🖤 ̖́- 舞台裏で夢を見る 💭

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控室のドアが、控えめにノックされる。

「……はい」

返事は短く、ぶっきらぼう。
それでも扉の向こうの気配が“ファン”だと分かった瞬間、
京は小さく息を整えた。

扉が開く。

「あ、あの……御門くん……!」

両手で包むように持たれた、小さな箱。
包み紙は紫色で、少しだけ歪んでいる。

「……なに」

「きょ、今日は……その……バレンタインなので……!」

視線を逸らしながら、差し出されるチョコレート。

京は一瞬、黙った。

(甘いの、苦手なんだよな……)

けれど、その箱を握る手が震えているのを見て、
眉をひそめる。

「……ファン?」

「は、はい……!」

「……そ」

一拍置いて、京は箱を受け取った。

「……ありがと。わざわざ、持ってきたんだ」

「え……あ、あの、迷惑じゃ……」

「別に」

そっけなく言いながら、
京は箱を軽く指でなぞる。

「……ファンの気持ちだろ。無碍にしない」

その声は低く、静かで、OFFのまま。

少し安心したように、ファンの子が微笑む。

「……あの、甘いの苦手って聞いてて……柑橘系、少し入れてみたんです」

その言葉に、京の目がわずかに見開かれる。

「……知ってんだ。甘いの苦手なの。」

「はい……! いつも、見てるので……!」

京は一瞬だけ、視線を泳がせてから、
ふいっと顔を背けた。


「……そういうの、ずるい」


「え……?」

「……いや」

小さく咳払いをして、京は改めて相手を見る。

今度は、ほんの少しだけ、
ステージで見せるような柔らかさを混ぜた目で。

「……ありがと。大事にする」

「ほ、ほんとですか……!」

「嘘ついてどうすんだよ」

そう言ってから、少し間を置いて。

「後でちゃんと食う」

「……!」

ぱっと表情が明るくなるのを見て、
京は小さくため息をついた。

「……だからそんな顔すんなって」

でも、その口元は、ほんのわずかに緩んでいた。

「……応援、ありがとな」

低く、真っ直ぐな声。

それはステージの妖艶な囁きじゃない。
けれど確かに、御門 京の本音だった。

「……また、歌うから」

チョコレートを胸元に抱え、
京はそう言って、背を向ける。

その背中は少しだけ、不器用で――
それでも、確かに優しかった。


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