甘くて苦い
「ハッピーバレンタインっ」
弾んだ声が1つ、部屋に響いた。
想い人である幼馴染の五十嵐 桜依のすこし高い、澄んだ声だ。
桜依の両手には色違いのリボンがかけられた箱が二つ。
一つは俺の分。もう一つは俺の目の前にいる俺の従兄弟で幼馴染みの辰巳の分なのは多分目の前に差し出されているから分かるわけだが。
「ありがとう、桜依」
「いいえっ」
笑顔で受け取る辰巳に笑顔で答える。
こう、兄弟同然で育ってきて、当たり前のように幼馴染みと一緒に渡されれば、脈がないことなんてよく分かる。
この場で断れば、きっと、2人の時に渡しに来るだろう。
それでもそれが出来ないのは、断った瞬間見せる、悲しそうな顔を見たくないから。
箱を開ければ、綺麗に出来たチョコレートが目に入る。
コーティングチョコレート。
薄いチョコレートの中に生チョコをいれ、またチョコレートを被せた少し手間のかかるもの。
不器用な桜依の事だ、一生懸命作っただろう。
「……兎斗くん?」
「……ありがとう」
小さく告げるお礼を聞き、優しく笑う桜依。
箱に入ったチョコレートを1粒取り頬張ると口な中に甘さと苦味が広がった。
まるで、この恋みたいに。
*END*
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