紅茶と角砂糖と、それから
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朝から入れ替わり立ち替わりでホワイトデーのお返しを貰った。
人によって個性の出るお返しはアロマキャンドルやオススメのスキンケア用品、可愛い雑貨にぬいぐるみなど多種多様。
ただ一つだけ全員に共通するのは同封された一枚のCDディスク。
先月のバレンタインに私がチョコレートと一緒に渡したものだ。白い円盤の表面に『“2020.2/14→2020.3/14”』と渡した相手の名前を書いたのは私。
そして透明なケースに入れて渡したそれが手元に返ってくるときには、サインやコメントが書かれていたりメモ用紙が一緒に同封されていたり。時には音声メッセージ付きで返ってきたこともあった。
そもそものきっかけは数年前のバレンタイン。クライアント側のミスで納期がずれ、他の依頼された仕事とぶつかり缶詰め状態だった為にチョコレートを用意する暇もなくなった。形だけでも……と手元にあったCDを冷蔵庫に常備されているチロルチョコと一緒に渡したのが始まりだ。
どこにでも売っているシンプルなディスク、各メンバーの名前と入れ始めの年月日だけが書かれたそれにバレンタインデーの日付を終わりとして書き足した。
短いフレーズだけのものや今までリリースした曲とは全く趣向の違う曲ばかりが入ったCD。仕事の合間合間に気分転換で作ってはCDに入れるだけの地味なものだったが、その年のホワイトデーには全員から歌詞の入ったものが贈られた。
「穂花先輩!これ、また来年もやりたい!」
手渡しに来たときにいつも以上に大きく目を輝かせ、見えない尻尾がブンブンと動いてそうな勢いで伝えてきた赤髪の彼の要望によってその後もこうして続いているわけだ。
**
冬の雨は夏と違い冷たさだけが残る。
窓の外から聞こえる雨音は土砂降りまではいかなくとも、お気に入りの靴が駄目になってしまいそうなくらいだ。
特に急ぎの打ち合わせもなく、事務所の小会議室で仕事を片付けながらお返しのCDをかける。
時折訪ねてきたメンバーと一緒にかけていた曲を聴いて「新しいイメージだ」なんて雑談をしながら一日を過ごした。
***
「何か飲む?」
ピアノを弾いていた手を止めぐーっと伸びをする。
テーブルに置かれた冷めきった紅茶を飲み干して、チェロのチューニングをしているカミュに声をかけた。
朝から降っていた雨は次第に弱まり、今は雨上がりの冷たい空気と澄んだ空に輝く星が見える。
少しだけ窓を開けて胸一杯に冷たい空気を入れた。チクチクとした冷たさ特有の小さな痛みと雨上がりの土の匂い。
少しぼんやりとした頭がスッキリと片付いていくのが分かる。
「いや、いい。それよりもそんな格好で窓を開けるな」
「はーい」
いつの間にかチューニングを終え、隣に立つようにして腰に腕を回すカミュを見上げる。
いつ見ても鋭い瞳の中に優しさと温かさがあると知ったのは何年前だっただろうか。
美しい陶器肌を間近で眺めながら「同じ化粧水にかえようかな」なんて考えている私をよそに窓を閉めたカミュはエスコートするように私をピアノの前まで連れていった。
「ホワイトデーのお返しだ、気がすむまで歌ってやる」
「私だけの特別公演だ」
「準備はよろしいですかお嬢様」
「いつでも」
開演前の挨拶の代わりにキスを一つ、さあ今夜限りの公演が始まる。
毎年ホワイトデーに行われる“私のためだけの”公演。
商品のコンセプトや役柄のイメージに囚われることも、アイドルとしてのイメージに寄り添うこともなく私の中の世界を詰め込んだ曲ばかりを気が済むまで歌ってくれる日。
彼らに贈り贈られたCDにはそういった曲たちが詰め込まれている。
そして“いつリリースしてもおかしくない”ほど完成度の高い曲たちはこの先もこの世に出回ることはない。
なぜならばあくまでも“ホワイトデーのお返し”だから。
“2020.2/14→3/14”
Dear.Camus
Form.Honoka
Mi amas vin.
