ばきメモソルジャー
【『そういえば・・・』】
クキカワ『そういえば・・・』
ライバル『なぁに?』
クキカワ『あの女とも同期だったな』
アイツがドラ1で、あの女は一番下の7位。
契約金も、ゼロ一つ違っていた。
ライバル『アオちゃん先輩って、実はデキ婚らしいよ』
クキカワ『ほう』
ライバル『誰か付き合ってる人でもいたのかな?』
クキカワ『いや・・・それはなかったと思うが』
ライバル『そう?』
クキカワ『食事すら禁止だったからな。ジム行くのすら別々に向かっていたくらいだ』
それすら、見つかったらタダでは済まなかっただろう。
ライバル『ジム?』
クキカワ『ああ。練習を見ていた事があってな・・・』
??『お疲れ様です・・・』
『ああ・・・今日は、残念だったな』
??『本当に・・・すみませんでした』
今日の試合・・・ではなく、目の前に転がっているバケツとゴミ箱の事だろう。
いずれも、端が欠けていたり凹んでいたりと無惨な姿になっていた。
『格闘家としてデビューするならサイン貰っておこう』
先ほど、女の叫び声と何かを破壊するような音が聞こえたのでまず間違いないだろう。
この女・・・蒼河唯早(あおかわいはや)はチーム、いやプロ野球界で唯一の女子選手だった。
蒼河『折角ですから、サンドバッグになれる権利もお付けします』
冗談を返す余裕はあるようだ。
泣かれでもしないかと、内心肝を冷やしていた。
『寝技なら』
少しばかし品の無い冗談で返してみる。
将来この女と結婚するような人間は、このゴミ箱やバケツのような目に遭うのだろうか。
夫婦喧嘩でもしたらタダでは済まないだろう。
蒼河『首の骨、折りますよ?』
練習場に向かって歩き出す。
唯一の女子選手というだけあって球団も神経を尖らせており、大半の人間が腫れ物を扱うように接していた。
同じ投手ならともかく、自分のように野手ならなおさらだ。
『・・・なるほど』
やっと違和感の正体が分かった。
蒼河『・・・』
女という事を考えれば、それなりの球威。
元々、彼女を獲得したのは営業面による所が大きいだろう。
長年チームを支えてきたショートのベテラン選手が引退し、スター不在の状況に。
そんな時に、たまたま高校野球の試合で女子選手が140kmを出したというニュースが飛び込んできた。
彼女・・・蒼河唯早は制球もそれほど悪くはなかった事もあり、変化球との組み合わせで2軍ではそれなりに通用していた。
だが、今は何かがおかしい。
『一通りは投げたか?』
蒼河『はい』
打席に立って、それが分かった。
フォームが不自然過ぎる。
下半身の使い方がおかしい。
明らかに、制球が覚束なくなっていた。
このままだと・・・
『難しいな』
蒼河『打つ事が・・・ですか?』
『いや・・・抑える事が』
『・・・ダメだな』
あの無能め。
そう口に出しそうなのを直前で飲み込んだ。
蒼河『まだ不慣れだからだと思います』
『止めた方がいい』
きっぱりと断言する。
コーチに薦められて試しているフォームがあるんです・・・と言われ嫌な予感しかしなかったが、まさにその通りだった。
蒼河はまだ、《それなりに》通用している。
と、いうより他が酷過ぎるのだ。
2ケタ失点の試合も珍しくはない。
蒼河『でも・・・』
『無理矢理変えられて、余計に悪くなったパターンを何人か見てきた。最悪、下でも通用しなくなる』
今日の試合で彼女が大量失点した事とも無関係ではないだろう。
自身の現役時代のフォームを薦めるのだが、理論を教えずにただ形を真似させるだけなので球威ばかりか制球もままならなくなる。
さらに悪い事に、以前のフォームに戻そうとしても中途半端に混ざってしまう。
『横で投げるのは止めにしよう』
蒼河『分かりました。でも、今のままだと・・・』
いや、今の時点ですでにヤバい。
それから、色々あった。
まずは、以前のフォームに戻す事から始めた。
クキカワ『・・・』
様々な事を試行錯誤してみたが、一番役に立ったのは以前試しに投げてみた《あの球》だった。
まるで、あの女に投げてもらうのを心待ちにしていたかのように《あの球》は蒼河唯早の代名詞となった。
だが・・・
ライバル『痛っ・・・!』
握りを試そうとして、突き出した手が《ライバル》の眉間に当たってしまった。
クキカワ『悪い。つーか、服くらい着ろ』
ライバル『後悔してる?』
クキカワ『何が?』
ライバル『《ばきばきボール》』
クキカワ『・・・』
《ばきばきボール》を武器に1軍でも結果を出した翌年、肘を壊して引退。
野手転向も薦めれたらしいが、結局はそのまま球界から去ってしまった。
ライバル『感謝してると思うよ。そんな甘い世界じゃないし』
クキカワ『・・・』
ライバル『私は高校からずっと女子だけでやってきたから』
クキカワ『そうだったな』
ライバル『少なくとも筋力では敵わないでしょ』
クキカワ『例外もいるがな』
お互いに人間としては落ちるところまで落ちているが、こうして野球人同士の会話をしているとその事も忘れてしまう。
不思議なものだ。
ライバル『力の使い方らしいわよ』
クキカワ『気功みたいな物か?』
ライバル『分かんない。彼氏君が将来苦労しそうなのは間違いないけど』
クキカワ『確かにな』
むしろ、今が一番苦労している気がするが。
ライバル『と、いう訳だから・・・』
クキカワ『ん?ちょ・・・やめ・・・!』
ライバル『夜のバッテリー、組もっ?』
クキカワ『い、嫌だぁぁぁぁ!!』
次へ
他の選択肢も試す
クキカワ『そういえば・・・』
