短篇
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朝起きると喉に違和感を覚えたのがほんの数日前。
基本的に体が丈夫な私は大して気にせず放置していた。
それを今猛烈に後悔している。
だって今日は大好きな人と会う約束だったから。
「38.6…」
体温計に表示された数字に絶望しつつ、早く連絡しなくてはと携帯を手に取り通話のボタンを押すと武士の祖母が出た。
『もしもし、千堂商店です。』
「あ、もしもし、おはようございます。なのかです。武士くんいますか?」
『ああ、ちょお待っとってください。』
武士!彼女やで!と祖母の言葉にドタドタとうるさい足音が受話器越しに聴こえて頰が緩む。
『ワイや!なんや約束の時間まで待ちきれんかったんか!?』
「あ、武士、ごめん、気持ち的にはそうなんだけど…」
『…何や、声おかしないか?体調悪いんか?
』
先程までのコミカルで明るい声が一変。
心配そうな低い声に心苦しくなる。
「あー…、うん、ごめん、本当ごめん。多分ただの風邪だと思うんだけど、熱出ちゃって…移すと悪いから今日はな『熱!!?ちょお待っとけ!すぐに行く!!』
ガチャっ!
荒々しい音を立て通話が途切れた。
相手はプロボクサー。
体調を崩してしまう訳にはいかないだろうと思っての配慮だったが、もう家を飛び出しているに違いない。
連絡手段がなくなってしまった。
とりあえずちょっと会って、すぐに帰って貰うしかないか…と諦めをつけて仕方無くなのかは部屋を片付け、服を着替えた。
ーーーーー
ーーー
ー
アパートの廊下をドカドカと走る音がした直後、直ぐに玄関のドアが荒々しく開いた。
相当慌てて来たらしい相手は片手にビニール袋を提げている。
「大丈夫か?なんか食うたか?」
「大丈夫大丈夫。まだ何も食べてないけど、それより武士移るといけないから帰った方が…」
「何言うとんねんアホ。お前一人暮らしやのにほっとけるかいな。横になっとれ!ワイが看病したる!」
どうしよう、言い出したら聞かないからこの人。本当困った。なんて説得しよう。
「武士、気持ちは嬉しいんだけど「あ、そや!ばあちゃんからこれ貰たんやけど、食えそうか?」
手渡されたビニール袋の中にはプリンやゼリーが入っていた。
「わ、ありがとう。じゃあ、ゼリーいただこうかな。」
「よし、ちょお待っとれ!今匙持って来たる。」
「あ、うん、いや、そうじゃなくて、武士」
ドタドタと台所に走って行ってしまった相手に言葉は届いていないらしい。
非常に困った。
マスクはしてるし加湿器もつけたけど…うつって練習に響いてしまわないかな?
「ほれ」
こちらの気も知らず看病する気満々の相手が台所から戻って来るなりスプーンとわざわざ蓋を開けてくれたプリンを手渡されると少し頰が緩んだ。
「ちょっと過保護じゃない?」
「たまにはええやろ?」
「気持ちは嬉しいけど、うつっちゃったら嫌だから…」
「まだそんなこと言うとんのか?大丈夫や!ワイ風邪引いたことないで!」
「…何とやらは風邪をひかないもんね。」
「馬鹿でもアホでもええから今日は絶対帰らんからな。」
布団の横に胡座をかいた武士をじっと見る。
…どうやら本気らしい。
熱でぼんやりする頭とだるい体でこれ以上抵抗する気になれず、プリンを平らげてから布団に潜った。
「では、お言葉に甘えます。」
「おう、ワイに任しい。」
額に乗せてくれた冷たいタオルが気持ちいい。
普段から面倒見が良いとは思っていたが、ちょっと意外な一面を見れたのが嬉しく、顔が緩む。
相手の優しさに安心して眠気を覚える。
でも寝たくない。
もっと喋りたい。
もっと一緒にいたい。
精一杯の抵抗で相手に右手を伸ばし、服の裾を掴んだ。
「どないした?」
「武士、」
「おう。」
「ありがとう、大好き。」
相手のキョトンとした顔になんだか満足し、意識を手放してしまった。
「…ごっつ生殺しやんけ。」
小さく低い声と規則正しい寝息が部屋に響いた。
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