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どこからか聞こえる心地よい音色が耳を擽る。
聞き馴染みのあるその曲は、CDでもレコードでもなく生音のようだ。
音色に導かれるように段々とはっきりしてきた意識と共に目を開けた。
記憶には無いタオルケットが掛けられていて、膝の上には先程まで読んでいた本が栞を挟んで置いてあった。
どうやらリビングにあるソファーでうたた寝をしてしまったらしい。
私は部屋の照明に少しの眩しさを感じつつも、音の出所を探した。
リビングの隅に置かれたアップライトピアノ。
心地よい音色はそこから響いていた。
「穂花さん」
「あ……、トキヤくん。起こしちゃった?」
「いえ、とても素敵な音色に導かれました」
こちらに背を向けるようにして、ピアノを弾いていた穂花さんの隣に立ち声をかける。
愛しい人と同じ空間にいることにふと笑みがこぼれた。
そっと演奏が止まり私に気づいた穂花さんが顔をこちらに向けた。
「シューマンのトロイメライですか」
「そう。この前トキヤくんがTwitterで話していたでしょう?」
「ええ」
「その時に家に楽譜があることを思い出してね、さっき引っ張り出してきたの」
楽譜を見ると所々色褪せていて、それなりに時が経っていることが分かる。
譜面の右上に「3-5 泉」と書かれている。穂花さんも早乙女学園の卒業生だったと以前話していたから、これは中学生の時のもののようだ。
「トキヤくんお疲れだね?」
伸ばされた手が私の目元を優しく撫でた。
掌から穂花さんの体温が伝わってきてほんのり温かい。
「……そうですね、色々と立て込んでいましたので。ですが、こうして貴女とゆっくり出来る時間がとれるのなら多少の忙しさも悪くないかもしれません」
「ふふ。最近はお互い一緒にいられる時間があまり無かったものね。でも無理は駄目よ?」
「ええ、勿論です」
ふと壁に掛けられた時計に目をやると、あと少しで長針と短針が重なる時間だ。
「明日もオフですからそろそろ眠りましょう。……お手をどうぞ、お姫様」
差し出した手を見て穂花さんの瞳が見開いた。
「……魔法が解ける前に夢へとエスコートしてくださいますか?王子様」
差し出した手に穂花さんの手がそっと重なる。
私より一回りも小さな手の甲に口づけた。
「どこまでも連れていって差し上げます。決して離しませんから覚悟してくださいね……?」
ピアノ椅子に座る穂花さんの唇に優しくキスを落とした。
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