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シグナル・レッド
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「あなたってアホですか」
その女性は唐突にオレの目の前に現れた。
見も知らない他人に突然そのようなことを言われる筋合いはない。
普通だったら無視するか怒るところだが、この用心深い性格が災いし、黙って彼女を見た。
「せっかく人間界に来たんだから、もっと楽しんだらどうです? そのままお母さんのためだけに生きるんですか? そうそう暗黒武術会とか天下一武道会とか呼ばれるモンじゃないですよ。シャーマンファイトなんて500年に1回なんだから」
謎めいた単語が多いが、少なくともこの人はオレに関する情報を手にしているようだった。
魔界からの刺客か、霊界関係者か、もっと特殊な世界の人間か……。
その割には妖気も不自然さも感じない。立ち姿も隙だらけで、オレや周囲に警戒している様子もなかった。
「でも海賊王目指して出港したり、火影目指して修行するようなキャラでもないですよね? そもそも自分で自分のために何かおっ始めるような性格ではない。幽助君はもう面倒事を持ち込んできたりしませんよ。だって最終回を迎えちゃったんですから」
オレ、というよりは何か特殊な世界にどっぷり浸かっている人なのだろう。
なるほど、これが小さい頃に母さんがよく言っていた「ついて行ってはいけない人」か。
よく分からないけれども痛々しい。そして関わりたくない。
さりげなく様子を伺うと、彼女は仁王立ちのまま腕組みをし、気持ちよさそうに目を閉じて滔々と語り続けていた。
今のうちに離れよう。
オレは静かに背を向ける。
「大団円を迎えた後のヒーローたちは、彼をヒーローたらしめた素晴らしい能力をひた隠し、一般人に混ざって普通の人生を送ろうとする。まるでその能力を持っていることが犯罪であるかのように。本当はオリンピック選手より早く走れるのに、体育祭では2番着くらいにゴールする。本当はオックスフォードを首席で卒業できるような知力を持っているのに、テストではわざと2、3問間違える。ミスターサタンなんて指一本で倒せるのに、頭悪そうなヤンキーにわざと殴られてやる」
オレは思わず足を止めた。
それはまさにオレのやりかただったからだ。
「それもこれも全て一般人に埋もれるため。自分と言う反則ヒーローの存在を抹消するため。毎日何事もなく学校に行き、時が来たら毎日何事もなく会社に行き、さらに時が来たら毎日何事もなく盆栽をいじって誰にも知られず終わるため」
「……あなたはどんな冒険をプレゼントしてくれるんですか?」
思わず足を止めてしまったのは、口を開いてしまったのは何故だったのか。
オレがだいぶ離れた場所にいたことに気付いた彼女は目を吊り上げて走ってくると、再び目の前に立ちふさがった。
「私は冨樫先生じゃないもの、冒険なんて連れていけません。言ってるでしょ。人間生活をエンジョイしましょって」
「宗教には興味ありません。じゃ」
「わっ! じゃ、魔界行きましょ! 魔界! あっちなら多少暴れたって問題ないでしょ?」
オレの腕にぶら下がった彼女はとにかく必死の形相で、呆れるほどに真剣で、むやみやたらと暑苦しかった。
「人間生活って言いませんでした?」
「ま……魔界に行ったって人間生活できますよ! 人間だもの! 魔界にいたって妖邪界にいたって、人間の生活は人間生活ですよ!」
「オレ、妖怪なんですが……」
「えっ、えっと! だからですね!」
こんなに退屈な世界のなかでも、ここまで死に物狂いになれる者もいる。
それはつまりこの世界が彼女にとっては大きな入れ物だということだろうか。
「ヒーローの時間は終わったんです。オレはあの数年で一生分頑張ったし、楽しんだ」
そんな彼女の言う「楽しい人間生活」に満足できるとは到底思えない。
腕に絡みついた手を外そうとすると、意外にもあっさりとそれは離れた。
少し冷たすぎただろうか。どう考えても精神異常者だが、一応女性だ。
ごくごくたまにだが、徹底的にやりこめてやりたくなるタイプの人間がいて、まさにこの人がそれなのだ。
多少は自責の念にかられたが、逃げるチャンスはここしかない。
オレは心を決めて歩き出した。
いつもの道を、いつもの家に向かって、いつもと同じように歩く。
家に帰ったら母さんが迎えてくれて、父さんがいて、弟がいて、いつも通りみんなで夕食を食べる。
いつも通り風呂に入ったら、いつも通り少し本を読んで、いつも通りベッドに入る。
翌朝はいつも通り起きて、いつも通り父さんと弟と出勤し、いつも通り仕事をして、いつも通り家に帰る。
『時が来たら』
