2026年
俺の方がいいだろって、ずっと思ってた。太陽と一緒にやって行くには、そこそこのスキルがあって、先輩に好かれるくらいの愛嬌もあって、それなりに世渡りもできる、俺の方がいいに決まってる。だからもう相方がいるって知っていながら太陽を口説いたし、太陽もそう思ってたからこそ、俺の方に来たはずだ。
それなのに毎回毎回、楽屋やら控え室やら舞台裏、月野とばっかりイチャつきやがって。今は俺がおまえの相方だろうが。なんでそんなに月野に構ってやってんだっつの。たいしておもしろくもない元相方ばっかりで、俺は蚊帳の外かよ。
月野なんて、自己肯定感も最底辺で勉強も中の下、太陽の良さも特にわかってないうえ、ネタを書いたって会話をしてたっておもしろくもない、賞レース一次落ち人間だってのに。どう考えても俺の方が賢いし優秀、つまりは月野より上だ。
「ね、大地くんはどう思う?」
急に問いかけられて――急ってことはないか。俺が勝手に思考回しまくってただけだし――、俺は無意識に月野をにらみつけた。同じ大学三年でも、こいつのことだけは好きになれない。
月野は寂しそうな悲しそうな、いつもの覇気のない顔をした。
「あ、ごめん。考えごとしてた……?」
「まあ、そんなとこ。で、なんの話だっけ」
「たいしたことじゃない」話の輪の中にいたらしい、太陽が補足してくれる。「学園祭の舞台、今年はどの組のネタがいちばんおもしろかったかって」
そんなの俺たちに決まってる――。
言いかけて口を閉じる。順位のつくレースだったとしたら、いつだって俺と太陽のコンビが一位に決まってる。だって俺の隣には最強のボケ、太陽がいるんだから。
少なくとも月野のコンビではないだろう。うすらにやけた陰キャの手本みたいなツッコミの月野と、大学に大勢いそうな茶髪陽キャのボケ野郎。月野の書くネタは自分らのキャラを立たせるようなものでもなければ、単純におもしろさもない。誰がやろうが笑いがまばらなのは当然。
「まあ、大地はおれたちがいちばんって言うよな。おれのこと大好きらしいし?」
本物の太陽みたいに笑うから、俺はただ照らされるだけになる。
本当は知っている。俺なんか、太陽がいるから前を向けるってだけだ。いや、太陽がいなければお先真っ暗も同然。夜道よりも深い闇の中、手探りで歩くしかなくなる。それをどうにかしてくれているのは、すべて太陽だ。俺の世界に昼をもたらしてくれる。
わかってるんだよ。才能があるのは俺じゃない。俺にはなにもないし、誰かを笑顔にできる力なんて少しもない。全部、太陽のおかげだ。
「おまえのことが好きなんじゃないっつうの。おまえのボケに惚れ込んでるだけだよ」
「どっちも同じことじゃんか」
「……ほんと仲良いよね、太陽系コンビ」
本来のコンビ名で呼んでくれるのは、外側の客だけだ。サークル生や常連の同級生は、俺と太陽のことを「太陽系」と呼ぶ。的を射ていると思う。俺は太陽がいなければずっと氷のまま。照らされることもなく、昼も夜もなく、宇宙に漂うだけだった。
でも、光を知ってしまった。
「そりゃそう、コンビだから」
じゃあ月野とも仲良いはずだろ、元はコンビだったんだから。心の底から湧き上がってきた言葉は、口に出さないことにした。月野の歪んだ笑顔も、見なかったことにする。
俺は月野から太陽を奪った。文字通り月野のことを照らす太陽だったはずなのに、それを知っていながら俺は奪った。だって俺にも太陽が必要だったから。光がないと生きられなかったから。誰だって光のささない星には生きられない。
俺から見た月野はただの陰キャだ。人と話すのも得意じゃないのに、そのくせ人を笑わせることが至上の喜びだと思っている。バカみたいなバグ持ち。コミュ力も話術もないのに、どうして芸人を目指しているんだかさっぱりだ。
ただ、それがこいつの一面でしかないことは、理解したくないけど知っている。太陽が隣にいたころの月野はもっといろんな顔を見せていた。いや、顔だけで言えば全く変わらなかったが、色の違うツッコミをして見せた。客席の笑いだって燦々と降り注いだ。それを舞台袖から見て、俺は嫉妬にかられたのだ。だから太陽を奪うことに決めた。
なのになんでだよ。
「そんな顔するな、月野。おれはおまえのことも大好きだって」
