その女

 教室の隅、私はまた自分の地位について考えさせられる。
 机には跡が残りにくいような鉛筆の落書きがあって、なくなっていたはずの私のボロボロの数学のノートがその上に置かれている。もちろん、そのノートにも余白がないくらい悪口が書かれているし、私の文字より他人の汚い字の方が多くある。
 私が机の前でそれを見つめて座ることができずにいると、廊下側からクスクスと笑う声が聞こえてきた。それは悪意のこもった暗い笑い方で、自分たちの作品で今にも心が壊れてしまいそうな私を見つめて、楽しそうに嬉しそうにしているのだ。
 まるでテレビの向こう側のドッキリ番組を見ているみたいに。
 こうなったのはいつからだったろうか。
 小学生の頃、こんなことはなかった。たぶん、中学に上がってからで、一年生の夏休み明けからだったと記憶している。つまり、もう、二年間もずっとこうなのだ。顔ぶれはほとんど変わらないのに、私へ向いている矢印の色や形が、すっかり変わってしまった。
 きっかけは簡単なもので、いつもクラスの中心にいるような一軍の女の子と同じ人を好きになってしまったから、だった。
 彼女が好きな子を夏祭りに誘ったとき、彼は断った。そのときに私の名前を出したのだと言う。彼はあの女にたぶらかされたのだ、あいつは最低のクズ女だ、と彼女が喚き、そのせいで私のカーストは中途半端な位置から最底辺にまで落ちた。
 周りの人間からしてみれば、よく考えなくたって彼が私のことを好きだなんてありえないだろうに。カースト最上位にいるような彼と、教室の隅っこで落書きをしている空気のような私。釣り合う訳がない。
 それに私はそのことを、彼女と同じくらいの熱量で訴えたはずなのだ。無罪だと。けれど彼女は騒いで、私をクラス共通の敵に仕立て上げて、孤立した私を観察するのを楽しんでいたのだった。
 まるで面白くないバラエティのように。
 だけど、それは的外れにも程がある。笑えるくらいに。
 私がいじめられている? いじめられっ子を観察している? クラスで孤立? バカみたい。
 今私の肩が震えているのは、いじめに耐えられなくて、苦しくて辛くてたまらなくて泣いているから。周りにはそう映るのだろうと思うと笑いがこみ上げてくる。お前らが滑稽で、あまりにもかわいそうだから笑っているのに。
 さっき理科室で返されたテストの結果を知らないのだろうか。いや、誰も知らないのだろうな。紙の右上にある赤い百という数字。クラスの中の誰よりも私が優秀。どれだけ私のノートを汚して、どれだけ私の勉強を妨害しても、誰にも負ける気がしない。
 あぁ、それよりも――。
 私はゆっくり目の前の椅子に腰掛け、通学鞄の中に隠しておいた手紙を取り出す。
『今年の夏祭りも、一緒に行けたら良いな。きっと君は、綺麗な浴衣を着るんだろうね。とても楽しみだよ、たとえ隠れるように花火を眺めることしかできなくたって。何があっても僕がいるからね。好きだよ』
 誰にも気付かれないように微かに笑みを浮かべながら、私も好きよ、と小さく口だけを動かした。
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