――いや、時が来ても盆栽いじりには変わらない。
魔界、妖怪、暗黒武術会……久しぶりの単語だった。
そんな言葉に囲まれていたあの頃は、この道はもっと色鮮やかだった気がする。
オレもいまより表情というものがあった。
あの頃だったらもう少し面白い会話ができたかもしれない。
……さっきの人は、実にめまぐるしく表情が変わっていた。
やけに夕焼けを赤く感じ、オレは足を止めた。
ひとり取り残されて、どんな顔をしているだろう。
猛烈に何やらまくし立てていた割には諦めがあまりに良すぎたのだ。
オレの態度が冷淡すぎると怒り狂っているか、状況に対応し損ねてポカンとしていると考えるのが妥当だろうけれど……
――そう来たか。
グスグスと鼻をすすり続けるその女性の前で、オレは深くため息をついた。
尖ったパンプスを脱ぎ散らし、ベンチの座面に両足を乗せ、膝に額を押し付けるようにして彼女はうずくまっていた。
さすがに泣かせてしまったのなら謝るべきだろうとは思うのだが、どう声を掛けたらいいのか分からない。
『言葉が過ぎました』
『大丈夫ですか』
『泣かないでください』
どれも間が抜けている。
オレは考えるのが面倒になって彼女が陣取るベンチの端に座った。
座面についた両手に体重を掛けるようにして空を仰ぐ。
夕焼け一色だと思っていた空はいつの間にか海のような透明なブルーが流れ込み、藤色の壮大で美しいグラデーションを描き出していて、半ば驚きながらそんな空を眺めた。
「ぬぁ? 南野さん?!」
唐突に上がった声に振り向くと、その女はハンカチで鼻を押さえたまま目を丸くしてこちらを見ていた。
「いつから?」
「さっきから」
「考え直してくれました?」
「いえ、全く」
「じゃあ何で?」
言葉に詰まったオレを置き去りに、彼女は再び顔を伏せる。
「あの……」
「ティッシュ持ってます?」
「は? いえ」
「そう……じゃあ、もういいです」
有難い申し出ではあったけれど、自分が泣かせた女性を放置するわけにもいかない。
息を詰まらせるように夕闇がしんしんとせまる。
「だいたい、あなたは何者なんですか」
相変わらず隣合って座ったまま、暇つぶしに一番肝心なことを聞く。
彼女はほんの少しだけ顔を上げ、ハンカチに顔を押し付けたままモゴモゴと声を出した。
「一番最初に自己紹介したでしょう。八木夏希です」
「いや、そうじゃなくて……」
「んん? ……あ、ちょっと待って……夏希ってちょっと賢そう? やっぱ交換しよう。だから……八木、若菜。なんかちょっと可愛くなっちゃうかなあ。菜っていうのが可愛め? でも明菜ちゃんだってあんなドロドロで菜なんだし……うん、決定! 私は八木若菜に決まりました」
この人が何を言っているのかよく理解できない。
こういった手合いに質問の意図を説明するのは時間の無駄だろう。
オレは再び前を向いて口を閉ざした。
「早く帰らないと、お母さん心配しますよ」
「帰って欲しいなら帰ります」
街路灯に明かりがつき、周囲の色がまた変わる。
まとわりつくようだった暑さも、夜の空気に触れてなりをひそめていく。
「そちらもそろそろ帰らないと、この公園は夜になるとあまり治安が良くないですよ」
「そうしたいのは山々ですが……」
そう言えば、こんな風にうずくまって泣いている割に、口調は先ほどまでと変わらなかった。
「もしかして具合でも悪いんですか?」
「具合……? ってわけじゃないけど、なんて言うか、止まらなくて」
彼女はまた鼻をすすり上げる。
「……すみませんでした。機嫌を直してください」
「えっ?」
弾かれたように顔を上げた彼女は、驚いた顔で首を振る。
「あ、違、泣いてんじゃなくて、鼻……」
「鼻?」
「鼻……鼻……から、赤い汗が?」
さすがに鼻血と申告するのは恥ずかしかったのだろう。それとも婉曲に失敗して動揺したのかもしれない。
彼女はますます身をかがめ、膝の間に頭を割り込ませるように顔を隠す。
「あの、下を向いていると止まらないと思うんですが……」
「それでか!」
彼女はハッとしたように顔を上げる。
オレは心底呆れながら立ち上がり、その背中に手を添えた。
「上を向いてここに横になってください。体重を掛けていいです。ゆっくり……」
「ダメだ、これはダメだ! ますます血が!」
「力むからです。結構長い時間出血していますよ。病院に行きますか?」
「や! やめて! こんなことで病院とか笑われに行くようなものだから!」
それは確かに相当に間抜けだ。
周囲を見渡すと公衆トイレが目に入る。
オレは静かに彼女のもとを離れた。
拝借したストックのトイレットペーパーを小脇に挟み、ハンカチを濡らすためにカランを回す。
チラチラとまたたく蛍光灯に照らされた鏡の中に、かなり久しぶりに自分の顔を見た気がした。
