コラボ作品

『2個でうどんの方、お待たせ』
クキカワ『あい』

卓上にある七味を軽く振りかけ、唐揚げを一口。
その大きさのせいで、若干箸で掴みづらいがそれが良い。
そして美味しい。
サクサクした衣と中の肉の柔らかさが素晴らしいハーモニーを奏でる。
続いてうどんの麺をすすろうとした、その時だった。

??『そばで』
『2個でそばね、お待ち下さーい』

若い女の声、それも聞き覚えのある声だ。
向こうは既にこちらに気付いていた。
『隣、空けといて』というジェスチャーに、軽く頷く。



??『美味しかったわ。そして何より、あのボリューム。わざわざ遠くから来る人がいるというのも納得ね』
クキカワ『気に入ったようで何より。・・・で、一つ良いか?』
??『何?』
クキカワ『この大荷物は一体何だ?』
??『ちょっと買い過ぎちゃったわね』
クキカワ『・・・ちょっとどころでは無いだろう』

大きめの紙袋やビニール袋が幾つも置かれている。
4人用の席に案内してもらったのだが空いてる席やテーブルの下だけでは足らず、隣のテーブルの席にまで置く事となってしまった。

??『色々買いたい物があったのよ』
クキカワ『色々・・・ねぇ』

例の唐揚げうどんの駅から列車を2つ乗り継いだ所にある、漢字2文字片仮名6文字の駅。
駅に直結する形で巨大なショッピングモールが併設されており、さらに各種レストランや喫茶店、アミューズメント施設が軒を連ねている。

??『水着ならともかく、これは・・・分かるでしょ?』
クキカワ『どっちみち見せるのだろうが、発情チート女め』

そしてそのショッピングモールの中にあるス●ーバックスに、私とチート女はいた。



クキカワ『おのれ・・・フェイント・・・とは・・・』

折り畳んだ紙ナプキンを投げつけてきて、それに気を取られている隙に距離を詰めてきたチート女の重い一撃を鳩尾に喰らってしまった。
少なくとも、ス●バでやる事ではない。

彼女『当然の報いよ』
クキカワ『おぐぐ・・・』

何人かが憐れむような目線で見てくる。
化粧はしてないのに、注目を集めてしまった。
念の為に言っておくが、私は(その時に限っては)離れた場所で時間を潰しているよう言われていた。
渡された時点で厳重に梱包されていたので、チート女がどんな下着を買ったのかは知らない。

彼女『それもだけど、カードが・・・ね』

カードの端の方だけをチラリと見せてきた。
単にデザインで黒い訳ではない。
持つ人間のステイタスを暗に示している。

クキカワ『普段から散々罵倒してる割には使うんだな』
彼女『使える物は使えるうちに使っておくべき、って言われたわ』
クキカワ『誰に?』
彼女『ユリ』
クキカワ『・・・ほう』

ラジオ局らしき場所で会った時の女子高生の顔を思い出してみる。
顔つきはともかく、雰囲気はチート女とよく似ていた。
育った環境が似ているせいだろう。
そして、そのユリという女子高生ともう一人・・・名前くらいは聞き出しておくべきだったか。



彼女『そうそう、ここからが本題なんだけど』
クキカワ『・・・この非常識な量の買い物じゃなくて?』

私を《先生》と呼んだ、名前も知らないサイドテールの若い女の事を考えていたところで、現実に引き戻された。
次に菊川と会う事があれば、クレームの一つでも言ってやりたい。

彼女『妹の分もあるのよ』
クキカワ『二人分でも多すぎるぞ』
彼女『妹思いの良いお姉さんでしょ?・・・って、そうじゃなくて』
クキカワ『ああ』

チート女の声色が変わったので、こちらも聞く姿勢を示す。

彼女『ユリに聞いてみたの、菊川・・・だっけ?』
クキカワ『あ・・・ああ、そうだな』
彼女『消息不明らしいわ、今』
クキカワ『・・・!』

背筋を冷たい物が伝っていく。



彼女『ちょっと動揺し過ぎじゃない?前に貴方の言った事が本当だとしても』
クキカワ『・・・すまない』

無意識に紙ナプキンを顔に当ててしまう。
そして、手元の水を一口飲む。

彼女『何かあれば言うわ。貴方はともかく、あの娘(オカルト電波少女)に何かあっては申し訳が立たないし』
クキカワ『助かる。それで、もう一ついいか?』
彼女『ええ』
クキカワ『あの水・・・一体何だったんだ?』

《かける君》なる巨大な水鉄砲から放たれた水。
それを浴びた事によって、連中は正気に戻った。
水鉄砲を手配したのは自分だが、水に関しては一切ノータッチだ。
発射しておいてアレだが、何らかの怪しい成分が・・・

彼女『普通の水よ。単なる水道水』
クキカワ『中に何か・・・』
彼女『混ぜてないわ。貴方達と違って』
クキカワ『フ・・・よく言う』
彼女『・・・例えば、今ここで貴方の後ろから水が飛んできたらどう思うかしら?』
クキカワ『すぐに机か椅子を盾にして伏せるだろうな』
彼女『その前に、まず驚くでしょう?』
クキカワ『誰がやったのかも気になるな』
彼女『少なくとも、私か貴方以外の誰がでしょうね』



クキカワ『集団催眠、ってやつか』
彼女『そう、それ』

何らかの理由で部全体を引き締める必要が発生した。
そこで女子マネージャー達が部員に対する接し方を厳しくする事とした。
最初は戸惑い気味だったものの、次第にそれが当たり前のような空気が蔓延していく。
グラウンドが外から目に付きにくい場所(実際に高台までは徒歩で1時間以上を要した)だったのも災いして、女子マネージャー達の態度はエスカレートしていく一方だった。

クキカワ『いっそ動画にして・・・』
彼女『部内暴力で夏が終わるわよ』
クキカワ『嫌な終わり方だな』

そこに外部からの妨害(放水)を加える事で、目を覚まさせてやる。
一見、その作戦は成功したように見えるが・・・

彼女『何か気になる事でも?』
クキカワ『ああ、実は』
彼女『ゴメン、ちょっと・・・』

チート女がスマホを取り出す。
しばらく画面を見て、嬉しそうな顔を浮かべた。

クキカワ『少年か?』
彼女『えっと・・・』
クキカワ『行ってこい、と言いたい所だが・・・』
彼女『ゴメンね!』

『荷物を・・・』と言いかけた所で、1000円札を置いて店を飛び出していってしまった。
私は溜め息をつき、共通の知り合いに連絡した。
19/21ページ