2024年の会話

「ただいま」
 手には袋に入ったテイクアウトの寿司、心にはまっさらな新年気分。とは言え仕事帰り――なんてかっこいいもんじゃなくて、バイト帰りだけど。まあ、新年早々仕事がないのはうれしいものの、バイトがあるならプラマイゼロ、むしろマイナスだ。仕事だったらまだよかったのにと思っても、つまりは俺たちがそれほど売れてないって話だからもっともっとがんばらなきゃな……なんてモチベにつなげられるほど俺はできた人間じゃない。
 ため息を吐きながら首を振る。そんなことより寿司のことを考えよう、めでたいはずの一日を残念な思いで終わらせたくない。ってなわけで、今日は同居人とあけおめパーティでもしてやろうとこれを買ってきたんだった。こんなんしたらあいつも喜ぶぞ。
「おっかえり〜、おそかっ……え?」
「は?」
 俺たちは同時にすっとんきょうな声を出した。俺はもちろん、リビングでぬくぬくしてる同居人がこんなことしてるなんて思ってなかったからだ。というか、まあ、玄関を入ったあたりからおかしいなとは思ってた。だっていつもだったらこんな香りがするわけない。日常的に家でやるようなもんじゃないし、やるとしたら朝のうちに――いや、いつもなら一週間前にでも俺に一言よこしてるはずだった。
「待ってよ君ってさァ、まじで……」
 古臭い換気扇の回る音が響く。じゅうじゅうと肉が焼けていく。すぐそばでしゅわしゅわと鳴らしているのは、こいつの手の中にあるビールだろうか。
 俺は思わず寿司を取り落としそうになったが、こんな大切なもんを無駄にするわけにはいかない。どうにか耐えた、が――。
「えーっと……お前さ、今日焼肉やるよって言ってた?」
「言ってたよもちろん、けど君がメッセージを確認しないせいでこんなことになったんだよわかってるかな自分が犯した罪の重さを? 君ってこんなんばっかり!」
 ……なるほど、俺が一途に寿司のことしか考えてなかったがゆえの事故らしい。申し訳ない気持ちと、いや既読つかなかったんなら電話してくれたっていいじゃん、の不貞腐れがまざりあって、俺は頬をふくらませた。確かにこういうミスはこいつはしないし、俺はいつも報連相が上手くいかない。何回やっても反省しても学ばない――のはこいつも同じだから、特に気にしないようにしてる。
「年中行事はほぼ全部パーティーするなんて当たり前だけどさぁ、どっちが何を用意するかってちゃんと相談しないとダメだよね。これも新しくルールに入れておこうね」
「まあ、そうだな……」こいつのこういうところは気に入ってる、何があってもすぐ切り替えて次を見据える――まあ、短くてもその日一日はそれについていじってくる、ってのがなければ完璧なんだけど。「申し訳ない」
 目の前のこいつは満面の笑みを俺に見せつけるみたいに、高級そうな肉を頬張りながら右手にある袋を指さした。「で?」
「ん、いつものとこより良い寿司」
「えっ、まじじゃん、駅近くの回らないところのじゃないの? 太っ腹すぎじゃない、大丈夫? 破産?」
「縁起でもないこと言うなよ。まあ新年だし、これくらいはな」
「おわ~、兄さんかっけえや! さすがアラサー」
「バカにしてんな?」
 俺が帰宅後のルーティンを済ましてる間に、こいつは俺の分の皿やら箸やら酒やら、いろいろを用意してくれたらしい。気の利くやつだ。まあ、だからこそルームシェアをしようって提案したんだけど。こいつは俺の苦手なことが得意で、俺はこいつがやりたくないことを好き好んでやるタイプだ。家事の分担はパズルみたいにぴったりハマってる。とんでもなく快適な暮らしで、満足してるなんてもんじゃない。
「ってなわけで、今年もよろしくな」
「うん、よろしくね」にこっと微笑む様子は、確かに女性がすぐ振り向くのも頷ける。けど、こいつは顔に合わない行動をするからおもしろいんだ。「で、君の詫びとして、その寿司はほぼ僕のってことで良いのかな?」
「は? んなわけないだろ、半分こだっての。まずお前焼肉だいぶ食ってんだから、そんなに生もの入れんなよ。いくら大食いとは言え、明日が心配だわ」
「やったぁ、寿司だ焼肉だ!」
「え、話聞いてる……?」
 ため息をひとつ吐きながら、今年もこいつにいくらでも振り回されてやるか……なんて思ってる自分を見つけたり。
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