ライバル『なぁに?』
クキカワ『あの女とも同期だったな』
アイツがドラ1で、あの女は一番下の7位。
契約金も、ゼロ一つ違っていた。
ライバル『アオちゃん先輩って、実はデキ婚らしいよ』
クキカワ『ほう』
ライバル『誰か付き合ってる人でもいたのかな?』
クキカワ『いや・・・それはなかったと思うが』
ライバル『そう?』
クキカワ『食事すら禁止だったからな。ジム行くのすら別々に向かっていたくらいだ』
それすら、見つかったらタダでは済まなかっただろう。
ライバル『ジム?』
クキカワ『ああ。練習を見ていた事があってな・・・』
??『お疲れ様です・・・』
『ああ・・・今日は、残念だったな』
??『本当に・・・すみませんでした』
今日の試合・・・ではなく、目の前に転がっているバケツとゴミ箱の事だろう。
いずれも、端が欠けていたり凹んでいたりと無惨な姿になっていた。
『格闘家としてデビューするならサイン貰っておこう』
先ほど、女の叫び声と何かを破壊するような音が聞こえたのでまず間違いないだろう。
この女・・・蒼河唯早(あおかわいはや)はチーム、いやプロ野球界で唯一の女子選手だった。
蒼河『折角ですから、サンドバッグになれる権利もお付けします』
冗談を返す余裕はあるようだ。
泣かれでもしないかと、内心肝を冷やしていた。
『寝技なら』
少しばかし品の無い冗談で返してみる。
将来この女と結婚するような人間は、このゴミ箱やバケツのような目に遭うのだろうか。
夫婦喧嘩でもしたらタダでは済まないだろう。
蒼河『首の骨、折りますよ?』
練習場に向かって歩き出す。
唯一の女子選手というだけあって球団も神経を尖らせており、大半の人間が腫れ物を扱うように接していた。
同じ投手ならともかく、自分のように野手ならなおさらだ。
『・・・なるほど』
やっと違和感の正体が分かった。
蒼河『・・・』
女という事を考えれば、それなりの球威。
元々、彼女を獲得したのは営業面による所が大きいだろう。
長年チームを支えてきたショートのベテラン選手が引退し、スター不在の状況に。
そんな時に、たまたま高校野球の試合で女子選手が140kmを出したというニュースが飛び込んできた。
彼女・・・蒼河唯早は制球もそれほど悪くはなかった事もあり、変化球との組み合わせで2軍ではそれなりに通用していた。
だが、今は何かがおかしい。
『一通りは投げたか?』
蒼河『はい』
打席に立って、それが分かった。
フォームが不自然過ぎる。
下半身の使い方がおかしい。
明らかに、制球が覚束なくなっていた。
このままだと・・・
『難しいな』
蒼河『打つ事が・・・ですか?』
『いや・・・抑える事が』
『・・・ダメだな』
あの無能め。
そう口に出しそうなのを直前で飲み込んだ。
蒼河『まだ不慣れだからだと思います』
『止めた方がいい』
きっぱりと断言する。
コーチに薦められて試しているフォームがあるんです・・・と言われ嫌な予感しかしなかったが、まさにその通りだった。
蒼河はまだ、《それなりに》通用している。
と、いうより他が酷過ぎるのだ。
2ケタ失点の試合も珍しくはない。
蒼河『でも・・・』
『無理矢理変えられて、余計に悪くなったパターンを何人か見てきた。最悪、下でも通用しなくなる』
今日の試合で彼女が大量失点した事とも無関係ではないだろう。
自身の現役時代のフォームを薦めるのだが、理論を教えずにただ形を真似させるだけなので球威ばかりか制球もままならなくなる。
さらに悪い事に、以前のフォームに戻そうとしても中途半端に混ざってしまう。
『横で投げるのは止めにしよう』
蒼河『分かりました。でも、今のままだと・・・』
いや、今の時点ですでにヤバい。
それから、色々あった。
まずは、以前のフォームに戻す事から始めた。
クキカワ『・・・』
様々な事を試行錯誤してみたが、一番役に立ったのは以前試しに投げてみた《あの球》だった。
まるで、あの女に投げてもらうのを心待ちにしていたかのように《あの球》は蒼河唯早の代名詞となった。
だが・・・
ライバル『痛っ・・・!』
握りを試そうとして、突き出した手が《ライバル》の眉間に当たってしまった。
クキカワ『悪い。つーか、服くらい着ろ』
ライバル『後悔してる?』
クキカワ『何が?』
ライバル『《ばきばきボール》』
クキカワ『・・・』
《ばきばきボール》を武器に1軍でも結果を出した翌年、肘を壊して引退。
野手転向も薦めれたらしいが、結局はそのまま球界から去ってしまった。
ライバル『感謝してると思うよ。そんな甘い世界じゃないし』
クキカワ『・・・』
ライバル『私は高校からずっと女子だけでやってきたから』
クキカワ『そうだったな』
ライバル『少なくとも筋力では敵わないでしょ』
クキカワ『例外もいるがな』
お互いに人間としては落ちるところまで落ちているが、こうして野球人同士の会話をしているとその事も忘れてしまう。
不思議なものだ。
ライバル『力の使い方らしいわよ』
クキカワ『気功みたいな物か?』
ライバル『分かんない。彼氏君が将来苦労しそうなのは間違いないけど』
クキカワ『確かにな』
むしろ、今が一番苦労している気がするが。
ライバル『と、いう訳だから・・・』
クキカワ『ん?ちょ・・・やめ・・・!』
ライバル『夜のバッテリー、組もっ?』
クキカワ『い、嫌だぁぁぁぁ!!』
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