紅茶と角砂糖と、それから
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今日はシャイニング事務所のカウントダウンライブ。
公演まであと数時間となった楽屋を訪ねた。
「リハお疲れさま」
最終リハを終え、あとは本番までそれぞれが集中力を高める時間。
私は手に持っていたものを長机に置いた。
「右の紙袋は寿弁当で左はカミュのスイーツね」
普段のツアーと違って出演者の多いライブの為、ケータリングだけじゃお腹が空いちゃうかなと思っての寿弁当だ。
ちなみにカミュのスイーツは事前に予約して取りに行ってきた。
「サンキュ」
「感謝する」
「いーえ」
心なしかウキウキした顔をしている二人に笑いが溢れる。
パンパンの紙袋を抱えていたせいで警備員さんにぎょっとした顔で見られたことはこれでチャラにしよう。
座りなよと声をかけてくれた藍ちゃんにお礼を言って、空いている椅子に座った。
「今日、穂花ちゃんは関係者席で観るんだよね?」
「うん、龍也さん達と見てようかなって」
「そうだホノカ、ここの部分を直してほしいんだ」
藍ちゃんがさっきのリハで気になった部分を軽く修正する。
当日に調整が入るのは今回に限った事じゃないので、データの入ったパソコンはいつも持ち歩いているから問題はない。
パソコンを出すために鞄を開けると渡そうと思っていたものが目についた。
「あ、そうだこれ。年越しそばの変わりに」
スッと差し出したのは極細ポッキー増量中の箱。
たまたまキャンペーンで四人と似たり寄ったりの色をした箱だったから買ってきてしまった。
「細くて長くて簡単に切れるものという事で。このあとは忙しくて年越しそばは食べれないと思うから気持ちとして食べたつもりでどうかな……?」
結構強引なことを言ったとは思う。
ただ。少しでも、気持ちだけでも末永くという想いを込めて。
「穂花ちゃん……!!」
「レイジ泣くのは早いんじゃない?でもホノカありがとう」
「ありがとよ」
「ありがとうございます」
早くもガチ泣きしそうな嶺二に笑いつつ席を立つ。
そろそろ衣装に着替える時間だ。
「そこまで送っていく」
「いやいや、これから着替えでしょう……ってさりげなく背中を押さない!」
「ミューちゃん早めに帰ってくるんだよ~☆」
「ああ」
カミュに背中を押されながらチラリと後ろを見ると、目があった藍ちゃんが手を振ってくれて嶺二がウィンクをしてきた。
お弁当を食べながら軽く手を挙げていた蘭丸も同じということだろう。
ガチャリと背後で楽屋の扉が締まり、慌ただしい廊下を進んでいく。
手を繋ぐわけでも話すわけでもない、淡々と廊下を進むだけなのに隣にカミュがいるだけで落ち着いている自分がいる。
私もどこか緊張していたんだろう。
そのままドームの関係者席の近くにある通路を進んでいく。
人気のないここもあと数時間もすれば、所属しているアイドル達が呼んだ、今年お世話になった人々で賑やかになるんだろうなぁと考える。
「穂花」
「なあに?」
関係者席入り口と書かれた扉の手前、他よりも少し視角になった場所でカミュに抱き締められる。
いつもより少しだけ速い鼓動はきっと、緊張よりもワクワクから来るものだと知っている。
だってとてもいい顔をしていたから。
「俺達だけを、俺だけを見ていろ」
「うん」
「最高のライブにすると約束しよう」
「うん」
クイッと顎を持ち上げられ触れるだけの優しいキスが落ちてくる。
瞼を開けるとアイスブルーの瞳と目が合う。
涼しげな瞳、ときに凍えるような冷たさすら感じる瞳は私だけに向けられるとても甘い色になる。
「では行ってくる」
「頑張ってね」
最後にもう一度、キスをしてカミュは来た道を戻っていった。
『年越しまで1分前となりました~!!』
歓声に合わせて色とりどりのペンライトが揺れる。
メインステージのスクリーンにカウントダウンが表示される。
『みんな一緒に!』
5・4・3・2・1───────────