夏祭り。
「じゃーんっ、可愛いでしょ?この間買ったんだあ」
家のチャイムを鳴らし、出てきた一郎に買ったばかりの浴衣を見せびらかすようにその場でくるりと回った。
「ふーん。良かったな、じゃ。」
「いやいやいやいや!おかしいでしょ!」
閉まりかけたドアに足と体を捩じ込んだ。
にこにこと笑みを浮かべる私。
展開が読めているのか若干嫌そうな一郎。
「ねえ、いっくん。私とデートしよっ?」
「…先輩に振られたからって俺んとこ来んなよ。」
甘えた声を出すも釣れない態度。
でも、小さい頃からいつもそうだった。
だから気にも止めず、手を握って家から無理矢理引っ張り出した。
「まあそれもあるけど、いっくんとお祭り行きたかったし!いいじゃん。」
「…1時間だけだぞ。」
「やった!ありがとう!大好き!さすが私の幼なじみ!」
はしゃいで一郎の腕を引っ張る私には一郎の
「幼なじみ、ねえ」
と呟いた小さな声は段々と大きくなる太鼓や雑踏に揉み消されて聞き取れなかった。