出番待ちの紙袋
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kiyo
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やってしまった。
アルコールの勢いもあったとはいえ、俺のためにニコニコ笑って話すちかちゃんに、堪らなくなった。この子の全部俺のもんじゃないんだと思うと、気づいたらやってしまっていた。俺は無差別殺人犯か?
ちかちゃんから半ば逃げるようにタクシーに乗った俺は、あのまま帰宅した。「忘れて、ほんとにすみませんでした」とだけLINEして、即現実から逃げるように寝た。
「キヨを煽るためとはいえやりすぎたなぁとは思っております」
「……」
「大変申し訳ありませんでした」
俺の目の前で、ステーキを贈呈して頭を下げるフジを見つめる。フジがお詫びにといきなりステーキに連れてきた。
こいつは俺の気持ちをどこまで知っているのか知らないが、まんまと乗ってしまったことが死ぬほど悔しい。
「……いただきます」
「……めしあがれ」
「……」
「え、ぶっちゃけ、嫉妬した?」
「……」
「ごめんなさい」
ダンマリを決め込む俺に、フジは何度も頭を下げている。
「勢いに任せて抱き締めちゃいました」なんてこいつに言った時には、想像しうる範囲の全てのからかいの言葉が降ってくるだろう。
フジはコーラを飲みながらぶつぶつと不満げに言った。
「俺はさ、キヨとちかちゃんに付き合ってもらいてえのさ」
「は?」
「だって、二人ともずっと前から好きじゃんお互いに」
「……ちかちゃんからなんか聞いたの」
「いや?俺の直感」
なんだその胡散臭いのは。
俺が睨むとフジは「いやでもさあ」と続ける。
「昔っから特別だぜ?ちかちゃんにとってキヨは」
「……」
「キヨの話する時が1番楽しそうにしてるし」
「……まあ」
まあそれは。俺がいくら無頓着だからとはいえ気づいている。
ちかちゃんの俺だけに向けてくれる笑顔を、真正面から5年以上見続けてきた訳だ。兄の友達以上の何か特別な気持ちがこもっていることは分かっている。
だけど、彼女が選んだのは大学の友達でしょ。まあ先に距離を詰めないようにしたのは俺なんだけどさ。
「まあでもぶっちゃけね、今付き合い出した男が悪い奴とは思えんのも事実なんだよな」
「……」
「明らかに悪い男と付き合ってんなら、力づくでも奪い返せって言うところだけど」
「……別にちかちゃんは最初から俺のもんじゃねーよ」
「それはそうなんですけど」
フジは堂々巡りの会話にゲンナリしてきたような顔をしてため息をつくと、「まあちかちゃんのこれから次第だな」と言った。
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やってしまった。
アルコールの勢いもあったとはいえ、俺のためにニコニコ笑って話すちかちゃんに、堪らなくなった。この子の全部俺のもんじゃないんだと思うと、気づいたらやってしまっていた。俺は無差別殺人犯か?
ちかちゃんから半ば逃げるようにタクシーに乗った俺は、あのまま帰宅した。「忘れて、ほんとにすみませんでした」とだけLINEして、即現実から逃げるように寝た。
「キヨを煽るためとはいえやりすぎたなぁとは思っております」
「……」
「大変申し訳ありませんでした」
俺の目の前で、ステーキを贈呈して頭を下げるフジを見つめる。フジがお詫びにといきなりステーキに連れてきた。
こいつは俺の気持ちをどこまで知っているのか知らないが、まんまと乗ってしまったことが死ぬほど悔しい。
「……いただきます」
「……めしあがれ」
「……」
「え、ぶっちゃけ、嫉妬した?」
「……」
「ごめんなさい」
ダンマリを決め込む俺に、フジは何度も頭を下げている。
「勢いに任せて抱き締めちゃいました」なんてこいつに言った時には、想像しうる範囲の全てのからかいの言葉が降ってくるだろう。
フジはコーラを飲みながらぶつぶつと不満げに言った。
「俺はさ、キヨとちかちゃんに付き合ってもらいてえのさ」
「は?」
「だって、二人ともずっと前から好きじゃんお互いに」
「……ちかちゃんからなんか聞いたの」
「いや?俺の直感」
なんだその胡散臭いのは。
俺が睨むとフジは「いやでもさあ」と続ける。
「昔っから特別だぜ?ちかちゃんにとってキヨは」
「……」
「キヨの話する時が1番楽しそうにしてるし」
「……まあ」
まあそれは。俺がいくら無頓着だからとはいえ気づいている。
ちかちゃんの俺だけに向けてくれる笑顔を、真正面から5年以上見続けてきた訳だ。兄の友達以上の何か特別な気持ちがこもっていることは分かっている。
だけど、彼女が選んだのは大学の友達でしょ。まあ先に距離を詰めないようにしたのは俺なんだけどさ。
「まあでもぶっちゃけね、今付き合い出した男が悪い奴とは思えんのも事実なんだよな」
「……」
「明らかに悪い男と付き合ってんなら、力づくでも奪い返せって言うところだけど」
「……別にちかちゃんは最初から俺のもんじゃねーよ」
「それはそうなんですけど」
フジは堂々巡りの会話にゲンナリしてきたような顔をしてため息をつくと、「まあちかちゃんのこれから次第だな」と言った。
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