短篇
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「こんばんは。おばあちゃん、武士にいちゃん。」
夜8時。玄関をノックして入ってきた子はワイのよく知る小さな女の子やった。
「おお、どないしたんや。こない遅くに。なのかもうちょいしたら寝る時間やろ?」
まだ小学校に入ったばかりのなのかはいつも9時くらいに寝とるはずや。
「せやねん。もうお風呂にも入らなアカンし明日の時間割も準備せなアカンのやけど…」
「やけど?どないしたんや?あ、分かったで。さっきやっとった心霊番組見て怖なって来たんやろ?」
「な、なんでわかったん…」
恥ずかしいのか悔しいのかぷくっと頬を膨らませ精一杯にこちらを睨むなのか。
「そらわかるやろ。なのかああいうの苦手やん。見いひんかったらええやんか。」
「そやけど…、見てへんかったらビビりや言うてからかわれんねん…。」
小学生なりにプライドがあるらしい。
膨れた顔のままぼそっと呟いた相手の頭をぽんぽん撫でた。
「わかったわかった。一緒にお風呂入って寝たるさかいそれでええやろ?」
「い、一緒にお風呂は嫌や!」
「何でや?ついこないだまで一緒に入りよったやろ?」
「武士にいちゃんの馬鹿!えっち!」
「えっち…!?」
赤ん坊の頃から知っている女の子にそんなことを言われる日がきたんか。
と驚きつつ感慨深く思っていると後ろから急に頭を叩かれた。
「いだっ!?何すんねん!?」
振り返るとゲンコツを握りこんだままのばあちゃんがおった。
「武士…いくら思春期で飢えとる言うてもこない小さい子に手出すってどういうことや?」
「ちゃうわ!誤解しかあらへんわ!」
人聞き悪過ぎるやろ!
何やと思われてんねん!
心の中と口から飛び出した必死の否定は軽くスルーされた。
「さ、なのかちゃん。ばあちゃんとお風呂入ろな。」
「うん!」
楽しそうにお風呂場へと向かう2人の小さな背中をぼんやり見送ったあとなのかの家を眺めた。
明かりはまだついていなかった。
ーーー
ー
居間でトラを腹に乗せ、漫画を読んでいると2人が風呂場から出てきた。
「武士、冷めんうちに入り。」
「ほな行ってくるわ。」
「なのかちゃん布団敷くん手伝おて。」
「はあい!」
入れ替わりで風呂に入り、カラスの行水で出ると、居間に1つだけ布団が敷いてあった。
「2人でここで寝るんか?」
「何言うとんの。なのかちゃんのは武士の部屋に布団敷いとるよ。」
「ほか。ほな上行くでなのか。ばあちゃんおやすみ。」
「うん!おばあちゃんおやすみ!」
「おやすみ。武士」
「何や?」
「変なことしなや。堪忍せえへんで。」
「アホか!せえへんわ!」
ピシャッと居間の障子を荒々しく閉めて階段を昇る。
トコトコと後ろを付いてくるなのかはケラケラと笑っている。
最近、母親も父親も帰りが遅くてしょぼくれた顔をしていた顔が晴れた。
ほっと胸が暖かくなるのを感じながら部屋に入る。
「はよ布団入り。ほな電気消すで。」
「ちょお待って怖い。武士にいちゃんと一緒の布団がええ。」
「ええけど、暑いやろ?」
「大丈夫やもん。」
「わかった。こっち来いや。」
「やった。おおきに。」
「おん。ほな切るで。」
こくっと頷いたのを確認して電気を消した。
シン…、と静かな部屋の中で2人の呼吸音と扇風機の音が聞こえる。
ぎゅっとワイに抱きついたままなのかは静かに寝息をたて始めた。
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
その小さかった女の子と結婚して2年経った。
2人でホラー映画を見て一緒に風呂に入ってワイにしがみついて寝とる。
「…何も変わっとらんなあ。」
髪をサラリと撫で笑い混じりに呟いた。
あの時とひとつだけ違うのは抱き着かれて自制心が必要になったことだけやな。
と独りごちて眠りについた。
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