ばきメモソルジャー

【『止めに入る』】
クキカワ『・・・そうか』
幼なじみ『あれ、反応薄い?』

正体(元プロ野球選手だった事やオカルト電波少女との関係)を知ってしまった事を話したが、クキカワはこっちに目も向けずそう呟いただけだった。
一心不乱にスマホの画面を見つめており、トレーの上のハッシュポテトには全く手を付けてなかった。

幼なじみ『あ、美味しそう・・・』
クキカワ『ああ』

紙袋の部分を持ってトレーの端に寄せる。
幼なじみの『いいの?』に対しても軽く頷くだけだった。

幼なじみ『ちょっと冷めてるけど美味しい・・・あれ、スマホだったっけ?』
ライバル『どうしても調べたい事があるって、結構マジメにお願いされてね・・・本当は裸見せるのよりイヤだったんだけど。という訳で、コーヒー貰うね』
クキカワ『いや、違うか・・・』

同じく手を付けていなかったコーヒーをブラックのまま飲み干す。
折り畳んだ紙(トレーの中紙が無くなっているのでおそらくそれだろう)に何かメモのような物を書いていた。

幼なじみ『あ、今ツッコミ入れるの忘れた』
クキカワ『あれ?コーヒー・・・』
ライバル『お代わり貰ってきてあげようか?私の香り付きカップだけど』
クキカワ『新しいカップで頼む・・・ん?』

そこまで話してようやくオレを見た。
顔に付いたアザを見て、またかという顔になる。

彼女『言いたい事は想像つくけど、今回は違うわよ』
幼なじみ『うん。私の掌底打ちと・・・』
アイドル『私の上段回し蹴りが・・・』

止めようとしたオレに、同時に炸裂した。
・・・というのが、今回の顛末だ。
と、そこでアイドル(一応現役らしい)さんがクキカワに気付いた。

幼なじみ『ごめんなさい・・・』
アイドル『あ・・・』
クキカワ『キミは・・・確か』
アイドル『・・・』

気まずそうな顔をするアイドル(多分胸は☆4.5くらい)。
情報を流していたのが本当なら、教団と関わりがあっても不思議ではない。

クキカワ『彼女みたいな立場の人間が出入りするのは、そう珍しい事ではないからな』
アイドル『私は・・・違いますよ?』
ライバル『うい』
クキカワ『そうか?・・・あ、すまない』

ライバルさんの持ってきたコーヒーを口に入れ、スマホ(ライバルさん所有)との格闘を再開した。



アイドル『ちょっとちょっと』

トイレから出た所で、待ち構えていたアイドルさん(落ち目だがそれなりに忙しいらしい)に腕を引っ張られる。
いや・・・CDに付いてるチケット持ってないですよ?
そもそも買った事無いですし。

アイドル『今はそういうイベントじゃないから良いの。っていうか買ってよ、友達のよしみで。・・・って、そうじゃなくて』

しっかりとネタを拾うあたり、さすが芸能人だと思う。

アイドル『ありがと。実際問題、トーク力って意外と重要なのよ?テレビだけじゃなくて、イベントとかでも司会者の無茶振りとか結構来るし』

お世辞抜きで感心した。
さっきの上段回し蹴りも、ドラマの役作りで道場に通い修得したらしい。
なんだか応援したくなってしまった。

アイドル『あー、嬉しいんだけど・・・フラグ立てるのもう少し前にしてくれれば、ね?』

初代ばきメモの頃か。

アイドル『そうそう、そうすれば・・・ね?』



アイドル『って、そういう話じゃなくて!』

咎めるような顔になる。

アイドル『そもそも貴方達どういう集まりなの?アレと普通に話してるとか、訳分からないんだけど』

アレ。
オカルト電波少女とは普通に話していた(叔母と何かの番組で共演した事があるらしい)ので違うだろう。
つまり・・・クキカワだ。

アイドル『・・・クキカワ?あの化粧男、そんな名前なんだ?』

ハッとする。
これは一体どういう事だろう。
あの自称神官に何か別の名前があるというのだろうか?

アイドル『神官?・・・教団にそんな役職あったかなぁ?あ、これは決して私が教団に入ってるとかじゃなくて色々あって他の人より詳しいって事だからね・・・分かった?』

笑顔が怖い。
何処かの誰かさんがよくする表情だ。
疑いたい気もするが、今はクキカワについて聞いてみたい。

アイドル『うーん、そう言われてもねぇ・・・。若い女の幹部と一緒にいるのを見た事があるけど』

さっきの動画に出ていたマリナとかいう女性か。

アイドル『後は何かイベントとか集会とかがある時に会場の警備に参加してたり、噂なんだけど・・・良くない交渉やトラブルとかの時には必ず同行してるとか』

単なる噂だとは思えない。
思い当たるフシが多すぎる。



アイドル『と、まあ謎だらけな訳よ。第一、あのナリだから施設内を歩いているだけで目立つでしょ?』

まあ、確かに。

アイドル『そもそも名前だってクキカワじゃなくて、何かこう・・・すんごく長ったらしい名前だったと思うわよ。ヴァジー・・・何とか?』
彼女『ヴァジラヌッタ
リジェリオール
ナナコロビハチオキ
トロトモリモリ
サバトキロメール
オレンジクロンチ
リノアタノカガミ
ハラガイタイワ
ジユウハボノルモ
ツギマチキシブヤハ
ノウキョウミルクデラ
シコウキュウキョク
マダガスカルジマ
インテグラルタワー
ヴィネイテウ
・・・だったわよ、確か』

