ある脇役のお話。
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都内某所 早乙女学園職員室
「どうする、泉。このままじゃ卒業オーディションには出られねぇぞ。」
放課後担任の日向先生に呼び出されて早々、こう告げられた。
理由は卒業オーディションのペアについて。
オーディションまで半年を切り、ペア希望届の提出締め切りは一週間前。
ここで一度ペアになれるかなれないかが連絡される。
お互いに希望があえば成立、あわなければ再度希望を提出するということだ。
そして私は三回提出、三回落選となった。
「……先生、どうしようもないです。全クラスを通して組んだことがあるのは3人。
その3人ともあの子希望ですから。さすがに組んだことのない人とは難しいです。」
「だよなぁ…。」
日向先生は呟いて頭を抱えてしまった。
そもそもこんなにペア決めが難航しているのには訳がある。
課題でペアを組んだことのある3人つまりSクラスの来栖くん、一ノ瀬さん、そしてAクラスの聖川さんがAクラスの七海さんに希望を出しているから。
そしてその3人を含める6人のグループで卒業オーディションを目指すことが決まった。
そして退学した人なども居て人数のバランスが崩れ、全クラスの中で運なのか不運なのか私は1人ペアが出来ない溢れちゃった状態となってしまった。
「……1人でオーディションに出ることは、」
「それは出来ない。学園長曰く『運も実力の内デース!』だそうだ。」
「ですよね、そんな気はしてました。」
「お前の成績は常に上位、課題も作曲のテストも悪くねぇ。組んだ相手が悪かったっていうか、なんと言うか。
普通そんなに集中するものか…?」
「課題の相手としてはとても勉強になる方ばかりでした。
まあ1回目は先生が、2回目はくじ引きの数字が同じ者同士、3回目は全クラスシャッフルでしたね。」
「……原因の3分の1は俺か。
それで泉、選択肢は2つだ。」
そう言って日向先生は先生の机にある書類を差し出した。
「1、このまま卒業オーディションに出ない。
この場合、卒業もできない。
そして早乙女学園は1年制の留年は無い。つまり退学だ。」
書類の1枚目には先生が言ったことの細かい事が記されている。
「そして2つ目。これは学園長からだ。
お前がペアを決められない理由は自分にもあるからと。」
2枚目の書類にはデカデカと『極秘』と書いてある。
内容は七海さんとアイドルコースの6人をグループでデビューさせること。
そしてそれによる弊害として余ってしまった私を彼らと一緒に組ませることも出来ると────。
「卒業オーディションではなく、既にデビューが決まっていたのですね。」
「ああ。そしてお前の1年間を通しての課題やテストの成績を考慮しての判断だそうだ。」
「これを彼らは知っているんですか?」
「いや、まだ話していない。」
私はもう一度書類に目を落とした。
自意識過剰ではないが1年間を通してSクラスに在籍し、それなりの好成績を修めた。
それを学園長に認めてもらえるのも嬉しいし、勿論デビューする道があるのなら喜んで承りたい。
でも、
「私は1を選ぼうと思います。」
「……1を選んだら卒業は出来ない、つまりデビューは出来ないぞ。」
「はい、分かっています。」
「理由を聞かせてくれねぇか?」
「私が意地っ張りだからです。
本当は、出来ることなら卒業もデビューもしたいです。」
「なら、」
「でも彼らのグループと組むことは私の実力ではないので。
課題で組んだ3人は私に見向きもせず七海さんを選びました。
それは彼女の作る曲に惹かれる何かがあったからだと思います。
そして6人を選んだ七海さんも彼らに何か特別なモノを感じたからだと思います。」
何処からかピアノの音と誰かの歌声が聞こえる。
卒業オーディションに向けて練習しているのだろう。
「ですので自分の曲を歌いたいと思ってくれた方が一人も居らず、余ったからといって誰かの所にお邪魔することはプライドが許さないだけです。
とても素敵な提案ですが、お断りさせていただきます。」
「……本当にそれでいいんだな?」
「はい、後悔はありません。」
「はぁ…、分かった。学園長の方には俺から伝えておく。」
「よろしくお願いします。あ、先生。お願いがあるのですが、卒業までの授業は出させていただけますか?
オーディションに出れなくても最後に一曲仕上げたいので。」
「あぁ、良いぞ。卒業オーディションに落ちた者達と同じ扱いになるが。」
「大丈夫です。やっぱり最後までこの学園を満喫したいので!」
そういって笑うと先生は少し寂しそうな悔しそうな顔をした。