻の下を伸ばして」
私が慌てて口元を覆うと、蔵馬は小さく吹き出した。
「自覚あるんですね」
別に鼻の下なんて伸ばして……たかもしれないけど……。
私はチラッと蔵馬の横顔をうかがう。
またしてもサラッと言いやがった……。
やっぱりあの言葉は生きてる?
じゃあなんでこんなに平然としてるんだろ。
「で、何がいいですか?」
「何が?」
「迷惑を掛けたお詫び」
「いいよ、そんなの」
どうせ迷惑のメインは征士だったし。
あ、そうだ、さっきの写真!
もしかして世界線が違うから写ってなかったりとか……ないよね?
気になる……けど蔵馬の前でまた鼻の下を伸ばすわけには……。
「オレとも写真撮ります?」
「何で?」
「寝過ごし記念の思い出に」
「寝てたのは蔵馬でしょ?」
「なかなか珍しいものが見られたと思いませんか?」
それは確かに。
写真撮っておいたらユスれるかもしれないし、どさくさに紛れてさっきの写真確認できそう。
「じゃあ……撮る?」
さっきはひとりだったからできなかったけど、ふたりなら割と怖いものはない。
始発駅直後で他に人が少ないのもある。
蔵馬にスマホを渡すと、彼はそっと私の肩に腕を回した。
わ、わっ、なんか、ちょっと刺激が強い!
慌てて身体を離そうとするのをグイッと抱き寄せ、蔵馬はスマホを持ったもう片方の手を斜め前方に伸ばした。
「ほら、夏希、こっち」
「あ、ちょっと待っ……わっ!」
思い切り口開けてますよ――言いながら蔵馬はスマホ画面をこちらに向ける。
ユスるどころかこっちがユスられそうな写真になってしまった……。
「ちょっとそれ消して!」
「はいはい。じゃあ、次はちゃんと笑ってくださいね。はい、チーズ」
いくらふたりではあっても、やっぱり公衆の面前で「はい、チーズ」は気恥ずかしく、私は曖昧な薄ら笑いを浮かべてフレームに収まっていた。
「気に入らない? 撮り直す?」
「もういい。私には写真に写る才能がないんだよ」
「なんですか、それ」
蔵馬との写真を確認するフリをして、シレッと履歴をさかのぼる。
さっきの征士の写真……写真……?
「なにコレー!?」
「はい?」
思わず大声を上げると、蔵馬はニヤニヤとこちらを振り返った。
くっそ、わざとやったな……!
「なんで征士が写ってないの!」
「あれ、失敗したかな」
そこに映し出されていたのは、限界までズームで引き延ばされた私の顔面とおぼしき物体だった。
それも2枚とも!!
「ひどい……いくらなんでもこれはひどい……私が征士ファンだって知っててこれってあくどすぎない!?」
「あなただって似たようなものでしょう?」
「今回は特別だったんだよ! 神様のプレゼント! 幻の珍獣だったんだよ! それを、それを、それを~~~!!」
自分で言うのも何だが、私はできれば地味に目立たずおとなしく生きていたいタイプだ。
だからこそキラキラ星人の蔵馬の言葉を素直に受け取れないし、知らない人にこちらから話しかけたり、公衆の面前で写真を撮ったりできなかったわけだ。
だが、さすがに今回ばかりは公衆の面前で絶叫することを抑えられなかった。
そのくらいショックだったのだ!
わかってもらえるだろう、このサイトに来ているみんなならば!
「夏希、落ち着いて」
「落ち着く?! 一体誰のせいで私がこんなになってると思ってるの!」
「まさかそんなに怒ると思わなくて」
飄々とした様子で放たれた言葉に髪の毛が逆立つ気がした。
怒髪天を突くってのはこういうことだ。
しかし蔵馬は相変わらずおっとりとした様子でこちらに手を伸ばし、私の頭を撫でた。
「じゃあ、お詫びに、もういちど彼に会わせてあげますよ」
「……へ?」
どういうこと? 実は知り合いだったとか?
だったらもったいぶっていないで、とっとと! いますぐ! 会~わ~せ~ろ~!