彼女が現れた。
隣にはクキカワもいる。

クキカワ『よく覚えてるな、さすがはチート女』
彼女『ちょ・・・貴方は覚えてないとダメでしょ!?』
クキカワ『普段は顔パスかIDカードで入ってるからな、基本必要無いのだ』
彼女『・・・』
クキカワ『・・・痛っ!』
アイドル『・・・』
クキカワ『トレーで叩くのは止めろ、トレーは・・・って、ナプキンの箱はもっとダメだ!金属だから多分もっと痛い・・・ぐはっ!!』

アイドルが意味深な目線を寄越してくる。
苦笑するしかなかった。



クキカワ『それで・・・ちょっと良いか?』
アイドル『あ・・・はい』
クキカワ『今は一人暮らしか?』
アイドル『・・・そうですけど』
クキカワ『実家は?』
アイドル『それ・・・言わなきゃダメですか?』

警戒するのも当然だろう。
過去がどうであれ、今のクキカワの見た目は明らかに不審者のそれだった。
こんな格好して浮かないのは、年末の同人誌即売会やハロウィンの渋谷くらいな物だ。

彼女『新幹線の駅だけで良いから教えて?』
アイドル『えっ・・・!?』

アイドルが信じられない、といった顔になる。
それはそうだろう。
伝説の生徒会長様が、こんな不審極まりない化粧男の味方をしているのだから。



彼女『随分と西の方ね』
アイドル『・・・』

以前に教えてもらった場所と同じだった。
お好み焼きに牡蠣、葉っぱの形をした饅頭といった物が名物で熱狂的なファンが多い野球チームがあるがアイドル自身はあまり興味無いらしい。
クキカワが財布から1万円札を取り出す。

クキカワ『今から向かいのド●キ行って、できるだけ大きいリュックかキャリーバック買ってこい』
アイドル『え・・・?』
クキカワ『詰めるだけ詰めて実家に戻れ。できれば今週中』
アイドル『いや・・・仕事あるんですけど』
彼女『・・・』

彼女と顔を見合わせる。
どうやら、嘘は言ってないらしい。

クキカワ『週刊●●の編集長の妻が信者だ。裸のグラビア4ページくらいは何とかなる』
アイドル『いやいや、私水着までだから。まあ・・・最近だと、上は手で隠したりとかはしたけど』

それって、つまりは手●ラか。
今度こっそり検索してみよう・・・と思った所で、腕に激痛が走った。

彼女『言う通りにしてもらえないかしら?』
アイドル『せっかくいただいた仕事なので、できれば・・・』
彼女『例の件、こちらで全て処理しておくわ』
アイドル『・・・!』



アイドル『本当にごめんなさい・・・』
幼なじみ『えっと・・・』

場所は変わって、人気の無い公園。
ベンチに座っているおじいさんがいたが、オレ達を見て何処かへと行ってしまった。
おじいさん、ごめんなさい。

オカルト女『つまりは、生徒や教職員の名簿を教団に渡した訳ですね』
ライバル『それも、教師にネチネチと叱られた腹いせに』
アイドル『言い訳のしようもありません・・・』

ほぼ90度に近い角度で頭を下げているアイドル。
腕を捲ってみた。
すっかりアザになってしまっている。

彼女『だからあの時、夢の国でわざとらしく接触してきたのね・・・そんなもん2、3日経てば消えるわよ』
クキカワ『キミ達の高校に関する極めて有益な情報・・・現時点で分かっていたのはそれだけだったからな』
オカルト女『個人情報・・・確かに有益な情報ですね。教団みたいな集団には』

『本当にごめんなさい・・・!』と涙声のアイドル。
幼なじみが皆に目配せする。

ライバル『ま、若いうちは幾つも失敗するものよ。私なんて始めて付き合』
クキカワ『もう少し調べる事もできたが、教団内に妙な噂が広まっていてな。限られた時間の中で、最悪の事態に備える必要があっただけの事だ』
ライバル『おい人の話を遮るな』
幼なじみ『いや・・・それ何回も聞かされましたし』
オカルト女『相手の男性・・・トラウマになってなければ良いのですが』

興味あるけど聞きたくは無いな。

ライバル『あ、彼氏君まで酷い』
彼女『と、とにかく・・・貴女はこれ以降何を聞かれても知らないで通すのよ?』
アイドル『はい・・・それと』
幼なじみ『ん、何これ?』

大きめの封筒を取り出した。
中には十数枚ほどの紙。

アイドル『何かのリストだと思うんですけど、書いてある事さっぱり分からなくて』
オカルト女『個人情報・・・では無いようですね』
ライバル『こっちは連絡網かしら?』

カタカナや英単語の羅列に、矢印や星や三角形といった記号が混じっている。
おそらくだが、カタカナは教団内での呼び名ではないだろうか?
他の皆も同じ事を思ったらしく、全員の視線がクキカワに集まる。

クキカワ『まさか・・・』
彼女『どうしたの?』
クキカワ『・・・』
彼女『何ですって!?』

何やら耳打ちされた彼女が驚愕の声をあげる。

クキカワ『そうだ・・・これがあれば!』
幼なじみ『えっと・・・どゆこと?』
アイドル『・・・さあ?』
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