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出番待ちの紙袋

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主人公

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主人公
友達
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踊り手

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 大学は、高校の時と違って物理的にも心理的にも閉鎖的ではなく、通うのは気持ち的にかなり楽だった。変な人はいるけど、イヤホンをさしてマスクをして歩き去れば、大抵は深追いされなかった。

 友達とワイワイキャンパスライフを送る人達が羨ましくないわけではなかったけれど、わたしは大学外に実況仲間もいたし、そしてなにより勉強についていけなくて本当にそれどころではなかった。

 わたしは大学の図書館で数3レベルの課題に向き合いながら必死に頭を回転させる。勉強は好きだけど、そもそも文系と理系では頭の使う場所が違う気がする。



「それ、微積の応用だよ」

「……」



 降ってきた声に顔を上げる。
 そこにいたのはガイダンスの日に隣だった金髪の男の子だった。名前は確か、清田くん。

 彼は、「貸して」とわたしのノートを自分の方に向けると、すらすらと式を書いていく。さっきまでまるでわからなかった問題が、彼の説明で糸が解けるように解けていく。



「……分かる?」

「分かる!ありがとう!」



 思わず大きな声が出てしまった。周りの人の目線を感じながら慌てて口を塞ぐわたしを見て、清田くんは顔を綻ばせた。

 彼は担いでいたギターケースを机に立てかけて、私の向かい側に座り、五線譜の書かれたノートを開いた。音楽が好きらしい。


 その後2時間程度。清田くんはわたしのシャーペンが止まる度に助太刀するように問題を解いてくれた。その間、彼はずっと五線譜と向き合っていて、時々漏れ出ては慌てて止める鼻歌がなんとも言えず可愛かった。



「あの、ありがとう」



 図書館の閉館時間。一緒に図書館から出た瞬間に、彼に声をかけると、彼は「どういたしまして」と人懐こい笑顔で笑った。

 キヨくんと、名前も纏う雰囲気も似ているからなのか、とても話しやすいと感じる。距離感が絶妙なのだ。まだまだ人に壁を作ってしまうくせの抜けないわたしには、それがすごくいごこちがよかった。

 友達になりたい、直感的に思った。



「あ、あの……」

「ん?」

「わたし、文系出身で、数学が苦手でわからなくて、また教えて貰えたらすごく助かるんだけど」



 キヨくんに教えてもらった自己開示の極意。
 『出して見なきゃ好きにも嫌いにもなれねえじゃん』

 わたしはそれを思い出しながら、自分のことを話すと、「よかったら、連絡先教えてくれないかな」とおずおず言った。
 自分から連絡先を聞くなんてこと、したことない私からしたらそれはかなり大きな一歩だった。


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