未練たらたらな顔で月野を見るなよ、太陽。俺を照らしてくれ、そんなやつじゃなくて。なあ太陽、こっち向けよ。
それなのに毎回毎回、楽屋やら控え室やら舞台裏、月野とばっかりイチャつきやがって。今は俺がおまえの相方だろうが。なんでそんなに月野に構ってやってんだっつの。たいしておもしろくもない元相方ばっかりで、俺は蚊帳の外かよ。
月野なんて、自己肯定感も最底辺で勉強も中の下、太陽の良さも特にわかってないうえ、ネタを書いたって会話をしてたっておもしろくもない、賞レース一次落ち人間だってのに。どう考えても俺の方が賢いし優秀、つまりは月野より上だ。
「ね、大地くんはどう思う?」
急に問いかけられて――急ってことはないか。俺が勝手に思考回しまくってただけだし――、俺は無意識に月野をにらみつけた。同じ大学三年でも、こいつのことだけは好きになれない。
月野は寂しそうな悲しそうな、いつもの覇気のない顔をした。
「あ、ごめん。考えごとしてた……?」
「まあ、そんなとこ。で、なんの話だっけ」
「たいしたことじゃない」話の輪の中にいたらしい、太陽が補足してくれる。「学園祭の舞台、今年はどの組のネタがいちばんおもしろかったかって」
そんなの俺たちに決まってる――。
言いかけて口を閉じる。順位のつくレースだったとしたら、いつだって俺と太陽のコンビが一位に決まってる。だって俺の隣には最強のボケ、太陽がいるんだから。
少なくとも月野のコンビではないだろう。うすらにやけた陰キャの手本みたいなツッコミの月野と、大学に大勢いそうな茶髪陽キャのボケ野郎。月野の書くネタは自分らのキャラを立たせるようなものでもなければ、単純におもしろさもない。誰がやろうが笑いがまばらなのは当然。
「まあ、大地はおれたちがいちばんって言うよな。おれのこと大好きらしいし?」
本物の太陽みたいに笑うから、俺はただ照らされるだけになる。
本当は知っている。俺なんか、太陽がいるから前を向けるってだけだ。いや、太陽がいなければお先真っ暗も同然。夜道よりも深い闇の中、手探りで歩くしかなくなる。それをどうにかしてくれているのは、すべて太陽だ。俺の世界に昼をもたらしてくれる。
わかってるんだよ。才能があるのは俺じゃない。俺にはなにもないし、誰かを笑顔にできる力なんて少しもない。全部、太陽のおかげだ。
「おまえのことが好きなんじゃないっつうの。おまえのボケに惚れ込んでるだけだよ」
「どっちも同じことじゃんか」
「……ほんと仲良いよね、太陽系コンビ」
本来のコンビ名で呼んでくれるのは、外側の客だけだ。サークル生や常連の同級生は、俺と太陽のことを「太陽系」と呼ぶ。的を射ていると思う。俺は太陽がいなければずっと氷のまま。照らされることもなく、昼も夜もなく、宇宙に漂うだけだった。
でも、光を知ってしまった。
「そりゃそう、コンビだから」
じゃあ月野とも仲良いはずだろ、元はコンビだったんだから。心の底から湧き上がってきた言葉は、口に出さないことにした。月野の歪んだ笑顔も、見なかったことにする。
俺は月野から太陽を奪った。文字通り月野のことを照らす太陽だったはずなのに、それを知っていながら俺は奪った。だって俺にも太陽が必要だったから。光がないと生きられなかったから。誰だって光のささない星には生きられない。
俺から見た月野はただの陰キャだ。人と話すのも得意じゃないのに、そのくせ人を笑わせることが至上の喜びだと思っている。バカみたいなバグ持ち。コミュ力も話術もないのに、どうして芸人を目指しているんだかさっぱりだ。
ただ、それがこいつの一面でしかないことは、理解したくないけど知っている。太陽が隣にいたころの月野はもっといろんな顔を見せていた。いや、顔だけで言えば全く変わらなかったが、色の違うツッコミをして見せた。客席の笑いだって燦々と降り注いだ。それを舞台袖から見て、俺は嫉妬にかられたのだ。だから太陽を奪うことに決めた。
なのになんでだよ。
「そんな顔するな、月野。おれはおまえのことも大好きだって」
未練たらたらな顔で月野を見るなよ、太陽。俺を照らしてくれ、そんなやつじゃなくて。なあ太陽、こっち向けよ。
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