コラボ作品

そして次の日。

オカルト女『間もなく到着します』
彼女『さっきのアレ、貸して』

主人公君からボイスレコーダーを受け取る先輩。
私(幼なじみ)、主人公君、先輩、オカルトちゃん、ライバルさん、そしてクキカワの6人は天空中央高校へ向かっていた。
正確には野球部のグラウンドが見渡せる近くの高台だ。
私が小学校の時によく一緒に遊んだ友達、ヒカリちゃん。
彼女がマネージャーをしている野球部で何か問題が発生したらしい。

幼なじみ『山の頂上にあるなんて・・・』
ライバル『まさに天空ね。それでは将来の青田買いを・・・』
オカルト女『この期に及んで・・・』
クキカワ『待て・・・何か聞こえるぞ』

クキカワの言う通り、グラウンドから声が聞こえた。
全員で目配せし、先輩がボイスレコーダーのスイッチを押そうとして・・・

彼女『う・・・』

押さなかった。

オカルト女『な・・・』
クキカワ『醜い豚!とか聞こえるな』

野球部のグラウンドの方から聞こえてきたのは強い口調、もっと言えば罵倒するような女性の声。
それに混じって、鞭か何かで叩くような音や嬉しそうに許しを乞う男性の声まで聞こえる。

ライバル『良いわねぇ・・・昔の血が』
彼女『良くないですし、騒がないで下さい』

ユニホームやジャージ以外に、明らかに《それ》に使うような衣装を着ている女性までいた。
自前だろうか。

オカルト女『・・・クキカワ』
クキカワ『ガールズバーやメイドカフェならあるが、これは違う』
幼なじみ『あるんだ・・・』

例のキャラクターといい、教団全体が萌え路線にシフトしてるのだろうか。

ライバル『違うって?』
クキカワ『教団のビジネスの一環で作ろうとした事はあったが、地元の怖い人達が押し掛けてきて大変な騒ぎになった』
彼女『・・・』
クキカワ『やっと一段落したと思ったら、肝心の希望者が集まらなくて計画は頓挫した。結果、双方にし・・・負傷者を出しただけで終わった』

言い直したのは聞かなかった事にしておこう。
そう思い、主人公君と顔を見合わせて互いに苦笑した。

オカルト女『端の方に一人いますね』
クキカワ『長髪だが・・・男だな、これは』

双眼鏡で見てみる。
グラウンドから少し離れた所に、憔悴しきった顔で座り込んでいる男子部員がいた。
光を失った瞳で、目の前で繰り広げられている地獄絵図に怯えている。

ライバル『ヒカリちゃん・・・だっけ、幼なじみちゃんのお友達』
幼なじみ『はい』
彼女『彼に聞いてみましょう。私も行くわ』



それから数日後。

『じゃあ・・・お願いします』
クキカワ『ああ』

ヒカリちゃんが申し訳なさそうな顔で見てくる。
私は《大丈夫だよ》という意味を込めて、彼女の肩を軽く叩いた。

オカルト女『クキカワ・・・それって』
クキカワ『《かける君》がどうかしたか?・・・ここ、もう少し強く固定してくれ』

主人公君がポリタンクのチューブを繋ぎ直す。
都心部の始発列車がようやく動き出すかどうかという時間・・・私達6人とヒカリちゃんは、先日来た高台に集合していた。

幼なじみ『かける君・・・』
ライバル『確かに大型の水鉄砲を手配するとは聞いたけど・・・』

いくらなんでも大きすぎる。
砲身だけで3メートル近くもある《それ》は、とても一人で持って歩けるような代物では無い。

クキカワ『普段は軽トラの荷台や車の屋根に乗せて、教団に逆らう愚か者に嫌がらせ・・・ではなく神の裁きを与えるのに使われる。まともな事に使われるのは初めてじゃないのか?』
オカルト女『ところどころ汚れているのって・・・』
クキカワ『洗っても落ちないようなインクを水で薄めて使っているからな。一応、雑巾で拭いたが』
幼なじみ『・・・』

何の役にも立たない集団ってあるんだね。
もっとも、今回の一件がまともかどうか聞かれると疑問だけど。

『あの・・・ちょっと良いですか?』
ライバル『なぁに?』
『聞こうかどうか、ホントに迷ったんですけど・・・』
幼なじみ『うん』



『貴方達って、どういった団体さんなんですか?』

ヒカリちゃんからの素朴な疑問に、私達は答える事ができなかった。



オカルト女『まもなく、練習開始時間です』
ライバル『お、出てきた出てきた・・・っていうか』
幼なじみ『蹴り出されてますよね・・・』

『着替えに何分かかってるのよ!』等と罵声が聞こえ、追い立てられるように部員達が出てきた。
人間というより、豚や鶏・・・つまり家畜としての扱いに近い。
そして先日、隅の方で放心状態となっていた長髪男の姿も見える。
姉か妹だろうか、髪型の似ている女性に蹴られて突っ伏すのが確認できた。

彼女『・・・』
『うう・・・虹谷(にじたに)センパァイ』

ヒカリちゃんが泣き出してしまった。
私と主人公君がなだめに入る。

『すみません・・・あたし、情けなくって・・・自分では何もできずに見ず知らずの方に助けていただいて・・・』
幼なじみ『でも・・・もう友達でしょ?』
『・・・え?』
オカルト女『なら、助け合うのは当然です』
『でも・・・』
彼女『借りを作った事?気にする必要は無いわ』
ライバル『そうそう。なんだったら、貴女がお酒が飲める年齢になった時に愚痴に付き合ってもらおうかしら』
『・・・』
クキカワ『そういう事だ・・・カウントダウン』

場に再び緊張感が走る。
ヒカリちゃんをその場に伏せさせて、ライバルさんが双眼鏡をグラウンドに向けた。
私は周辺を警戒する。

彼女『威力は調整してあるけど・・・念の為、頭への直撃は避けて』
クキカワ『分かった』
彼女『多少反動があると思うから、しっかり押さえててね』

主人公君が真剣な表情で頷く。

オカルト女『始めます・・・5』
ライバル『・・・』
オカルト女『・・・4』
幼なじみ『・・・』
オカルト女『・・・3』
彼女『・・・』
オカルト女『・・・2』



クキカワ『・・・沈めっ!!』



オカルト女『成功・・・ですね』
ライバル『おー、あわててるあわててる』

グラウンドは阿鼻叫喚だった。
怯えた瞳で見る男子部員達に困惑している者、罵倒するよう求められ恐怖のあまり逃げ出してしまう者・・・そしてボンデージ姿の女子は悲鳴をあげ、その場にしゃがみ込んでしまっている。

彼女『正気に戻ったようね』
幼なじみ『ですね・・・』
オカルト女『皆さん、ヒカリさんもお疲れ様でした』

クキカワが《かける君》なる特大サイズの水鉄砲・・・もとい放水器から放った一撃は、ベンチの屋根部分に直撃し拡散した。
結果、《それ》を浴びた女子マネージャー達は正気を取り戻したようだった。

彼女『よくやったわ』
クキカワ『ああ・・・だが向かうのは少し待ってからにした方が良い』
『わ、分かりました・・・』
ライバル『撤収準備しちゃって』
オカルト女『了解です』
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