呆れていたり、疲れていたり、苛立っていたり、動揺したりしている自分を隠すために慎重に作る無表情。相手の心を素通りするために作る無表情。
しかし確かに誰かのために面倒をするときの、「気にしないでください」の無表情は、平和で幸せな日々を笑顔で淡々と消化しているときよりよっぽど生き生きとしていた。
姿を現し始めた星でも眺めていたのだろうか、ぼんやりと空を見上げるその女性を覗き込むと、派手に動揺した表情を浮かべる。
「まっ、まだいたの?」
「ティッシュじゃないからボロボロになるかもしれませんが」
「……どうも」
トイレットペーパーをロールごと渡すと、彼女は戸惑いながらそれを受け取り、それきり黙ってしまう。
それも仕方がないだろう。恥ずかしいに決まっている。
だが、おとなしくなられてはますます気まずい。
かと言って放置して帰るには暗くなり過ぎていた。
取り澄ましたミュゲのコロンなどでは隠しきれない鉄のにおい、生温く湿った夏の夜の風、無数の気配を飲み込んでいる薄暗闇。
魔界も人間界も、本当は大差がないのかもしれない。
螢子「みなさん、こんにちは。2025年10月6日、I'm in the moodはみなさんのあたたかい応援に支えられて20周年を迎えることができました。……って何でほとんど出演してない私が挨拶してるのよ! こういうのは幽助がいうものじゃないの?」
幽助「おう、みんな、サンキューな」
螢子「幽助! もうちょっとちゃんとしたこと言えないの!? ……あ、ごめんなさい。私たちがこんなところにお邪魔しているのは、このお話にツッコミを入れて欲しい? とかで……私にもちょっと意味が分からないんですが……」
幽助「なんかよぉ、もともとこの話は10周年にアップするつもりだったらしいんだけど、あんまりに長げーから上げ損ねて、それをこの間発掘して20年後の話までくっつけたらとんでもねー長さになっちまって、たらたらたらたら読んでるのも飽きるだろうから、適当なとこでぶった切って雑談挟んでくれって言われたんだよ」
螢子「でもこのお話、大事な思い出なんじゃ……それにつっこめだなんて……」
幽助「これがツッコまずにおらりょーかってんだ! 若菜が蔵馬に丁寧語で喋ってんだぜ? 『南野さん』だぜ?」
螢子「そういえばこのお話の蔵馬さん、だいぶ大人っぽいよね」
幽助「そりゃまあ、サイトの開設が2005年ってことはアニメが終わって10年後だからな。あいつのことだし、わけのわからん草でも使って老け見えさせてたんじゃねーの?」
螢子「ちょっと幽助、アニメとかメタ発言しちゃっていいの?」
幽助「だってオメー、管理人自身が天下一武道会だのシャーマンファイトだのヤベー単語連発しまくってんぞ」
飛影「……天下一武道会、とはなんだ?」
幽助「うぉっ、飛影、いたのかよ」
飛影「シャーマンファイトとはなんだ?」
幽助「まあ、アレだ。どっちも暗黒武術会みたいなモンだ」
飛影「躯より強いヤツはいるのか?」
幽助「質がちげーんだよな……天下一武道会は宇宙人とか出るし」
飛影「宇宙人……? そいつは強いのか!?」
幽助「さあ……オレも闘ったことねーからわかんねー」
コエンマ「ワシは出たことがあるぞ」
飛影「何!?」
コエンマ「ベスト4に残ったこともある!」
飛影「……なんだ、大した大会ではないな」
幽助「いや、オメー出てねーだろ! 出たのは中の人だろ!」
螢子「あの……話が脱線してるんだけど……」
幽助「ああ? 他に話すネタなんてねーだろ。蔵馬は20年前もまんま蔵馬だし、若菜も超若菜だし」
螢子「まあ……あれだけ若菜さんを気持ち悪がっていたくせに、つい心配になって戻っちゃうとか、蔵馬さんらしいなって思うわ」
幽助「ホントあいつ、頭いいくせにバカだよな」
螢子「でも、意外と大雑把なところもあるんだなって思ったわ。公衆トイレのトイレットペーパーをロールごと渡しちゃうとか。蔵馬さんなら絶対ポケットティッシュ持ってると思った」
幽助「んなモン男が持ち歩くかよ。そーいや最近、公衆トイレの予備のペーパーって見ねーな。昔は手洗い場に山積みになってたのによ」
螢子「そういえばそうね。盗難防止かしら。そう思うと20年でだいぶ社会も変わったわね……水道も今はみんなセンサーになってるし……って、なんだかオバサンみたいなこと言ってるわ、私」
幽助「そーいやオレらもずっと中坊だよな」
螢子「あら、私は進学したわよ。あんたは中学中退だけどね」
幽助「なんだ、いちおーオレ中学出てたんか」
螢子「だから、出てないって言ってるでしょ」
幽助「でもよ、そのまま歳とってねーよな?」
螢子「その理由はこの先のお話で出てくるみたいよ。お楽しみに!」
20251006
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