「夏希、苦しいです」
「どういうこと?」
蔵馬は首に絡みついていた私の手を剥がし、天井を見ながら襟元を整えた。
今さらだけど、左肩にサン●イズの誇る美形、右肩にこのべっぴんを乗せて優雅に電車旅なんてどこのマハラジャですかよって感じ。
いや、旅じゃないけどね。
きっと注目集めてたんだろうな、あのときは必死で周囲なんて見ていられなかったけど。
「さっき彼に渡したもの、魔界カボチャの種だったんです。育てれば軽く1メートルは超える」
「は……」
「それを持って彼はきっとオバケカボチャ大会に出場すると思いますよ」
「いやいや、魔界カボチャって大丈夫なの? それ」
蔵馬は顎をつまんで少し俯く。
「少し色好みなところがありますが、特に何をするわけでもないです」
「ちょっと意味が……カボチャが好色家ってどういうこと……」
「まだ種の段階では分からないんですが、メスだったら懐かれるかもしれませんね。彼、美形でしたし」
「カボチャにオスとメス……じゃなくて、懐くって具体的には!?」
「心配しなくても、とって食ったりしませんよ。ちょっと口説かれるくらいです」
「征士はカボチャが大好きなんだよ! そのカボチャに口説かれたら……」
果たしてどうなるのか、正直想像もできない。
何と言ってもあの征士なのだ。
私たちの常識ではかれるようなスケールの人間ではない。
脳内に白タキシード姿の征士とウェディングドレスを巻いた巨大カボチャが寄り添っている姿が浮かぶ。
……なんだこの絵面。
「ライバルを増やしたって怒ってます?」
「ラッ!? そんなこと考えてないよ」
「ふぅん」
蔵馬はどこからともなくカボチャの種を取り出し、コロコロとてのひらで転がした。
「これでお詫びになるかな」
「え?」
「これを育てて大会に出ればまた会える。彼に渡したのと同じ種ですからね」
ま、魔界カボチャ……!
が、ふたつも紛れ込んでる「オバケ」カボチャ大会って大丈夫なんだろうか……。
魔界の入り口が開いたりしないよね?
「残念。もう少し喜んでくれるかと思いました」
「え?」
そりゃ征士に会えるとしたら嬉しい。
けど、なんでいまになってそんな淋しそうな顔するの。
いままでおくびにも出さなかったくせに。
「じゃあ、そしたら今度こそ征士の写真撮ってきて。できたらさっきの5人全員集合写真も」
「夏希も連れて行きますよ」
「やだよ、ずっとそんなつまんなさそうな顔されてたら気が滅入る」
「オレ、そんな顔してる?」
「してる」
けれどそれは蔵馬が始めて見せてくれた「ほんとう」で、私が長い間戦ってきた疑惑との決別のサインでもあった。
だから――
「別にいいよ、もう。たぶん今日見たの幻だし」
「このサイト、多いですよ、幻。管理人の妄想でできているんですから」
「自分の妄想より他人の妄想のほうが信用できるっていうか……それに最初に幻食らわせてきたの蔵馬じゃん」
蔵馬は不思議そうにこちらを振り返り、私はその視線に押されるようにそっぽを向く。
窓の外はだんだんと夜に染まりゆき、街の明かりが筋を描きながら後ろに流れていた。
こうなってしまうと、どこを走っているのかもわからなくなり、だから蔵馬が急に立ち上がったときもぽかんとして眺めてしまった。
「着きましたよ」
言いながら蔵馬は再び私に片手を差し出す。
ちゃんと触れるだろうか――そんな好奇心も多少はあった。
そう。今度こそ私はその手を取り、その瞬間に私を覆っていた霞のような膜が一気に硬質化し、そしてパリンと割れる音を聞いた――気がした。
背後でドアの閉まる音が聞こえ、風と共に電車が走り去っていく。
それを追いかけるように歩いていた私たちは、どちらからともなく足を止めて見送った。
「……妄想電車」
「何?」
「いや、なんで蔵馬と征士が同じ電車に乗り合わせてるわけ? おかしいでしょ!」
「と言われてもなあ」
「いまね、私の妄想が走り去っていったんだよ」
もう消え散りそうな電車の灯りを指差すと、隣で蔵馬が小さく笑う。
あの電車が走り去っても蔵馬は消え失せたりしなかった。
この妄想の極みみたいな生き物が私の現実、なのらしい。
「カボチャ、どこで育てるの? 1メートルとか言ってたよね?」
「当日会場の近くで一気に膨らませます」
「そんな、浮き輪やビーチボールみたいに……」
「運ぶのが大変ですからね」
「そりゃそうだけど」
「大会、幽助たちも一緒だったら来てくれます?」
「え……それだったら考えるけど……佐々木望のギャラかさむよ。2人分だよ?」
改札を抜け、高架をくぐり、いつもの道を歩く。
他愛ない話をしながら。
別に蔵馬の気持ちが分かったからといって話の内容が変わったわけでもない。
ただ、いつもの別れ道をひとつ飛ばして冷やし中華を食べに行ったことくらいだ。
■元ネタバトン
20260816
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