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歓声とペンライトの光と、笑顔と。
しっかりと瞼の裏に焼き付いている。
目を閉じればまだあのステージに立っているような─────。
「おいレーン、帰るぞー」
「あ、うん。……おチビちゃん先行ってて」
「たっく、早めに来いよ」
「うん、ごめんね」
おチビちゃんの背中を横目に舞台袖に向かう。
セットの裏から階段を上がってステージに出た。
明かりはドーム自体の照明だけ。
数時間前までと同じ景色なのに全く違う場所に思える。
「神宮寺さんそろそろ」
「あ、すみま──ってハニー」
「やほー」
ハニーは「翔ちゃんに頼まれたから来ちゃった」と笑って隣に並んだ。
おチビちゃんに気を遣わせちゃったかな。
「レンお疲れさま」
「ありがとう、ハニーもお疲れ」
「私はなーんにもしてないんだけどねぇ」
「セットリストの半分も曲を作ったのに?」
からかうように聞くと「割りと仕事してたんだ私」なんて初めて気づきましたって反応をされた。
「にしても終わっちゃったんだね」
「そうだね……」
客席に目を向けたハニーにつられるようにして俺も正面を向く。
ステージから見渡す会場には俺達以外誰一人と居なくて、どこか寂しい。
ハニーは思い出すように、ゆっくりと話し出した。
「客席から観た皆は凄くキラキラしてて、いつも以上に格好よくて。ずっと一緒に歩んできたんだなぁって思ったら……涙が出てきて……っ」
「おいで穂花」
感極まってボロボロと涙を溢す穂花をそっと抱き締めて頭を撫でる。
ずっと一緒に歩んできた、か。
「一番近くで応援してくれてありがとう」
「なんで今そんな事言うの……!」
「ごめんごめん」
鼻水つけてやる……なんて言われても怖くはないさ。
だってこうして可愛い鼻にキスを落とせば、ほら。
「涙も鼻水も止まったかい?」
「……うん、ムカつくけど」
「じゃあ俺のハニーはもう一回キスをすれば機嫌を直してくれるかな?」
「そうかもしれないです」
ハニーがキスをお望みだ。
とびっきり甘いキスを君に贈ろう。
────俺の愛しい人。
───────俺のファン1号さん。
早乙女学園5月
「私、神宮寺くんの歌嫌い」
「どうしてか理由を聞かせてくれるかい?」
先週からペアを組んだ泉穂花。
俺を求めてやってくるレディ達とは違って、どこか俺を嫌っているらしい。
すれ違う度に威嚇してくる姿はまるで子猫のようだと思ったのは俺だけの秘密。
そんな彼女と何の縁が働いたのかペアを組むことになった。
「神宮寺くん本気じゃないでしょ」
「俺はいつでも本気さ。レディの為なら、ね」
「私をあなたのルックスと財力しか見てない子達と同じにしないで。神宮寺くんが卒業までに一回も本気で歌わなかったら私の曲が本気で歌うに足りないって事で自主退学するわ。ペア解消ね」
「脅しかい?レディ」
脅されるとはね。それにしてもルックスと財力だけ、か。
別に良いさ、レディ達がそれで満足してくれるなら。
「まさか。これは私の決意表明だから安心して?気が乗らないのに神宮寺くんが無理して歌うことも無いから。でも卒業までに本気で歌ってくれたら─────」
どう安心すればいいのか教えて欲しいくらいだよ。この子は少しお馬鹿なのかな、おチビちゃんみたいに。
『私が貴方のファン1号になる。そしたら死ぬまで追いかけてラブコールしてあげるから覚悟してよ、“レン”』
あの日から俺は穂花の虜だよ。
恥ずかしいから言わないけどね。
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