朝から入れ替わり立ち替わりでホワイトデーのお返しを貰った。
人によって個性の出るお返しはアロマキャンドルやオススメのスキンケア用品、可愛い雑貨にぬいぐるみなど多種多様。
ただ一つだけ全員に共通するのは同封された一枚のCDディスク。
先月のバレンタインに私がチョコレートと一緒に渡したものだ。白い円盤の表面に『“2020.2/14→2020.3/14”』と渡した相手の名前を書いたのは私。
そして透明なケースに入れて渡したそれが手元に返ってくるときには、サインやコメントが書かれていたりメモ用紙が一緒に同封されていたり。時には音声メッセージ付きで返ってきたこともあった。
そもそものきっかけは数年前のバレンタイン。クライアント側のミスで納期がずれ、他の依頼された仕事とぶつかり缶詰め状態だった為にチョコレートを用意する暇もなくなった。形だけでも……と手元にあったCDを冷蔵庫に常備されているチロルチョコと一緒に渡したのが始まりだ。
どこにでも売っているシンプルなディスク、各メンバーの名前と入れ始めの年月日だけが書かれたそれにバレンタインデーの日付を終わりとして書き足した。
短いフレーズだけのものや今までリリースした曲とは全く趣向の違う曲ばかりが入ったCD。仕事の合間合間に気分転換で作ってはCDに入れるだけの地味なものだったが、その年のホワイトデーには全員から歌詞の入ったものが贈られた。
「穂花先輩!これ、また来年もやりたい!」
手渡しに来たときにいつも以上に大きく目を輝かせ、見えない尻尾がブンブンと動いてそうな勢いで伝えてきた赤髪の彼の要望によってその後もこうして続いているわけだ。
**
冬の雨は夏と違い冷たさだけが残る。
窓の外から聞こえる雨音は土砂降りまではいかなくとも、お気に入りの靴が駄目になってしまいそうなくらいだ。
特に急ぎの打ち合わせもなく、事務所の小会議室で仕事を片付けながらお返しのCDをかける。
時折訪ねてきたメンバーと一緒にかけていた曲を聴いて「新しいイメージだ」なんて雑談をしながら一日を過ごした。
***
「何か飲む?」
ピアノを弾いていた手を止めぐーっと伸びをする。
テーブルに置かれた冷めきった紅茶を飲み干して、チェロのチューニングをしているカミュに声をかけた。
朝から降っていた雨は次第に弱まり、今は雨上がりの冷たい空気と澄んだ空に輝く星が見える。
少しだけ窓を開けて胸一杯に冷たい空気を入れた。チクチクとした冷たさ特有の小さな痛みと雨上がりの土の匂い。
少しぼんやりとした頭がスッキリと片付いていくのが分かる。
「いや、いい。それよりもそんな格好で窓を開けるな」
「はーい」
いつの間にかチューニングを終え、隣に立つようにして腰に腕を回すカミュを見上げる。
いつ見ても鋭い瞳の中に優しさと温かさがあると知ったのは何年前だっただろうか。
美しい陶器肌を間近で眺めながら「同じ化粧水にかえようかな」なんて考えている私をよそに窓を閉めたカミュはエスコートするように私をピアノの前まで連れていった。
「ホワイトデーのお返しだ、気がすむまで歌ってやる」
「私だけの特別公演だ」
「準備はよろしいですかお嬢様」
「いつでも」
開演前の挨拶の代わりにキスを一つ、さあ今夜限りの公演が始まる。
毎年ホワイトデーに行われる“私のためだけの”公演。
商品のコンセプトや役柄のイメージに囚われることも、アイドルとしてのイメージに寄り添うこともなく私の中の世界を詰め込んだ曲ばかりを気が済むまで歌ってくれる日。
彼らに贈り贈られたCDにはそういった曲たちが詰め込まれている。
そして“いつリリースしてもおかしくない”ほど完成度の高い曲たちはこの先もこの世に出回ることはない。
なぜならばあくまでも“ホワイトデーのお返し”だから。
“2020.2/14→3/14”
Dear.Camus
Form.Honoka
Mi amas vin.