短編
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Q.ずっと片想いしている子が泣いていたら?
A.泣き止むまで隣に居るよ。
───僕だったら君を悲しませないのに。
「アイアイ」
「おかえりレイジ」
パソコンから顔を上げたアイアイに声をかける。
仕事終わりにアイアイからのメッセージを見て僕は違反にならない程度のスピードで帰って来た。
深夜のサロン。
いつもはわいわい賑やかな部屋だけど時間が時間なだけあってとても静か。
聞こえてくるのはタイピングの音と鼻を啜る音だけ。
「じゃ、あとよろしくねレイジ」
「うん、アイアイありがとう」
「ホノカ明日のボクとの約束忘れないでね」
コクリとテーブルに突っ伏した穂花ちゃんの頭が頷いたのを見てアイアイは「おやすみ」と言いながら部屋に戻っていった。
そっと穂花ちゃんの隣の椅子を引く。
テーブルに流れ落ちた髪で顔は見えない。
ただ泣いていることだけは確かだ。
「穂花ちゃん」
「……おつかれ嶺二」
「遅くなってごめんね。アイアイと何の約束したの?」
「……藍ちゃんと新しい携帯買いに行くの、……壊れちゃったから」
顔を上げずにスカートのポケットからゆっくり携帯を出して僕の方へ差し出した。
シンプルな花柄のカバーがついた穂花ちゃんの携帯。
パッと見た感じ“いつも通り”だと思う。ってことは─────
「水没?」
「……うん。……駅前の、噴水」
「……に落とされた?」
穂花ちゃんはコクンと小さく頷く。
駅前の噴水、あそこは確か定番のデートスポットだったはず。
とりあえず駄目もとで電源ボタンを押してみるけど、うんともすんともしない。
「……浮気してた、噴水の前で女の人と。だから、別れようって言ったの。そしたら逆ギレされてスマホ落とされて……」
膝の上で組まれた手が強く握り締めているせいで白くなっている。
僕はそっと手を伸ばしてその手をほどいていく。
冷たくなった手を温めるように握った。
「……ねぇ穂花ちゃん」
「な、に……?」
「こっち向いてくれる?」
ふるふると力無く首が横に振られる。
「かお……ぐしゃぐしゃだから」
「じゃあそのまま聞いてくれる?」
「ん……」
穂花ちゃんの方に向いて握っている手に少し力を込める。
視界の端でピクッと肩が揺れた。
「僕は穂花ちゃんが好きだよ」
「……え」
バッと顔を上げた穂花ちゃんと目が合う。
ずっと泣いていたから目が赤くなってるよ。
「ずっと好きだよ、穂花ちゃんがあいつを好きになるずっと前から」
引っ込みそうになる手を離さないように指を絡める。
「……僕にしない?僕は穂花ちゃんを絶対に悲しませたりしない」
「れ、いじ……」
穂花ちゃんは下を向いてきゅっと口を閉じた。
あぁ、困らせちゃったかな……。
でも、誤魔化したりしないよ。
「……幸せにしてくれる?」
「もちろん!穂花ちゃんが幸せ太りしちゃうくらい幸せにするよ」
「それは……困る」
「ありゃ」
一方的に絡めていた指にぎこちなく穂花ちゃんの指が絡んでくる。
「……よろしくお願いします」
「はい、僕ちんの可愛い彼女さん」
眉毛を下げて照れながら笑う君は僕が見てきたどの穂花ちゃんよりも愛しく見えた。
サロンの電気を消しながらふと思い出した。
「そういえばアイアイとの約束、僕も一緒に行っていい?車出すから」
「私はいいけど藍ちゃんは?」
「「まあ、いいんじゃない?車の方が人目につかなくて済むし」って言うと思うよ」
「……似てる」
繋いだ手は二人の体温が混ざりあって温かい。
「新しい携帯、僕と同じのにしない?」
「いいけど、なんで?」
「携帯を見る度、僕を思い出すでしょ?」
隣でボンッと何かが噴火する音が聞こえたような気がした。
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